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近頃河原の達引 堀川の段

近頃河原の達引 床本

 

  読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/856590

参考にした本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/856443

 

 

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おしゅん
伝兵衛  堀川の段

おなし都も世に連れて
田舎が増の薄煙 堀川
辺に住居して後家の操
も立月日 琴三味線の

 

 

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3
指南屋も 合の手もつれ
気もつれを 保養がてらの
薬風呂 あふぐも我を渋
団扇 目さへ不自由なくらしなり
おつる様嘸待遠に有ふな

そして何やらのさらへで有た
ヲゝそれ鳥辺山 アリヤじだい
心中事 會にでも弾くの
なら お前は女の方 お繁様
ハ男の方 かけ合に諷ふが

 

 

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4
よいぞへ ドレ/\お繁様のかはり
に わたしとかけ合に諷ひ
ませう と老手弾手も
しほらしき 女肌には白無垢
や 上にむらさき藤の紋

中着紗綾に黒繻子
の帯 年は十七初はなの
雨にしほるゝ立姿 男も
肌は白小袖にて 黒き綸
子に色浅黄裏 廿一後

 

 

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5
の色盛をば 恋といふ字に
身を捨小船 どこへ取つく
嶋迚もなし 鳥辺の山は
そなたぞと 死に行身の
涙髪 弾く三味線は祇園

町 茶屋のやま衆が色酒
に 乱れて遊ぶ騒ぎ合 あの
面白さを見る時は アゝイエ/\
それではとんと声にしほれ
がないわいな あの面白さを

 

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6
見る時は と斯(こう)諷ひなされ
や アイ/\ あの面白さを見る
時は ヲツトヨシ/\ 繁殿そなたと
某が 去年の初秋七夕
の座敷おどりをかこ付て

忍び逢た事思ひ出す
ヲゝけふはマアそこ迄/\ 精が
出る程有って きつふ手も
廻り出した モウ/\どこで弾き
なさつても 恥しい事はない


7
ぞへと 聞て笑顔のかたを
なみ 又明日といふしほに
おつるは立て帰りける 母を
大事と油断なき身過ぎも
軽き小風呂敷 肩に乗せ

たる猿廻し 戻りはいつも
日くれ前 与次郎はいきせき
門口から 母者人今戻った
ぞや ヲゝ兄戻りやつたか
嘸ひもじかろ 茶もわい


8
て有 膳もそkにして置た
ヲゝ徳よ 今戻つたかよ 今
朝から子猿めが親を尋ね
てやかましい ソレちやつと傍へ
やつてやりや アイ/\ そふで

ごんしよ共 ワレちやつと乳を
呑ましてやりおれ イヤモウ与次郎
そなたが孝行にしてたも
るに付 わしが此長々の
病ひも いつ本復する


9
事で有ふかと思へば 労(つかれ)の上
に猶つかれる わづかな弟
子衆の余情(よせい)や わがみの
働きで 此養生がマ成
物かと 思へば薬も毒と成

母ではなふて子供のた(為)には
呵責の鬼と思はるゝ 鬼は
冥途に有物を つれなの
老の命やと 身を悔みたる
むせび泣 哀れにもまた


10
いぢらしし アゝコレ母者人 ソリヤマア
何を云はんすぞいの 其様
なやかな身代じやと
思はしやるか 此間弟子入した
米屋の息子殿から 長く

お袋の煩ひで嘸かし勝手
も悪からふといふて 雪の
花かと申す様な上白米の
仕送り 店(たな)々の旦那衆から
何なと用が有なら云ふて


11
おこせ 若し出養生さし
ますなら幸いな隠居所
も有程にといふてくるお
方も有 羊羹饅頭なま
ざかな 近所隣へそう/\

すそわけもしられねば
鯛赤貝の類は横町の
鮓屋へおろし売 モコレ案じる
事はみぢんもないぞや 夫に
まだ/\/\気の毒なは 此


12
家主が此家を居なりに
買てくれぬかと頼まれる
ヤレいやゝの/\ アゝあた世話な
家持よりは金持が はるか
増しでも有ふかと 母に案じ

をかけさせぬ 贅八百さへ
売貫にたらぬ節季の
事訳を いふ下稽古屋
是なるべし 嘘とはしれど老
の身は 子に随ふがならひ


13
ぞと 機嫌よげに打頷き
ヲゝ夫聞て落付ました が
落付かぬは娘が事 此間も
親方が おしゆんを預けに
来て云はしやるには コレ伝兵衛

殿といふ客の事で ちと
内に置れぬ事が有る 譬へ
伝兵衛が尋ねてござろ共
おしゆんが帰つて居る事は
包み隠さねばならぬぞと


14
くれ/\も云しやつたぞや
サアわしも其入訳を聞た故
おしゆんが心根を思ひやり
思はずしらず涙がドレ マア
灯を燈そと棚のすみ

こて/\取出す行燈の 灯
かげも残る暖簾ごし
おしゆん ヤコレおしゆん アイと
返事もしほ/\と おもひ
なやみし顔形 ヤア/\爰へと


15
小声になり 門の戸はかけ
て有 見る人も聞人もない
方々で噂を聞くに 此間の
河原の喧嘩 殺人(ころして)は サア
殺人はわがみの客の伝兵衛

殿なれど 大恩請けた久八と
いふ者が 代りに捕られて往た
げな が其場に落て有った
小柄が 彼の伝兵衛がお屋
敷から 拝領した小柄じや故


16
天命遁れず御詮議最
中なれ共 其夜から伝兵衛の
行方も知れず 其あい方の
女郎はおしゆんといふ事を
お上にもよふ御存じで 親

方の方へもいろ/\と御詮
議有れど 是も行方が知れ
ぬと云切て 今もめて有
最中じやと 取々の噂評
判 おりやもふ聞く度毎に


17
びく/\すると 聞程せまる
おしゆんが胸 其夜の起り
も皆わし故 どこにどふ
してござるやら 心元なさ
逢いたさも いふに云れぬ

此場の品 いかゞと胸も
ふさがりし 母は一途に娘の
可愛さ コレ/\お俊 何にも
案じる事はないわいの しかし
突詰た男気で ひよつと


18
こちの内へ来て 刃もの
ざんまいでも仕やせまい
かと 四五日は夜の目もつ
くに モ寝られぬ儘の物
案じ 世間にたんと有る格

な 心中やなどしてくれたら
此母は目かいは見へず 見は
アレあの様な臆病者 若し
もの事が有たらば後で母
はどふせうぞ 袖ごひ物


19
もらひにあるいても そりや
もふ一つもいとやせぬけれど
そなたの体に凶事でも
有たら おりやもふ直ぐに
死んで仕廻ふぞや 若い気に

後先思はず 義理じやイヤ
人の落目を見捨ててはと
詰らぬ義理を立てぬいて
年寄の此母に マつらいめ
見せてたもんなやと 可


20
愛さ余る親心 アゝ南無
あみだ仏も涙声 兄も供
々ヤコレお俊 今母者び云は
るゝ通り 何の義理もへち
まもいらぬ どいて仕廻んば

あかの他人じや 又おれも気
にかゝつて 好きの物さへ咽へ
通らぬわいのふ 母者人の
気休め おれが腹助け
じやと思ふて どいてたも


21
ヤコレ頼む/\ と正直一遍
母の心と兄の詞 勿体ない
と思へ共切るに切られぬ胸の
内 所詮死なねばならぬ身
の 此場を抜けて其上でと

心一つに思案を極め かゝ様
兄様 お二人のお詞 よふ合
点致しました 殊に又伝兵衛
様 ツイ一通りであふた客
深い訳でもないわいな 併し


22
勤めの習ひにて 人の落目
を見捨つるを里の恥辱と
すつはいな 迚も末の詰ら
ぬ事 わしや得心しており
まする ちよつと逢ふて其上

で 憎し悪しも ない様に 得心
を させまして 品様訳の立
様に イヤ/\其様に訳立ると云
やつても あつちに得心せぬ
時は 夫々行がけの駄賃馬


23
で踏殺し アゝイヤ/\無理殺しに
せうも知れぬわいの コリヤめつた
にはかみ合されぬはいの ヲゝ兄
のいやる通りじや そなたに
けがでも有ては 伝兵衛殿と

やらも難儀 思ひ切るのが
あるちの為 ヲゝあつちの為
わがみに心引かされては ツイ
捕へられるは知れた事 そこで
わしが思ふには 退き状をやつ


24
たら そなたの事も思ひ
切て ヲゝ切る共/\ 遠い国へ
でも影をかくしたら 身を遁れ
まい物でもないわいの コレ/\
むつかしかろ共ツイ一筆 兄

硯箱取てやりや サゝ早ふ
/\と母と兄 詞にいなも
泣顔を 隠す硯の海山
と重なる 思ひ述べ紙に墨の


25
にじみ勝ちなる胸の内 云残
すとは露しらぬ 与次郎は
傍から コレノコレ其様に長たら
しう書ず共 ツイどきます
と書いても済みそふな事じや

イヤノウ書いた物は後々迄も残
る物 男の去り状と同じ事
とつくりと訳の分かる様に 書いて
やるがよいぞや アイ此状に
とつくりと 御合点の行く様に


26
兄様 此文お前から お渡し
なされて ヲツトヨシ/\ 此状さへ
有れば千人力じや マア/\母者人
も落付しやれ とや斯云
内九つ前 お前も奥で

サゝゝもふ寝やんせ ヲゝ夫々
今夜こそゆつくりと 心
よふねるで有ろふ 兄もそ
なたもそこに寝やと 奥
底もなき隔てをば押し明けて


27
こそ入にける サアお俊 こちら
も爰で往生致そ アイと
お俊が供々に 暫し此世を仮
蒲団 薄き親子の契や
と 枕につたふ露涙 夢の

浮世と諦めて更け行く鐘も
哀れそふ 頃しも師走十五
夜の 月はさゆれど胸の闇
過しわかれの云かはし 死ば
一所と伝兵衛が忍ぶ姿の 


28
しよんぼりと 佇むのきは
目覚への 慥に爰と門の
戸へ さはる合図の咳払ひ
声にお俊が飛び立おもひ
上る枕も打はづす 与次

郎は傍に高鼾 心も供
に行燈の 灯び吹き消しさし
足に心 せく程明き兼ねる
戸口の鐉(かけがね)表にも おしゆん
じやないか 伝兵衛様 よふ


29
逢いに来て下さんしたと
いふ声寝耳に与次郎が
びっくり 起きると明る門の口
妹が姿もくら紛れ とはへる
袖の振合はせ おしゆんと

心得伝兵衛を 無理に引込
取違へ 戸口を内からぴつしやり
り引立 ソリヤこそ突きに来
おつたぞ お俊必ず外へ出
まいぞや 戸口はおれが押へ


30
て居る ヤア門に居るは伝
兵衛じや おのれを入れてよい物
かと いふもがた/\胴ぶるひ
コレナア兄様 わしや表に居るはい
な 何じや わしや表に居るはい

な ヤア其声色置いてくれ そ
んな事喰ふおれじやないわい
母者人/\ 伝兵衛がお俊を
殺しに来た故 今表へた
て出した おれ一人では手が


31
廻らぬ こなたも加勢して
下され 加勢/\/\ とうろ/\
/\/\うろたへ騒ぎ 母親も
何じや/\/\ 伝兵衛の加勢
ムゝまだ外に同類でも有る

のかと 探り寄たる伝兵衛が
傍 コレ/\おしゆん ふるふ事は
ない 兄や母が付いて居る
マア気をしづみやとなで
さする 背(せな)の手さはり合


32
点行かず コレ/\与次郎 どふ
やらこりや娘ではない様な
わいの ヤアくらがりまきれに
材木が紛れ込みやせぬか
こなたつかまへて居て下

されやと 探る手先に火
打箱 がち/\ふるふ 附け木
の光り シヤアコリヤ妹じやない伝
兵衛じや お袋兄様 エゝ
面目もない此姿と 猶も


33
小隅にかゞみ居る コリヤヤイ/\/\
其様にしほ/\として見せ
て おおらを騙して おしゆんと
突かふとするのか 手は
くわぬ と懐より一通取出し

こは/\゛ながら傍に寄 コリヤ/\
伝兵衛 おしゆんとわれと手
が切れぬと 科人のわれじやに
よつて 妹迄難義する 夫
でさつきに妹に得心さして


34
どき状が書かして有るは コレ是を
見い 是じやによつて モウ/\/\
おしゆんが方に残心気は
離れて有わい ムゝすりや
おしゆんが其退き状を サア

どき状じや エゝ其心とは知らず
云ひかはした詞を誠と思ふて
迷ふて来たが無念なはい
口惜しいと歯をくひしばる
男泣 恨みを聞も隔てる戸口


35
心はそふじやないじやくり
ヲゝ嘸腹が立ふ道理じや/\
マア/\/\とつくりと気を鎮めて
其退き状を見て下さん
せいな ヲゝ夫でよい 長ふ物

いやんな くずが出るぞ コリヤ
伝兵衛 おれが読んで聞かし
たふても かいもくおれはナニ
ヲゝ祐筆じやわい サア/\早ふ
と封じめ切 突き付られて


36
目に溜る 涙を払ひ ナニ書き
置きの事 ヤア何じや書おき
じや コレ/\兄正直な びっくり
する事はないわいの そなた
は無筆わしは盲 書きかた

じやと読み違へ 狼狽(うろたへ)さして
門へ出 娘を存分にせうと
の工み ホゝゝそんな嘘はくひ
ませぬ サア/\ほんまによま
しやれ/\ コレ/\与次郎 表の


37
娘に気を付て 門の戸を
明やんなや ヲゝ呑み込で居る
爰にはおれが ヘゝへばり付い
て居るはい サア/\/\早ふよめ
やい 物こそよふ書ね 聞く

事は祐 ヤナニ無筆じやない
わい サア読んだ/\/\/\ エゝ誠に
是迄の御養育 海山に
も譬へ難き親の御恩 殊
更に自由なる御身の上


38
何卒首尾能う勤めを遁れ
世を楽に過ごさせまじ候はゞ
せめて少しの御恩報じ
孝行の片はしにも成候
はんと 夫のみ朝夕祈りまいらせそろ

所/\ 二世迄と云ひかはしまいらせそろ
伝兵衛様 思はぬ此度の御
身の難も 根を尋ねれば
皆我故に候へば 今更見
捨候ては女の道立申さず候


39
不孝とは思ひながら供に
覚悟を極めまいらせそろ ヲゝ母者人
どふやら風がかはつて来た
様な サイノウわしも胸がどき
/\と サア其後をちやつと

読で下され/\ エゝ供に
覚悟を極めまいらせそろ 先程
伝兵衛様へ退き状と申して
認めしは此事申し上げ度(たき)儘
退状と偽り書残しまいらせそろ


40
何事も/\前世より定まり
事と御諦め下され候 申し
上げ度数々は筆にも尽くし
がたく候へ共 心せく儘申し
入まいらせそろ ヲゝさてはそふした心か

と 驚く伝兵衛親子はうろ
/\ エゝ気づかひなコレ兄や
娘を内へ早ふ/\と母が
あせれば与次郎も 戸口を
明れば走行 妹を無理


41
に四人が 顔見合してため
息の 涙はさらに 分かちなく
何と詞も伝兵衛泣目を
拭ひ 一旦云ひかはした詞を立
供に死ふと覚悟して 義

理を立ぬくそなたの貞
節 忘れはせぬ嬉しいぞや
思ひ返せば返す程 われ
こそ死なで叶はぬ身 そな
たは科のない身の上 供に


42
死ではお二人の嘆き 命
ながらへ亡き後の 問ひ弔ひを
頼むぞと 詞にわると泣出し
そりや聞へませぬ伝兵衛
様 お詞無理とは思はねど

そも逢いかゝる始めより 末の
末迄いひかはし 互ひに胸を
明し合 何の遠慮もない
証の 世話しられても恩
にきぬ ほんの女夫と思ふ


43
物大事の/\夫のなんぎ
命の際にふり捨てて 女の
道が立物か 不孝共悪人
共 思ひ諦めコレ申 一所に
死して下さんせと 隠せし

剃刀取直す マゝゝマアまて まち
おれやい/\/\ コリヤヤイ これで
死ぬると命がないぞよ コリヤマア
何の事じや とんと分からぬ
様に成て来たはい 殺しに


44
来たと思ふた伝兵衛殿より
今ではわれが方が手強ふ
成たぞよ コリヤマアどふしたら
よからふぞと いふもおろ/\
母親も ヲゝそふじや/\ 我が

子が可愛/\と子故の闇
にわきひら見ず 是まで
おしゆんがお世話に成た
恩も義理も弁へず 一圖
に中を引分ふと 思ふた母


45
は義理しらず 賤しい勤め
する身でも女の道を立
通す 娘の手前面目ない
そなたの心に恥入て何事
も云ひませぬ 伝兵衛様と

一所にのコレ 死出の道づれ
仕やいのふ したが是申伝
兵衛様 定めて親御様達
もござりませふが 親の心
といふ物は人間は愚か たとへ


46
鳥類畜類でも 子の可
愛にかはりはない物 お俊
伝兵衛と云す気か もしや
お前が死なしやつたと親御
様が聞きしやつたら 悲しうて

/\ 此世に残つて居る気
は有まい 何国(いづく)か成国の
果て 山の奥にも身を忍び
どふで逃れて下さりま
せ 娘が心に恥入て天にも


47
地にもかけがへない 可愛い
我子を心中に合点して
やる親心 爰の道理を聞き
わけて コレ拝みます頼みます
と 手を合したる母親の

子故に迷ふ闇の闇 二人
は何と詞さへ 涙に涙むす
ぼるゝ 血筋の別れ与次
郎も涙の雨の古布子
袖喰ひしばりしやくり泣


48
アゝ伝兵衛様の泣じやるも
道理じや 又おしゆんの泣
やるも道理じや 母者人 こ
なたの泣しやるのもなほ
道理じや /\/\ 道理/\と

いふて居てはねつからはつ
からいつ迄も分らぬ道理
じや ガコレ伝兵衛様 母者人
が今の詞 御合点がまいり
ましたか エコリヤ我も得心して


49
くれたか 合点がいたか 得
心してくれたか 合点がいた
か サゝゝ合点仕たらばどふぞ
此場を立退く分別 しかし
其形(なり)では人目に立 京の

町を放れる迄 此編笠で
顔かくし 幸いの猿廻し 健(まめ)で
二人が末長ふ 目出たふ女
夫に成りとげる 門出の祝ひに
此与次郎が お初徳兵衛が


50
祝言の寿き こなた衆も
生き別れの盃 イヤ/\祝言
盃と 悦び諷ふも声びくに
お猿は目出たや/\な 聟入
姿ものつしりと/\ コレ

去りとは/\ノウ有かいな さん
な又有かいな ヲゝ徳兵衛様
ござんせ あんまりこな様が来
やうが遅いによつて お初
様は顔真赤にして腹立て


51
居やんすはいの コレお初様
聟様が盃をしたいといのふ
機嫌直して盃を戴かんせ
コレ/\/\/\いたゞくノウ盃を さん
な又有かいな ヤコレ/\/\聟様

足で盃さすとは余り
つれない それでは嫁御様
がいたゞ冠せぬは猪野ひぞ
らずとほんまにさして
やらんせ/\ ヲゝそふじや/\/\/\


52
そこでお初様が戴いた
物じや コレ戴くノウ盃を
さんなまたあろかいな コレ
嫁御のひるねもころり
とせい/\ ナコレ エあろかいな

さんな又あろかいな コレ/\
聟様 あんまりつれなふ
さんすによつて おしゆん
ヤ嫁御様が起きさんせぬ
わいの そこらでちよつと

 

 

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53
起したり/\ エコリヤヤイコリヤ起こす
のじや/\ エゝ何さらすぞい
トツトモ去とは/\ノウ有ろかいな
さんな又有かいな 起したら
互ひに抱き付やれ ヲゝそれで

機嫌が直つたぞ エゝゝ有ろ
かいな さんなまた有かいな
くるりと返つて立たりな
立てくれ コレ/\/\/\/\立しやませ
次手(ついで)に日和を見てたもれ

 

 

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54
アゝよい女房じやに /\ノウ
有ろかいな さんな又有かいな
日和を見たらば落てなも
/\ ヲゝそふじや/\/\ お猿は
目出たや 目出たやな サゝゝ

きり/\此家(や)を さるまはし
まさる目出たふいつ迄も
命まつたふ仕てたもと
目は見へね共 見送る母
詞も此世で聞納め 心の

 

 

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55
内のいとまごひあすの
噂となりふりもやつす
すがたの女夫づれ 名を
絵草紙にしやうごいん
森を あてどに たどり行