二代尾上忠義伝 九段目つづき(その2)~十段目

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10301710

 

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「これより追加綴補」「十段目」とありますが、九段目が完結しているように思われます。

 

(上)
「つゞき」やみ/\源蔵にたばかられさがみ川へ
おち行は仁木とこゝろさみだれしきる
よひやみにすはぎやくぞくござん
なれと水をくゞりて馬のもつ
あしきりたをし
くびかき切てそのまゝに
水中へなげすて
そのゝちきけば
持氏卿には御病死
兄小膳も御かんき
うけ行所しらず
むかしのよしみに十内のせわに
なり月日を
おくるその
うちに

お二方のおたのみ
わが忠義つくさんは
此時と思ふにかひなき
わが世わたりはからず
今日さがみ川の一けん

 

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小づかを見たるその時の心
天をいたゞきへんしの内も
立べきやしよせん縫の助
さまをたばかり敵となつて
お身にかゝるがせめてのねがひ
御すいりやう/\とぜんご
ふかくにふししづむしんじつ
見えてあはれなり尾上は
立出「ヲゝ畑介殿心底見えた
イザ後用意よくは縫之助殿
御腹トさしよれば「りんし
ふんじつの申わけわがくび
うつて家のさうぞく
たのむとばかりかくご
のてい「此尾上が目きゝの
身がはりやさしきと
たくましきとにつか
ぬくびをじつけんなし
大杉がたくみのそこを
見あらはさんいでかい
しやくとふりあぐるやいば
の下に畑介がくびはまへ
にぞおちにけり「イザ此上は
お二方をかまくらへおんともし
ふたゝび御代に出し申さんト
自分のかごにあひごしの
のこる方なき尾上がさばき

 

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をりから
むかひの
供まはり
おやくめ
ごくらう
/\と
他人
むき
なる
をれ
それに
わかれて
こそは
出て行
古郷の
はれは
忠と義の
夜の錦と
おりかへし
これや
女のかゞ
み山
その


今に
てらし
けり

 

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「これより追加綴補」
「十段目」

「続き」やみやみ源蔵に謀られ、相模川へ落ち行くは仁木と心得、五月雨しきる宵闇に、すは逆族ござんなれと、水を潜りて馬の諸足斬り倒し、首掻き切ってそのままに水中へ投げ捨て、その後聞けば持氏卿には御病死、兄小膳も御勘気受け行方知らず、昔のよしみに十内の世話になり、月日を送るその内に、お二方のお頼み、我忠義尽くさんはこの時と、思うにかたなき我が世渡り、図らず今日相模川の一件、小柄を見たるその時の心、天を戴き片時の内も立つべきや。所詮縫之助様を謀り敵となってお手に掛かるがせめての願い、御推量、御推量」と前後不覚に臥し沈む。真実見えて憐れなり。尾上は立ち出で、「おお畑介殿、心底見えた。いざ御用意良くば縫之助殿、御腹」とさし寄れば、「綸旨紛失の申し訳、我が首討って家の相続頼む」とばかり、覚悟の体。「この尾上が目利きの身替り、優しきと逞しきと似つかぬ首を実検為し、大杉が巧みの底を見顕さん。いで介錯」と振り上ぐる刃の下に畑介が首は前にぞ落ちにけり。「いざこの上はお二方を鎌倉へ御供し、再び御代に出し申さん」と自分の籠に相腰の残る方無き尾上が捌き。折から迎いの供回り、「御役目御苦労、御苦労」と、他人向きなるおれそれに別れてこそは出でて行く。故郷の晴は忠と義の夜の錦と折り返し、これや女の加賀見山、その名を今に照らしけり。