好色入子枕 巻の一(三)首ばかりでも君様

 

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 (三)首ばかりでも君様
商売は飛脚問屋身は恋の奴燃杭に火とは忠兵衛か身の
うへ無紋のぬきつむき小倉の帯も。とりをいて不断美男白ちやの
羽二重なこ屋帯あさぎぢばんと出かけ利休いんろうに
けし人形をならし黒ざめのわきざし。かへぞうりとりこいに
久介と闇はあやなし梅川にふかくのほり淡路町は下屋敷に
なりて身は色里へながれもの嶋屋を定やどして夜が
あけるやら日がくれるやらむせうといふをのになりて。おも
しろさが蛸じやと精進日も爰にくらして百廿匁の


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末社八人一角つゝにきはめ座頭にははなしばかりをさせ
太壺の節季をきゝ揚屋には晦日ばらひ女郎には食好み
させ。きりやうでこひはせぬと引舟をよろこばせかぶろはあく
ほどいねふらせやりてには養子むすめをきもいつてやり 上する
女子には芝居はなしをしかけ。あんまとりをこのみ。かご
には浮身をのり門ばんのひきがらにたばこを吸付はざとたばこ入
七九寸をわすれかさねていつぞや御失念ものとわたせばはて
よふごさると人のよろこぶいほとのありたけ忠兵衛様の御用なら
ばとあまねくおもはれのほしたてる大尽はため口はやし
しまつしてやる客はなをやまずなさけのざいく?忠兵衛も恋

のおも荷飛脚中間のとりさた世間のそしり雑用(そうよう)の
いらぬ四位の少将も九十九夜めにはほだされて朔日から
朔日まで外に顔を見せずかりにも打こしを。きらひ
句づくりもかまず。つゞけがひに目もはなも。あかずんの
ごとく楊枝にもかゝらぬ不首尾家質も立およきする程
借まし名ある道具もあげ銭のつもりに梅川も節季を
きゝあふほとの中。嶋屋の算用のこりに梅川も着いしゃう
小だ(多)んすまで質屋のたんざくにかへて衣桁(いかう)もさびしき
神無月忠兵衛ぎりあひの銀を才覚して五百目包も腹
切銀口をしき咄たら/\そも/\あひなれて一年半には


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たらず十三貫目の仕すごし算用すればわつか百両
あまりなれどもすきし師走の空さためなく大尽
銀をかつて。そのたてかへのたひ/\に五割八はりの利足
将棋だほしのごとく一日心のやすまるまもなく皆そなた
につかひすてたやうにおもはれ。かなしき中に又嶋屋の揚銭
そなたのせわになり。たとへのことくめ郎を裸(はた)にしたやうなる
いきかたぎりのうへの。きりのかね男すてゝもと思ふから。さる
屋敷方の御用金江戸へ行座頭の官銀是二口をぬすみ 此
せつの間にあはせ中頃には心あても銀もあれば是をたてかへ
しはしの内のいきつぎと此中にない笑ひがほにてもの思ふ

折から。人はかしこくひきやく中間のふすつき近所取沙汰聞合て
かの金をとりかへしに来り尤壱匁もちかへす。かねはあれど
侍の付たる符をきりしあやまり大からならず大口小口
もうこき其日はあつかひですめど主持の事屋敷の
首尾次第侍のあやまりになれは。おれが命もないやく
そく。町内のさはぎ亀屋へ肝煎(いつ)た人?(に?)難義をかけ此うへ
は。一寸きらるゝも首きらるゝもおなしやみぢと諸方を
かたり。手にさはるほとの銀をぬすみ出しけふの今そなたを
身請して門をいつるより身は日影もの。せめて二三日夫婦
のかたらひをなし其後は火にも水にもやいはのうへにも


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すつる命とすこしは涙の風情 梅川は生たる心地もなく
せつなる心さし舟にも車にもしていている男心ならぬ
身請三百両にきはまり。いとまこひの盃いはいは万年亀屋
のおく様となふらるゝも此世のなごり。をくらるゝ妹女郎の
めいわくわかれのはしより乗物をもどし曲輪のせきを
あとになし浮世のせきこゆる朝がほの雨にやふるゝごとき
命ふたつつなぎ。すぐに其夜に大和路さして行道も涙に
はかどらずひきやくのやうには見えざりきしるへの人を
たのみ四五日はかり枕絵図をもつて忠兵衛梅川をたづね
まはれば爰も心にかなはず闇をまちてうらなる身を

挿絵

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捨(すつ)る藪をぬけて牛の鳴くこえもすごく。かはいや梅川はこは/\
にげのび。かたいきになつて命もあふなく忠兵衛も心よはり
あんじわづらふ折節見えかくれの追手大勢はしり来たりなんのくも
なふふたりの者縄めのはぢに及び大坂へつれ来たり御せんぎのうへ梅川は
をしからぬ命をたすかり忠兵衛はそのとがのかれず極月五日めいどの門出
千日寺にひかれ最後の黒小袖梅川が形見と人の申せしは。やまとを追ひ
出されし時母のかたみの小袖。今はの体もはだにはなさずついに其野の露
草となりぬ。其後梅川は尼になりて袖は墨染伏見のかた里にあん
じやをむすび昼夜をわかず回向のかね殊勝にこそ