読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

平家女護島 六波羅の段

床本 平家女護島

 まあ漢字の読めないこと夥し。なので随分翻刻に頼った。そうしないと進まないんだもん。

 

読んだ本 http://www.enpaku.waseda.ac.jp/db/index.html (イ14-00002-724)

カンニングした本http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/970018/239?viewMode=

 

 

平家女護島 作者近松門左衛門 

 第一

籠の中の鸚鵡檻にしたがつてふし仰ぎ
牗(窓)を窺て踟蹰(はづくひ)す 紺の足丹嘴緑
の衣翠衿 金精の妙質火徳の明
輝弁才そうめいにして 能言ふれい鳥
いかんぞ時のさかしきにあへる はなたれたる
臣棄られたる妻 懐を爰におなしうす


3
平の朝臣清盛入道相国の 四海に
おほふ驕慢の 網にはもるゝ かたもなし
家に争ふ子なければ家正しからずとかや
松の内府所労によつて致仕し給ひ 教
訓も懈れば驕奢ぼうきゃく心の儘 第
九の姫君は高倉の帝の中宮にて 殊
に此頃御懐胎の御悦ひ 執柄花族

の公卿も平家に諂ふ御進物 或は馬太
刀巻絹織物 綺羅みち/\て殿中花
のことく 門前に市をなし 万寶一つとして闕
ざれば 禁中も仙洞も是には 過じと
見えにける 爰に子息三位の中将重衡
南都の軍に勝利を得 ならの都の八重
桜けふ九重の梅が香と 鎧の袖にかつ色


4
見せ御前に畏り 去廿八日 てんがいはん
にや坂の柵さか茂木押破り 興福寺
大寺諸がらん残らず放火せしめ 奈良法師
の首七百余 猿沢の池に切かけ 大将ぶんの
首五重余級 ならびに大仏の頭焼落しを
衆徒の首と共に車につんで開陣仕る 外に
生捕一人 いそぎ実検有て生捕の罪 御沙

汰有べうもやとぞ述らるゝ 入道相国ゑつほ
に入 悪法師共源氏に心をよせ 当家に敵対我
威光に恐れぬは 仏を甲にきる故 悪徒の張本
大仏の首をも取たりとは手がら/\ 扨又源氏肩
入の大悪僧 文覚法師南都にかくれ住と聞しが
生捕とは文覚かそれへひけとも給へは 重衡しさつ
て?より 白首一つ出し 是は源氏の大将故左馬


5
の頭義朝が髑髏 かの文覚東大寺の二階樓に檀
をかまへ 源の義朝公と書しるし本尊に立 平家調伏
の行法まぎれなき所 四方をつヽんで攻すくめ給へ共 たゞ
者ならぬ文覚太刀かたなもゆる火も事とせず ほの 
ほをくゞつて落失せ残せし所の白首 うばひ取候と
聞よりつヽ立はがみをなし エヽにくや/\ 此禅門を亡さん
とせし義朝 白首と成ても二たび足下に来る 入道が

ゐせい思ひ知れと髑髏もくだけ檜扇も おるゝ斗に
丁々てうど打ては子おどりし はたとけちらしがんとふみ
一門の人々是を見よ二度の朝敵討たりと 殿中ひゞく
高笑ひ忿より猶凄じし 扨生捕とは何者貌をみん
と御諚の中 縄め血ばしるよはかいな指迄おなじ紅
鹿子も 奥様じみておもやつれ三十斗の乱髪 盛過たる
妖桃の春をいためる姿にて ひかれ出たる百の媚列座


6
の一門めをうごかし ゑぼしひら/\ひらめけば入道も気を
とられ おくばむこうばまばらの大口くはつと明 とろ/\見とれ
おはします 重衡すゝみ出 此女は鬼界ヶ島の流人 しゆん
くはん僧都が妻あづまやと申者 南都法華寺の尼寺に
かくれ住 平家に敵対小長刀を以某が陣を窺しを
搦取候と披露も聞ずムヽ 色よき夜は匂ひもふかし
みめがよければ心もやさしくけなげ之 俊寛法師は

たうとげもなき妻帯坊主なれ共 二万石の寺領を
あたへ僧都になして崇教せし 清盛が恩を忘れ 法
皇の謀反に組したる罪科 女房に科はなし それゆへに
当家を一旦の恨は殊勝/\ 向後我にみやつかへよ とし
よりし禅門が起臥の撫さすり 介抱に預んそれ縄
とけとの給へば 瀬尾太郎兼康 縄をとかんと取つく腕
もとずんと立てはたとふみ 慮外之青士 院の昇殿を


7
ゆりし法性寺の執行俊寛僧都が妻 軍のならひ雑
兵にも搦らるゝは是非もなし 我夫と膝を組し平家の
前 ひかるゝさへ口おしきに 此あづまやが身におのれらが
手をふれさせうか 羽ねあらば空をもとび妻諸共
と思ふ身を 命たすかりみやづかへとは情けしらぬ清盛公
エヽむかしの世が世ならばかヽる無念は聞まい物 神仏
の罰利生も人によるか入道殿と はつたとにらむ目

に涙包 かねてぞ見えにける いや入道を情しらぬとは了簡
ちがひ 此白首義朝が妻 常盤が我にあまへる不便さ 牛
若なといふ子供を助置しはなんと 俊寛を嶋より戻さふと
戻すまいとおことが心に有べき事 それ局々の女共 あづまや
が縄をとき西の對にて随分痛はり馳走して 酒宴音
楽舞踊 望事して慰めよ禅門が秘蔵の客人 もてなせ
/\との給へは 上下﨟の女房達手々に縄も打とくる 人々


8
の取なしにて夫俊寛のもしや帰洛の種もやと 心にそま
ぬけいはくの空たのめこそ和理なけれ ヲヽ梅桜にもまさつ
てちることしらぬ入道が閨の花 老後の眺寿命のくすり
皆重衡が忠孝手がら/\ なら法師の首に此髑髏をそへ
大仏の後をも六条河原に獄門にかけ 難波瀬尾けいごし
て見物群衆の聞前 首帳を読立諸国にかゝむ源氏
共 聞伝へにもおどしをくれ平家の威勢を顕せ もしう

ばゝんと近付か うさんな奴原切捨にせよ やつと長絹のそば
ひつつかみ 帳臺に入給ふ六十有余の老木桜 がまんの色に
咲出る心の 花や春の水六条かはらに高垣ゆひるしやな
仏の御くしに 義朝のどくろをならへ中央にかけければ 照日の
影も金色に五十余級の衆徒の首 光明に照されて累々
とつらなりしは 梢に実のる仏前の按謨羅菓共いつヽべく
洛中の貴賤の踵をつぎ 近国他国の老若男女道さりあへず


9
立つどひ 五天竺の堂塔を一日にめっきゃくし 八方四方の僧
尼を殺せし仏沙弥多羅が悪逆を 末世の今に見ることよ
ならくのそこには刹那もしゅだもかはらぬ物 こはやすごやの声は
巷にみちておびたヽし 瀬尾の太郎兼康入道相国の仰に
よつて首帳ひらき高々とこそ 読上けれ 第一の物始坂
の四ら法師永覚 山科寺の大くら坊かなこぶしの式部卿
此等は六宗に名を明し悪僧 いくさ神の祭とす かいだん

いんのふかなしゃみ 詞たヽかひ悪口に寄手も口を喰しばる
西大寺のにが口方言反魂坊 二月堂のあらわかさ吉祥
院のばらもん佐渡 南大門の貫の木日向釘ぬきすはう
南園堂には八角めだまのがん光法師 伝法院の今いだ
てん今ひしゃもん 鉾を取てはならび名取の 法師むしや
倶舎唯識唯摩の学頭にて ちゑことにすぐかれば 今
もんじゆ共字せり ちんじゆだうの鰐口因幡ゐのしヽいづみ


10
とら禅師 是等はやわざ隼の飛鳥の影にさきだつて
風を追かけ嵐を追つめ楯わり 石割 岩切坊發志院
にはとんばう返りの通明法師 矢くりの小聖夜刃しんぼち
榎の木寺になた僧正元興寺に構僧都 管鑓中将
熊手快源黒不動赤不動 十五大寺七大寺のあら
法師悪法師 野ざれの首は源の義朝 金色の大頭は
聖武天皇の御建立 逆徒の大将金剛のるしゃなぶつ

前仏さつて後仏待首数都合五十六級 七千万
歳みろくの世迄治る平家の御代の大数かなひ畢
従三位右近衛の中将平の朝臣重衡是を うつとぞ
読たりける 往来群衆めをそばめ 恐ろしや勿体なやと
皆手を合する折から 六波羅のはや使 下司の次郎友方
鞭鐙を合せかけ来り 難波瀬尾に述けるは 常盤御前
より義朝のどくろを申請 持仏堂にあんちして経よみ


11
ゑかうし弔ひ度との願 かなへられては又新参の
俊寛が妻 あづまやが何事をか望んに かなへられずは
かたみ恨 所詮此白首ことやかまし 打砕き加茂川へ流し
捨よと御一門一統の仰 いではからひ申さんと脚逹を
ふんでのびあがれば あらふしぎや大仏の鼻より 大手を
もって下司がかうべをむンずとつかみ御くしの中に
声有て 義朝のどくろよりおのれがすかうべはりくだ

かんと 握りかためしかなこぶし鉢もわkれよと二三十 脳も
えほしも打さかれ眼もくらみこれ死ます/\ おたすけと
ほゆるもかまはず前へかっぱと突きふせ 其手をのはし
白骨つかんで御くしへ引入しは こたび爰に羅生もん
いばらき童子が腕ぼねにて相手が綱には似ざりけり
難波瀬尾肝をけし 今度の兵火に焼落し此中に
狸野干も住べき様なし 黄金の交りし金仏 金の精


12
おほたり つゐでに御くしも打ひしぎ 鋳つぶして公用
に達せんそれ/\と あらし子中間立かゝり 大槌大杵かな
手こなンどごう/\くはん/\百千の銅鑼釣鐘 河瀬に
ひヽき漣立木葉もゆるく斗成に 裳なし衣に種子
袈裟かけ 六尺ゆたかの大坊主御くしの中より踊出 槌
も杵もふみちらし ヤアやかましいうんざい共 音にも
聞らん高雄の文覚といふ源氏の腰押 白首はもと

我物 取かへさう斗仏のあたまふみあらした 罰は平家
利生は源氏 清盛にまつかうぬかせろ立出る それ盗
人坊主難波瀬尾をしらぬか 一足ものかさしと大勢
どつと取まいたり やれこと/\し 奈良の瀧に千日かた
れ 龍神と相撲取 あたご高雄の大天狗と腕押
したる坊主 手なみを見よと獄門柱ゑいと引ぬきふり
廻し 河原の院の古道より長講堂の裏筋を追かけ


13
追込なくりたつればみけんまつかう 腰骨ひざほね打
みしやがれ あたりに近付雑兵なし ヤア口程もなき難波瀬
尾 あたまはられて堪忍するか 下司の次郎相あへ出合
と馬の尾にて柄まいたる九寸五分 よらばつかんず貌魂
恐れて寄付者もなし ヲヽさもあらん うぬらが主の清盛は
国土をなやます大悪魔 此文覚はあくま降伏国土安
穏を祈る 大行者をくるしむる悪逆 遠くは三年近くは

三月に思ひしらせん 此身は則不動明王 なまくさばんだ
ばさらだ せんだまかろしやなそはたやうんたらあんたら共と ど
つと笑ふて立帰る 勇猛力そ 春風も 庭は踊の 秋の ←(文楽公演六波羅の段ここから)
露さつさふれ/\ ふるやこつまはいとしゑ ゑいゑい/\ゑい/\縁に
ひかるヽ柳の糸の 雪におれぬも風にはなびく 竹は恋しり
幾夜もなびく なびきくる/\くるす野の萩野分のすヽき 風 
はななびきてやつちり/\ちりちヽみ髪も油とろ/\


14
櫛のはになびく(カット) たん/\丹波の酒呑とうしも サアエさすぞさ
かつき飲さよゑさ 酔ふたまぎれにな君と寝てさ うたひ 踊て
上らう達 局の縁に腰打かけ 申あつまや様是見さしやんせ
時ならぬ踊も御奉公 入道様の仰すいぶんお心慰め 御盃の相手
おねまのそひねも遊ばす様にいたせとて あれあのちんに
御座なさるヽ いざ気をうかして我々が 踊につれ御前へお出 サア
踊とざはめけば アヽいや/\ みつからをいさめの踊笑ふでなけれ共

世に有し昔は妓おどり子嬪まじり 様々のかはり踊 やヽこおどり
木曽おどり小町おどりいせおどり 見せたい物は都おとりのぬき
拍子 ムヽ見たい/\いざ一おどり所望/\とうかされて 恥かしながら
こうしたふりにわかしゆ出立のめせき笠 金鍔鰄くわんぬき
指で たんだふれ/\千代の松坂こえて 松は千とせの色ながら
おしや小松は 雪おれて老木かれせぬ六はら踊がしよもだが
合点か 平家/\と千種もなびく 扨はいよいか住よいか いよも住よふ


15
も慈悲もなさけもしやんとしよ 我は身一つなきくらす 踊
とが見たくは 昔に返せ世の中対のゆかたしやんときたおどり
ふりがゆかしい 吉野初瀬の花よりも 紅葉よりも 恋しき夫が
見たい物 うたてのおどりやな 情には人々鬼界ヶ島へながされ
妻諸共住様に 申てたべと斗にてかつはと伏て 泣給へは おどり
子の上らう達 げにことはり痛はしと皆々袖をぞしぼらるヽ
おどりの声の聞てや亭の内より越中の次郎盛次 御使

として局に入 なふあづまや殿 此間御一門衆入かはりたちかはり
さま/\仰らるゝに承引なきも尤ながら 御身とて岩木ならず
今日本にて西を東との給ひても そむく者なき入道殿 恋
なればこそ我々迄御頼 時世に付も一つの道且は身のくはほう
常盤御前の仕合是ぞよい証拠 女たる身の望む所とお
もはずか サア/\よいお返事をとすりよれば身をしさり エヽ主人
達から内衆達人らしい人ない ときは御前の仕合とは武士の


16
口から聞にくい 夫義朝の白骨迄ふみたヽく敵の 手かけ妾
と成様なすけべいの徒者と 此あづまやくらべらるゝも口惜や
八重の汐路の鬼界ヶ島 雨露も凌かね餓鬼同然に
成はてし とのごをいとしや恋しや あひたやと思ふより外望は
ない 身の果報何にせう 何も聞えぬ聞共ないと 両手にて耳
ふさぎ ものゝふの情にはせめてなかせてくれるなと わつと斗に
うつぶしてしつみ入たる有様に 盛次も詞なくすご/\奥に入

けれは ひつつヽいて斉藤別当実盛 しらが髭喰そらし 我ら
六十に余り色けをはなれ 奥方女中を預る実盛といふもの
お寝間の勤はともかくも 御前へちょつと出る分は手寄のわるひ
事申まじと いひもさらせずアヽくどや/\ きのふも来ておなじ
ことをくど/\と長口上 聞入ル耳がないとあいそなければ 手持わるく
拙者生国越前近年御領に付られ 武蔵の長井に有し故
それでながいは御免あれとまきらしてこそ入にけれ 胸にせまれ


17
ば声に出 うらめしの世の中や 召人と成程ならば桎械牢獄屋に
も入られず 情まじりのうきめを見る水ぜめ火責のくるしみも
心のつらさは劣るまい 此上にお使たヽば何と返事も詮方なし なふ
上らう達 我内には有王丸とて音に聞ヽし大力の若者有 もし
忍んで尋くるならば今生後生のお情 ひそかにそつとしらせて
たべ 有王を力に此地獄がのがれたい 有王がな来れかし有王はこぬ
事かと 立てはくどきゐては嘆の折から 渡殿に足音して能登の守

教経 わつはの菊王相具しつヽと入 俊寛が妻あづまやとは汝よな
某などは朝的退治の大物か 其御天下の大事ならでかやうのおとな
げなき小節に 詞もくはゆる能登の守にあらね共 入道殿の仰は某
とてもそむかれず 先入道殿を誰とか思ふ 一門の棟梁国家
のかため いか成非道をの給ふとて 汝ふぜいが利を利に立させ 清
盛入道が利をまげて天下の仕置立べきか さりながらおことが女の
操を守つて 二張の弓を引まじとは 弓取の義にもおとらぬ魂


18
感じ入 匹夫疋婦も志を奪はずといへり 屍の上迄恥辱なき 貞女の
路は能登の守がたてヽとらせん 又おことは一旦入道殿の御詞 屹度
立べき御返事 サア只今/\と道理正しき詞の末 涙にかき
くれ 手を合せ アヽ有がたし共嬉し共 申あぐる詞なし 平家の中
にも小松殿か能登殿かと 一二といふて三のなき文武二道の
御大物 数ならぬ下主女に道を立てとらせうとの 海山の
御恩徳夫の恩をも穢さず 生ての本望しヽての誉 いで

ミづからも清盛公のお詞の立お返事をと 懐の守刀するりと
ぬいてきも先に ぐつと突立一くりくつて申教経様 あづまやが
死ぬれば平家の御意をそむく者此世にない 御意をそむく者
なければ 入道殿のお詞は立ぞや お詞立るは此あづまや あづまや
が道を立て下さんすは教経様 御恩は忘れぬ アヽ忝いとこれを
さいごにたへ果たり 驚きさはぐ女房達つきのけ押のけ 出かい
た女と首討落し 是菊王 此體門外に捨おけと たぶさつかんで


19
首提 御前まぢかく欄干に謹で 御心をかけられしあづまや
教経がくどき落しつれ参る 御望叶ひ候 いそぎ御酒宴/\と
呼はり給へば 入道殿障子も御廉も引のけほや/\ゑがほ つれな
きあづまやをなびかせて来たとや 能登の守は弓矢打物斗か
恋の中立の名将高名/\はやふあひたし 彼の君はいづくにぞ 則
是に候と袖の下よりなま首 御ひざもとに指おけば入道殿くは
つと顔色かはり ヤア腹立やせがれめ 首きれとはたがいひし 年

寄て色にふけると嘲たるしかた 親同然の伯父にむかつて
くはんたい至極 返答せい能登の守いひわけせい教経と 日頃の
短気増長して 掴みつかんずあら気にもちつ共恐れず 是はか頃
御無理千万 もと此女の心だて善悪は御存なく 面体うつくし
妍(かほよき)色を恋こがれ給ふゆへ 其顔ばせをお手に入し教経 御感はなく
て御立腹はむたい千万 かれは法皇の御謀反に組し当家を亡し
一門の首とらんとせし俊寛が妻 おりかな時がな夫の敵と 心に劔を


20
ふくんだる女 御寝間近く寵愛は 鴆毒に砂毒甘蔓を付て
唇に寄せ味ふことく 命がけのたはふれ大将たる身のせざる所
申に及ず御存のうへ とかくお心かけられしは あづまやがめはな口もとより
外はいらぬと給 くふぉきおほせ顔斗つれてまいつたり サアお盃の相
手をれ御銚子御肴 但おねまの新枕かとなま首をひざもとへ
押やればさくがの入道顔しかめ身をちゞめ ハツアけふは安芸の厳
島の御縁日 精進を忘れた教経明日/\と 座を立給ふを是は

どうよく あづまやが思はく余り不興ととゞむる折から 御門はた/\し
むる音遠侍さはき立 俊寛が召使有王丸と名乗 十八九のあ
ばれ者 清盛へ直見参と御所中を切ちらし 御座あやうく候と
追々の云上に いよ/\どうてん能登殿甥御頼入ル 伯父は老もう
はいもうといひ捨奥に入給ふ あれにあれたる有王丸当番の
詰侍 放免の役武者所牛に?の付ことく よればけちらしすがれば
はらひ 大床に立て大音上 清盛相国は主人俊寛が妻のくびと


21
こんれい有由たつた今聞た よめり御寮は首斗 聟殿にどうが
有ては片ちぐて似合ぬ女夫 入道の胴を切て入滅の仲人 よい所
に有王丸聟殿に見参と 八方に眼をくはりふりちらす前髪は 時雨
の雲に風あれて暮山をめくる勢なり 下司の次郎友方でつち
めやらぬとすがり付を 首筋掴んでぐつと引よせ 文覚法師がはりや
はらげたるあたま 手間はいらずと刀の柄にてはつたとうてば ざく
ろを割つたることくにてかゝへてほう/\゛逃げてける 近よつては叶はじと

難波瀬尾が無分別 巻くろくろの大弦を両方四五間引はつて 巻
てとらんとひしめいたり ハア子共遊びの綱引かわるあがきするがきめら
是見よと片足上やあうんと気をこんで ま物をふつヽと踏きれば
瀬尾武士のきづ難波 すいくはまろばすことくにてころ/\ころびうつ
たりけり 此上は能登鯖を一口くふ迄 能登殿/\とかけ入所を 菊
王丸とんで出どつこい慮外な能登よばり 旦那には手にたらぬ わつ
はの菊王丸サアこいと四つ手にむんずと取組んたる 両方年は十八


22
さゝぎ 力は藤こぶ藤つるの 捻合しめ合からみあふ 有王が大たぶさ
菊王が大うらは みたしけふりうけ 下手上手に押合て勝負は
互角と見えたる所に ヤア/\あやまちすな菊王 汝らが手に叶はじ
ととつて引のけ 教経が一ひしぎと組付給へは 望む所と有王
がかいながらみに指しこんで 一押ぐつとこりや/\/\ 捻付る大力
にさしもの能登殿よろ/\/\ ヤ前髪にまけうかとふみな
おせばはたとつき エヽ口おしと気付ばふりほどき くめば捻まげ引

返され 平家一番の大力と音に聞えし能登の守 大腰に地ひゞき
うたせ尻居にどうと投すゑたり 有王めには教経も叶はぬ 一人も
出あふな手並は見へた おのれも帰れとの給へば イヤ生て帰るい
のちなし 入道と指しちがへんと かけ入所を立ちあがり 上帯つかんでうつ
たへたり若もの おのれら五人や十人は 教経が片腕にもたらねども
情のまけおしらざるか 鬼界ヶ島に流人の主を持ながら 犬死するかた
わけ者 我の力是見よと片手につかんで 車よせの築地ごし投こす力


23
かせを持 桐の一葉のふうはふはひら/\ひらりと おり立て 恩をかんする
かんるい落涙 うはべは色だつ敵と敵 にらむも徳に入の門 能登の守は入道を
諌めて徳に入の門 六はらの大手門総門楼門かぶき門 扉は金石鉄壁の隙
間のかぜも通さねど さはらで通るゆみやの情助るも道ころすも道
任地かへれ有王 おいとま申と礼儀は身の上のこる恨は主君のうへ こぶしを握り牙
をかみ しどろ足にて帰る波 内には義理を立波の音に聞え名に聞し
能登殿の弓ぜい勇力まなばすして 学問力も有王丸ひかれて 名を社(こそ)つたへけれ