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冥途の飛脚 淡路町の段

冥途の飛脚 床本

 

読んだ本 http://www.enpaku.waseda.ac.jp/db/index.html (イ14-00002-789 )

 

 

忠兵衛 梅川 冥途の飛脚

身をつくしなにはにさくや此花の 里は三筋に町の名
もさどヽゑちごの相の手を 通ふ千鳥のあはぢ町 亀
屋の世つぎ忠兵衛 ことし廿の上はまた四年いぜんに大
和から 敷銀もつて養子ぶん後家めうかんのかいほう
故 あきなひ功者駄荷つもりゑとへも上下三度笠 茶
のゆ・はいか・いご・すごく・いのべにかく手のかどとれて 酒も三つ
四つ五つ所もんはくたへも 出ずいらず 無地の丸つばぞうがん
の国ざいくにはまれ男 色のわけしりさとしりて暮るを


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待ずとぶ足の 飛脚宿のいそがしさ荷をつくるやらほどく
やら 手代は帳面そろばんをおく口ともにどや/\と 千万両の
やりくりもつくしあづまの取やりも ゐながらかねのじゆうさは
一前小判やしるかねにつばさの有かことくなり 町廻りの状
取立帰つてそれ/\と とめ帳つくる所へたそ頼もふ忠兵衛やど
にゐやるかとあんなにするは出入の屋しきのさふらひ 手代共
ゐんぎんに ヤア是は甚内様 忠兵衛はるすなればお下し物の御
用ならば私に御聞られませ お茶もておしやとあひしらふ いや/\
下りの用はなし ゑど若だんなより御状かきた 是おきヽやれとをしひら

き 来月二日出の三度に金子三百両さしのぼせ申しべく候 九月十
日両日の中是地亀屋忠兵衛方より 右三百両請取内々申置候
こと共埒明申さるべく候 則飛脚の請取証文此度登せ候間 金子
請取次第此証文忠兵衛にわたし申さべく候 是此通仰下された 今
日迄とゞかぬ故大じの御用の手はづがちがふ なぜか様にふ埒なと はな
をしかめていひければ ハヽ御尤/\ 去ながら此中の雨つゞき 川々に
水が出ますれば道中日がこみ かねのとゞかぬのみならす手前
も大分のそん銀 もしたうぞくが切取か道からふつとでき心万々
貫目とられても 十八けんの飛脚宿からわきまへ けし程も御そん


4
かけませぬ お気遣あられなと いはせもはてず 是さ/\ いふ迄もない
御そんかけては忠兵衛がくびがとぶ 日げんのびては御用の間が明により
それ故のせんさく迎ひ飛脚を遣はして 早速に持参せいと かちわか
たうも刀のゐくはう 銀こしらへもうさん成なまりちらして帰りしが
又頼みませふ/\ 中の嶋たんば屋八右衛門からきました ゑど小舟町
米ごひ屋のかはせ銀 そへ状はとゞいたが銀はなぜとゞきませぬ 此
中文を進しても返事もござらず 使をやればすのこんにやく
のといつとゞけさつしやるぞ 此者にわたして人をつけて下され 手
かたもどそと申さるヽサア金子請とらふと立はたかつてわめきける

主思ひの手代の伊兵衛さはがぬていにて 是おつかひ八右衛門様が其様に
りくつくさい口上は有まい 五千両七千両人のかねをあづかつて 百卅
里をいへにし江戸大坂を ひろふせはふする亀屋 そこ一けんてはある
まいしをそいこともなふては 今でも旦那帰られたらば此方々からへんじ
せふ 五十両にたらぬ金あたがしましういふないと かさから出れば気
をのまれつかひはましめに帰りけり 母めうかんはこたつのそば
はなるヽこともなんどを出 ヤア今のはなんぞ たんば屋の金のとゞ
いたはたしか十日もいぜんのこと なぜ忠兵衛はわたさぬの けさから
二けん三けんの金のさいそく聞てゐる おやじの代から此家にかね


5
一両のさいそくゑず 終に中間へなんぎをかけず十八けんの飛脚屋の かゞみ
といはれた此亀屋 みなは心もつかぬか 忠兵衛が此頃のそふりがどふも
のみこまぬ 昨今の者ははしるまいがじたい是の実子でなし もとは大和新口
村かつ木孫右衛門と云大百姓のひとり子 母こせはおしにやつて継母
がヽりのわきくれに 悪性狂ひもできるぞとてヽごぜのしあんで是
の世とりにもらひしが せたいまはりしうばいごと何におろかはなけれ共
此頃はそは/\と何も手に付ぬと見た ゐけんのしたいことあれど養子の
母もまヽ母も 同前と思はふかせは/\いふよりいはぬ身を はぢいらせふ
と思ふてめをねふつても聞所 見所は見てゐる いつのまにやら大気

に成のべのはな紙二枚三枚手にわたり次第 かさねながらはなかみやる
わゆかれしおやじのはなしにはな紙ひんびと遣ふ者はくせ者しやといは
れたが 忠兵衛が内を出さまにのべ三折づヽ入出て 何程はなをかむ
やらもどるには一枚も残らぬ 身が達者なのわかいのとてあの様にはな
かんではどこぞで病も出ませふとよまいごとして入ければ でつち小
者もせうしががり早ふかへつて下されかしと 待日も西のもどり足
見世さしごろに成にけり かごの鳥成梅川にこがれて通ふさと      ←
すゞめ 忠兵衛はとぼ/\とぼのくめん内の首尾 心はくもでかくなはや
十文色も出てくるは なむ三ぼう日がくれうとあしをそらに立


6
帰り かと口にはつきけれ共るすの内に方々の さいそくづかひめうかん
のみヽに入ていか様の守備になつたもきつかはし 誰ぞ出よかし内証
を とくと聞て入たしと 我家なからしきゐたかく 内をのそけばめし
たきのまんめが酒屋へ行ていなり きやつは木ではなもぎとを者只はいふ
まじぬれかけて だましてとはんとしあんするまにによつと出る 樽持
た手をしかとしむれば あれだんな様のとこゑ立る アヽかしましいこ
りやすいめ おれがくびだけなづんでゐる 思ひ内にあれば色ほ
にあらはるヽ 目付をそちも見て取たかかはいらしいかほ付で 気のどくから
すはとふしやいやい いつそころせとだき付ば ムヽうそつかんせ まい日/\

新町通ひ のべのはな紙二折三折 けつかうなはなをかまんす物 なんのわし
ら小手ばなもかみたふ有まい あのうそつきがとふり切を又抱付て
そちにうそついてなんの徳 じつじや/\と云ければ それがぢやうなら晩にね
所へござんすか ヲヽ成程/\ 忝い それに付て今ちよつとどふこと有と云けれ共
それもね所でしつほりと聞ませふ 必だましにさんすなゑ そんならわしは
おゆわかいて こしゆして待ますと 云すてふり切はしりけり 忠兵衛はう
そばらの立わづらひてゐる所に 北の町からいあかつげに来るは誰じゃ ヤア
中の嶋の八右衛門 きやつにあふてはむつかしと東の方へ出ちがへば是忠兵衛 はづ
すまい/\とこゑかけられ ヤ八右衛門此中は久しい きのふもけふもおとヽひも


7
人やろ/\と思へて何やかやと延引した めつきりとさむいがおやじのせんきハば様の
虫ばハ いかふ酒くさい過しやるな/\ 明日は早々人やらふヤ れそが云伝したぞ
や 近日一ざしたいとたくしかくれば八右衛門をけやい 口三?(み)せんにのせかけて
ものる様な男でない そちが商売は三どでないか 身が方へのぼつた江戸
がはせの五十両は何としてとヽけぬ 五月三日は了見も有ぞかし 心やすいはかく
べつ たかだちんかくからは大じのかしよく 十日に余れと埒明ず けふも使をやつたれば
手代めがかさ高なへんじした よもやわきへはそふ有まい八右衛門をなぶるか 北
ばまうつぼ中の嶋天まの市のかは迄 おやじ共いはるヽ八右衛門 なぶつてよくはな
ぶられふがかねはけふ請取 但中間へこたゑふか先お袋にあはふと 内へ

入を引とゞめ去とてはあやまつた 是手を合すたつた一言聞てたも おがむ/\
とさヽやけば又口さきですまそふや 梅川をだましたと男のいきはちがふた
いふとあらばサアきかふとにが/\敷きめ付られ 是其こゑを母がきけ
ばしんでも一ぶん立ぬこと 一生の御をんぞ去とては面目ないとはら/\と泣
けるが 何をかくそふ此金は十四日いぜんにのぼりしが しつての通梅川が
ゐなか客 かねずくめにてはり合かける 此方は母手代のめを盗んで
わづか二百目三百目のへつり銀 をひたをされていきた心もせぬ所に 請
出す談合極つて手を打ぬ斗と云 川がなげき我らが一分すでに心中
するはづで 互ののどへわきざしのひいやりと迄したれ共 しなぬじせつか


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色々のじやまづいて 其夜はないて引わかれ明れば当月十日 そなたへわた
るゑどがねかふらりとのぼるを何かなしに ふところにをしこんで新町
迄一さんに どふとんだやら覚えばこそだん/\宿を頼んで ゐなか客のだん合
やぶらせこつちへね引の相談しめ かの五十両手付にわたしまんまと川を
取とめしも 八右衛門と云男を友達に持し故と 心の内では朝晩に北に
向ひておがむぞや 去ながらいかに念頃なればとて さきにことはり立をいて
遣へばかるも同前 後ではいかゞと思ふ内其方からはさいそく うそにう
そが重つてしよ手の誠もきよ云となれば 今何をいふても誠には思
はれじ され共をそふて四五日中外のかねものぼるはづ いか様ともしをくつて

一せん一じそんかけまじ 此忠兵衛を人と思へば腹も立 犬の命をたすけたと思ふて
了簡頼み入 是を思へば世の中にお仕置者のたへぬも道理 此上は忠兵衛
もぬすみせふより外はなし 男の口からか様のこといはれふ物かすい量あれ
のどより釼をはくとても是程には有まじとしぼり なきにぞなきゐたる
おに共くまん八右衛門ほろりと涙ぐみ いひにくいことよふいふた たんばやの
八右衛門男じや了簡して待てやる 首尾よふせよと云ければ 忠兵衛土
にひたひを付 忝い/\てヽ二人母三人親は五人持たれ共其をんより八右衛門
貴殿の御恩わすれぬと とかふは涙斗なり そふ思へばまん足サア人も見る
其内と 立わかれんとせし所に内より母のこゑとして ヤア八右衛門様か忠

9
兵衛是へ通しましやと こゑかけられてせんかたなくもぢ/\つれ立入にけり
母はりちぎ一へんに さき程はお使又御自身のお出御尤/\ 是あなたのかねの
とゞいたは十日もいぜん何として延引ぞ むねにとつくと手を置てよふしあんし
て見や をそふとゞけば飛脚はいらぬ 何がそなたの商売ぞ サア今渡してあげ
ましやといへ共涙す金はなし 八右衛門もそこゐは聞是お袋 はづかしながら八
右衛門が五十両や七十両 急に入こともなし是よりすぐに長掘迄参れば 明
日でもと立んとすれば いや/\大じのおかね預れば気遣て夜もねられず
なふ忠兵衛きり/\わたしやとせり立られあつと云よりなんどに入 うろ/\して
お金なら入もせぬとだなの錠 あけるかほしてぴんといふかぎの手前も

はづかしく むねに願立神おろし狂気のごとくきをもミしか ヤレ有がた
や此くし箱にやき物のびん水入 是氏神と三どいたゞき紙をしひろげく
る/\と するか包に手はしこく金五十両墨ぐろに 似せもにせたり五十はい
母には一はい参らせし其わるぢゑ勿体なき 是々八右衛門殿 今渡さいで
もすむ金ながら母の心をやすめる為 男を立るそなたと見て せんかななふ
てわたす金 さつはりと請取て母の心をやすめてたも つヽミはとくに
及ぶましいらふて見ても五十両 どふしてたもるとさし出す八右衛門手に取て
ハテ誰ぞと思ふたんばやの八右衛門 請取に子細はない是お袋 えどがはせ慥に
請取ました ふどう参りに待ますると立所を めうかん誠と思ひてや


10
是忠兵衛 仕切がはせの作法はかねと手がたと引かへ もし御持参なきなら
ば一筆ちょっとかヽせましや 物は念じやと云ければ ヲヽそれ/\母は無
筆の一もんじもよまでね共 しるし斗に一筆と硯出してめくばせすれば
やすいこと/\忠兵衛文言是見やと 筆に任せてかきちらす 一金子五十
両請取申さず候 右約束の通ばんにはくるわでのいかけ 我らは太こ実正
明白なり 何時成共さはぎの節きつと参上申べく候 仍(よって?)る紋日の為びん水
入くだんのごとしと あほうのたら/\云ちらしさらばおいとま申そふと おもてへ出
ればめうかんはかいた物こそ物いへと 又たまされし正直の親の心や仏のかほ
も 三ど飛脚のゑどの左右待夜もやう/\ふけにけり おもてに馬のすゞ

のをと こりや/\駄荷が着たぞ 中戸/\とこは高にてん手につゞらかたげ
こむ 忠兵衛親子きげんよくサアひやうしがなをつた来年も仕合馬 まご
衆に酒よたばこよと 硯ひかへつ帳付て家内どんどヽにぎはへば 手
代の伊兵衛けうとげに なふだう嶋のおやしきから 金三百両九つ
にくるはづさき状がのぼつた 何とておをそいとお侍の甚内殿が ねめ
つけて帰られた何と/\といひければ さい領が打がひより其三百両合点
是急々の御用今夜中におとゞけ 方々のかはせ金高八百両ぐはらり
/\と取出す 忠兵衛いよ/\いきほひよく白銀は内ぐらへ 金子はとだなへ
母者人わしはじきに此にばん おやしきへぢさんする人のかねをあつかれば


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おもてもきをつけ早ふしめ火の用心が一大じ もどりはちつとをそふて
もかごでいけばきづかひない 夜食しまふてはやねよと金くはい中
にはをりのひも むすぶ露夜の門の口 出なれしあしのくせになり 心
は北へ行々と思ひながらも身は南 西よこぼりをうか/\ときにしみ付し
よねがこと 米や町迄あゆみきて ヤヤ 是はどう嶋のおやしきへ行はづ
狐がばかすかなむ三宝と引かへせしが ムヽ我しらずこヽ迄きたは梅川が用有て
うぎ神のおさそひ ちょっとよつてかほ見てからと 立かへつてはいや大じ 此
金もつてはつかひたからふをいてくれふか いつてのけふかいきもせいと 一どはしあん二
どはぶしあん三どびきやく もどれば合せて六道のめいどのひきゃくと