読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10301710
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「三段目 足利やかたの段」
かくて道芝は源蔵がはか
らひにて目見えの小姓に
いでたゝせやかたへ入れて
をりをうかがひ縫の助に
あひてたえてひさしき
うらみごとぬれのさい中
みさを姫おなじくぬひの
助にとりすがりいひなづ
けの身のうひもなく
おそばにいてもついに
いちどやさしいおことばも
うけ給はぬ
つれなき
きみに
いとし
さの
いとゞに
まさる
二人が
うらみ
やうす
見すまし仁木
正げん立出てぬひの
助とひめをおひやり
道芝はわれらあづかり
よきにはからひ申さんとてかの小姓をそばに引つけ
ひとせん
ぎと立かゝる
をり
こそ
あれ
持氏公
おん入り
なりと
おとなふ
こえ
ハツト
その
座に
ひかえつく
きみの
お入を
あひ
まち
ける
ほどなく持氏卿
おん入あれば
正げんはごぜんに
むかひ「たゞ今
あやしき
此小姓
うけ
給はれば
縫の助
さまを
こひしたふ
けいせい
なるよし
此道芝と
いふてんまが
あるゆえひつ
きやうこんいんを
きらひめさるゝこんげんサア
女め何ゆえにすがたをやつし
入りこみししさいつゝまず申す
べしとありければ「ホゝゝゝテモ
まアげうさんなアクとひどおあし
がるの源蔵さんとつれだつて
きたはいな「ソレ源蔵をよび出せと
いきまきのゝしりぎんみのこは高
源蔵はおめるいろなく「なるほど
こんてう此女とちうにおいて
わたくしをよびかけ
此おやかたのとの様に
あひにゆき
たいつれて
いてくれと
のたのみ
此おやしきのとの様と
あればごぜんさまのこと
アノまアはでな
けいせいが「次へ」
「三段目 足利館の段」
斯くして道芝は源蔵が計らいにて目見えの小姓に出で立たせ、館へ入れて折を窺い縫之助に会いて、絶えて久しき恨み言、ぬれ(?)の最中操姫、同じく縫之助に取り縋り、「許婚の身の甲斐もなく、お傍に居てもついに一度優しいお言葉もかけ給わぬ」つれなき君に愛しさの、いとどに勝る二人が恨み、様子見澄まし仁木正げん、立ち出て縫之助と姫を追いやり、未知磁場は我等預り、良きに計らい申さんとて、かの小姓を傍に引き付け、一詮議と立ちかかる折こそあれ、持氏卿御入りなりと、おとなう声、ハッちその座に控え着く君の御入りを相待ちける。程なく持氏卿、御入り給いあれば、正げんは御前に向かい、「只今怪しきこの小姓、承れば縫之助様を恋慕う傾城御なる由、この道芝という天魔がある故、畢竟婚姻を嫌い召さるる魂胆。サア女め、何故に姿を窶し入り込みし子細包まず申すべし」とありければ、「ホホホホホ、てもまあ仰山なあの問い言。お足軽の源蔵さんと連れ立って来たわいな。「我、源蔵を呼び出せ」と息巻き罵り吟味の声高。源蔵はおめる色なく「成程、今朝この女、途中に於いて私を呼びかけ、「このお館の殿様に会いに行きたい、連れて行ってくれ」との頼み。このお屋敷の殿様とあれば、御前様のこと。あのまあ派手な傾城が 「次へ」