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仮名手本忠臣蔵 六段目 勘平切腹の段

 

読んだ本   http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/856586

参考にした本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/856475

 

 

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仮名手本忠臣蔵 六段目ノ切 (勘平切腹

(はやめて急ぎ行く)
母は後を見送り/\ アア
よしない事いうて 娘も
嘸(さぞ)悲しかろ ヲヲこな人はいの
親の身でさえ思い切りが

 

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よいに 女房の事ぐづ/\
思うて 煩うて下さんなや
ほんに此の親父殿は まだ
戻らしゃれぬ事かいのう
こなたあうたと云わしゃっ

たの アア成程 そりゃマア
どこらであわしゃって どこへ
別れていかしゃった サレバ
わかれたその所は 鳥羽か
伏見か 淀竹田と 口から

 

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出次第めっぽう弥八
種が島の六 狸の角兵衛
所の狩人三人連れ 親父の
死骸に蓑打ち着せて
戸板にのせ どや/\と

内に入る 夜山仕舞うて
戻りがけ 是の親父が
殺されて居た故 狩人
仲間が連れて来た と聞く
よりはっと驚く母 何

 

(以下画像省略)

 

者の仕業コレ聟殿 殺し
たやつは何者じゃ 敵を
取って下されのう コレコレ親
父殿/\と 呼べど叫べど
其のかいも泣くより ほかの事

ぞなき 狩人共口々に ヲヲ
お袋悲しかろ 代官所
願うて 詮議してもらわしゃ
れ アア笑止/\と打ち連れて
みな/\我が家へ立ち帰る

母は涙の暇よりも 勘
平が傍へ差し寄って イヤコレ
聟殿 よもや/\/\とは思え
共合点が行かぬ 何ぼ以
前が武士じゃ迚 舅の

死に目見やしゃったら
びっくりもしやる筈 こなた
道であうた時 金受け取りは
さっしゃらぬか 親父殿が
何と言われた サア言わしゃっれ

サア何と どうも返事は有る
まいがの ない証拠はコレ爰
にと 勘平が懐へ手を指し
入れて引出すは さっきに
ちらりと見て置いた此の

財布 コレこのように血の付いて
有るからは こなたが親父殿
を殺したの イヤそれは それは
とは エエわごりょは/\/\
のう 隠しても隠されぬ

天道様が明らかな 親父
殿を殺して取った其の金や
誰にやる金じゃ ムム聞こえた
身貧(ひん)な舅 娘を売った
その金を 中で半分くす

ねて置いて 皆やるまいか
と思うて コリャ殺して取った
のじゃな 今という今迄
も 律儀な人じゃと思う
て だまされたが腹が立つ

わいやい エエ爰な人でなし
あんまり呆れて 涙さえ
出ぬわいやい のういとしや
与一兵衛殿 畜生の様な
聟とはしらず どうぞ元

の侍にしてやりたいと 年
寄って夜も寝ずに 京三
界をかけあるき 珍財を
投げ打って世話さしゃっ
たも 却ってこなたの身

のあだと成ったるか 飼いかう
犬に手を喰わるると よう
も/\この様に むごたらしう
殺された事じゃ迄 コリャ
爰な鬼よ蛇よ と様を

かえせ/\ 親父殿を生けて
戻せやいと 遠慮会釈
もあら男の たぶさを
つかんで引寄せ/\たたき
付け つだ/\に切りさいなんだ

迚是で何の腹がいよと
恨みのかず/\くごき立て
かっぱと伏して 泣き居たる
身のあやまりに勘平も
五体に熱湯の汗を流し

たたみに喰い付き天罰と
思い知ったる折こそ有れ
浮編笠の侍二人 早野
勘平在宿をしめさるるか
原郷右衛門 千崎弥五郎

御意得たしと音なえば
折悪けれ共勘平は 腰
ふさぎ脇挟んで出迎い
コレハ/\御両所共に 見苦しき
埴生(あばらや)へ御出でハハ忝なしと

顔をさぐれば郷右衛門
見れば 家内に取り込みも
有るそうな アアイヤ もうささいな
内証事 お構いなく共
いざ先ずあれへ 然らば左様

に致さんとずっと通り
座に付けば 二人が前に両
手をつき 此度 殿の御
大事にはずれたるは 拙
者が重々の誤り 申しひら

かん詞もなし 何卒某が
科御赦しを蒙り 亡君
の御年忌 諸家中諸
共相勤むる様に 御両所の
御取り成し 偏(ひとえ)に頼み奉ると

身をへり 下り述べければ
郷右衛門取りあえず 先ず以て
其の方 貯えなき浪人の身
として 多くの金子 御石
碑料に調進せられし

段 由良助殿 甚だ感じ
入られしが 石碑を営むは
亡君の御菩提 殿に不
忠不義をせし其の方の
金子を以て 御石碑料

に用いられんは 御尊霊
の御心にも叶うまじと
有って ナワレ 金子は封の儘
相戻さるると 詞の中より
弥五郎懐中より金子

取り出だし 勘平が前に差し
置けば はっとばかりに気も
転動 母は涙と諸共に
コリャ 爰な悪人づら 今と
いう今親の罰思い知ったか

皆さんも聞いてくだされ
親父殿が年寄って 後生
の事は思わず 聟の為に
娘を売り 金調えて戻ら
しゃるを待ちぶせしてアアアレ

あの様に殺して取った金
じゃ物 天道様がなくば
知らず 何んで御用に立つ
物ぞ 親殺しのいき盗人
に 罰を当てて下されぬは

神や仏もエエ聞えませぬ
あの不孝者 お前方の
手にかけて なぶり殺し
にして下され わしゃ腹が
立つわいのと身を投げ伏して

泣き居たる 聞くに驚き両
人刀追っ取って 弓手馬手
に詰めかけ/\ 弥五郎
声をあらげ ヤイ勘平
非義非道の金とって

身の科の侘びせよ とは言わ
ぬぞよ わが様な人非人
武士の道は耳に入るまい
親同然の舅を殺し
金を盗んだ重罪人は

大身槍の田楽ざし
拙者が手料理ふるま
わんと はったとにらめば
郷右衛門 かっしても盗泉
の水を飲まずとは義者の

いましめ 舅を殺しとっ
たる金 亡君の御用金
にサなるべきか 生得(しょうとく)汝が
不忠不義の根性にて
調えたる金と推察有りて

突き戻されたる由良助
殿の眼力ホホ天晴/\ 去り
ながら ハア情けなきは此事
世上に流布有って 塩谷
判官の家来早野勘平

非義非道を行いしと
云わば 汝ばかりが恥らなず 亡
君の御恥辱と知らざるか
コナ/\/\うつけ者めが 勘平
コレサ勘平 お身はどうした

者だ ハ左程の事の弁え
なき 汝にてはなかりしが
いかなる天魔が見入りし
と 去るどき眼(まなこ)に涙を
浮かめ 事を分け利をせむ

れば たまり兼て勘平
諸肌押し脱ぎ脇差を ぬく
より早く腹へぐっとつき
立て アアいづれもの手前面
目もなき仕合せ 拙者が

望み叶わぬ時は 切腹
兼ての覚悟 我 /\舅を
殺せし事 亡君の御恥
辱と有れば一通り申しひら
かん 両人共に先ず /\/\/\

聞いてたべ 夜前 弥五郎
殿の御目にかかり 別れ
て帰るくらまぎれ 山越す
猪に出合い 二つ玉にて打ち
留め かけ寄ってさぐり見

れば 猪にはあらで旅人(りょじん)
なむ三宝誤ったり 薬
はなきかと懐中をさがし
見れば 財布に入ったるこの
金 アア道ならぬ事なれ共

天より我に与うる金と
直ぐに馳せ行き弥五郎殿に
彼(かの)金をわたし 立ち帰って
様子を聞けば 打ち留めたるは
我が舅 金は女房売った金

か程迄する事なす事
?(いすか)のはし(嘴)程違うと云うも
武運に尽きたる勘平が
身の成り行き推量有れと
血走る眼(まなこ)に 無念の涙

子細を聞くより弥五郎
ずんと立ち上がり 死骸引上げ
打ち返し ムウ/\と疵口改め
郷右衛門殿これ見られよ
鉄砲疵には似たれども

これは刀でえぐった疵
エエ勘平 はやまりしと
いうに手負いも見てび
っくり 母も驚くばかりなり
郷右衛門心付き イヤコレ千崎殿

アアこれにて思い当ったり
是へ来る道端に 鉄砲
請けたる旅人(りょじん)の死骸 立ち
寄り見れば斧定九郎
強欲な親九太夫さえ

身限って 勘当したる悪
党者 身の佇みなき故
に 山賊すると聞いたるが
疑いもなく勘平が 舅を
討ったはきゃつがわざ エエ

そんならアノ親父殿を殺し
たは 外(ほか)の者でござりま
すかえ ハア はっと母は手
負いにすがり コレ手を合わし
て拝みます 年寄りの愚

痴な心から 恨みいうたは皆
誤り こらえて下され勘
平殿 必ず死んで下さるな
と 泣きわぶれば顔ふり上げ
只今母の疑いも わが

悪名も晴れたれば これを
冥途の思い出とし 後
より追っ付け舅殿 死出
三途を伴わんと つっ込む
刀引廻せば アア暫く/\

思わずも其の方が 舅の
敵討ったるは いまだ武運
に尽きざる所 弓矢神の
御恵みにて一功立ったる勘
平 息の有るうち郷右衛門が

密かに見する物ありと
懐中より一巻を取り出だし
さら/\と押しひらき 此度
亡君の敵 高の師直を
討ち取らんと神文を取りかわし

一味徒党の連判 かくの
ごとし と読みも終わらず苦
痛の勘平 シテ其の姓名は
誰々なるぞや ヲヲ徒党
の人数は四十五人 なんじが

心底見届けたれば 其の方
を指し加え 一味の義士四十
六人 是をめいどの土産
にせよと 懐中の矢立て取り
出し 姓名を書き記し 勘平

血判 ヲヲ 心得たりと腹
十文字にかき切り 臓腑を
つかんでしっかと押し サア
血判仕った アアコリャのるな/\
早野勘平重氏 血判

確かに相済んだぞ エエ忝や
有がたや 我が望み達したり
母人嘆いて下さるな 舅
の最後も 女房の奉公も
反古にはならぬ此の金 一味

徒党の御用金と 云うに
母も涙ながら 財布と供
に二包み 二人が前に指し出し
勘平殿の魂の入ったこの
財布 聟殿じゃと思うて

敵討ちの御供に 連れてござ
って下さりませ ヲヲ成程
尤もなりと郷右衛門金(きんす?)取り
納め 思えば/\この金は 嶋
の財布の柴摩黄金(しまおうごん)

仏果を得よと云いければ
アア仏果とはけがらわし
死ぬ/\ 魂魄(こんばく)この土(ど)に
とどまって 敵討ちの御供
すると いう声も早や四苦

八苦 おしや(惜しや)不憫と両人
が浮かむ涙の玉の緒も
切って はかなく成りにけり
ヤア/\/\ もう聟殿は死なしゃ
ったか 扨も/\世の中に

おれが様な因果な者
が 又と一人有ろうか 親父
殿は死なしゃる 頼みに思う
聟を先立ち いとし可愛の
娘には生き別れ 年寄った

此の母が一人残ってこれがマア
何と生きて居らりょうぞ コレ
親父殿 与一兵衛殿 おれも
一所に連れて往て下されと
取り付いては泣き叫び また立ち

上ってはコレ聟殿 母も供に
と縋り付いてはふししずみ
あちらでは泣きこちらでは
わっとばかりにどうとふし
声をばかりに嘆きしは

 

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目も当てられぬ次第なり
郷右衛門つっと立ち上がり アアコレ/\
老母 嘆かるるは理(ことわり)なれ共
勘平が最後の様子大
星殿に委しく語り 入用

金手渡しせば満足有らん
首にかけたるこの金は 聟
と舅の七々日(なななぬか?) 四十九日
や五十両 合せて百両
百ヶ日の追善供養

 

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程ねんごろに弔われよ
さらば/\ おさらばと見
おくる涙 見かえるなみだ
なみだの 娘の立ち帰る
人も はかなき 次第なり

 

 七段目 一力茶屋の段につづく