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染模様妹背門松 東堀油屋の段

染模様妹背門松 床本

 

読んだ本 http://www.enpaku.waseda.ac.jp/db/index.html

     イ14-00002-483  14p~

 

文字同士接近している上に、聞き慣れない言葉が散見されるため読み難いのなんのってもう

参りました。それに長い!本公演でカットされている部分少なからず。

なにしろ読むのに疲れるので毎晩ちょっとずつ、延べ9日間かかった。

 

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14
東掘油屋の段
聞いて鬼門の角屋敷瓦屋橋の橋筋は 質店濱は油屋の 内は耀く大身
代 妹娘は十六の花の姿を花嫁と 一門中の山家屋へ 結納もすみ来る春の嫁
入拵へ色々の小袖の模様松に露 よヽ久松と忍び寝の 子飼の恋としめ合て離れ
まいぞの約束も しらぬ二親嬪お針 取りちらしてたる縫物のはり留めもなき高笑ひ ヤレ
お染様 注連(しめ)早々に婚礼と 旦那様もお家様も 気をせいてのお拵へ いえふは師走の
廿五日 あすあさってに何もかも 片付て仕迎ふたら後は嫁入一段斗り 今の内に山家や

の大黒柱 わしらもどふぞあやかって 竹柱にでも成りたいと 口々そヽるもなまめかし お染は浮か
ぬ顔の色 ヲヽうは/\とやかましい 嫁入の噂は聞くもいや 見るもうるさい婚礼小袖 もふ片寄せて
置いてたも コレハしたり何おっしゃる 姫ごぜの出世は嫁入 一世一度の公業(はれわざ)と お家様のお物
好き 空色繻子の松風露 取り分けて此縫いはよふ出来た御らふじあれ ナフ久松殿 此靍は生
て飛ぶ様なじゃないかいの ヲツヲ飛ぶ様な/\ 此の松をいやがって 早ふ内を飛たがる雌靍め 顔付きは
渡り繻子ぬっぺりと作っても 気は空色の空吹く風 後に残った雄靍が心の裏緋縮
緬 裾模様は水入鴨 身を投げてかな泣きませふ アヽ結構な嫁入小袖 羨ましいとひぞり口

 

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お染は聞くも胸せかれ いやらしい此着物 ほっとそっちへやってたも わしが好いたは桃黄色 此染込み
の松に蔦 取り付いていつ迄も何の離れふ 離りやせぬ 疑ひ深い縫い込みをほどいてほしいと目
通も しらぬが仏女子共 縫い込みが有ってさへ四尺五寸たけ やっぱり是で置きなされ ヤおく次
手に久松殿 質店の善六殿呼んで下さんせ 駕蒲団の談合したい ヲット心得質店へ サア
出来上がった小袖共お家様に見せませふと てんでに奥へ持ち運ぶ障子引明け番頭善
六 扨引き散らしたは 嫁へ拵へで内は仕立屋 お染様嬉しかろ ガ嬉しない此善六 去年の春から云
かけて 間がな透きがな口も筆も 皆に成程書いたか云ふたか云ふたか書いたか色々様々口説ても エヽ

強欲なお娘御 山家屋へござってはどふもがいてもモウ叶はぬ に嫁御のお初穂 なじみがいにたった
一切振舞う気はござりませぬか お前今でこそ其様にほっそりすはりの娘盛り 小さい時にはしらやっ
たり 懐へ入れてもりした善六 今惚れたと云ふ水上大事の所は わしが臍にひったりと引付けて抱き歩い
た其よしみも有るぞかし チヨ/\ちょっと引っ付けてくれたがよい コレわたしが心の有りたけは此玉章にと懐
へ 押込む一通投げ返せば それは難面(つれない)読んだ迚罰も当たらぬお染様 ぜひに返事と又捻じ廻し エヽいやじゃ
わいのと打ち付ける涙によっこり下女のりん エヽびっくりさしおった 飯炊のぶんざいで何しにこゝへ伸し上った
コレ善六様 其様にこなさんすな わしもお家ふだいの年季 お前今でこそ其様に でつくりどつ

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さりの番頭顔 小さい時には真夜おこしてしやったり 後さしてねた此おりん大事の物をわしがおいと
へ 付けた事忘れてか 其よしみも有れぞかし ちと引付けて下さんせと 大手をひろげ抱き付けば エヽいま/\し
い ふはさはすなと鼻抓み 勝手へ迎ればコレ/\ 旦那様が呼んでじゃはいのふと 尻ふり廻し追かけ
行く お染はよい首尾久松はと 待つよりも待つ折よしと お染様質店から見て居れば 善六殿と何
やらじゃらくら エヽ又あの人のいやらしい事いふてたもる 善六は?結納の来た山家やへも 何ぼで
もわしゃいきやせぬ 不孝になろと無理いふて叶はぬ時はそなたと二人 ハテこゝ斗りに日はてる
まいぞ どんな山家の奥にでも 女夫に成って居て見たい飯(まま)も焚ふし水も汲も女房といふてこ

ちの人 下に居やんせ何ぞいなと おぼこな様でも今時の 娘は早いしがへなり イヤモそふいふお前の
心なら わたしも屹度帯しめて 在所へ連れまし行くぶんじゃ ヤアそりゃ真実か必ずと 抱合たる
梅柳 年の内より咲き始めて緑色増す風情なり 屈託顔に多三郎立ち帰る雪踏の音 夫々
人がと二人は廃亡 大事ないおれじゃ/\ マア二人ながら聞いてたも こんたん事していとが身請け
源右衛門が呑み込んで あれがしるべゑ預けた故 其晩から毎日毎晩 預けて有る先の宿へ連れていて
貰はふと いつも寄る小宿から呼び出しにやっても/\ かげも見せぬ源右衛門 五日や七日は待ちもした
れど そふ/\はこらへ袋 内へしかけて逢ふといへど 留守じゃ/\とけふが日迄 おれに逢ぬは

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どふでも一物 ヤ又此女郎めも憎いやつ どこにはいつてからに共 町所のしれた多三郎 こふして
居ますと状本 おこさぬは性根玉が くさったに違ひない エヽそふとはしらずおのれ故 胸を
板にしたは幾度 犬め 鼬め よふ道切ったと独り言身をかきむしり恨み泣き お染は
背(せな)撫で久松は マアお茶上れと差出し そふ思し召すはお道理じゃが 私も折々お供して いと様に如
在のない気はよふ存じておりまする こりゃ 慥に源右衛門様の悪工 ヲヽそふ共/\ 常々から
兄様に 源右衛門様との付合いは 止(や)めなさんせといふたも爰 きつう悪い人じゃげなと 噂半ばへ歩(かち)はだし
あはてふためき来るいとと 見るより多三郎飛んでおり 門口覗く胸ぐら掴み 引ずり込むより ヤイ/\/\/\

畜生め おのれマア何でけふ迄便りせぬ どこに居おったどふずりめと やり腹立のわっぱ声 若
人もやとお染はハア/\ 申し若旦那声が高い/\と鎮める久松 何の高いの安いの相場にかゝった女郎じゃ
ないと 我を忘れて腹立涙 マア待たしゃんせ多三郎様 其お前の腹立ちより わしが悲しさ情けなさ
上町とやらへ預けるとは嘘 西脇の裏の隅 二かいへ追上げ亭主が張り番 源右衛門も夜昼
来て 多三郎は心が替って もふ/\いとには隙をやる おれに任すと投げ出した 元惚れて居る源
右衛門 外へはやらぬ女房にする 多三郎が事は思ひ切り 合点してもせいでも女房じゃ 妾じゃと
口説かるヽ其つらさ お前の心が替ったとは皆嘘じゃ 騙すのじゃと 合点する程身も世も

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あられず 三十日を泣き続け 便りせうにもどうせうにも 身動きしても亭主が目角 天神様も
聞えませぬ お前の所で出来た身請け なぜ本人の多三郎様に添わして下さんせぬ どふぞあ
はして下さんせと 願立した其しるしか ついに一寸出ぬ亭主 ちょっと出た留守幸いに 小めろを
たらして抜けて来た 疑ひ晴らして下さんせと 事訳聞いて多三郎 胸はさっぱりそふであろ どふ
でそんな訳とは思へど逢れぬから腹も立つ 悪口いふたは堪忍仕や 何の勘忍疑ひさへ晴れ
たらば わしゃ嬉しいと抱き付けば 二人はちゃっとあちら向き 粋をきかすも濡しる中 咄の中へ表に
人音 山家屋の清兵衛様 なむ三??(かたたう?)見れぬ様 いとをどこぞへどこぞは爰へと 重ね

戸棚 お染が戸を明け久松が裾引上げて押し込むやら どっさくさらとうろ付く中 門口はいる聟清
兵衛 何やら拾ふて袂の内 ずっと通れば多三郎 よふお出でなされました サアお上がり お染奥へ
そふ申しや 久松たばこ盆 アヽいや構はしゃんな 扨切迫しました 伯父者人の疝気も
起らぬかのと 挨拶取々奥の間より 主太郎兵衛夫婦共お染引連れ ヲヽ聟殿お出で/\ 昨日
けふきつい寒(かん)じ様マア奥の炬燵へ アヽいや/\炬燵へはいるとかしけまして すっきり用事の
間がかけます やっぱり爰が私が勝手 そんならばはったりと玉子酒 誰ぞおじゃと姑の
馳走の玉子ころ/\ と饗(もてな)す折から門の口 懐手して源右衛門 多三郎の生き盗人

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借りた者は戻さずにいとを何で盗み出した サア出せ受け取ろどふずつめと近所へひゞくわう
声 多三郎は皆の手前 術なさつらさ身は冷や汗 太郎兵衛はむっと顔 コレ/\源右衛門殿
日頃のらめと棒組の貴様 心安(やす)連れては有り内じゃが 生き盗人のすりのとは 親の身では聞きづらい
何で伜が生き盗人じゃ サヽ其訳が聞きたいわいの ヲヽこなたは何もしらぬによって コレ御子息の
太三郎殿が 首だけ登った 京村屋のいとといふ はく(女偏に白?)人田舎の客が受け出して遠国に行くといふ
こっちへ取るにも金はなし 余所へやっては顔が立たぬ 生きては居られぬ首くヽる ヤ足をくヽると朽ち
の様な涙をこぼし とこぼへるが不憫さ アおれが様子慈悲深い友達持ったが大きな仕合せ

持ち合した定家の色紙 捨て売りにしても五百両が値打の代物 すっぱりと貸してやった 其
色紙を質において女郎を受け出し 死ぬる命を助けたは皆 源右衛門様のおかげ ヤヽヽヽ何と云わしゃる 定
家の色紙を質に置いた ヲイノ ヤイ善六/\ ハイ/\/\ コリャはい/\所じゃない ちょっとこい/\ 後の月の昨日 天満
へ為替三百両取りに行った戻りかけ 其金で是を質に取りました 目利き者(じゃ)に直打ちさしたら五百
両には何時でもと おれに見せた色紙の箱 中は何やらしらね共 店を任した番頭粗相な
事は有るまいと 其儘で置いたが アノのらめがあほうづかひの金としって おのりや何で借りた サ夫れぬ
かせ/\ 云い訳次第で思案が有ると 噛み付く様にせり詰められ おづ/\と顔を上げ お腹立ちは御尤も 今

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源右衛門様のおっしゃる通り 若気とは申しながら 登り詰めた色遣の果は世間に沢山な心中 死ぬると
有る若旦那 ア死なしゃらふと儘よ そんな事に大まいの金出しては 親旦那へ云い訳がないと私が身
をかばひ 見捨て帰った其後で 若しもの事が有った時は 家の疵旦那の恥 大事の家の跡取を灰
山にさらしては 不忠に成ると存じますから 其お叱りを合点で 成程色紙を質に取った私が誤り
サアいか様共ご存分 主の為なら此体 寸々に刻まれても 厭う様な善六めではござりませぬと
云った所は実事仕 底の工は敵役とはしらず太郎兵衛は フウ聞こへた そふいへばわれにも余り科はない
とかく憎いは息子ののら松 ヤイ おのれマア是迄幾度 ヤモ夫れいふているとけふ中には果てぬ マア差し

当って源右衛門殿 貸し借りは世上のならひ 男づくなり念法中 夫れかどふして生き盗人 ヲヽ生き盗人の
来歴は 此証文 借したは後月廿四日 卅日の日数の内色紙を戻さずば 受け出したいと
をそっちへ戻し 引っ立ていねといふ文言 其女郎も置き所はなし 是も又おれがやっかい 飯米(はんまい)
続けて養う中 日限り過ぎても色紙は戻さず 相対の通り女郎をこちへと 預けた先へいて見
れば 今朝早々盆屋をふけった コリャ多三郎が皆仕事 じゃによって生き盗人と云うたが無理か
親父殿 ヤ太郎兵衛殿 アヽコレ近所の手前も有る まっとちいさい声で頼みます シテ其女郎が
欠落したは 伜めがそびき出したといふ証拠でもござるかの サア其証拠 ハテ居ぬが証

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拠じゃイヤそりゃ証拠には成りませぬ 白人とやらいふ者見た事はないが 定めて手足もあろ どこ
ぞいきたい所が有って 外へ行くまい物でもないに 息子めが仕業とは あんまりな押しあてがひ そん
な事受け付ける太兵衛じゃござらぬと ぐっと云われて源右衛門 証拠なければうぢ/\もぢ/\
眼と眼を見合す番頭善六 重ね戸棚を頤(おとがい)で 教える色目見て取って ヲヽそれ程証拠か
望なら さらば見せうと立寄る戸棚 ちゅあっと隔て源右衛門 こりゃ何となされます 何の用で
めっそふな 人の内の物入を明ふとは不躾千万 ホヽお娘 久松が二人ながら顔色かへ 隠す戸棚が
猶くさい 覚えがなくばサア退いた コリャ娘 構はずと明けて見せい 久松もそっちへいけ 不礼咎め

明けさせぬを 若糸とやら縄とやらを 隠しても有るかと悪る根性な疑ひ 打ち明けて鼻明かそふと
娘を引退け戸棚の戸 明けてびっくり又ぴっしゃり ヲヽめっそふな コレかゝ こりゃ又派手なはでな
お染が嫁入小袖 聟殿にさへ見せぬ先 外の者に見せとむないは娘が道理 エヽ酢に付け粉に
付け憎い倅め ア何とせふ是非がない 聟殿の手前も面目なけれど 人様に損かけては太兵衛
が顔立たぬ 三百両は損にする 善六蔵へいて色紙取てこい ハテ借った物さへ返せば 女郎の
詮議も言い分もないではないか ソリャしれた事 色紙さへ戻りや云い分が しtふもないとたば
こ盆 控へるこなたの山家屋清兵衛 油見世の下男呼び寄せて何事か 呼び込む所を頷き/\

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男は門へ善六は 四岸野箱持って出で 源右衛門様 慥に戻りましたぞや ヲヽ戻さいではと取り上げる 待
ちや源右衛門 此の色紙を質に入れ 借った金は三百両 二百両は身請けの金におれが遣ふ 百両は
そなたに借した それにずっと色紙をやったら そっちはよかろがこっちが済まぬ 百両の金今戻
しや ヤヽヽヽなんといふぞ われは気がちがふたか 但寝言じゃないから おれに百両借したとは どなたの時代
にとこで借た ハテ物覚えの悪い 天神の小山屋で善六が出した二百両 身請けは知れた二百両
百両はそなたの身に 済まぬ事が有る貸してくれと 証文迄して借りながら 今更覚えぬしらぬと
は ヤイ/\/\毛二才め おのれそふぬかしや聞き流しにはならぬかは 証文が有るならなぜ出して切羽せぬぞい ヲヽ

出して見せふと紙入れより一通取り出し是を見い こふいふ証文が有るにしら/\しい 横道なもがつめとたつ
と披(ひらけ)ばコリャ白紙 正しう其時懐から 矢立を出して書いた証文 印判迄慥に見たに いつの間に
此白紙 どふした事と俄かの転動 どふじゃ証文が有るが ドレ見よふ サア出せ 出さぬかやいと多三
郎が髷(たぶさ)掴んで引き居(すゆ)る 母親お染久松が是はと寄るを押さへる太兵衛 ヤおのれ等何ざはつくぞい
人に無実と云いかける息子をかばふな皆ぐるか ヤ同類か コリャ善六 こふした騙りぬかす泥棒め 色
祇も改めにや受け取られぬ ヤイ泥棒め おのれが付けた箱の封 自刃に切ってそこへ出せと いふに引
寄せ口惜しながら 封押し切って取り出す箱 善六受取蓋引明け ヤア コリャ何じゃ 哥ざいもん コリャコレそん

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などうげんと吹きかへて 改めずと持っていんだら 仏の様な此男をすっぱり一ぱいやかふでな サア盗んだ色
紙爰へ出せと ひしぎ付ければ多三郎 余りじゃ源右衛門 おりゃその様な悪工みする者じゃない そ
なたの手から受け取った色紙 善六に渡したに違いない 封付けたも善六が指図で付けた見て居
やらふ イヽや見やせぬ 何で有ろふとわれが付けた封印 そヽけもせぬ明けたれば あの様な双紙 それで
も盗んだ覚えはないか ヤモ四も五もいらぬ 代官所連れていて此通り申し上げ云いかけや盗みの返報 くらい
所へ入れて見せふ サアうせ上れと引立つる母親悲しさ縋り付き 重々お前のが御尤も 何事も若気から
と幾重にも御了見 大切な色紙の売り買いは五百両 急度(きっと)内から弁へましよ それでどふ

ぞ御勘忍コレ申し旦那殿 定めて腹が立ちませふ 引裂く様にも思はっしゃろが たった一人の男の故 大
まいの事でも金づくで 牢室へ入れたらば世間の人も褒めまいし 親の身でまじ/\と何と見て
居られましょ 一生のわしが願ひじゃ どふぞ金を五百両 サアのらでこそ有る強(あながち)悪る性根はな
いやつ よもやとは思ふて居たれどあっちには 理詰斗り ア是も又しよことがない 大場寒に病み付き
て 人参たんと呑みおったと思ふて居るよわい エヽ忝い コレ源右衛門様 色紙代の五百両で何もか
もさっぱりと イヤならぬ 五百両は色紙の相場 スリャ恩にもひらにもきぬ 此潔白な男を 借た
金もかゝぬと ?(かたり)同前に云われた所がむやくしい ガ それも扱ひて勘忍せう サア出せ エ出せと

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は ハテ隠して有る女郎を出して さっぱりとおれにおこせ それで云いかけの帳は消してやろ 源右衛門様 ソリャお
前あんまり十分 ヤお袋 何が十分じゃ 一つも十分な事はないぞや ハテ気に入るざ此二才め 代官
所へと引ずる手先 もぎ放して衣かづき真倒(まっさかさま)に投げ付ければ コリャどふするとかけ寄る善六 眉間
をてうどきせるの火ざら 娘くらんで血はたら/\ たばこすぱ/\騒がぬ山家や コリャ清兵衛何で投げ
た アヽイタヽヽヽ ヤ聟様 かげがへもないあたまを沢山そふに破(わ)ったぞや ヲヽそんな事ではまだ済まぬ 二人共に
三寸縄 代官所へ引く覚悟せい ハヽヽ 物を盗まれ無実を受け 主の命をすくふた二人を代官所へは
何で又 ヤイ 盗人猛々しいとはおのれ等 マア何か差置いて 借った金をかゝぬといふが盗人 ヤア借した

金とは 証文が有るかい ヲヽ証文は此白紙 ウフヽヽ 神武以来(このかた)白紙で 金銀の借引聞いた事
がない サア白紙じゃによって借した証拠 エヽどぎつかすなやい 白紙が証拠に成るかい ヲヽ成る共
/\烏賊の墨を取って白紙に物をかけば 半月立つか立たぬ内 元の白紙に成る事 しるまいと
思ふか おのれが懐中の矢立てに入れて書いて渡したは皆まや事 イヤ貧乏ゆるぎも成るまいがな 其工(たくみ)
を顕はすは 此白紙を火にくべれば生ぐさいのが慥な証拠 ガそりゃ爰ではせぬする所で
して見せる 扨 是からが色紙の行?と 質店を指し覗き 利兵衛殿来てか 大儀ながらちよ
っと爰へと 呼ばれて出でくる小道具や 見るよりびっくり源右衛門 利兵衛 貴様爰へ何しに来た

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ちゃっといにや/\と身をもむ二人が腕捻じ上げ そろ/\と尾が出かゝるでもがくは/\ コリャヤイきのふ
あの小道具屋が 珍しい物が出た買わぬかと 持って来た定家の色紙 後の月小山屋で 源
右衛門に借ったは多三郎 善六が呑み込んで 質に入れたと余所ながら聞いているに ふしぎな事と
出所を根をおして尋れば 源右衛門に頼まれたと聞いた故 色紙はこっちへ願って コリャ懐に入れてき
た おのれ等にあらがはさぬ 証拠の為に利兵衛殿 さっきにから呼び寄せて質店に待たして置いた
なんと多三郎が盗んだ色紙が どふして又そちが手から 小道具屋へ売りにじゃ出したぞ サアそれは
それはとは盗人めらと直に左右へもんどり打たせ 箒追い取りすう/\/\ 親子四人久松も 戸棚の

内も小気味よさ 思はずしらず皆に踊り二度の煤掃きする斗り 小道具屋は色青さめ ヤレ/\
恐ろしいもめの有る代物 まだよい所持っていて 元の鞘へはまりそふな コレ源右衛門様 色紙は清
兵衛様に渡して有る 代物は戻しましたぞへ 長居したらば傍杖に あふては損恥あっちこち辛
動(しんど)が利兵衛小道具屋 後をも見ずして立ち帰る 清兵衛色紙の箱取り出だし 二人ながら窮境
な若い者 此の様な悪工みするとあった体をつい西向き ヤ何伯父者人 此しだらも世間へ出れば人
も損じる 又方々の名も出る事 うま/\取れる五百両 取り留めたを腹いせに 何事も穏便に
御了見何時でも源右衛門が百両を持って来たら 色紙をお渡しなされませ マアそれ迄の金

26
の形 コレ大事にと手に渡せば 両手を合してエヽ忝い/\ 畢竟今でこそ伯父分の太郎兵衛 元
は 勤めておりました 旦那の御子息清兵衛様 親旦那の心腹を受け継いだ頓智発明 ホンニ
聟殿とは思ひませぬ お真向(まむき)様か御開山の御影向 けふの難儀をお助けの御恩徳 な
むあみだ仏/\ 併し内外共にきつう物騒な 百両かはりの此箱をコレ嬶 おれが居間の
挟み箱へソレ錠前もしっかと 呑み込む女房とつかはと居間へはいれば源右衛門 身内を撫で
て アヽむごいめに合された 何とせふ身から出た錆じゃが笑止なは善六 色紙摺りかへたも
証文のちらてんもおれ一人の皆仕事 科もない者を可愛そふにゑらい相伴(しょうばん) ハテよふごん

すはいの 強い者には勝たれぬ 遖(あっぱれ)手の内花婿様 ヤモ男じゃ きよとい者じゃが 是
程立引なさる清兵衛様互いに結納(たのみ)取りかはせば もふ女房のお染様 不義しられても大
事ないか ヤ密夫(まおとこ)しられても男が立つかな ヤイ/\/\ 焼け頬(づら)火にこりずとまだ何のかのと人の
わんざん 娘が誰と不義をした 何で密夫 ソレぬかせ/\ ウヤ申し旦那様 いふ迄もないコレ此草
双紙 お染久松袂の白(しら)絞り 先ず上の巻から読み上げ奉るの イイイヽサヨ恋と かいたる一字には 十か
い爰に顕れて清兵衛とぢ本引ったくり コリャ善六是がどふして不義の証拠 此広い世
界 お染といふ名も 久松といふ名も幾万人 殊にない事も有る様に 面白おかしう作りなして

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銭儲けするがせちがしこい世の中 こふした本が百冊有っても 清兵衛が立たぬ事はない 入ぬ世
話おいてくれ ハテナ ても結構な御了見 したがまだ慥な証拠が在(おはし)ますじゃて コレ此
状は 最前娘御の懐から落ちたを ちゃっと拾ふて置いた サア高らかに読んで御らうじ 我ら
爰で聴聞致すと 文を渡せば久松お染 はっと斗りに赤らむ顔 重なる証跡(しょうせき)云い訳も 胸
を痛める斗りなり 清兵衛は袂の内拾ひし状と取りかへて 封押し切り読み立る いつもかはらぬくり言なが
ら又々文して申し上げまいらせそろ 近き春には山家屋へお越あらば 我が思ひ仇事と成る思ふにかひも
泣く斗りに候 兄様ののら松殿は今の間に追い出され 後のしまつは番頭の役なれば皆々我等

心の儘ヤアそれじゃない/\テモ読めといふたじゃないか ヤアそりゃ違ふた/\ そんな埒もない事
かいて有ふ筈がない テモめんようふな めんよふな事とうろ/\眼 ハテやかましい 併し後の文句は長た
らしい 宛名は染様参る善六より ヤアわりゃ不義をしかけたな 清兵衛といふ主の有るお染に
おのれは不義をしかけたなと 屹相かへれば アヽコレ/\/\ マア/\待って下さりませ コリャマア何の事じゃ する程の事
が皆ぐりはま けたいの悪いと身をもがく 太郎兵衛は歯を喰ひしめ扨々々イヤモろくなやつは
一人もない ヤイ善六 エヽマヽヽヽ憎いやつじゃぞよ コリャヤイ おのれは漸(やう/\)と七つの年 寒の内に袷一つで 尺八の様な
洟垂れて 在所からいせたを忘れ 様々のもくさん事で親方をたぶらかし まだ其上に主の娘

28
に不義しかけるとは いはふ様のない人でなし 木の空へ上げるやつなれど 大事の聟殿の挨拶と云い
娘が婚礼前なれば其儘で隙をやる 出てうせいおろときめ付けられ 返す詞も投げ首し
ぶつ/\つぶやき立ち出れば 源右衛門も気味わるく おづ/\連れ立ち日暮れ紛れ 人影見へぬを幸い
にこそ/\/\こそ/\と こそ立ち帰る 太郎兵衛ほっと溜息つき アヽマアいがみ共は片付けた ホウ
こりゃいつの間に火をともした ヤイのらめ 爪に火燈す様にして 稼ぎ溜めた親の身代 小沢山
さふに二百両の 三百両のと よふぼっかへ拾おったな アノ様な賢い身持のよい聟殿の手前
あんまり面目なふて おりゃどふも顔が上がらぬわい まだ其上に詮議すそふな事迄

大目に見て下さる志の忝さ おれがせんさくしたけれど なま中明かへ出したらば けっく聟
殿の顔が立つまいと くら/\する胸を押さえて居るわい どいつもこいつも耳をさらへてよふ聞
て ふっつりと此後を嗜みおらふ のらめは世間の手前も有る 勘当じゃ今出て行け まだ/\
うぢ付いて箒くらふなと 睨むまぶたに不憫の涙 皆々何と侘言も誤り有る身の久松
お染 顔も得上げず泣き居たる 清兵衛も目をこすり お腹立つは尤もなれど若い時は有るならひ
たった一人の跡取を勘当が見めでもない マアわしが預かって 連れていんでとっくりと意見
せふ 其上にも身持ちが直らざ ハテ其時は勝手次第 サア多三郎おじゃと立ち上がれば 重

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々情けの有難さ 何が扨詞は背かぬよい様に コリャ久松よ あの形(なり)でうせたら一ばい清兵衛殿の
心づかひ ソレ戸棚に入れて有る のらめが着替迚の世話序でに 聟殿に言付けい 着替の傍
離れたら ひょっと短気やなど出しおろかと 案じるは年の科 清兵衛殿 赦して下されとわっと泣
出す口に袖 身を背けたる真身の涙 様子は聞けど母親は 出もせぬ谷の鶯や 泣く音忍び
て声さへも障子の骨身砕くる思ひ 見ぬふりするも又真身 コレ久松 善六が額の血か
上り口にておきや ソレ紙と投げ出す文 アヽ聟殿 玉子酒さへ早々の仕合 ア仕合せな聟を
取って 親も子も浮かみ上った 未来も浮き上がる様御前へいてお礼申そふ お染は琴の

さらへせい 爰には置かぬと引立て奥へ行く後久松が 明る戸棚の ヲヽいとしや窮屈 イエ/\窮
屈もつらい事も 皆お前のお世話 サヽヽヽ其挨拶も何もかも 二人ながらこちへ来て わっさ
りと正月さしやれと 堅い様でも粋な聟 お礼は何にも申しませぬと拝む二人が手を引いて
船場をさして立ち帰る 久松は門の口 かげ見へる迄伏し拝み/\ 泣くが詞の礼ならん 夜も更け行けば
くゞり戸を しめて貫ぬき入る内 奥はさらへの爪音も きぬ/\゛にかはす筐(かたみ)のさよ衣
つま乞い兼し鹿の声に 乱だるゝ糸萩の 結ぼれやすき玉の緒の よる手引手に物
思ふ身をせめて哀れと暫しなりとも 云号有る娘御と 忍び逢たはさよ衣 憎し共

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思召ず 善六に拾われた状を摺かへ 此様に戻って下さる清兵衛様 有難いと云ふか 忝いと申し
ませふか 久松が為には産神(うぶすな)様 其情け有るお顔を潰し不義をした私 何ぼお礼が申したふても
どふも此顔合しては 面目なふて恥しうて 此世で詞はかいされませぬ 忍ぶ山 忍び兼たる人めの
関を 道しるべせよ忍ぶ草の いっそ露共消えなば消えよ 死んでお目にかけますがせめてもの申し
訳 旦那様 お家様 御赦されて下さりませ 八つの年から丸八年の御恩を仇の不奉公 分けて在所
の親父様 嘸泣かしゃるで有ろふと思はば エヽひょんな縁を結んだと どふどふして泣けるか 思ひ直し
て出刃包丁 取り上げる手に取り付きお染 エヽ久松そりゃ聞へぬ そなたを殺し生きているお染じゃない

わしから先ともぎ取る包丁 アヽコレ申し お前と一所に死んではな 心中の浮名が立ち 弥(いよいよ)清兵衛様のお顔
が立たぬ 殊に御恩の親御様 重々のお憎しみ 気を取り直して下さりませと なだむるも又 涙
なり サアそれ程わしが殺しともなか そなたも生きて居てたもるか サアそれはいやなら死ぬる サア/\
とせり合う間 戸棚の袖壁ぎし/\こぢるか切るかと 見れば火かげにきらめく白刃 内には灯火
吹きけして お染が耳に吹き込むは 足もわなゝく奥の間へ しらすも白浪すっぽりと なんなく切り明け
善六は 忍び入るより貫ぬきはづし くゞりをそっと 源右衛門来てか ヲヽ爰に居る 内の勝手は知っ
たわれ 色紙の有る所は親父が居間 挟み箱じゃぞ合点じゃ 通りはないかがんばれ/\

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次手にお娘もかたけて来る ヲヽしてこいとつぶやき 囁きさぐり 追って奥の間へ行くを
透かして窺ふ久松 震ふ膝ぶし踏みしめる 奥よりさぐって出る太郎兵衛 そろり/\と
門の口闇は あやなき挟み箱 引かたけて出る善六 どっかりおろすあがり口 鑿(のみ)取り出して
錠前かっちり 我と鶯耳に手を あたり窺ひ又かっちり なんなく錠前こぢ放す 音
をしるべに這い寄る久松 傍に居る共しらばこそ 蓋引明ける手を入れる 色紙は久松
取ったもくらがり 中をさがして コリャどふじゃ めんよな事と挟み箱 ひっくり返してふるへどない
は 善六どふじゃとかけ込む相ずり くゞりをびっしゃり びっくりぐはったり挟み箱 遠近ひゞく