読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

染模様妹背門松 生玉の段

 

 

読んだ本 http://www.enpaku.waseda.ac.jp/db/index.html

     生玉の段 イ14-00002-483  p33~

 

33
実に大坂の繁昌は数生玉の御門前 祝ふ万才曲手まり 能も放下も声立て
て賑わふ木戸を打ち眺め コレノウ久松 アノ看板の書き付けに お染久松さいもんとは 余所にも丁
ど同し名が有れば有る物去りながら ふしぎな事じゃないかいの ハテ此広い世界の内 同し恋路
も同じ名も それにふしぎはなけれ共 哥に謳ふはこちよりせつない事がござりましよ ほん
になふ アノ余所の久松も そなたの器量にちっとなと にた所が有るならば 余所のお染も
惚れたじゃあろ ナンノマアよその久松はわたしが様な丁稚じゃ有るまい したがよそのお染に此様な

34
よもや靨(えくぼ)は有るまいと じゃらつき合ってどの様な 中じゃぞちょっと立聞くと 二人は垣にもた
るれば 声無常めく錫杖に 所は都の東堀聞いて鬼門の角やしき 瓦橋とや油やの
一人娘にお染迚心も花の色盛り 年は二八の細眉に内の小飼の久松が 二人ははっ
と顔見合せ暫し呆れて居たりしが アレ聞きや久松 余所の事かと思ふたも 今は二人が身
の上を 哥に謳はれ世にしられ どふマア生きて居られふと くどき嘆けば久松も 目に持つ涙
さいもんは今が哀れな最中と 語るも聞くも涙なり 勿体ない事何としてお主様をばわしが手
に かけられましょといふ声も なむあみだ仏と諸共に 遂ぶ自害し果てにけり聞くもうる

さく走り退き 胸撫でおろし/\ イヤ申しお染様 世界に心中多けれど 死ぬ先から此様に 世に諷
はるは神仏に 憎まれ果てた其しるし 哥浄るりと聞き流せど 誠に聞けば皆誠 迚も死ね
ばならぬ身と 天道様が我々に教え給はるお詞ぞと 託(かこて)ばお染もすがり付き果し 涙のないじゃ
くり いつの間にかは向ふへ善六 ヤアよい所で出くはした 折角忍び込んだれど 色紙もすかたんこ
なんもかたげそこなふ すでの事にくヽられるを 漸逃げてけふ迄もうろたへ廻るは誰故じゃ 皆
コレお染様お前故 まだ意趣の有る清兵衛め 仕かへしがしたふても あっちは強しおれは弱し 幸い
先程の哥さいもん 此見世で語らすも 清兵衛めが顔潰し 嫁入も変改させ 久松も追い

35
出して お娘を我等がしめる細工 作者善六ナントきついか 憎うも有るまいお染様と 抱き付けば
ふり放し エヽいやらしい アレ久松と後ろにかゞめばどっこいと 追っかけ廻る善六が 腰の脇差抜き取り
久松 よふも浮名を立てさっした 覚へておれと真顔しゃっぷり うんと一声即座のさいご サア人
を殺せば猶以って 生きては居られぬはお染様 さらばと云い様突っ込む刃 一人はやらぬ諸共にと 辺りの
井戸へ真倒(まっさかさま) 刃はかげらふの有るやなし 小蝶とさめ果て 思ひは重き石の火の 光りとぼし
           き油やの我が住家居と 成りにけり