逢悦弥誠 下之巻

 

逢悦弥誠 (あふゑやま ・おうえやま) 下 

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平節
「源氏のとりはしらぢより そねぬをなにとゆびがの子 いもせをいふはよし仲の ちぎりたがゑぬ つまどりの つまと/\はたがなかごとの 白はあふても見ぬ顔にてや

「あふてわかるゝとりのはゑ わかれてあふてあハせどり すゑはしらいといとかけて 車にそでをくりかへす しめつゆるめつうしろからひきよせて やふからこわげむすびのためと野につけば けふの行司のあさがほが げんじのとりにかざしたる ろうちわのかげのおろ/\と おろを大事におろかなることの はながら御前にてうるすまひのむすびには 関とせきとのかちまけに弓矢のしるしとも/\に とりもかくとやかけひきは 国扇のかぜにまかすなる

 

亭主「この間お屋敷に招かれて紙治を語って聞かしたら
奥の女中者が泣きやった 口広いこったが
平節語りのうちでも素人で私ぐらいに取りまわす者は年(ねん)も
稽古したのは僅か一年半ばかりさ

 

三味線弾き「ほんにお前は御器用だ 
僅かな内に浄瑠璃はめっきりと上りましたねえ
アレ そんな悪戯をなさいまするな
御新造さまが御覧じると大騒動だ

 

 

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 女房「アアいう旦那は自惚れだから困るねえ稽古事が一年半くらいで上手になっておたまりがあるものか 仕方なしにおとせが受けているうちが辛かろうねえ しかし金になるからそこばっかりさねえ

 

男「三味線弾きに語らせて貰うのだから何でもいい 金が浄瑠璃を語るのだ 馬鹿馬鹿しくコケにされて金を使う事は厭だ

 

「もし御新造さま静かになさいまし 聞えると悪うございますよ

 

女房「ナニ 旦那は浄瑠璃になると夢中サ 後でいつもよりもとんだよくできました とさえすりゃあ嬉しがっているのさ

 

男「浄瑠璃を語りながら僅か障子一重で間男をされ なおも知らねえというは ほんに旦那だ それにひきかえ御新造はどうも

 

女「悪いと知りつつこの道はつい迷うのさ これも因果とやらかねえ

 

男「大方そんな事でござりましょう 

 

と言いながら右の手で玉門の上よりそろそろと撫で廻せば ただびくびくとする故 そのまま抱きしめ二人は忍び合い つけつけはやりければ し済ましたりと かの男も一物を褌の脇より外し すぐに割り込み上の方上の方と突き廻せば 女は堪らず歯ぎしりなして 内へ息を引きながらスウスウとよがりだし アアモウどうしょう 堪らなくよいよ よいよ よいよ 男はここぞと下より持ち上げ持ち上げするにぞ今は女も夢中になりて  思わず知らず アアモウよいよ どうしょうという声を 亭主聞き付け

 

「俺が浄瑠璃はそんなにいいか 珍しくもねえ

 

という声に二人はびっくり驚きしが 女房すかさず

 

「旦那 とんだ面白うござりますから もう一段紙治を後生だから

 

「そんならも一つ弾いてくんな

 

男「こいつは妙だ 又一つ始めよう

 

 

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べらぼうな旦那だ 夢中になって浄瑠璃を語るうち 御新造が間男をしているも知らず アレアレまた後を一段語る やつさ歯がいい 二本棒だ そのくせ小言を言わせると 脇の旦那よりはやかましい アレ あのよさそうな顔は 親馬鹿らしい心持ちになってきた せっかく洗ったところが いつの間に汚れた アア 弾きよさそうだのう 見るは目の毒だ アア ままよ 汚しついでに弄りでもしよう あの八助どんでもしかたがない 来てくれればいいに 意地の悪い アレ モウ よくなってきた どうしようのう

 

 

 本文)

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扨も仕茂九郎は、若後家おらんが方にて、日の七つ時よりはじめ、明くる朝まで寝ずに楽しみ、何度という限りもなく、情を移しければ、おらんは事のほか気に叶い、仕茂九郎を引留め毎日珍味を以て、馳走なしければ思わず、三日三夜婬事のみにて日を送るに、流石の仕茂九郎も、色青ざめて肉脱なし、眼も窪みければ、つくづく心に思うよう、かかるところに日の十日も居らば、命も失うべし

 

 

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 先の亭主の腎虚なせしも理なりとて 少しの暇を乞い、帰らんとすれば、おらん少しも許さず是非参らねばならぬ要事もあらば、ともに同道すべしと言いければ、仕茂九郎大きに驚き、誠しやかに申しけるはさきにも申す如く、我は独身にて妻(さい)とても無く、甚だ不自由の身なれども、一軒の主なれば、定めて三日三夜、江戸へ帰らぬ故、家(いえ)主はじめ、長屋中にても探すべし、これによってひとまず江戸に帰りたるをしまい、密かにこの方へ引き移るべし、それも今夕方事の所なりと聞いて、おらん然らば早く帰るべし、併しその身なりにては見苦しいとて、先の亭主の着類を取り出だし、これを着替えて往くべし、と帯、羽織、懐中のものまで、取り揃えて貸しければ、仕茂九郎大きに喜び、しからば少しの間御借用仕るなりとて、着物を着替え立ち出でんとせしが立ち止まり、先ず店を仕舞うにも隣家に少しの買いがかりの借銭もあり、これを払いたしと申しければ、おらんは

 

 

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 頷き、いか程ばかりと聞きければ、仕茂九郎言うよう、わつ(?王洲)の金(きん)五両ほどもあらば、よろしくと申しければ、おらん すぐに箪笥の抽斗より、小判で五両渡しければ、仕茂九郎は、右の金子を懐中なして坂本を立ち出で箕輪通りより大恩寺前へ、差しかかり、つくづく思うよう、誠にこれが夢に牡丹(ぼた)餅とやらなり、偏に歓喜天の御利益なり まず今日お礼参りせんと心に思い、吉原の土手にさしかかりしところ、思うよう我この歳にはなれど 未だ大見世の呼び出しの花魁を、買ってみたこと無し、幸い身なりといい 金子も少々あり、今日こそ良き折柄なれば買ってみんと、仲の町の茶屋へ上がりければ、茶屋の女房立ち出で見れば、卑しからぬ男、人体(にんてい)格好なれば、色々ともてなしければ、まず仲の町の芸者、二組ばかり呼び、茶屋の女房はじめ夫々に祝儀を出しけるに、その頃、名代の松前屋の花魁、瀬川を買ってみんと言いければ、茶屋の男早速しまいに行きし

 

 

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 ところ、早や客人も帰りし後にて、暇なれば、大きに喜び、既に仕茂九郎を伴いける、早や引連れの盃も済み、芸者まっしゃ(?)も帰りければ、床に収まり仕茂九郎は、三つ蒲団んの上に乗り、夜具を着て寝転びいると間もなく、花魁瀬川は来たり床の内に這入り、屏風引立てひとつ夜着(よぎ)、仕茂九郎が枕の下に手をやり、「モシエ 御休みなんしたかえ、「どうしてこれが寝られるものか「ナゼエと言われて、はて お前のような、美しい「ヲヤぬし(あなた)やァ手が荒っしゃるねえと言いつつ オオ寒いと言いながら、男の股ぐらへ足を割り込みながら、男の後ろへ手を廻し、馬鹿らしい帯をお解きなんしと、にっこり笑いしその風情、伽羅で造りし仏も同様と、仕茂九郎は例の逸物早やいきり立ちければ、我慢もならず、花魁の股ぐらへ割り込み、横にしっくり抱(いだ)きしめて、口を寄せれば花魁も、同じく口を寄せ、小さき舌を出だせば、

 

 

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仕茂九郎は、飽くまで吸い、玉門へ逸物を進ませければ、前を開き女も逸れば、し済ましたりと仕茂九郎、腰を使えば チョット マアお待ちよと、逸物に唾をつければ、するすると入るといえども、売色(ばいしょく)故少しの、露気も無きまま、わざと、横、縦、十文字に腰を使えば、流石の瀬川いつもよりは心地よく、我を忘れてよがりだし、アアモウ馬鹿らしいほど良いよ、どうしたのだろうねえと、一心に抱きしめれば、仕茂九郎も堪えかね、腰を速めて、それそれ、アアモウ どうも堪えられぬと、泣き叫ぶと、花魁も夢中になり、アア マアなぜだろう、今までこんなに良い事は知らないよと、乗り出し乗り出し下より持ち上げ持ち上げ、よがり鳴くにぞ、仕茂九郎も今は堪らず一時(じ)に情をうつしけるこそ、心地よし

 

  艶本逢悦弥誠下之巻 終