仮想空間

趣味の変体仮名

玉藻前曦袂 五段目 景事 化粧殺生石

 

読んだ本 http://www.enpaku.waseda.ac.jp/db/index.html

     ニ10-01240


87左頁
    京事 化粧殺生石
むかしは雲の上わらは 今魂はあまさがる ひなに残りて あく
ねんの 其妄執のはれやらぬ 恨みは石にとゞまりて乱れみだるゝ
いろ/\菊の しばし休らふ花のもと ヤアきり/\゛すそなたの足は 細くて
長くてなぜぎつくりまがつた これでなければ ちよいとはねてととめられぬ
うから/\と石垣町を通つたら 石の角でけつまづいて ころ/\/\
ころんで ついたる 杖が飛ちつて 軒に寝た黒犬白犬 まだらの犬に


88
あたつて わんといふておどした で恟りした 其拍子に明かぬ目なれば
常やみと申て 色取坊主でござります アゝ見たいなァ 夢に成共
逢たや見たや 夢に成共 あいたや見たやさ 夢にうき名はよも
たゝじ 山吹や 勤めに実は有りながら 底にうつせし二た面ほんに悪性は
粋からおこる 嘘と思へど女気の ついだまされて うら紫の色じやと
浮名立てながら せいしは中の小いさかい 死なら死ねとかな書きによめる
やうには書きもせず 苦をやますのが楽しみか 憎い男とたゝいて

かんで心でさすり 泣か笑ふかしどけなりふり思へば アゝはづかしや
山のはに 入るや/\ 月日のひかりもつよい秋にや うすもみぢ顔に
いろあるやさ梅もみぢ 恋のなさけの下もみぢ 立田の川なみに
サアンナサアンナ 流るゝもみぢ葉の 谷のしみづにすそや小づまを
ぬらした サツサ 立田の川浪に サアンナ7サアンナ 流るゝもみぢの紫の 谷のしみづに
すそや小つまをぬらした サツサおもしろや 「仏もえい思はくの ほん
のふ則ほたい心 ほだいもすぐにぼんのふの 犬の声/\恐ろしや


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さとればすいと黒仏 くろい/\とおしやんすけれど やつぱり
やぼな床いそぎ だいてねはんの長まくら 其むつごとのかず
/\ 七子よくはんのおきゃうもん ちんぷんかんはこちやいやな ヲゝ
そふじやへ かねをたゝいて 仏にならばかんだかぢやまちやみなくろ
仏 なむかみとうふ なむあみだ なまいだ /\/\ なぜにお前は不粋
なへ 粋もぶすいも みなおしなめて ねがへやねがへやのりのみち ま
よひのくもをふきはらふ つねなき風も如来のしめし げにうば

たまのくろぼとけ かたちはきへて うせにけり 次ははりまのくにの
かたはらにすむ娘にて候 はりまかた 高砂や 尾上のまつは
高からず 下にすむは何やらん つゆかしぐれか 恋人にぬれてあふ
夜は下ひもゝ といて給はれ何ぞいな はだとはだとを 引しめて
其むつごとの中々にもふけた男の子だからをだいて一さし まひ子
のはま あとは国さへ遠江 きる物小づま高からげたすきをかたに
さつとかけ 遠江なる/\ 浜名のはしの下 あるひは鯉か鮒かはへ


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の子かいかになんじら かりうめくとも/\しや とつて打あげ「かさをや
かさをさしかけて てん/\/\ひでりがさ さしかけていささらば 花見に行かん
せよしの山 にほい桜の花がさ えんと月日をめぐりくる/\/\ くるまがさ
それ/\/\そふじやへ これがうき名のはしとなる 「媚のよいおん女郎
さまの ぞはにねたれば ゆきかしもかみぞれか むらさめか あきか
うんらがやうなしやつつらでも いとしきみさまおさはりもうし
たら いがぐりゆの木うちおろしのあらむしろ かんきやすり目

さめはださするよでつくよふでいうしへ ゆみや八まんせい文
つゝ立べい としのつがひをうちやみしやいでがつくりそつくりそつくりかつ
くりつらしかめて めんぼくない あすのおともにはつれべいともよい
はさ どふじや/\/\につこりわつさりわらへさサゝサゝゝゝ さゝの
はのやうなせまい気をもちやんな のめやうたへやひよろ
/\/\ うきにうかれてしやん/\ あそんだ 「いなり山/\ みつの
ともしびあきらけく ちりにまじはる神ごゝろ のぼればくだる


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みやこ人 さいさきよし田のまつしやにて ちかひあらたな新
御霊 いはひまつれる朝吉(よし)と 守らせ給ふぞ 目出たけれ

寛延四年辛未年 正月十四日 作者 浪岡橘平 浅田一鳥 安田蛙桂

文化三年丙寅年 五月再板  添削 梅枝軒 佐藤太