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恋娘昔八丈 鈴ヶ森の段

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/856601

 

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 恋娘昔八丈 鈴が森の段
急ぎ行く 人の身の捨て所とや
名にふりし 鈴が森の仕置
場所 あお竹にてやらいを構え
あたりにきらめく抜身の鑓

 

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けがれの役人馳せりがい 科人
今やと待ちかけしは この世から
なる地獄の責めいまわしくも
又 恐ろし 哀れ見に寄る
諸見物 あそこやここに立ち

集まり なんとこの科人もモウき
そうなものじゃ おれは牢屋
を引き出すと 直ぐに通り町へ
欠けぬけ それから川岸へ向
って以上四たび見たが 扨

 

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つくしい娘じゃわい あれを
ころっとやると言うは あったら
物じゃないかいの イヤイヤなんぼ
顔がうつくしうても心は鬼
じゃ アアイヤ丙午じゃるまいし

男を殺すという事がどこの
国にかあるものじゃ アアイヤイヤそう
一づ(一途)にいわしゃんな 女が男を
殺すとは モよくよくかんにんの
ならぬ分け 間(ま)女房ごとで

 

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あろうにも知れぬと 噂取り取り口々に
あんまり待って寒く成った さ水
の茶屋で一ぱいしよう サアサア
ござれと打ち連れて皆々かしこへ
走り行く 子を思う闇より闇に

目も分かず只さえくらき父
親の手を引く妻も諸共に
涙に見えぬ道筋を現(うつつ)とも
なく走るとも 夢路を歩む
心地して漸うかしこへたどり付く

 

(以下画像略)

 

見ればきびしき竹垣に さも
恐ろしき抜身の鑓 あれで
我が子を殺すかと 思えば
気も消え心きえわっとばかりに
泣き出す コレコレかか ここがモウ鈴ヶ

森k 今のそなたの泣き声は
モウお駒は殺されたか コレコレ早う
聞かして下されと いうもうろ
うろせき切って とえば女房が
涙ごえ イエイエまだ娘は来やせぬ

けれど 厳しいかまえを見るに
付け 可愛い娘を殺すかと
思えば胸もはりさくくるしみ
私は身も世もあられぬと
嘆けばいとどてて親は ヲヲ道

理じゃ/\/\わやい けさも門
を引かれると聞いた時 駆け出て
逢いとう思うたれど 近所の
衆にとめられて 内で泣いて
ばかりいた きょうが親子一世の

別れ せめて最後の暇乞
又一つには娘めが 云いたい事も
あるならば 聞いて迷いがはらし
てやりたさ お主の為とは
言いながら 花の様な子を

殺す おれが心を推量し
や おりゃまだ以前のお主へは
忠義共思うが そなたは嘸
や悲しうて この庄兵衛が憎か
かろう 堪忍してたも コレ女房

共 日頃念じ参る お宗旨(しゅうし)
の弥陀如来 只一心一向に
頼みかける印には 此の世
から助かる事との 誓いはうそか
偽りか こんな事知ったら あら

ゆる神や仏佐間御信心申し
たら ちっとは利生もあろう
もの ほかの仏へ願かけたら雑行(ぞうぎょう)
じゃと思し召し 娘をすくうて
下さるまいと 如来様ばっかり

念じていたのが悔しい 未来
はならくへ落つる共 娘が命
助けたい どうぞ娘を助けて
下され なむ如来様殿め
斯いうがお腹が立てばどうぞ

娘が助かるよう おじひじゃ
願い上げますと 愚にかえっ
たる親心 母は猶更正体なく
才三殿が盗まれし茶入れと
やらが出るならば 助かる筋も

あろうかとそればっかりを楽しみに
きょうよあすよと待つかいも
情けないきょうの今 死ぬる娘が
心の内思いやっていじらしい
病み患いで殺してさえ子を

先立てし親の身は 悲しうて
ならぬ物 蝶よ花よと撫子
を科人にして殺すとは
よく/\前世の因果かと
狂気の如く身をもだえ

夫婦手に手を取りかわしたえ
入り消え入るうき涙よその 見る
目も哀れなり 折もざわざわ
諸見物そりゃ科人がモウ
ここへそりゃ/\くるわと立ち

騒ぐ声に二人は気もそぞろ
ヤアもう娘が引かれてくるかと
立ち上がってはどうと伏し起きては
まろび正体も涙先立つ
ばかりなり 後をおい/\下女男

ヤア旦那様 おかみ様 嘆きは
い道理さりながら いけがが
あっては猶大事 マア/\お出でと
手を引いて 暫くかたえに
介抱す 思う事 叶わねば

こそ憂き事の 恋と義理
との諸手綱 不敏やお駒
は夫(つま)の為 かかる憂き身の
しばり縄 顔さし入れる懐を
もれてながるる涙はし 首に

かけたる水晶の 数珠の
数さえきえて行く 屠所の羊の
あゆみいより はかなき身ぞ
と観念し力なく/\引かれくる
代官堤弥藤次お駒に向い

最前屋敷にて役人中申し
渡されし如く 子細有りとは言い
ながら 仮にも夫を殺したる科は
遁れず 重き刑にも行わるべき
を お上の御じひを以て死罪に

仰せ付けらるる 有難く存じ奉
れと 云い渡せば 顔を上げ 何事も
皆私が 心でかかる身の罪科
露いささかもお上へ対し お恨みは
ござりませぬ 有難う存じますと

覚悟極めしけんげさに 不
憫と見やる諸役人涙紛ら
すなかりなり お駒は顔をふり上げて
御見物様 いづれも様 夫を
殺す大罪人 さぞ憎いやつ

大たん者 徒(いたづら)者と皆様の
おにくしみもあろけれど いうに
言われぬ訳あって夫殺しのと
が人と 死に恥さらす身の因果
不憫と思し一遍の 御回向

願い上げまする 世上の娘御
様がたは この駒を見せしめと
親の赦さぬ徒など 必ず/\
遊ばすな エ可愛い夫へ義
理たてば二た親に嘆きをかけ

又親々へ従えば言いかわした
夫へ立たず 果てはこうした浅
ましいこの世からなる剣(つるぎ)の山
身を切り裂かれうき恥をさらす
も定まる因縁づく 約束

事とあきらめても 二世の
ちぎりの其の人と 一世と限る
二親の 若しやくんじゅ(群衆)のその
中に 見えはせぬかとのび上り
/\ても竹垣の すき間がく

れの人むれに 目も泣きはれて
見え分かぬ 心を思い諸見物
濡れぬ袂はなかりけり くんじゅ
押し分け二親は 竹垣に取り付き
すがり コレ/\/\お駒や とと様も

この母も 親子一世の暇乞
じゃもの 来ていいて良いもの
かいのう/\ コレコレかか さぞや此頃の
憂き苦労 娘が顔もやせた
であろう どのようにしている事じゃ

エエ顔が一目見たいわいやい/\/\
イヤイヤ わしゃこな様の目の見
えぬのがうらやましい 見す
ぼらしい娘が形(なり) 見ている母が
この胸は 裂けるわいのとどうど

伏し前後 不覚に取り乱す
とと様かか様 よう来て下さんした
わしゃ逢いたかったわいな/\/\/\
ヲヲ逢いたい筈道理じゃ/\
親父殿やこの母より まだそな

たが逢いたう思やる アアコレコレかか様
もういうて下さんすな 聞く程
恋しい床しいお人の お顔が
目先にちらちらと片時へんしも
放れぬわいな/\ 私が斯くいう

心から お年寄られたお二人へ
こんな嘆きをかけまする 必ず
〃泣かず共 娘でもなんでもない
アリャ前世の敵じゃ 憎いやつ
不孝者と 思い切ってふつつ

かと 嘆きを止(やめ)て下さんすが
少しは冥途の罪亡ぼし 私が
死んだその後でも 必ずくよくよ
思うて 患うて下さんすなえ ソレソレ
そのようにしおらしい 孝行な事

いうてたもる物くよくよ思わいで
かいのう/\/\ 何の後に片時も
生きていられう 二人ながら追っ付け
未来で逢うわいのう アコレコレ申し その
ようにおっしゃる程 私が身に

罪が重なる 申しかか様 今のお人
が見えたなら 私が事はぜひも
なし どうぞ宝を詮議して
御出世なさるを冥途から
楽しんでおりますと よういうて

下さんせい 又彼のお方も若い
身の上 いつ迄も一人身でも
済まぬ程に 似合いな事も
あるならば おくさまを持たせまして
そのお人をお前方の 真実の

娘じゃと 思うて折々問音信(といおとずれ)
念比(ねんごろ)にして上げまして エまだその
上気にかかるは 私が死んだ後
にても 彼のお人が爰へ来て
浅ましい形(なり)を見やしゃんした

ら ひょっとあいそが尽きよう
かと わしゃそればかりが悲しいと
今死ぬる身の今迄も おぼこ
娘のあどなさを 思いやり
つつ二親は前後正体倒れ

せき上げ/\叫び泣き 音は浜辺に
打ち寄する浪に波増す涙なり
果てしはあらじと下部共 時刻
移ると引っ立てる 二人の親は
竹垣に隔てられたる親子の

わかれ 見物くんじゅうは
口々に宗旨/\の手向け
草 折もこそあれ千種の
介丈八に縄をかけ 才三
郎に引っ立てさせ 群集

押し分けやらいの内 御預けの
茶入れの盗賊喜蔵に紛れ
なきよし この丈八が白状故
ふたたび茶入れも我が手に入り
又喜蔵丈八両人は 我が家来

才三郎が親の敵 お上へ
委細申し上げ お駒が命赦
免の状 御披見(ひけん)あれとさし
出せば 弥藤次取っておし
ひらき 成程/\紛れなき

 

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赦しの趣き 親の敵とある
からは 喜蔵丈八両人は
御家来才三の心まかせ
お駒は直ぐに二親へ 御赦免
成るぞとありければ はっと

ばかりに庄兵衛夫婦 ここに
夢見し心地して 悦び
なみだぞ道理なり お駒が
縄目とく/\とけて結びし
恋娘 手代もかわらぬ御ひ

 

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いきを 重ね/\て黄八丈
むかしがたりを今ここに 伝
え/\し筆のあと 座元頭
取惣座中 作者をはじめ
一ように評判願いたてまつる