二代尾上忠義伝 三段目つづき(その6)~四段目

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10301710

 

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17
○さても仁木はことあらはれしと
わがみかたのにんじやをあつめ
とりまくを源蔵は大ぜいを
なぎたて/\はたらく所に
何ものともしれずひとりの
くせもの縫の助姫をとらへて
はしり行 まらがる中へ紙崎が
しもべ軍平は主人の大事と
かけ来るを犬渕藤内こしやくな
奴とおつとりまくをこととも
せず大せいを切まくり
みなかなはずして
にげちるをいづく
までもとおひ
ゆきてめざなし
かりける
はたらき
なり

 

 

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 しかもそのよは
ふりしきるあらしに
さそふ水音にものさす
まじきさがみ川たいまつてらさせ
持氏卿あとに引そふ和田左衛門
御ぜんにむかひ二の瀬は水せいよわ
ければ此瀬より渡らせ給へと申上る
をりからにふしぎやめしたるこまは
おぼろ月となづけし名馬なるが
ものにおそるゝやうすにてだぢ/\

 

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 としてすゝみえずさてこそ君を
ねらふふせゞいありとおぼえ
たりと見やるむかふへ百騎斗
ときをつくつてかけ来れば
和田左衛門きみをかこひて
まへにすゝみ手せいをもつて
かけたてきりたてたゝかひけるそのひまに
持氏卿川へ馬をのり入れてなかば
わたると見へけるがいぜんの
くせもの水をくゞり
馬のまえあしきり
たをすに馬人共に
ながるゝはやせ

 

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 なにかはもつて
たまるべき
むざんやな
持氏卿水に
おぼれて
しづみ給ふ
やがてはるかの
川下へぬつくと
岩にとりつきて
血刀ぬきもち
くびをくはへ
あたり見まはし
くびなけすて
ゆう/\と
にげさりぬ

 

 

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 「よみつゞき」「四段目がん兵衛 姫ころしの場」
○こゝに軍平善六は紙崎が下尸(?)
雪平がうかがひきくともしらず
あくじのみつだんすこゝに
およびイデ道しばのせん
ぎとかけゆくを雪平
すかさず
なげちらせば

 

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 かなはぬゆるせとにげ行
あと「ヤレまて軍平と
こえかけて立出る紙崎
小膳「さいぜんより
やうすはこれにて
のこらずきいたサテ
何はともあれさま
たげになるあの
道芝うし
なはずは何かの
うれひはて
どうかなと
しゆう/\が
しあんの
なかへ

 

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 小かげ より
眼(がん)兵衛
立出
「ヘイその
道芝かわたく
しに仰付られ
ませ主人のはちみち
しばがおやでござり
まずがもつたいない
むすめと若とのが
えんがふかいゆえ

 

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 御しうげんもなされ
ぬとのの事娘めが
ぬひの介さまを
思ひきり持氏
さまへあがり
ますやうとく
しんさせます
もしきゝ
入ぬその時は
人手に
かけふ
よりは
此おやが
手に
かけて

 

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「ムゝ
しかと
その
こと 
ばに
ちがひ
ないか
「ハテ親が
子をころすに
たれが何と
申しませう
「つぎへ」

 

 

 (左頁上段)

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 「こりや
善六その
じやうぶな
こんじやうをみこみ
てんぜん公よりおたのみの
すぢは持氏公はとうに
こねてしまうたが
びやうきぶん
にしておき
さて花の
方と


殿

なき
もの
にし
てんぜん
どのゝみつ
つうにて
出来た雪の方の
子月わかどのに
此家?をおうりやうせん◎

 

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こゝ
ろえ
ました
ひす
べし/\

◎をぢてんぜん
公ののぞみ
花の方が
かみやしきへ
わうらいのをり
ばらしてくれい
ほうびはのぞみしだい
コリヤひすべし/\

 

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さても仁木は事顕れしと、我が味方の人数を集め取り巻くを、源蔵は大勢を薙ぎ立て薙ぎ立て働く所に、何者とも知れず一人の曲者、縫之助、姫を捕らえて走り行く。群がる中へ紙崎が僕軍平は、主人の大事と駆け来るを、犬淵藤内小癪な奴とおっ取り巻くを事ともせず、大勢を斬りまくり、皆敵わずして逃げ散るを、いずくまでもと追い行きて、目覚ましかりける働きなり。しかもその夜は降りしきる嵐に誘う水音にもの凄まじき相模川、松明照らさせ持氏卿、後に引き添う和田左衛門、御前に向かい「二の瀬は水勢弱かれば、この瀬より渡らせ給え」と申し上ぐる折からに、「不思議や、召したる駒は、朧月と名付けしし名馬なるが、ものに恐るる様子にて、ごぢごぢとして進み得ず、さてこそ君を狙う風情ありと覚えたり」と見やる向うへ百騎ばかり、鬨を作って駆け来れば、和田左衛門君を囲いて前に進み、手勢を以て駆け立て斬り立て戦いける。その隙に持氏卿、川へ馬を乗り入れて、半ば渡ると見えけるが、以前の曲者水を潜り馬の前足斬り倒すに、馬人共に流るる早瀬、何かは以て溜るべき、無惨やな持氏卿、水に溺れて沈み給う。やがて遥かの川下へ、ぬっくと岩に取り付きて、血刀抜き持ち首を銜え、辺り見回し首投げ捨て、悠々と逃げ去りぬ。

 

 「よみ続き」「四段目 眼兵衛姫殺しの場」
○ここに軍平善六は紙崎が下郎雪平が覗い聞くとも知らず、悪事の密談す。ここに及び、「イデ道芝の詮議」と駆け行くを雪平すかさず投げ散らせば、「構わぬ赦せ」と逃げ行く後、「ヤレ待て雪平」と声掛けて、立ち出ずる紙崎小膳。「最前より様子はこれにて残らず聞いた。さて、何はともあれ妨げになるあの道芝、失わずは何かの憂い、はてどうかな」と主従より思案の中へ木陰より眼兵衛立ち出で、「へい、その道芝か私に仰せ付けられませ。即ち道芝が親でござりまずが勿体ない娘と若殿が縁が深い故、御祝言もなされぬとの事。娘が縫之助様を思い切り、持氏様へ上りますよう得心させます。もし聞き入れぬその時は人手に掛けうよりはこの親父が手にかけて」「ムム、しかとその言葉に違いないか」「はて、親が子を殺すに誰が何と申しましょう」「続く」

 

 (左ページ上)
「どりゃ善六、その丈夫な根性を見込み、天善公よりお頼みの筋は持氏公はとうにこねて(死んで)仕舞うたが、病気分にしておき、さて花の方と花若殿を亡き者にし、天善殿の密通にて出来た雪の方の子、月若殿にこの家?を横領せん」
「心得ました。秘すべし、秘すべし。」
「伯父天善公の望み、花の方が上屋敷へ往来の折、バラしてくれい。褒美は望次第。こりゃ秘すべし、秘すべし。」