桂川連理柵 上の巻 道行恋の乗かけ 石部宿の段

 

過ちが起きてしまう段。
なんと長吉に察知されていた。
なんと近年上演されたことがある!(2008年文楽劇場・20010年国立劇場

 

 

読んだ本 http://www.enpaku.waseda.ac.jp/db/index.html

     ニ10-02409 

 

1
 おはん 長右衛門  桂川連理柵  床本 豊竹此吉

上の巻 道行恋の乗かけ
今は昔と鳴る太鼓神楽の 五十鈴片そぎの千木(ちぎ)は
内外にかはれども 誓ひは同じ神垣に 参宮の
下向多けれど つれも見かへり 是も又都そだちや
雪じやれに 色も くつきりよい信濃屋の おはんが
花奢(きゃしや)な振袖は 彼岸桜や楊貴妃の 綻びかゝる端


2
手姿 下女や丁稚が介抱に まだ夜をこめて明星が栄
屋を 出ればいつとなく 誰が松坂に小比丘尼が えい/\/\/\/\/\
嶋様紺様羽織様十里様 中乗様遣(やり)ていかんせはうらんせ
投げさんせ下さんせ 晩の泊りは空頼み 雲津の川瀬 二世
三世 かたい薬師の清水過ぎ 津の町続き長々と 長野
とよく野千貫松の 松の千年を契るは愚痴よ 竹の一夜のあふせ
も嬉し 友に白髪の妹背の中も はじめ寝た夜は恥かし物よ

ヲゝいとしらし可愛らし 可愛らしげな小娘の 帰りの旅は急がれて
心も 関の追分に 暫しは息をつぎぎせる 扨も見事な ソンレハ
乗りかける馬よ ふとんばりして跡づけ付けて 都登りの三度笠 丁稚
の長吉下女のりん 目早く見つけてソレそこへ 隣の帯屋長右衛門
様 遠州から今お帰りか お半そなたは参宮じやの アイナ 念願とゞ
いてよい所で お目にかゝるも参宮のおかげ いかさまよいつれ
いつしよにと 打つれ越る坂の下 驛路の鈴にあらね共


3
くもる鈴鹿の風景は 絵にも書れぬ筆捨山や 間の土山雨も
なく 日和つゞきの春げしきうまい道づれ仕合せものと 水
口々にうたふ声 おしやれ女と名はいやなれど 夜あけも
宵も恋の昼 コレとまらんせ/\ 夜さのちぎりと引き
とめられて 都娘と名を立られて 難波の梅の香も知
らず コレとまらんせ/\ 露の涙にだきとめられて 日数をこめ
し女(おなこ)なび 足もとおもき石部の宿に 泊り定めて 

 石部宿屋の段
「夢結ぶ 石部の宿の出刃屋は定宿 とくより 泊る長右衛門お半主従
旅草臥 水さへ寝入る丑満過ぎ 見せの間に寝る亭主九右衛門 そろ
/\起て帯引しめ 女共/\ サア/\起て釜の下炊付けよ 七つ立のお客
が四組 寝過して叱られなと 家業を精に居間の方 下女を起しに入
にけり 次の間より逃げ出るお半 長右衛門様/\といふも泣声半分に障子を明て
一間の内 逃込む音に長右衛門ふつと目覚まし お半何じや 寝耳に突抜くけふとい声


4
こはい夢でも見やつたか コレ目を覚しやと撫で擦れば イエ/\そんな事じやない とつ
ともふ長吉めが参りの時から 色々といやらしい事斗いふて 泊り/\でじやらくら/\ 其
度々にりんをおこして叱らして済ましたが あすは京へ是非共逝(いぬ)る 今夜の泊りが恋
の切羽と 無理やりな事せふとしをる りんを起せど今夜に限つて目が明かず 漸と
突退けてどふやら斯やら助つた 憎てらしいと腹立ち涙 しやくり上たる告口に ヲゝそ
りや腹の立つは道理じや がアノ長吉はそなたの爺(てゝ)御 次兵衛殿が存生から 不便
がられた子飼の丁稚 殊に目出たい参宮の下向 もふ堪忍してやつて 逝だと必ずそん

な噂 歯ぶしへも出してやりやんな 堅い母様のお石女郎が聞かれたら あいつは直ぐに足が
あがる 夫レも殺生 内でははたに目が有て どふもする事はならぬ程に 了簡をして
やつて サア/\往て最(も)一寝入り仕や ヲゝいやいな 寝間へいんだら又どんな事しおろやら
お前の蒲団の中へ入れて とつくりと寝指して下さんせ 長吉つらにかゝつて
ろくに寝ぬのでわたしや寝ふたい 如何さま道理 ア子供の事じや そんなら
爰へはいつて寝やと 一つ蒲団に仮枕是ぞ因果の始めとは 結ぶ神も白
紙の障子引立て 又寝の床斯共しらず長吉は鼠逃した猫なで声 お半様


5
/\ もふ/\転業(てんかう)仕やせぬ程に 早ふ戻つてねゝさんせ エ エ 是はしたりとこへ這
いつて居やんすぞいの エゝわしが思ふ様にもない 夜ふけてそないにふはさはするとツイ
風を引くわいなァ といひつゝ尋ねて エゝ爰じや 大から長右衛門様の枕元へ アゝ何にも
告げさんせにやよいが様子聞かふと窺ひ足 一間の障子に耳を寄せ ヤヤ ヤア 
こりや得ならぬ音がする 合点が行ぬと覗いて恟り 猫の爪研ぐ破れ
より身をかきむしり立ちずくみ気は上づりに鼻息あらく立退く足もえぢ
かり股 サア/\/\/\ ぞんの外(ほか)な事みしらした 前髪のおれを差置き よい年からげて

初物を 賞玩するやつもやつ 据膳する?(がき)もがき ヘエゝゝエゝゝ/\體がもへて腹が立はい
腹斗か何も角も立はいやい 秋風寒く身にしむも 今の恨みは長掘と 人目を包む
頬かふり 隣の宿やはまだ寝ぬ騒ぎ おじやれが歌は古手屋八郎兵衛 惚れたお妻を
香具屋に寝とられた其腹立ち 二人を切に出た鮫鞘 鯉口くつろげ落し指し
早初夜の鐘ゆびおれば イヤ/\切てはこつちの首も飛 此意趣をはらす
近道 けふ昼聞けば跡付けに入て有る脇指は遠州の大名から研ぎを請取 預つて
来た棒鞘 すりかへるによい隣の騒ぎと こて/\引出す跡付けの 恐躾(??したは)の小口


6
解きほどく 悪事は壁に耳かきの先をゆがめて錠前を 何の苦もなく取出す
棒鞘 手早に己が旅差の目釘すつぽり入かへる 身は又刀の錆屑と 成る
とも何と渋紙を 元の通りにしたゝめる 時しも勝手の女子共 サア御膳
がよござります 皆起きなさつてお手水と 呼はる声に長右衛門 お半も帯しめ
立出れは りんは目をする草鞋の拵へ 丁稚はしやなぐる脚絆の紐 表へは馬が
くる きり/\しやんと持て出る 膳部の麁抹(そまつ)はお心安さ つんとあがつて下さん
せと おじやれが挨拶馬士(まご)が歌 馬も嘶(いなゝ)く東雲の 眺めと「いふやらん 

 

 

 

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東海道五十三次の内  石部

 

  三田村鳶魚著・芝居と史実 「桂川連理柵」