仮想空間

趣味の変体仮名

七月燈籠の事 附く河東ぶしの事 咄の絵有多

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1242667

 

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七月燈籠の事 
附リ河東ぶしの事
正徳年中角町
中万字やに玉菊
とてだてく日んくわつ
なる遊女ありけるが
あるなつふとこゝち
れならす似日にまし
やまひおもりて七月
のはじめついに
みまかりぬみな人
袖をしほらぬものも
なかりけるよりて
玉ぎくがついせんのためとて
?や中いひ合たんだら
すじのちやうちんをとぼし
ければ一しほけいき
すぐれてはんしやうしけれは
よく享保元年はみな
しまのきりことうろうを
いだすそのころ
はりつといふさいく人
からくりとうろうを
たくみ出ししる人の
ちや屋へおくる

 

正徳年中、角町・中万字屋に玉菊とて伊達く日んかつ(?)なる遊女ありけるが、
或る夏、ふと心地礼ならず、日に増し病重りて、七月の始め遂に見罷りぬ。皆、人、
袖を絞らぬ者も無かりける。依りて、玉菊が追善の為とて茶屋中言い合い、たんだら
筋の提灯を燈しければ、一入景気優れて繁昌しければ、翌享保元年は、皆、島(縞?)の
切子灯籠を出だす。その頃破笠(はりつ)という細工人、からくり灯籠を工み出し、
知る人の茶屋へ送る。

 

 

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めつらしくて見物
あらりけるこれより
れいとなりて今にく?びをなす
吾玉きく三くはい
きついせんとして
江戸大夫河東
節でうしといふ
上るりをつくりかたり
ける玉ぎくみまかりし
とき年廿五才なりける
とぞされば浄るりの
文句に「二タおり三おり
としをへていふたとば
をしらぶれはなくよりほかの
琴の音も廿五けんのあか
つきにくたけてきゆる
玉ぎくのとあり
又かゞみのうらへなぎ
はを入そめしも此ゆふ女
なりこれにうつして今せし事
にてもかゝみのうらへなきのば
を入ることになれり右浄るりの
とめに「なぎのかれはの名ばりに
かゝみのうらにのこるらんなきはかゝみに
のこるらんとかたれり

 

珍しくて見物おらりける。これより例となりて、今にく?びを成す。吾玉菊三回忌追善
として、江戸大夫、河東節調子という浄瑠璃を作り、語りける。玉菊見罷りし時、年、
二十五才なりけるとぞ。されば浄瑠璃の文句に、二た折り三折り年を経て、云うた詞を
調ぶれば、七より他の琴の音も、二十五軒の暁に、砕けて消ゆる玉菊の」とあり、又、
鏡の裏へ梛の葉を入れそめしも、この遊女なり。これにうつして今せし事にても、鏡の
裏へ梛の葉を入れる事になれり。右浄瑠璃の留めに「梛の枯葉の名ばかりに鏡の裏に残
るらん、梛は鏡に残るらん」と語れり。

 

 

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