仮想空間

趣味の変体仮名

恋娘昔八丈 城木屋の段

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/856484

 

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恋娘昔八丈 五段目 城木屋の段

言うも更なる繁華の地
人の心も国からに 自然
と広き武蔵野の 月

 

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日もしげく立ちつづく
家居る暇なく諸国から
入り込む人と出る人と 出
家侍(しゅっけさぶらい)諸商人(しょあきんど) 百万石も

痃癖(けんべき)も擦れ違うたる
繁昌は 金の生る木の
植え所 角引き廻す家立ち
や所久しく住み馴れて

 

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人の思わく身代も堅い
商売城木屋と門(かど)に 印
の杉ならで軒に並ぶる
材木は幾年(いくとせ)ふりし仕に

せなり 主(あるじ)庄兵衛は日外(いつぞや)
より引き籠ったる目の

店を預かる丈八がもたれかゝ

 

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った帳箱に 勿体付ける
番頭顔
コレヤ小僧よ 通町(とおりちょう)の尾張
屋へ往て けさの小割と

貫十挺(ぬきじゅっちょう)の代金 只今遣
わされませと この書付け持
って受け取ってこい ワレ又
芝居へ這入っておるな

アイアイ合点と言い捨てて
とつかは急ぎ走り行く
後に一人丈八がめったむ
しょうに飲む煙草 がん

首傾け思案顔
思い内にあれば色々と勝る
憂き思い 屋敷の勤めいつしか
に 思うに別れ思わずも

呼びかえされし親の内
今宵の事の気にかかり
若しその人の来やすると
表の方へ立ち出ずる

姿ちらりと
お駒殿/\ 申しちょっと
こちらへお出でなされませ
アア今夜は聟様がお出で

ぢゃげにござりますな
ヘヽヽ嘸お嬉しうござりましょ
うなァ ほんにやれ/\ あた
お目出たい アアあたいま
/\しい事でござりますわい
アノマアほんに嬉しそうな顔
わいの
エエ丈八の何いやる わしゃ

そんな事聞きとうない
耳が穢れる穢らわしい
聞えませぬはとと様かか様
わしが心にどのような 義

理約束があろうやら 問い
談合もある事か 事を
好みしなされかた 斯ういう
事を露程も しらせたい

聞かせたい どうしょうぞい
のどうしょう と目には涙の
玉あられ
我が身にうけて丈八が

首筋許(もと)からじいわ/\
じわ/\/\
ハア我は包むと思えども
ほ(穂)に現れしか ヘエこれはし

たり マ面目ない
これまでも幾度(いくたび)か モウ言おう
か/\と 口まではぞろぞろ
出たけれど 云い出しかねて

おりました どうぞお前に
夢になと
しらせたいと思うから
マア/\番頭様(さん)共言われる

身が コレ浅草の地蔵様へ
七日が間はだし参りを致し
ました ハイ申し地蔵様エ
私が因果でござります

何卒この恋叶いますよう
に たった一度でよござり
ます が又モ少々は半分
でも堪忍致しますると

一心かけて願うたらサア 地
蔵様の御利生というものは
イヤモ頓(とん)とあらそわれぬもの
じゃ お前様が私にそれ

程心中立て(しんじゅうだて) 今夜の聟
がいやじゃとは コレ嬉しい
ぞえ忝いぞえ コレコレわ
たしゃさっきにから手を

合せて拝んでばかりおりま
すわいな
エエ何のこっちゃぞいの
なんのそなたにあほらしい

わしが立つるはついここ
らに
エエついここらに /\ エエ
やっぱりおれじゃ/\ お

れより外に誰も男は
ないもせぬもの コレ年来(としごろ)
日頃言いこそせね お前の
顔を見る度に 商売の

杉丸太が イヤモほんにマ朝
から晩まで立ち続けじゃ
わいな それに又近所の若い
者の噂にも アノ城木屋の

娘はきよとい者じゃ あ
いつはマア背はすらりと
高し 器量はよし 色はくっ
きりと白し アア白い子じゃ

白子じゃ アレヤ城木屋
じゃない 白子屋のお駒
じゃといいやんすぞえ マ
それ程に綽名する評判娘

そっちからも気がある
とはエエ忝い有難い
と 、えったむしょうに嬉し
がり 手誉めうぬ惚れ有頂


丈八殿/\ おかみさんが
めします
と呼び立てられて

オイオイエエとんとモどんな事
ではあるわい コレお駒さん
まだ言い残した事がある
後に

後にと目と仕方しすまし
顔で走り入る
お駒も胸へさしのぼる
癪を押えて奥へ行く

業務(すぎわい・生業)は げに剃刀の刃を
渡る 才三(さいざ)も今主親(しゅうおや)に
捨てられ果てし髪結の
一日所定まらず 忙しそうに

ちょこちょこ走(ばし)り
下女のお菊が手にもっ
た三方ふきふき
コレ髪結殿 小僧殿に呼び

にやったに つい来てくれ
たがよいわいな
サア直ぐに参じましょうと存じ
ましたが お向こうの稚(いと・丁稚)の月代(さかやき)

何が彼の例の上おしみ
漸うしまうてたった今
ハアそうして旦那にはどっ
ちへぞお出でなされます

のでござりますかえ
イヤどっこhrも往きやな
されぬが 今夜こちの
お駒様に聟様が這入る

故 大抵忙しい事じゃない
エエ ナ・・何とおっしゃります
今夜内方(うちかた)のお駒様に
聟様が アノ聟様がそりゃ

お前ほんかえ
オオこの人わいの何のその
様にびっくりする事があるぞい
の ヤほんいお駒様もこな

たに顔が直して貰いたい
早う呼んで来てくれと
いうてであったトリャ
しらせましょうと入りにけり

見送る才三が思案顔
ハテ合点の行かぬ これまでの
お駒が親切 浪人の身を
色々と世話してくれた心ざし

それに今夜の聟入りは ハア
こりゃとうから性根がく
さってあったわい エエ
いう事とは夢にも知らず

だまされたが口惜しい もう
此の上は破れかぶれいう
て/\言い破ろうか アい
や/\/\大事をかかえた我が

身の上 兎にも角にも
世の中の 変り安いは
人心 ハテ
どうがなととつ置いつ

胸はもやもや立つヽ居つ
お駒はへ序がしらせをば
聞くと心は 飛び立てど
そらさぬ顔に一間より

オオ髪結殿 さっきにから
待ちかねて居たわいの
と 後先見廻し
才三様 ヘエ逢いたかった

/\
逢いたかったと取りす
がる訳も涙に あやもな

とって突きのけゆらみ付け
エエ何じゃ逢いたかった
何のまあ己(おのれ)がおれに
逢いたかろ 今夜聟の

来る事も 何もかも聞
いておる 云い訳も何も聞
かぬぞ 見下げ果てた
畜生め 犬め 狐め 狸め

よう人を化かしたな物を
いうのも穢らわし
と 胸ぐら取って引きし
やなぐりふんづ叩いつ

突き飛ばしにらみつけたる
目に涙
お駒は顔をふりあげて
思いがけない今宵の

様子 聞かしゃんしたら
腹が立とう 嘸(さぞ)憎かろう
然(さ)りながら
それや聞えませぬ才

三様 お前とわしがその
中はきのうやきょうの事か
いな 屋敷に勤めたその
うちに ふっと見初めて恥ずか

しい 恋のいろはを袂の
そっと私が心では 天神
様へ願かけて梅を一生たっ
たぞえ そのお陰やら

嬉しい返事 二世も三世も
先の世かけて誓いし中
じゃないかいな 今宵の
事をしらせまし 問い談合

もしょうものと待ちかねて
居たものを 餘(あんまり)むごい愛想
づかし 叩いて腹がい(癒)るならば
心任せにした上で もう堪忍

をしてやるというて堪納(能・たんのう)
させてたべと 男の膝に
縋り着き 他所を憚る
忍び泣き真実見えてぞい

じらしき
才三も今更手持ちなく
そういう事であろうとは
おれも思うていたれども

今夜聟が来ると聞き
腹の立ったもそなたが
可愛いさ 我迚(とて)もこのよう
に 姿をやつし苦労をする

も 紛失の茶入れをば 尋
ね出したいばかり というてどこ
を尋ぬる当て所(あてど)もなし
それ故にそこここと 所

をかふる(変る)町髪結 何から
何までそなたの世話 真
実な気はしって居る ヤ
もう堪忍してたも こらえて

たも コレ人が見れや悪い
ヤサ泣き顔しやんな 泣き
やんな と
背(せな)撫で擦れば娘気の

そんなら疑いはれたかえ オオ
嬉しやと抱きつき わりなき
中ぞ睦まじき
奥の障子をそろそろと

探り出でたる親庄兵衛
藤七殿/\来てじゃ
ないか オオ大義/\ アア晩に
はちっと客も有り月代が

剃ってもらいたい ソレ娘よ
湯をもって来てくれ
と 何気なけれど気味
悪く うぢ/\もぢ/\手

盥(てだらい)に 汲んでくる間に剃
刀を 合わする目と目に見え
わかぬ 親はしら髪(が)の月
代と 供に気をもむ顔と

顔 言いたい事も口なしの
離れがたなき二人が心
サア マア/\髭もよいは 天窓(あたま)は
どうなとたばねて下され

ヤコレヤ娘よついでながらち
ょっというて聞かする事
がある コヽここへ/\ 扨マア
ろくろくに得心させず今

夜(こんや)の聟入り 親我意の
無理我儘と 定めて恨
んでも居ようし 又若い
者の事じゃによって エ

なんぞこうそこらにむ
ちゃくちゃ/\とした事
もあるものじゃ けれどこ
こをようようヤ髪結殿

こなたも傍に居るふせ
う(不祥)じゃ ちっとの間(ま)じゃ
と思うて聞いて下され
元わしも腹からの町人

でもない 去るお屋敷に
勤めて居たが 若い時の
後先なし 色々と酒と小遣い
果し お手打ちに極まったを

御主人の若旦那 御誕
生のお悦びに 奥様が命
乞いで 何事のうお暇(いとま)下
され トントモそれからはう/\(方々)

流浪の中 縁でがなこの
家へ手代奉公 前の親
旦那が不憫を加え下さっ
て ヤ何コレヤ後をやる男の

子迚もなければ 幸い娘に
われを娶(め)合わせ この家
督を譲る程に 随分商い
精出して 位牌所を潰さ

ぬように 又娘が事頼む
ぞよと 他人のおれに身
上をほっかりと下さった
大恩 アノそちが母は女房

とは言いながら マ・・おれが
為にはアレヤ大事のお主(しゅう)
様じゃ おのれやれ遺言の通り
家に疵はつけまいと 身を

粉(こ)に砕いて精出しても
サア時の天災遁れぬ こ
の前の大火事にころり
と丸焼け あっちこっち

去るうちに 引き負いに遭いお
けにはとられ 其の上五年
前からナコレ目を患い とう
/\゛内障(そこひ)というものになっ

て 何から何まで左まえ 問い
屋の仕切りも不埒に為(な)り
アこれはマどうしょうぞい と
思うた所 アノ今夜来る

喜蔵というは 元はしらぬが
近年の出来分限者(ぶげんしゃ)
講釈場でツイ近付きになっ
てから 念頃にしてくれてノ マ・・

問屋(といや)の諸埒(しょらち)も着けたが
よいと 金ほり出してくれた
其の時は マア若い人じゃが
テモ親切な人もあれば

あるものじゃ マ何かはしら
ず忝い と悦んでおるやさ
き おれを密かに内へ呼ん
でな こう身を入れて世

話するも外ではない そ
ちの娘お駒を女房に
貰いたい とのっぴきならぬ
いいかた いやと云やかね

戻せ といいおるじゃわい
モどうも仕様模様もなく
マ・・得心だと突き延ばし 一寸
遁れにだましておいて その

内には己やれ金済ましてと
思うに任せぬ世間の不
景気 この月の差し入りから
金戻せといい立ての催促

アアいっそこの家屋敷諸
道具も売り代(しろ)なし 親子
三人着の儘で出て行こう
とは思うたが サここをよう

聞いてくれ アノ女房を路
頭に迷わせては 過ぎ行
かれた親旦那のお位牌へ
どうも顔が合わされぬ

マせつない所じゃぞい サ
そのせつない所じゃ程
に聞き分けて コレヤ娘 此
の親が手を合わす ヨどう

ゾ今夜の所を機嫌
ようすなおに盃してく
れい ヨヨ最前ちらりと二
人の様子 サ聞いたでもなし

又聞かぬでもない 水の
流れと人の行く末 お歴々
のお方でも 賤しい業(わざ)を
するもコレヤ辛抱の一つじゃ

皆おれやよう呑み込ん
で居る いやじゃあろう
/\と察しておる ガここはまた
一番親が頼みじゃ ヨ コレヤ娘

どうぞ辛抱してくれ
と 義理と恩愛百千筋(ちずじ)
からまる胸の白髪の親
父 恥も厭わず見えぬ

目に 余る涙の労しさ
娘は始終聞くに付け 勿
体ないとは思えども 思い切ら
れぬ身の因果 何といらへ

もないじゃくり
才三郎も供涙
事を分けておっしゃる事
一つは親御へ御孝行 お前

様の心の内はナ 呑み込
んでおります程に マアあ
いとおっしゃりませ サア/\
申し サ・・

アイアイと一言(いちごん)が
百千万の憂き思い身を
ふるわせて むせび泣き
オオ/\よう得心してくれたな

イヤモ嬉しい/\ アア何コレ藤
七殿 こなたもいかい世話
でごんす コレヤ娘よ親や
夫の為には 勤め奉公さえ

するじゃないかの ハテこの
金の済むまでの事じゃ
と思うてな 盃さえして
しもうたら それからはわれが

身持ち次第じゃ 先ず第一
朝は持ち起こされて 昼時
分に起きて朝飯をくえ
夜は大勢人寄せして

何時(なんどき)共のう夜をふかし
聟めが言いおる事を
つべこべ/\と口応え 小遣い
銭は湯水のように

どっどとまきちらし ワレ忘れ
ても針やなど手にとる
なよ ぼろそ引きずろう
がだんないは 見ぬ顔して

居い そして肝心のアノアレ
毎晩/\ド・・どんな事し
おるなら オオそうじゃ おれ
越中ふんどしかいて お

尻(いど)つき着けてあちら向
いて寝い 何んぼ惚れた女
子でも 女子の越中
ふんどしかいた尻尽見ては

愛想つかすは知れた事
合点がいたか ヨ毎年(ねん)す
八百屋お七狂言 二(ふた)
親が片意地から あったら

娘を火付けにして 今の世
までも浮名を流す アレヤアレ
娘子ばかりへの見せしめじゃ
ない 世間の偏屈な親々

にも 手本にせいとの見
せしめじゃわい これを思えば
お七が親の久兵衛も 定
めて何ぞ深い義理 アア

其の身ならねばしれ
ぬ浮世 髪結い殿大義
娘後に
と しおしおと心をおもい

やむ目より見るめいたわし
うわべには 見はねど見ゆる
子故の闇 親の心の内
障(そこひ)闇 とぼとぼ奥へ入り

にけり
見送る眼さえ泣きはれて
物をも言わず二人とも
抱き合うたる供涙 理(ことわり)

せめて 哀れなり
表にしげき雪駄の音
人こそあれと耳に口 後に
/\と両人は 奥と勝手へ

別れ入る
早や黄昏の店さし時 くれ
ぬ中(うち)より箱提灯 立派
に出で立つ細見の脇差

無理勿体のむねくそ髷(まげ)
花婿風の津久田屋
喜蔵
丁稚が案内(あない)に主の庄

兵衛 眼は不自由でも覚え
の店 探り出迎う饗応(もてなし)
ぶり
ヤこれは/\舅殿 嘸今

晩はおとり込みでござりま
しょう ア扨先ずかの義
御得心下され 我等も大
抵 この祝言が調わねば

いやながらお取りかえ申した
金の催促 それでは折角
取り続いたこの城木屋
の家を潰してしまうような

ものじゃ 彼是と気の毒
に存じたが マア/\今晩の
祝言で物事が丸う
行くと申す物 斯く申せば

マ何とやらいかがなれど媒
酌(なこうど)も金 ナ金ずくめにして
参る拙者 ア斯う申せは
いかがなれどこの城木屋

の内にはちと過ぎた花
婿様 ヘ・・イヤ斯う申せば
いかがなれど この喜蔵が
聟になれば城木屋の

身代は万大に易という
物じゃ そうではござらぬ
か 舅殿
と扇子(おうぎ)ぱちぱち身を

ふかす
むっとはすれど
コレハ/\丁寧な御挨拶そ
なたからおっしゃらいでも

しれてある借用金 併(しかし)
金の貸し借りは相対 金で
娘はしんぜぬぞや とサ・・
言えば物事に角が立つ

マア/\それはほっておいて
座敷へござって 娘やかか
にも
いか様左様に致そう

と 互いの底に 一力刃(ひとりきみ)
イザ御案内と勝手より
いづる手代の丈八が
ヤア聟というは

コレヤ/\サヽヽコレヤいかにも 聟は
この喜蔵 何んにもいうな
/\ ハアこれやなんでござり
ますか アノここなお手代

かな
いかにもこちの番頭
丈八という者でござる
ムムいかさま呑み込みのよさ

そうな サヽコレヤ/\呑み込みの
よさそうな お手代殿
ムじゃがマヽかわった所で
あうたなァ

ヤア聟殿なんといわっしゃる
アイヤ かわった/\ サ舅殿に
代わって 今からこの喜蔵
がこの内の旦那様じゃ
 
サこの内の旦那様じゃに
よって これからはおれが目
をかけて遣うてやるわ 旦
那へ手代が始めての目

見え コリャこれを祝儀にしっ
かりと渡しておく
と 内懐(うちふところ)から取り出だす袱
紗包みを手に渡し

ソレ祝儀じゃ納めておけ
アイヤこれ/\聟殿 何も
心づかいさっしゃるな
丈八ソレようお礼をいやれ

オイヤ/\例も何もいう事は
ない ナ何んにもいうな のちに
ゆるりと舅殿
マア奥へ往て

いかにも/\
サア/\ござれと打ち連れ
て 一間へこそ入りにけれ
見送る手代の丈八が

ハテめんような アノ喜蔵めは
去年の春 吉原で茶
入れを騙った仲間内 いつ
の間にやら ムテモマアどえらい

出世をひろいだな それは
そうとこの包んだ物は
こりゃマアなんじゃしらぬ
て ヤアこりゃこれその時

騙った勝鬨の茶入れ ムムアア
これをおれに渡して置くは
あいつが素性をいうて
くれな と頼みの心 アアムムそ

いつはマアいうてくれななら
いうてはやるまいが 云わ
ずにおれがだまっておる
と アノ娘をあいつが女房に

ヤこいつはつぼじゃ ハア
こりゃマア アアどうしたらよ
かろうぞ いっそこの茶
入れの事代官所へ 訴人

しょう イヤ/\マア/\おれが身
からしてあやがぬけぬわい
こいつはどうぞ良い思
案がありそうなもの

じゃが オオそれよ アノ娘をつ
れてここをづづらのづ
いとするが上分別 ムそう
じゃ

そうじゃと打ち頷き 暖
簾おし上げ入りにけり
奥は今宵の稀人と
勝手はばたばた膳拵え

笑いの声もつき身に 邊(あたり)
見渡し娘のお駒「中略。以下文章連続せず注意」
始終を聞いて立ち出
づる

ヤア才三様か サアサア早うこ
の内を
イヤイヤこの分では連れて
退かれぬ仔細は斯

と 耳に口
エエそんならアノ喜蔵というは
シイ コレヤ声が高い 慥(たしか)に茶
入れの盗賊と 思えど変わる

形(なり)格好 うかつに詮議
もならぬ 幸いそなた奥へ
往て 色にかこつけ丈八が
懐中を かならずぬかるな

合点か
と 才三は勝手へ身を忍ぶ
奥からぬっと丈八が
お駒様/\オイ/\/\ モ・・さっ

きにから逢いたかった
/\ 逢いたかった
サアサア早う身ごしらえをさ
んせいなァ

身拵えとはなんじゃいなァ
エイ/\なんじゃいなァとは曲
がない 聟めがお初をせし
めぬ間に おまはんをつ

れて 此の家をかけ落ち
幸い辺りに人はなし コレこの
隙につれて退き野の末
山の奥でなと 二人ひっ

そりくらしましよ おまえを
女房にするならば たとえ体
は括られて 引き廻しにあうとて
もだんない/\大事ない

エエこの人の何いやる
わしゃどっこへも行く
事いや
ムムウ何じゃどこへも行く事
いやじゃ ハアそんならやっ
ぱりこの内で おれを旦
衆にする気じゃの ムムそん
なら待たんせ仕ようがある

いっそ聟めをころりと
いわせ 誰憚らずおまえと
女夫 エエコレ何をきよろ/\
しなますそ斯なはれ

/\ 今奥へいて何気のう
マア寝所で盃事 その酒
に毒を入れ あいつをこ
ろりとやりさえすりゃ 後

腹やまぬという物じゃ
おれや一走り生(き)薬屋で
何でもまちんを買うて
来る それをかならず燗

鍋へ わすれておまはん
呑まんすな どりゃいて
来う と表の方(かた) 一人のみ
込みかけ行くを

ヤア萩野の重宝茶入れ
の盗賊 そこうごくな
ヨウわりゃ髪結の藤七
テモあじな事いうな

ホホウいつぞや騙られし勝鬨
の茶入れ 詮議の為流浪
の身 我こそ尾花才三郎
ヤアさういやうぬを と切り

 

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かける
心得才三が手練の手なみ
駆け出る喜蔵が一世の
瀬戸

科人とったに家内の悦び
才三郎は勇み立ち 宝
の在処知れたる上は 片
時(へんし)も館へいそがん と

 

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出ずる才三が暇乞い 見送る
門(かど)の松かざり尾花の さ
かえぞ目出たかる