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忠臣蔵 二度目清書 寺岡切腹の段

床本

 

寺岡兵右衛門の後日譚発見。

弱冠十六歳力弥の壮絶な最期。

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/856250

参考にした本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/922213

 

 

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忠臣二度目清書(きよがき) 寺岡切腹


夢と見て 現と覚めて
世の中をつい住み捨つる
山科に 大星由良助
が侘び住居 まだ鶯も

 

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3
事問わで 軒端に残る二月
の雪露か 雫の夫(つま)と子は
去冬(こぞ)より東の旅の空
お石は爰に稚な子を連れて
立つ日もほそ/\゛と 仏間を

てらす御明かしに夫子の
武運身の上を 心に願ひ
かき立つる 便り待つ間ぞやるせ
なき 春毎に 芽立つ草
木の生先(おいさき)より 力弥が弟

 

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4
千代吉はお北伴ひ門の口
申し母様 けふも又稲荷様へ
参って来ました とヽ様や
兄様の 早うお帰りなさるヽ
やうにわしが立願(りつがん)こめ

たれば やがてお帰りなさる
て有る 悦んで 下さりませと
咄す笑顔に 聞く涙 袖に
かくして傍に寄り ヲヽよふ
参っておじゃったのふ 親を

 

5
大事としほらしいそなたが
お願ひ申しやったら 神様
にも定めて御納受 去り
ながら よふ合点仕や 大切
ない御主君の敵 高師直

を討ち取りたまひしは 日本一の
お手がら たとへ此後御切
腹なされふが 悲しうも
なん共ない そなたも武士
の種じゃ程に かならず/\

 

6
未練な心持ちやんなやと
母の意見を子心に アイ
もしとヽ様や兄様が 御切
腹なされたらにっこりと
笑ふて わしも切腹しま

すると いわけなけれどわき
まへし誠に武者の胤なりき
母の心を汲み取って おきたも
供に涙ぐみ ほんにわたしは
稚い時より お館にお末の

 

7
奉公 五年以前寺岡平
右衛門が妻に遣はされ 此
度四十六人のお歴々様の
其中へ 足軽ふぜいの夫
平右衛門 召しつれられし

有りがたさ 御恩の送り様も
なく せめてはお傍のお宮
がかへ お嬪やらお伽やらほん
の私が心一ぱい したがマア
お聞き遊ばせ けふもkふ迚

 

8
世上の取沙汰 四十七人の
人々も 一旦は天下のおきて
なればお預けと成り給ひしが
三国一の中心故 モお上に
もお惜しみ遊ばし 今御評

定取り/\゛の噂 必ずきな/\
お案じなく 御機嫌よふ
御帰宅を お楽しみ遊ばせ
と 力を付けても付けられても
昔にかはる日かげの身

 

9
ちゞに案ずる胸の雪
いつかはとけんとけしなさ
名を惜しみ身を忘れても
消へ残る 忠義の道の数々
や鎌倉より一筋に帰る

寺岡平右衛門 立派の
羽織大小もさし窺ひし
表口 くる人音におきたは
気を付け どなた様やと立ち
寄りて 明る戸見合す顔と

 

10
顔 ヤアこちの人平右衛門様
ヲヽやっぱりこちの人じゃはいな
コリャマアどふして無事で戻って
ぞと 心いそ/\上り口
思ひがけなきお石もびっくり

ヤレなつかしや平右衛門 我が
夫(つま)始め義士の方々 首尾
よく本意を遂げ給ひし
と風の便りに聞く斗り いづれも
方のお身の上 いかゞなりしぞ

 

11
気遣はし サヽヽ早ふ語りやと
心もそゞろ 千代吉も
おとなしく コリャ平右衛門
とヽ様や兄様の 手がら
さしゃった咄しせい サア/\

早うに 平右衛門kっ蹲(つくば)ひ
ハヽ先ず奥様には御健勝で
イヤハヤおめでたくござりまする
千代吉様もおいさましう
テ扨/\/\お出かし遊ばしたのふ

 

12
お二人様のお手がらの様子
敵討ちの一部始終くはしく
お咄し申さん為 はる/\゛
帰りし寺岡め イデ物語らん
と居直って ソモ師直が館へ

押し寄せんと 定めし其日は過ぎし
師走中の四日 徒党の
人数四十余人 爰 かしこより
馳せ集まり 出で立つ時刻は ほの
ぐらき 雪のむら消(ぎ)え木隠(こがく)れし

 

13
月夜兜の星ならで 鎖
鉢巻一様に 表門へ向ふ
人々には 大星由良助
義金 原郷右衛門千崎
弥五郎 得たる大太刀

大竹の 弓田矢間に大鷲
文吾 つゞく竹森継梯子
塀に打ちかけさら/\/\
木伝ふましらさゝがにの
蜘蛛のふるまひ 兼て又

 

14
裏より向かふ大星力弥 まだ
十五夜の月や雪花のかん
ばせ緑の角髪ゆかしき
奥村片山源五 かけ矢の
大槌引っさげ/\ 苦もなく

裏門打ち破り表裏一度
に相図の笛 心も 合に相
詞 天よ川よと乱れ入り玄関
広間間毎/\あたるを幸い
切り立つれば手に立つ者はなかりけり

 

15
ヲヽさも有らんいさましや
シテ/\師直は誰人のいかゞし
て討ち給ひしぞ さればそれより
爰かしこ乱れちって尋
ぬれば 思ひがけなき柴部

屋より 卑怯の師直逃げ
出すを 首筋つかんで
引出し 初太刀はすなはち
由良助様 力弥様 四十七
人一太刀づヽ 明き所もなしに

 

16
恨みの刀 首討ち落し太刀に
貫き 塩冶判官が家来
高師直を 討ち取ったりと
口々に呼ばはる声は天にも
ひゞき 八千代の椿優曇

華の花さく表にあふたる
心地 其時の嬉しさはと
語るも聞くも嬉し泣き お北
も傍へすり寄って ヲヽこちの
人お手柄/\ 追っ付け皆様

 

17
御機嫌よふ お帰りなさるで
ござんしょのふ ヲヽサそれより
いづれもは亡君の御石碑
に首を手向け 人々焼香
事終われば 即ち其日鎌倉

殿の御下知にて 処々の屋敷へ
お預けなりしが 二度(たび)花の色
香もなく野辺のかげらふ
春の雪 けふや あすやと消ゆる
日も 如月四日の暁天に ヤヽヽヽ

 

18
何と評定が極りしか シテ/\
お身の落者は サア切腹仰せ
付けられしと 聞くよりはっと
驚く三人 兼て覚悟も今
更に 涙は胸につヽかけながら

ムヽシテ御最後の其様子は ハア
されば 御切腹の場所は光
明寺の大庭にて 御法の
通り取り繕ひ 検使には石堂
右馬之丞 介錯の人々

 

19
数十人 前後左右を厳
重に 先ず一番は由良助様
それより各々列を乱さず 揃ひ
も揃ふ忠臣義士 最後の
立派さ尋常さ 検使太刀

どり始めとして 思はずわっと
声を上げ ハア惜しいかな忠臣
の 斯く成り果つる今月今日
そもやいかなる悪日ぞと
鎌倉中の老若男女 声を

 

20
放って 泣く涙空にしられぬ
村時雨晴れ間 泣き入る三人の
中にお石は取り分けて 父様は
物の弁へも武勇も誰に
おとらねば 嘸尋常の御切

腹 力弥はやう/\明けて十六
もしや最後の其時に 未
練と人に笑はれはせざりしか
アイヤ/\申しお歴々様の其中
でも 目を驚かせしは力弥様

 

21
三方取って押し戴きにっこと
笑ふて九寸五分 左に突き立て
引き廻し 胸先より臍(ほぞ)下迄 アノ
十文字にかや サア碁盤の
目なりに ヲヽ健気な者や

手柄者 母も嬉しい/\と
口にはいへど内心は肉もとろ
くる思ひなり 平右衛門袂
より二つの位牌と守り袋
お石が前に直し置き コレ是

22
こそ則御両所の御戒名
取り分けて力弥様 私めを近く
招き コリャ平右衛門 其方国元へ
帰りなば 手柄の次第を委しく
つたへよ 又此守りは出立の

折から 母の手づから給はりしが
片時も肌身はなさずして
モ朝夕母を拝みしぞや
母様にも此守りを 力弥と
思ふて給はれと くれ/\゛

 

23
頼む平右衛門と後にも
先にも其時一度 はら/\/\
と御涙と かたればお石は
むせかへり 死ぬる今はの際
迄も後に残りし此母が

それ程心にかゝりしか かはい
の我子やなつかしの我が夫と
二つの位牌を抱きしめ/\
コレ申し我夫 是迄さま/\゛
御苦労も 首尾よふ敵を

 

24
討ち負ふせ 嘸御本望でござり
ませう 力弥もお前と諸
共に 年に似合わぬ健気者
海山こへてはる/\゛の東の
果で死んだ物 侍じゃてヽ

武士じゃ迚母が恋しう有る
まいか わしも子じゃ物親
じゃ物かはゆふなふて何とせふ
斯ふいふ別れにならふとは兼て
覚悟のうへながら もしや

 

25
今一度夫や子にまみへる
事も有らふかと 今の今迄
楽しみもたらはぬ女の心
から 愚痴なと叱って下さる
なと 生きたる人にいふごとく

こらへ/\し溜め涙 四人一同に声
を上げ 忠と節義と恩愛の
千筋のよりやもどるらん
稚けれ共千代吉は 目に持つ
涙押しぬぐひ とヽ様や兄様が

 

26
切腹なさったら おれも
早ふ切腹したい こりゃ
平右衛門 どふしてきるの
じゃおしへてくれ ヲヽかしこい
事/\ よくおっしゃったのふ

其切り様はまづ此通り と差し
添え手早く我と我が腹に
ぐっと突き立る これはと驚く
お石よりお北は夫に取り付い
て コハ何ゆへの自害ぞと

 

27
すがり嘆けば ヤア未練な
女房ナヽ何ほへる 足軽づれ
の某を 大望のお供にめし
連れられ まだ其上に其方は
何とぞ命をながらへて 四十

余人のゆかりの者に 潔き
此場の次第 告げしらせよ
との御仰せ ハア畏まり奉ると
惜しからぬ命をながらへ 直ぐ
さま処々へかけ廻り 事済みし

 

28
今日只今 最早此世に
望なし イデおくれし冥途の
供 片時(へんし)も早く追い付かんと
きりヽ/\と引廻す お北
も今更とめ様もあらがい

様もないじゃくり ヲヽ道理で
ござんす /\わいな 其覚悟
とは始めから 合点して居な
がらもあんまりほいない憂き
別れとわっと斗りに ふし

 

29
しづむ 折から表に声有っ
て 忠臣寺岡平右衛門 天晴
切腹 ホウ見事/\ ガ苦痛
をこたへ今暫く 申し聞かす
事有りと しづ/\通る立派

の侍 お石に向ひ威儀を
改め 某事は石堂右馬丞
が家来金堂孫三郎と
申す者 各々方の身の上にもし
過ちも有らんかと密かに此家の

 

30
かくし目付 去るにても大星殿
御親子(しんし) 凡そ日本に又有るまじき
忠臣義心 其血脈(けちみゃく)の絶えん
事をうたく嘆き 由良助殿
御最後の砌 御次男の其

千代吉殿を主人方へもらひ
受け置かれたり 敵討ち事落者
の上は 今より新地三千石を
あたへ大星の苗字を包み
新たに開くの二字をとって

 

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31
新開大三郎と改め父の
武名を受け継がれよと 厚き
情けも大星にやくそく かたき
石堂家に 名高き忠臣
新開は 此の千代吉が事成り

けり 人々はっと一同に 有りがた
涙に時うつる ヤア/\者共 供の
用意と呼ばはれば はっと
六釈共美々しく乗り物
かき居れば いざ/\是へ

 

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32
と孫三郎親子手を取り
相輿に乗てかき出す
振り出す 先手の徒士(かち)や
若党が そろへの装束
足びやうし こなたは今はの

断末魔引取る息や此の世
の門出わっと泣く声乗り物
にあまる大星親子が涙
妻のお北は黒髪を切って
捨てたる血すじのわかれ

 

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33
夫は西方冥途のたび
二人はあづまへ出世の旅
現世未来と二たすじの
道に道ある 忠臣の其
名は 代々(よよ)にかゞやけり