仮想空間

趣味の変体仮名

豆腐百珍続編 奇品

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536546

 


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 奇品

五十五 小野田楽 (長方体の図)方(しかく)に條(ほそなが)くいりて薄醤油つ
    け焼きにして黒料酢(くろぐはす)をかくるなり○黒料酢の
    製鳥麻(くろごま)七分に昆布のくろ焼き三分よく酢にす
    り合わせ山椒の粉いる

五十六 煮取でんがく 煮とりを白味噌に等分にして
    よくすり合を常の田楽の如くにす○煮取と

    いふは鰹節を製る時の液汁を煮つめたるもの
    なり畢竟鰹の膏(あぶら)なり土佐其他も処々
    より来るなり

五十七 岡本とうふ 柔軟なる豆腐を全ながら少し
    水をたらし薄刃にて角を幾次もさごとり
    まんまるに玉のなりにし鏊子(くわしなべ・中華鍋?)に油をひきいかに
    も徐々に転し焼にす是焼き豆腐のずいぶん柔軟な
    るを賞翫する調製なり尤もとりあつかひそろ/\と
    砕けぬやうに意(こゝろ)を用ゆべし さて数十ヲにて十


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    人分(まえ)を煮んとおもはゞまづ二十ほどもこしらへ焼く也
    是は焼き又煮る中(うち)に砕けることもあるゆへ余分を
    用意する也よきころの鍋を土鍋にても二十な
    らべたて一つづゝ入れ一どに煮る也○出し汁に
    薄醤油の加減にてよく煮たゝし豆腐を入れ煮る
    大寧楽(おほなら)茶碗へ一つづゝよそひおろし大根おく
    ○岡本三右衛門といふ人の調製なり

五十八 奈良漬とうふ 豆腐さつと茹でてよくしぼり焼き
    塩と葛の粉とをよくすり合せをき○奈良づけ

    の糟へ方円(しかくまる)をかまはず梃(ぼう)の如き者をさしこみ引
    出し復(また)その梃の頭(さき)へ布ぎれを纏(まき)かけ再びもとの
    穴へさしこみ布をのこして抜とり右のとうふを
    つき入れくちをねぢふさぎ糟をおほひをく也
    出さんとするとき布ともに引出しよきほどに切也

五十九 一種卵とうふ 豆腐をつかみくづし細かな
    るすいのうにて濾しさて酒一合に水二合にて
    煮る也尤も炭火にて三時(6時間?)あまり煮れば右の濾し
    たる豆腐一つに混(よ)るなり だし醤油の加減し


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    金匙にてよきほとにすくひ盛る辛味みあは
    せにをく○前編「廿六」卵とうふあり
    此と別なり

六十  源氏豆腐 大きめのサイコロに切り笊籠にてふりまはし
    角とりて中華鍋に油ひくかひかぬくらいに少しひき
    転がし焼きにして芥子酢の赤味噌にてみそころばしにす

六十一 女郎花(おみなへし)田楽 胡椒醤油のつけ焼きにして蒸したる
    粟粒をふりかけ出す

    「三十九」粟を用ひぬ製を却ってあは豆腐と
    名付け今粟を用るを敗醤(をみなへし)といふ実(まこと)に
    好事家(かうずか)の趣向なるべし形容風味(あぢはひ)あひ
    おとらぬ奇品なるかな

六十二 あやめ豆腐 豆腐を布に包み水をしぼり生   
    麩を等分に合わせまぜ復(また)布に包み蒸しさま
    して形容(かたち)いかやうにもきる 醤油しほにて
    煮て山葵味噌ををくるなり ○山葵みその製
    は前編「八十一」茶とうふの下(ところ)に見ゆ


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六十三 紅とうふ 其製一家の秘にして世に伝へず

六十四 真のとうふ とうふ水けないに塩をふりかけ
    暑(しよ)の時分には三時ばかり冬ならば温気(あたゝか)なる所に
    一昼夜をきつかみくづして油にて炒る前編の
    「十」雷とうふの如くす○おろし大根 唐辛子
    白葱のざく/\をく又一種の風味なり

六十五 腐乳(とうふじい?ゝ?) 乳酒(しろさけ)に麹を入れ臼にてよくひき さて
    紅麹(からものなり)と山椒の粉を入れ 紅麹を容易(たやすく)え
    がたければなきもくるしからず 前編「十五」のお
    しとうふを中くらいのサイの目にきり塩を盛り 塩消ゆる
    を右の酒に二十日あまり漬け置く

六十六 同 醗醅(もろみ・さけのもと)に醤油少し加へ柚子の皮をいかにも細く刻
    み入れ ○おしとうふを大サイコロにきり塩に塗し
    七八日をきとり出し蒸して放冷(さまし)たるを右の 
    もろみに二十日あまりつけをく


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六十七 又 右の製にして蒸したるを酒糟をみぢんにたゝ
    き酒少しと醤油少し加へ糟一層(へん)とうふ一層な
    らべ又糟一へん豆腐一へん如此(かくのごとく)幾層(なんべん)も漬けを
    く寒節にしこみ土中に埋(うづみ)をけば翌年の夏
    までも貯(もつ)なり

六十八 小倉でんがく 揚げ豆腐一方をきりそぎさ
    て煮たる粒小豆をぱらりとのせ串にさし
    生醤油のつけ焼きにす○おろし柚子をふりかける

    ○揚げとうふを胡麻醤油のつけ焼きにするを
    蘭若鱒(てらます)といふ

六十九 千歳とうふ 羅紗(ぬのめ)をさりあつさ六七分にきり
    松毬(まつかさ)の如くきりかたを入れはなれぬやうにし
    湯煮す 尤も割烹(ほうてう)手ぎわものなら羅匕にてす
    くひ器へよそひ青味噌に独活すり入たるを
    さらりとかくるなり みそは切目へ入りおのづから
    松の香気あり
    △とうふを(上部ギザギザの山型の図)かくの如くきりて上へ葛粉ふり


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    しばらくをきて湯煮するをいら高とうふ
    といふ調味好み随(しだひ)

七十  松乃山 焼豆腐を径(さしわたし)一寸四五分の平円(ひらまる)にきりて
    焼き 平丸とは玉の形にあらぬ平扁(ひらた)き(平らな円柱の図)円の
    こと也最も焼きたてに青海苔のとろろ汁をざぶり
    とかくる也青のりおほく入るべし○前編「四十七」いも
    かけ豆腐を味噌にしたる一製なり

七十一 ころも手(で) 前編「十二」凍(こゞり)とうふの下に見へたる

    速成凍乳(はやかゞりとうふ)を鰹のだし醤油にて煮るなり
    さて卵のふは/\をざぶりとかけ胡椒の
    粉ふる

七十二 一種の沙金とうふ とうふ水気をしぼりよく
    すり烘栃(?ぎおんぼう・柿・干柿?)を十分一まぜ猶よくすり合せみの
    紙を板へしき右のすり豆腐を薄くまんべん
    にしきのべ中へ生姜味噌に白砂糖を加へたるをの
    せ紙ともに包みくゝり湯煮して紙をはらひ用ゆ
    ○前編「三十五」沙金とうふの別製なり


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七十三 鰒魚(あわび)とうふ 「四十二」うづみとうふの下に見へたり

七十四 紅葉とうふ よく水をしぼり饂飩粉よくすり
    まぜ○唐辛子のしんとたねをさり酒にて半日
    ばかり煮て細かにはりに刻み生姜のはり刻み
    少しと二品を右のとうふにほどよくまぜ合を
    一丁の大きさの方(かく)にとり全(まる)揚げにして小口切に
    し蒸してふくさ味噌を水にてゆるめたるを
    温めしきみそにする也

      右の唐辛子の煮汁を味噌すりまぜ一種
      の唐辛子味噌にすべし辛味甚だしか
      らずして妙なり今こゝにあづからず
      といへども因みにしるす
    ○すり豆腐にうどん粉と太白砂糖少しすり合
    せ大納言小豆の煮加減よきを粒にて混ぜあはす
    右の製にするを冝春花(さくら)とうふと名つく

七十五 芝蘭(しらん)豆腐 白胡麻をよくすり白味噌を入れ
    またよくすり葱(ひともじ)を青白ともにいかにも細かに


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    みぢんに刻みんをよく/\すり合せ上々の
    古酒にて和(とき)ゆるめ煮る也 味噌七分に葱三
    分のつもりにすべしさて豆腐よきほどに
    きり煮加減よくしてしき味噌にしおろし大根を
    く○味噌かけ又しき味噌の類最も多しと
    いへども今葱を味噌にすり合わす此調整の
    一趣向なり

七十六 鰻鱺様(うなぎとうふ) 浅草海苔を板にのべしき上へすり豆
    腐にうどん粉少しすりまぜたるを厚さ三分ほ

    とにのべはゞ二寸五分にきり胡麻油にてさつ
    と揚げ串にさし山椒醤油のつけ焼きにするなり
      凡べて浄饌(しやうじん)の物を肉物の形容にしなす
      こと世間往々に用ゆ畢竟鄙劣(つたなき)しわざ
      といふべしかれども前編此編とも
      味はひ頗る佳なるもの二三をあけて
      百珍のかずに備ふ

七十七 紫とうふ 水をしぼりよくすり紫蘇の葉
    をすりまぜ紅粉(べに)を少し入れよきほどにや


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    り蒸す調和好みに随ふ

七十八 菜花飯(なたけめし) 「九十五」豆腐飯の下に見へたり