二代尾上忠義伝 七段目つづき(その1)

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10301710

 

f:id:tiiibikuro:20170625210147j:plain

25
「つゞき」さても尾上は
やう/\さがり来れば
お初はあんどの思ひを
なしへやへともなひ心を
つくしかいほうしくすりよおかた
とかしづきてもしたんりよ
のこともあらんかとしばい
ばなしにかこつけてえんや
はんぐわんの
工などふう
かんなし  
「ドリヤ
おくす
りを

 

 

f:id:tiiibikuro:20170625210204j:plain

 


やう かと
次へ

たてば
尾上は
かき
おきした
ためて
かはのふばこ
も浦島が
あけてくや
しきいこんの
ざうりかたし
なみだのかたみ
わけこま/\゛しく
も小ぶんこに
思ひをつゝむ
小ぶろしき
ふうじめしめる
玉のをもけふを
かぎりのこま
むすび

 

f:id:tiiibikuro:20170625210218j:plain

 さてお初をよび
かゝ様へあげねばなら
ぬきうな用大義
ながらといひつけに
あとさきあんじもぢ/\と
いにかぬるをしうのいひつけ
もどどくかとのつひきなら
ずおもひきりあんじに
むねもはりつゞら出して
きもめんもん付もざいしよ
そめなるいつ
てうらおび
しめなほして
出行あと
尾上はかくご
きはめても
おやのなげき
お初がおどろき
なみだにくれて
さいごのしたく
一ぺんのきやう
だらにこゝろ
しづかに
となへ
をはり
くわいけん
のんどへ心の
まゝきえて
はかなくなりにけり

 

f:id:tiiibikuro:20170625210231j:plain

 ○お初は立出しがとかくに
しゆじんのこと心にかゝり
むかふよりくる人のつじ
うら「モウかな
はぬ/\とつて
かへすがまだ
しもの事
アゝかはいゝ
ことをしまし
たときいて
はつとみやる
そら一むら
からすの
カア/\と
むじやう

つげる
たま
よばひ
「アゝ
気に
かゝる
/\
つじ
うらと
いひ
からす
なきこの
けしからぬむな
さわぎムゝやう
すはしるゝ此
ふばこと「次へ」

 

f:id:tiiibikuro:20170625210247j:plain

 (左頁左上)
「からすなき
といひ此
むなさわぎ
こりやどうでも
おやどへはゆかれぬはいのう

 

鴉鳴きといい、この胸騒ぎ。

こりゃどうでもお宿へは行かれぬわいのう。

 

 

f:id:tiiibikuro:20170625210304j:plain

さても尾上は漸下がり来れば、お初は安堵の思いを為し、部屋へ伴い心を尽し介抱し、薬よ、お肩、と傅きて、もし短慮の事も有らんかと、芝居話しにかこつけて、塩冶判官のたくみなど諷諫(ふうかん)為し「どりゃお薬を見ようか」と次へ立てば、尾上は書置き認めて、革の文箱も浦島が開けて悔しき遺恨の草履、かたし涙の形見分け、こまごましくも小文庫に思いを包む小風呂敷、封じ目〆る玉の緒をも今日を限りの駒結び。さて、お初を呼び、母様へあげねばならぬ急な用、大義ながらと言い付けに、後先案じ、もじもじと、往にかぬるを主の言い付けも毒かとのつい聞きならず、思いきり案じに胸も張り葛、出して来、木綿紋付も在所染めなる一張羅、帯締め直して出で行く後、尾上は覚悟究めても、親の嘆き、お初が驚き、涙に暮れて最期の支度、一遍の経陀羅尼、心静かに唱え終り、懐剣咽へ心のまま消えて儚くなりにけり。


○お初は立ち出でしが、兎角に主人の事、心にかかり、向こうより来る人の辻占「もう叶わぬ叶わぬ、取って返すがまだしもの事、ああ可哀い事をしました」と、聞いてはっと見やる空、群鴉のカアカアと無常を告げる魂呼ばい。「ああ気にかかる、気にかかる。辻占といい、鴉鳴き、このけしからぬ胸騒ぎ、むむ、様子は知るるこの文箱、と「次へ」