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道中膝栗毛 赤坂並木の段

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/856516   コマ34~

映画『やじきた道中てれすこ』繋がりで『道中膝栗毛』を読んでみた。『近頃河原の達引』

や『冥途の飛脚』を彷彿とさせる個所以外は読んでいてあまり面白くなかった。感嘆詞や

擬音・オノマトペなどの繰り返しがやたら多い。義太夫はあくまで語り物であって読み物

ではないのだけれど、これは特に、落語のようなコメディということもあり、太夫さんの

語りの妙と、三味線による心象や情景描写ありきで初めて面白く響くのかもしれない。

てれすこは出てこないのだ~。

「稀人・まれびと」は折口の造語だとばかり思っていたが違うようだ。

 

 

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34

弥次郎兵衛 喜多八 道中膝栗毛 赤阪並木の段

いでや此 春の景色の麗(うらゝか)に おふさ
きるさの稀人も 袖ふりはへて面白や 是は
関の東に住む北八弥治郎兵衛と申す者に
て候 扨も此度都方を一見せばやと思ひ立

 

 

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35
て候 殊更けふも早日くれて道を急ぎ候程に
宿を取らばやと存候 東路をいつしか後に三河
やあた二た川も打過て 歩むに 馴れぬ旅づかれ
物岩 穴の観世音 御燈のかけもほのくらき御
油の宿をも出放れて 並木原にぞ着きにける

北八かたへに荷をおろし アゝヤレ/\くたびれた/\
此マア弥治様は何してそと 跡先見廻し アゝ
早くくればよいにナア 跡の茶店で聞けば 此
松原にはわるい狐が出るとの事だが アゝくら
さはくらし提灯はなし 何だかうそ気味の

 

 

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36
悪い事だ 此弥治様はなぜ遅い わらしか
切れたか門留かと 跡を見やりつ延び上がり まつ
毛をぬらす跡よりも 弥治郎兵衛は北八が
かねての臆病知たれば おどしてやらんと小
隠れし 思ひ付たる狐の面 手拭ひのはし

引ん結び 顔へすつほり引つかぶり さし足抜足後
より ワイと一声 アゝ申々御免なさりませ/\/\わるい狐
とは申しませぬ よいおきつ様でござります 御免
/\といふ声は はの根も合ず膝がた/\弥治郎
兵衛俄かに作り声 ヤイ/\/\ヤゝラヤイノヤイハイ/\/\ おのれ憎いやつの けふ

 

 

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37
もかごかき共か銭を一本ちやらめかし 酒肴を
おごりし事 よもや忘れはしをるまい アゝ申々お前
様はよふごぞんじでござりますなァ ほんのそれは
でき心 欲気でござりませぬ アゝイヤ/\/\また有/\
しほ井川では故もなき座頭の肩におはれ

て川を渡り 剰(あまつさえ)座頭のかふた其酒を ぬすみ
くらふコナ横道者 アゝ申し/\其かはりに尻が割れて其
酒代はみんな私が払いましたから 其勘定は
済んでござります ヤイ/\/\ぬかすまい/\ マタ有る/\
日ッ坂の泊りでは 信濃みこのばゝァが所へ夜這い

 

 

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38
にうせ仏壇の中へおつこち其騒ぎをおのれが連れの
仏の様な弥治郎兵衛にぬり付け おのれはぬく/\しらぬ
顔 重々の不届者 其かはりには是をくへと 傍
に有り合う馬のふん杖につつかけ差出せば エゝ其
馬のふんを私に ヲイノ エゝ いやか じやと申て夫が

マア 喰ねば連れ行く サアうせい アゝ申/\/\私は馬
のくそはトツテモ不調法にござります どふで此
義は御了簡 ムゝ然らば此以後汝が連れの弥治郎
兵衛が申す事 何にもよらず背きはせぬか ハイ/\/\何
にも背きは致しませぬ ムゝ夫なれば此荷物を


39
汝が荷物と一つにいたし 赤坂の泊り迄かつい
て行け アゝ サア早くkつげ ハアイ サア早く持ち何を
うぢ/\するぞいやい 行けといはば行かぬか ハイ只
今まいりますはいのと 荷物取上げつく/\見
て 此荷物は私が連れの 弥治様の荷物に似た

様なと こは/\゛眺める形(なり)そぶり ヤアおまへは弥治様
じやないか テモ扨もひどいめにあはしたのと
いへば弥治郎兵衛吹出し ハゝゝゝハゝゝゝべら坊め いかに
臆病じや迚余んまり ハゝゝゝハゝゝゝ イヤモウ弥治さん 余り
じやねいか 悪いしやれだぜ 只さへこはい/\と


40
思ふて居る所に 思ひがけなふワイと云はれて
イヤモウ/\/\あつたら肝をひやし物にした ハゝゝサア/\/\早ふ
赤坂へ居て泊らふ/\ モウ/\是から二人連だこはい
事も何んにもないぞ 狐め出て見やがれ 誰だ
と思ふやい/\ エゝお江戸は神田八丁堀九尺二間

の城廊かまへ十二文で汲ます水戸(すいど)の水で みがき
上げた北八様だハイ こはい事はないぞ 東ッ子(えどつこ)だべら
坊め ハゝゝコレサ北八 ごふぎに力むの そんなに力むと
又今の ワイ アゝコレ/\/\御めんだ/\ エゝ何のこはいと思や
こはしこはくないと思や猶こはい こんな所に長居は


41
おそれ サア/\行ふと両人が 荷物を一荷にさし
になひ 一足二足 アゝコウ/\弥治様/\アノ向ふの方に何
だかコウ白い物がちら/\見へるは アリヤアノ何で有ふな
ムスリヤ弔ひの提灯じや エゝそんなら爰へ葬
所か エゝきびのわるい何たかコウ 首筋がぞつ/\と

する様だ エゝコリヤ折わるふ又雨じや いま/\しいと つぶ
やき/\荷物ほどいて取出す 身の毛も立て
ぼろ/\と ふり出す雨の足元も ちよこ/\/\と
小坊主が 形にも似ざるばつてう笠 徳利片
手に歩みくる それと見るより北八が ソリヤこそ出たは


42
化物じや 弥治さんゆだんせまいぞやと ぶる/\
ふるへば弥治郎兵衛 しよぼ/\雨の薄くらがり徳
利さげた小坊主め ぶちのめして化けのかは現わして
くれんずと 幸い有り合ふ天秤棒 腕に任してぶち
のめせば アイタ/\/\アレ/\とゝやアイ 誰かひどいめにあは

せるはヤイトいふ声聞付けかけくる親仁此体見るより
弥治が胸ぐらしつかと取り 此伜には何とが有つて
かはいそふにぶちのめいた 有様にサアぬかせ聞ぬ
/\とせちがへは 北八見るよりこりやたまらぬ ゆるせ
/\と一さんに 跡も見すして逃げて行 ヤイ/\/\コリヤ


43
北八 おれ一人を残して置いて 逃げるとは 胴欲じや
アゝ申/\お前のお子供存じませず 只化物じや
と心得まして打ちましたは大きな粗相 真っ平
後免下さりませ イヤ/\聞かぬ/\ 折角買いにやつた
五合の酒 雫も残らずこぼしてしまい ちいさい者

をむごらしう ひといめに合せたなと ぐつと〆
れば アゝ申/\ コゝゝそれでは咽の仏がたいなしに成る
ゆるめて下さりませ 五合の酒がこぼれたは五合
どうだんお気の毒に存じます 代は私が出します
から 一升のお願ひ かん弐升とおつしやつてくだ


44
さりませ きつとお礼に三升いたし升から 四升
いはずと御了見五升でござり升 エゝしやれ所
かい アゝ又しまつた/\ 御腹立は御尤疵養生代
にはかうやく代を出しますから どふぞ赦して下さり
ませ ムゝ夫なれば許してやらふ サア金出せ ハイいくら

出しましよナ ヲゝ命がはりには安けれど 十両に負けて
やる エゝとんだ事おつしやります 十六文のかうやく
百回付けても一分であまる とふぞ二歩(ぶ)にまけて
下さりませ イヤならねエ 二歩がならさ三ぶ インヤ
そんなら四歩 エゝしぶといやつしやならぬはい/\夫レ


45
じやおまへできないは相談じや いゝ直(値)じや高い
ちと負けねエ ムゝそんなら一両負けで九両はい エゝ一両
負けて九両とは面白い ハゝゝ しかし間夫代でも七
両二歩は当りまへじや エゝそんならマア知らさ半分
値さ どふぞ夫で御了簡 ムゝ五両にまけいか五両

なら安い物じやが負けてやるは サア金よこせ エゝサアエゝ
金よこせ エゝ現金かへ 知れた事じや ハイ/\只今勘定
いたします/\ エゝかふと エゝ私が喉のいたくるしみが〆
上げて四九八九 四九卅六匁(もんめ) 八九七両二歩ト 五両
の金を差引して 三両と六匁お前の方からおつり


46
を下さりませ エゝさま/\゛のたは云 モウ了簡がウヌ
ならぬわい エゝ又じや/\又しまつた アゝ申金上げます
/\ 金は胴巻に入れて腹にまいてござります ムゝ
そふで有ろ/\ これか/\ アゝそりやしらみ紐てこざり
ます そんなら是か アゝクゝゝくすぐつたい/\ハアゝゝハゝゝ

そりや申し褌でござります 其下の方にきんが
包んでござります エゝいま/\しいべら坊め そんなら
いつそ此きんをと 力に任せ引ツ掴みぐつとしむれば
アイタ/\/\死ぬるはい/\/\ ハイと斗りにうんと其まゝいき
たへたり 遉の親仁もびっくりし なむ三死だは是


47
幸いと 弥治郎兵衛が帯ぐる/\と すつほほりはいだる
丸裸 墓所の方よりとつかはと経かたびらにつの
ぼうし手早に着せて サア/\これでちつとは腹がいた
かうやく代の其かはりと 着物荷物を引さらへ
千松よこいと手をひいて あし早にこそ立帰る

しだいに更(ふく)る夜嵐に連れてふりくる雨の音野寺
の鐘のから/\と いと物淋し 並木のかげ 松の雫かうる
おいの ぞつと身にしみ弥治郎兵衛 息吹かへし起き上り
傍(あたり)見廻し/\て ヲゝ寒/\こゝはどこじやしらんておれ
はサア一体どふしたのじや エゝこふと エゝマア御油の宿を放れ


48
て狐のまねをしたは 夫から小僧をふつたは 北八は逃げ
たは そこで金を〆られたは 夫から跡はとんと夢中で
何にも覚えぬがコイツハ夢か知らんて ヲゝさむ/\ イヤ/\向ふに
はかしよが有るはい して見りや夢ではないはい どふ
した事じやと撫廻し/\ ヤア/\おれが着ているはコリヤコレ

経かたびらじや そふして額にごましほが当ててある
ヤア/\そんならおれは死んだのか 悲しや扨はきんを〆上げられ
それで死んだか ハアヤア/\そんなら爰はめいどの道かいやい/\アゝ
浅ましい心細い身に成た こんな事ならかゝアにもとつ
くりと暇乞ひして置ふ物 こんなに早ふ死なふとは知ら


49
なんだ/\ めいどの道はくらいと聞いたが ほんにコリヤ真くら
かりだどふぞ極楽へ行きたい物じやが 十万億土
やら云ふが 大抵では行かれまい アゝ心細い/\ 斯成事共
露しらず嘸や跡にて女房が けふは御ぶじの便も有る
か あすはつかひの人もやと日をかぞへ指を折り待ちこがれ

たるかひもなふ死んだと云ふ事聞いたなら嘸悲しかろ口
おしかろ 逢いたかつたで有ろうのふなぜ逢わして下さん
せぬ 魂魄あの世に返るなら最(も)一度かゝァの顔見
たや 夫迄もなく今こゝで おれが死んだら後編に
嘸や一九がこまるで有ろ それも悲しし かゝアもかはゆし


50
心一つを二た道に めいどの闇に迷ふとは何の因果
ぞ 情ないどふぞ今(ま)一ど生きかへり かゝアとねやの添伏し
が したいわいのと身をもだへすゝり上たる水ばなと 涙
と涎 一時に落ちて流るゝ三つせ川 末は漲る風情なり
又も幽かにかう/\と 遠山寺の 鐘の音耳に入し

か弥治郎兵衛 漸に心付き ハア迷ふた/\アノ鐘の音慥
にお寺 極楽浄土の導引(みちびき)頼み お十念でも授からふ
そふじや/\と立上り鐘鳴る方を知るべにてたどり
行こそはかなけれ かくともしらず北八は漸逃れ此
寺へ 一夜の情け風寝して夢となく又現共 泣き寝


51
入つたる折こそ有れ あのよのはかなき物はかけらふの
ありやなく/\弥治郎兵衛 死んだと思ひつめたさそこらへ
かねたる雨涙 露かあらぬかばら/\と軒の 玉水
戸ほそもる 火かげしるべに立ちよつて さも哀れげ成る
こはねにて 申し/\私は娑婆の者 お願ひ有つて参り

ましたどふぞお願ひ申しますと いふ声聞き付け和尚は
立出 誰じや/\何用じやと 戸口の1.?(かけがね)表にも 和尚
様お願い申し上げますと いふ声寝耳に目覚す北八
起きると明ける門の口弥治郎が姿もくら紛れ とらへ
る袖のふり合わせ 和尚と心へ弥治郎兵衛を むりに引込み


52
取りちがへ 戸口を内からぴつしやり引立て ソリヤこそ亡者が
来おつたぞ 和尚様必ず外へ出まいぞや戸口はおれが
押へて居る アゝ門に居るは幽霊じや おのれを入れてよい
者かと いふもがさ/\膝わな/\ 寺のじゝんでとう
ふるひ エゝ何だかコウmつtくらがりでは何にも分らぬ

火打いづくとくらがりを さぐる手先に火打
箱がち/\ふるふ附け木の光り すつくと立ったる弥治
郎兵衛 エゝコリヤ和尚じやない幽霊じや アゝ/\赦し給へ/\
/\と 着物をあたまへすつぽり引かぶり 正体さらに
なかりける 弥治は恨みのふるひ声 ノウ恨めしい北八へ おのれ


53
おれがしめ殺されるを見捨てて能くも逃げおつたな アゝ
赦し給へ/\ イヤ/\/\恨みの魂魄此世に残り 汝もめいと
の道連にいざ連れ行きて思ひしらさん来やれ北八
サアこいと 付け廻されて北八が 気も魂も消入斗り ヤア/\/\
そんならお前は殺されて迷ふてきたかハア悲しや

そふとはしらず 今迄も此弥次さんはどふしてぞと
案じて後へ戻らふにも 何分こはくて一足も後へ
かへれる事かいの せふ事なしに此寺頼み 泊めてもらふ
た斗りじや 是迄のよしみを思ひ 恨みをはらして
浮かんでたべ なむあみだ仏/\/\ イヤ/\/\修羅のくけんも其


54
方故 只恨めしや ひやめしや麦飯や 供にならくへ
連れ行くと 又立寄れば身をちゞめ アゝアレ人殺し助けてたべ
和尚様/\のふと呼ばはりわめけば戸を蹴放し 和尚
はかけ入り押し隔て 数珠さら/\と押しもんで 東方に五三一
南方にはぐんだり夜叉明王 西方でん/\九馬の三 北

方同二八五六十中央だんまつふとい明王 五千
有りや所詮ふけん/\泊めれや/\浮かめや/\ と祈りける
胸に当りし弥治郎兵衛赦させ給へアゝラくるしや 我
こそ東の都に住む弥治郎兵衛と云う者なり 御油の宿
の泊りにはずれ不慮のさいごをとげたりしが 日頃からの念仏


55
ぎらい めいどの闇路に方角知れず 何卒出家の
お情けに 弥陀の御国へ御導引 頼み上げます/\と 涙と
鼻を横なでに恐れ/\て願ひける和尚點頭(うなづき)善
哉(よきかな)/\ めいどの道のいんとうは差当たる愚僧が役 云
ながら ふせない経は読みがたし 地獄のさたも銭次第

布施物(もつ)持参召されしかと 聞いて弥治郎兵衛あたま
をかき 成程御尤も路銀も少々有たれど御油
宿にてすつぽりはかれ 身はちやんぷらのすかんぴん
どふぞお慈悲に結縁(けちえん)にて 弥陀の御国へ御
いんどうお授けなされて下さりませ アイヤ/\近年世


56
がらかわるて寺から里への力持ち それ故げんきんかけ
ねなし 銭なき衆生は助からず 七里けんぱいぜかせ
/\ ハアそれは何共ぜひがないコレ/\北八 今聞いた通りの
此仕合せ どふぞ貴様が持っている路銀をおれに
かしてたも エゝめつそふな/\ 此金かしてたまる物かエゝ

とんだ事/\ ムゝそんならいやか エゝ恨めしや アゝコレ/\借すはいの/\
と肌に付きたる胴巻をぐる/\はづし和尚の前さも
おしそふに差出し ハイ申し和尚様此金は私が命代りの
金なれど コウ見廻れたらしよことがない どふぞ是に
て御引導授けてやつて下さりませ ムゝ善哉/\ 去な


57
から コリヤコレわづか二三両 十万億土の道なれば 宿々泊り
のはたご代きちんにしてもたらぬ/\ 其上三づの川の
越し銭 ばゝァの運上極楽の東門番への心付け 四十
九日や五十両合せて 百両百ヶ日の追善供養御
茶湯(ちゃとう)代にもたらぬ/\ じやと申してモウ夫切 一文もご

ざりませぬ 身に付た物迚は 千十観音様斗り ムゝ
そんならそこで裸に成り 残らずぬがつしやれ エゝ夫
じやお前寒ふてこたへられませぬわいの ムゝそんな死人
はこなたの連れなれば 連れていんでもらひましよエゝめつそふな
事おつしやりますはいな 然らばぬがつしやれ じやと申して是


58
か マア そんならおれがおはれふか アゝコレ/\とんた事/\ 幽霊を
おふてどふ成る物か そんならぬぐか サア夫は サア サア/\ 是はまた
情けない ハテ何とせふぜひがない アゝぬぎます/\/\と ふせふ
/\゛に帯ぐる/\と布子諸共引丸め 差出し ハイ仰せに従ひ
脱ぎましてござります 時に一つの御訴訟 御覧のごとく無褌

伜不便と思し召 せめて一重の此襦袢 御用捨な
され下さりませと 涙と供に詫びにける 和尚點頭
善哉/\ 然らば導引き致さんと 数珠取り上げて勿体らしく
汝元来しやれきのごとく 臨終正念ちや/\むちやく
足は飛ぶに任せ帰るを知らず こいつ元来江戸子にてぢん


59
ぱら/\はらはつとみ 金銀財宝芥のごとく遣ひな
くし 女郎小娘下女芸者 後家他人の女房迄ちやら
くらこんたん手くだをもつて おんころ/\せんだりまきや おん
ころ/\せんたくばゝァ のふまくさんまんだのふばァさんせんだ
くじや こいつは一たいどふらくじや なむ三宝めつぽうかい む

中さん/\らつひらんぐはい五十三次股にかけ 道中たつしや
しやれ悪口喧嘩口論其くせ聞いた風 めつたむせう
つよい顔 お先まつくら大きに臆病 夫故の裸やみくも
言語道断 何ぞいふと畜生呼はり馬斗り犬猫ちん
あしたに道を聞いて夕辺に死す共何ぞいといはん丸はだか

 

 

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60
明朝覚め参つてすべて夢のごとく恐るべし/\此行く先は
こもかぶり 行きたい所へつゝと行けと 衣裳路銀を引ッさらへ一間
の内へ入るよと見えし和尚が姿忽ちに有りし家居も一時
に きへて 跡なく明烏葉ぼう/\たるはかはらに つつくる
立し石仏傍(あたり)は野原と成にける 只ぼうぜんと弥治郎兵衛

どふしてこゝへ北八も 初めて心付き出す遠寺の鐘
にびっくりし 二人は夢の覚めたるこゝち互ひに顔を見合わせて
呆れ 果てたる馬鹿らしさ アゝコレ/\弥治様お前の形はソリヤ
何といふ形じや ヲヤ/\/\こりやどふじやおりや夕辺死
だはづじやが カノ親仁めにすつばりとはがれて仕舞た

 

 

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61
サアわしも坊主に皆取られ 裸百貫一文なし 今の坊主
はどこへいたの やつばりあいつも狐で有ふ 大そふにばかされ
たぜ そふいつても余りちゑがない ばか/\しいじやないかい
のふ イヤコレ北八どふぞ仕様は有るまいか どふと云ふたらこじきより
外に思案はないはいな アゝコリヤヤイそんな心細い事いふな

やい それだといふてどふ成物か お前も裸おれも裸
かふも有ふか 狂歌「どうせうぞ何と和尚に皆取られやう/\しゆはん一つ 北八は
ゆうべまでかさね着ていた弥治郎兵衛けふかたびらに成た哀さ」 夜
が明たにこんなさまで うろ/\してもいられまい よい思ひ
付きが有るはい コレこゝにほうきの古いのが有る 是でおれが
奴ふるからお前其下駄の古いので 拍子を打ちなさへ

 

 

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62
そふして成共行ふじやないか イヤコイツハちゑだ面白いそんなら
北八ふりだせろ とかつけべい ハレワイサノサ夕べもさん/\゛化された裸で
道中が成物か 成てもならいでもしよことがない ハレワイサノサコレワイサノサ
馬鹿な宿入大鳥毛 ヒン/\ドウ/\しやん/\/\ 夢路をた
どるこゝちにて 膝栗毛迚世の人の 笑ひの種と成にけり