好色入子枕 巻の一 (二)燃杭にひぢりめん

梅川と忠兵衛の出会いは偶然だった。

 

読んだ本 http://mahoroba.lib.nara-wu.ac.jp/y05/html/1049/index.html

 

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(二)燃杭にひぢりめん
近年家質といふ事はやり代々所持の家屋敷を代銀
弐拾五貫目に永代売渡し申所実正明白也表口七間
うら行弐拾三間但し町並東となりは誰西となりは誰と
悦なる証文に上我家に百六拾弐?五?といふ家ちん銀を
かいて太鼓ほどなる判をすへこれをはぢともおもはぬ世の
ならはせにそおかしけれ 亀屋忠兵衛養父の心にかなひ
自然と孝行あらはしあとさきのつとめかた始末にこゝろ
屋敷がたの用/\三度びきやくのうけひきとひ屋中居も

かはゆがりて忠兵衛なくてはとおもはるゝ程の志となし
一家の外聞その身のてがら今日家質(かじち)名代なで忠兵衛
ときりかへ家ざいのこらず隠居ぶるまひ帳切取まぜての
祝儀年寄五人組盃事。をはり打くつろぎ衣きかへる朔日
卯花もかきねに面白くさいて小手まりびじんさう色をつくし
をのづからのもてなし折から紙鳶(いか)のぼり世上にはやりさま/\゛
気をつくしたるおもひつき三井富山(とみやま)をさはがしきれ/\゛を
あつめ石たゝみは上町の屋敷方ひちりめんの達磨は中嶋の
苦なし中間もみの盃は天満の蛇(じや)但白綸子のたが袖は新地
の色亀屋鬼のかいなは渡辺すじ鴉いかはあはざぼりふうし文は


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新町の清盛が紙鳶百羽雀は行田さゝいがらは鼠三郎四郎
やまいかは上村吉弥大黒はいづくの寺のいかなるべし亀屋が方
にもきやくかたよりあづかりをきし孔雀いか御馳走にと上手を
えらみ町代の半兵衛にのぼさせける風もいか八合にもつて
したりや/\糸しやくるにくじやく羽をのし尾をたれ玉は穴に
ひかり舞遊ぶありさまこれにおされて数々のいかいつの間に
か引しほ何ものゝしわざか此いかの糸をきりわらふにえ孔雀は
にしへ/\とおちて其座の無興(ぶけう)殊更大事のあつかり道具この
紙鳶のおち所を忠兵衛したひ風もくるひてうから/\と空を
ながめ足もしとろに新町橋をわたり通り筋二丁目つち屋と

いへるつぼねの屋ねにまひさがり見物山をなして
うへでみたとはちがふてかくべつしほらしきさいくを
ほめ禿もはしり女郎もうかれけし人形のこぼれたる
ごとく爰にあつまり揚屋/\の上する女ご名とりの太鼓持
地震にもそんじぬ道具屋吉左衛門いづゝの重兵衛山口の
宇右衛門扇やのふたの源兵衛いばらきやの㐂入見えもせぬ座頭
までもさはぎ出てかよひじせばく忠兵衛狐つきのごとくに
なりて。おもはずけいこくにきたり つく/\おもふは我色に
せめられ命もあぶなかりしに他人の情親のじひふかく身を
こらしめにやうふの気がねをとり度々の参会伊勢講さか


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むかひの折節もとりかけのなかれ遊ひも乞食のやうにいはれて
さかひすじあるひは心才橋をもどりついに三年このかた
いろ町の地をふまざりしにおかしき紙鳶にひかれて
心ならずも此里にながれつきひとかたならぬ美形をしばしも
見る事いまだいんやうの神にもすてられぬかと袖あふぎを
鼻にあてゝ道中をなかめやりすたらぬは古の道たへぬは曲輪
の男だて文七時代の沓箱持ひよこ中間と名に立夜も昼も
ちう/\いふてあたまをふり忠兵衛がおとしたるいかに尾に
ひれをつけて喧嘩しかけしつた程の者はそばへもよらず
忠兵衛は上手者いろ/\しなをつけて紙鳶を貰ひもど

さんとするをさま/\悪口(あつこう)あるひはことはしりをとり
一日に三人づゝたゝくか なけるかとの願立いつゝの神か情
給ふべし 忠兵衛めいわくいかはともあれ身をひく心底
きかれぬ事もきゝながしあつかひてをしほにかへるなみ
打かけられては。きかれぬしないかもけんくはも。やぶれくち
二三本棒もひらつき男たては門よりそとへおひはらひ
さは/\の内にたれか忠兵衛をあたりのつほねへむりにおし
こみ。しかも梅川といふ女郎のつぼね男まさりの。たのもし  ←
き女つほね一はんの恋しりせんせいはいふまてもなし命の
親と忠兵衛は梅川がそばに。かしこまりはしめより喧嘩の


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右頁挿絵

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はなし烏賊をしたひ来たる首尾町所なとをかたり
色めかぬあいさつ梅川は人もしるほどのいたつら者 忠兵衛が立
帰るまひ。むくつけにして心ねはたゝ者にあらぬやつと見てとつて
あぢな所にかはゆさ出来てこはいけんくはのはなしはとりをき忠兵
衛にれんぼの風情いかなたねをまいて女にしたはるゝ男忠兵衛は
色道にたづさはる事ふつ/\たしなみ心の大願あいそなく
たばこのけふりに返事をさせてそしらぬ顔つき。ほれられて
いやといふ男めづらしく梅川はなをこぞりつとめにかざる詞は
おほく。まことはしなすくあくいろにいでゝすてられぬ恋路
釈迦でもふみこみ給ふ道忠兵衛も心のはり木をとりて


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うそならまゝよとだきつきあひ。たかひにあさからぬ中となり
て其後なを/\梅川かたのしみ男忠兵衛がいんくは女房
それも先の世のやくそくいまのわかれのやくそくはおそうて
明後日のたそがれどきと石金よりもかたき忠兵衛かこゝろ
もおほろだうふ。くれをいそぎて三度笠はあれど君をおもへは。帰り
あみ笠いかめしくつほねを出て。けんくはすぎての枝ちぎり木かた
をふつてぞかへりける