妹背山女庭訓 道行恋苧環

 

読んだ本 http://www.enpaku.waseda.ac.jp/db/index.html (イ14-00002-069 p78~ )

 

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道行恋のおだまき

岩戸隠れし神様は 誰とねゝしてとこ闇の夜々/\ごとに通ひては又帰るさ
の道もせ気もせ夫も何ゆへ恋故に やつるゝ所体恥しと 俤照す薄衣に
包めどかほり橘姫 思はぬ人を思ひ侘心のたけをくどけ共 つれなき松の下紅葉こがれ
てたへん玉の緒も殿故ならば捨草も 暫しはいこふ芝村の賤の男が 置手の
ごひで 忍び/\の出逢妻晩にござらばナコレのんやほんにさせどの柿の木の枝こへ
て連理をちぎる言の葉には それも恋仲爰はまた 箸中村よ一森の長者が後と


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名にひゞく 釜が口にも出はなれて あゆむに くらきくれ竹のしけれる中を分行ば
葉ごとの露がほろ/\とほろゝ打なるきじの声 思ひくらべていとゞ猶心ほその立つくす
にくやかゞしにおどさるゝわれが 姿に又おぢてはつと立行羽風につれて ちり/\
ちるや柳本流るゝ水にすそぬれて 物思hrとや帯とけの里羨し自らはつゐに
一度の情さへないて 身をしる涙雨ふるの社の御燈のかげか松の木の間にちら/\
/\と見へつ隠れつ 帰るさの後を求馬がしたひ来て 互にはたと行合の 星
の光りに顔と顔 ヤア恋人か何故に 爰迄後を追鳥は もしやねぐらの契をも

かなへてやろとのお心かと 胸にはいへど詞にはおもはゆふりの袖几帳 成程切(せつ)
成る心ざし仇に思はじ去ながら 左程こがるゝ恋路にて昼をば何とうば玉の夜斗り
なる通ひ路は いと不審なり名所をきいたる上はこなたより 二世の堅めは願ふ事 あかさせ
給へとひたすらに とはれてげにも恥しのもりてあまれる浮身の上 語るにつらきかづらき
の峯の白雲有ぞ共 さだかならざる賤の女と思ふてふかい疑ひの 雲をはらして自らが 思ひ
もはらして給はらばどんな仰せも背くまい譬へ草葉の露霜と消ても何の厭やせぬ
是ほど思ふに胴欲な とけぬお前のお心はあんまり結ぶの神様を祈り過した咎かや つれな


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の恋やと恨みわび 思ひ乱るゝ薄かげ夫とお三輪は走り寄 中を隔てゝ立柳立退く
袂引とゞめエゝ聞へませぬ求馬様 ソリヤ気の多い悪性なそもや二人が馴初は始めて
三輪の過し夜に 葉越の月の俤はお公家様やら しれぬなりふりすつきりと
水際の立よい男 外の女子は禁制としめてかためし肌と肌 主有人を大胆な断り
なしに惚れるとはどんな本にもありやせまい 女庭訓しつけがた よふ見やしやんせエたし
なみなされ女中様 イヤそもじとてたらちねのゆるせし中でもないからは 恋はしがちよ我
殿御 イヤわたしが イヤわしがと供にすがりつ手を取て そのに色よく咲草時は男おんな

になぞらへいはゞ 云れふ物か夕顔の梅は武士 桜は公家よ 山吹は傾城杜若は女房よ
色は似たりやあやめは妾 牡丹は奥方よ 桐は御守でん姫ゆりは娘盛と撫子の??/\なると
ならずと奈良坂や 此柏の二人の女 睨めば睨む萩と萩 中にもまるゝ男べし 放ちはらじと
縋付 こなたが引ばあなたがとゞめ恋の柵蔦かづら 付纏れてくる/\/\ 廻るや二つの小
車の花よりしらむ横雲の たなひき渡り有/\と 三笠の山も程近く鳴る鐘の音に驚く姫 帰
る所は何国(いづく)ぞと求馬が気転振袖の はしにぬふてふ取かはす 縁の苧環いとしさの
あまつて三輪も悋気の針 男の裾に付る共 しらず印の糸筋をしたひしたふて