好色入子枕 巻の一(一)降らぬ日もぬれる男

 

 梅川・忠兵衛のおはなしです。

 

読んだ本 http://mahoroba.lib.nara-wu.ac.jp/y05/html/1049/index.html

 


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右頁 これより前、読めましえん。

 

左頁
好色入子枕
  
  目録

(一) 降ぬ日もぬれる男 悪性のとめ薬  呑汁は母の涙
(二) 燃杭に緋縮緬   悪縁のほれ薬  呑汁は別れの立酒
(三) 首計でも君様   悪事のおさへ薬 呑汁は末期の水

 


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好色入子枕巻之一
 (一)降ぬ日もぬれる男
四十二章経に世学感二因果一ヲ断二男根一ヲ好色短命の相
をんなにほれらるゝ男痛入まいらせそうろうその頃大和にかくれも
なき増田忠左衛門といふ大百姓舛のうへも八合の身体(しんだい)め夫
子とて男女二人しも生つきうるはしく惣領は忠兵衛と
元服の春ひたひより色道に身をしづめ諸げいの
きようさ連哥はいかい打囃子茶の道もすぐれて
ことに手跡の見事さわけてかな文かき筆さきの
たつしや口さきのこはさ女子に気に入かたきを覚え


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あたりほとりの娘あるひは後家をたらし是に心をとられぬは
なし 有時忠兵衛俄雨にあひて袖足にはしりゆくを家々
よりむすめ中居うばめしたきまで一軒/\より傘(からかさ)を
持はしり忠兵衛にさしかけかさをさそなら春日山是も
むすぶの神のちかひとはやし物にしてをくりける とぶとりも
おとす夕兵衛が色とり在所なりひらの名にたちあらゆる
ことは仕尽し もつたいなくもぬれにあひて心も折も土用干
六月中旬空も銀屏風とてりつめ嘉例の虫ぼし忠兵衛が
方にも在所にはめつらしきいしゃうをかけならべ妹がよめ入
まへの仕込松のちらしにひな靍は祝儀をいはづそめぎぬ

をし鳥のもようはにいまくらのことぶき蚫はよけて貝
づくし金糸にぬはせあさぎもよしやこいむらさきしゆすや
ちりめんべにがのこ白りんすに虫づくしあふぎながし秋の
草すそに山道うらにひしがき其外かずかきりもなし
忠兵衛がへやの土用ぼし山も里も男は気さんしまる
腰のものいくこしもぬきそろへ着いしゃうそこ/\に
取みだし 扨又つゝらより反古(ほうぐ)山のごとくとりひろげて
ひとりわらふてながめ のかずおもへば此年月女の方より
かよはせ又むかしを今におもひ出し此ぶんていはひたすら
われをこがれついに一夜のまくらもかはさずむねの火の


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ねつびやうとなりて世をはやくもさりしかはいや水引に
とぢたる文は六道山のかぢといふうかれ女つとめを外に
なしてしんじつの情千年もはなれぬ心を紀国に請出され
其くせ世を十徳でくらす大尽心ならずも一たんかの手に
わたり弐百両のめうがのために四五日はふさいでつとめ
其儘乱気と見せてあひそのつきる事ともに手をきり
身をかげにしてそもし様のふところに入るとねんころに斗
つくし二とせあまりになれそ一度のをとづれもなく
つとめ者のいつはり今にはしめぬことぞかし おかしきは
川ばた与作がむすめあり/\と男の手ふびんや無筆と

あもへば心根をおもひやり一度のしやひさへあるにつきあかり
のりんき心これもうるさやいろ奉書のすさみはとなり
りやうの庄屋の後家おほしめしもはつかしくとはりちぎ
なる筆の打つけ女房ひでりはゆくともあんなひしたい尻
をなにせうとかさねての文は火にくべて見るにけふりの白に
四五寸の水牛のすがたをあらはすこれもふしぎのひとつ
見る手もこはや/\此文はむかふばぼ茂助といふ下作の
女房道ならぬこひと云もうるさしともに木のそらへあげんと
おもふ心ざし一生密夫(まおとこ)はせまじき心のたしなみ手
にもふれじにかさね/\の玉づさぜひなく人づてにほつと


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挿絵

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に内証を申せしにそのあけの日女房はつゝかなく茂助か家出
してわれにだん/\のうらみ入むことは後にてそしれ
其外日帳日文くりかへすもつきずくろかみはつなぎすてそぎ
ゆびなま爪血文せいしの土用干おなじかべとなりに鑓長刀の
さやをはづしこれもけふのむしぼし候いしよたゝしき牢人
ことに美人のひとりむすめ中将姫のさいらいかともおもわれ
大和中の評判これも忠兵衛と人しれず申かはしてしかもふか
かりし此娘せいじんの後名あるいしやのかたへえんにつけよと敷銀百
両いしやは女房の楽をするものと母のゆいげんきりやうといひ
敷銀といひ色欲の(しきよく)のふたつ鑓つくほどにえんぐみのいひ入むすめ

おきちきくもきのどく忠兵衛とわけもあれば外心は
なく背ののびるをわれときのどくがりまゝごと石なごなどに
ほんの娘らしうつくるもおかし 此わけをしつた人の申聞すは
我を見ぬこひに申かくるもわづかの敷銀におもひつき
つたなき心底つく/\おもへば此銀なくばひと口もえん
くみのいひ入もきくまじきとあどなきからよしなき心
付ててゝおやのるすを見合ぶんこの鍵のあふをよろこび
折ふし雨のふる日かの百両をぬすみ出し井戸へすてふか
をとのせぬところへとおもてを見ればてゝおやはじめより
たちきゝしてお吉もうろたへ手に持し百両包を思はず


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藪越に忠兵衛がつぼのうちへほゝりける 元来てゝおや
いなば浪人むいき第一の男さま/\こはいけん見る目もうは
ゆやおきちはこひもはじめぬすみもはじめ敷銀をぬすみ
出せしいひわけもならずきえいりたき心ばかり親のめを
ぬきいたつらはうたがひなし 我ものながらやす大事の
事と何のいひわけもきかず日頃のたんきにまかせむね
打そつとあてしに女心にきられたると心得そくざにいろも
かはりみやくもたえ/\゛あたりのものかけつけさま/\゛
かいほうすれどついに浮世の夢となりけるお吉がしのひ男
忠兵衛と名にたち百両の今も忠兵衛がつぼのうちに

ありとあしくとり沙汰してけがなからもおきちがさいご
これみな忠兵衛ゆへととし頃娘子どもをたらされし
人々このせつをよろこび在所をおひ出さん相談忠兵衛夢
にもしらぬ難義おや/\の耳にも入り世間の手まへあれ
ばすこしの内も所にはをかれぬしゆび勘当ぶんにして
内証はしるへをたのみ大坂淡路町亀屋といへる方へ
しらぬかほにて養子につかはしける其年は此一か二か
師走の雪もさふく母の情の小袖一つ袂の内に金子十両
左の袖に西大寺一つゝみなくも
               なかれず