仮想空間

趣味の変体仮名

心中宵庚申 上の巻

 

読んだ本 http://www.enpaku.waseda.ac.jp/db/index.html

     イ14-00002-829

 

2
 心中宵庚申
花のお江戸へ六十里梅のなにはへ六十里 一日五里のあひのしゅく都はな
れてとをたうに はま松の一じやう主あさ山殿の御ざい国 町屋/\のにぎ
はひあきなひにたゆみなく 武士はきうばいおこたらず日ませ/\のおたか狩
上一人のはげみより犬もゆだんはならざりし お家きうでんの弓頭 さかへ郷左衛門
むそじのしはのよるひるなく おそばさらずの野出頭けふもたかのゝお供にて るす
のやしきは大手の見付おたか帰りの御入とて ひるたうばより先あんない?人わか
だうお出入の町人迄 ふつてわいたるいそがしさおなりざしきのかへだゝみ 床にかけ
物だいすのほこりはいつのごふ お庭のさうぢごつき茶引うす茶ひく さだうは
ひき木にもまるゝ げにまことわすれたりとよ 門のもりずなに者ははらすにもま


3
るゝ だい所のいた本には茶柄のふちきよてうの耶麻こん立は三じう九さいおちたさかなをぎんみ
のやく人 こりやめでたいを三枚におろしわさびはやを屋が受取 なんきんのさらまきえの
家具 ?んつくしたるもてなし也 くみ下の二ばんば人金田甚蔵岡ごん右衛門大はしいつ平
打??たかけつきざかりたてかけもんこのあたまがち すそはおるすのかつ手見廻 いつれ
も御くらう/\ 今日おたか野よりすぐおこしけらるゝとな きうなおなりでさぞ取込
おりやうりぐみもふできたかはやく/\ 我々も幸ひばん 用あらば遠慮無用とあい
さつにこざしき口より小姓山わき小七郎 いけ花くずを花ぼんに 花の露うくおがみ
ざかりする/\と立出 是は/\日ごろの御こんい おそろひなされての御出 主人郷左衛門
さぞまんぞく たゞ今の殿様せんだいとちがひ 何角に付てかるいお身持かへに馬乗かけし
けふのおなり 主人はお供我々がたうわくさうぢもそこ/\ 書院のひつかかざり石

いけ花も手づながら間に合するも奉公御ないけんの上御なをし下されと詞もふうも出
すぎざる 若衆とねりみすのあぢはやしきに極りし 金田甚蔵岡大はし何が/\ 君のお手
ぎはひがこと有ふか 去ながら人に心をつくさせむげない心が一つのきづと めつらも明ぬ取
込ぶひたひでにらみつ袖引つ 手の中つまむも一むかしふるいしかけがいなか也 坂部郷右
衛門いふくのきらも世につれて いましむるとはなけれ共 上にしたがふもめんばをりにこんもゝ
ひき たか野出立のりゝしげにすた/\と立帰り けらいはさうぢはできたか ヤアいづれもお
見廻くはぶん いやさ/\年はよるまい物 いは松むらかんすいじの門前よりおいとまうけ たつた
一とびと思へ共きぢやうも足も心斗 去ながら殿には今一こぶしあそばしお入有ぞ せく
ことはあらな 先おこん立を一けんとなが/\と云付たる なかばよみさし大きにたまげてこりや
なんじや 殿の御ぜんは一じう三さいと先達ていひこす所 三じう九さいの魚鳥づくし


4
身が身上を板本で切はたくか此こん立は誰がさしづと 以の外のふきげんにあたまもひ
かりちらかせり 小七郎しとやかに 憚りながら此義はお侍中のさしづならず 二三日いぜんより
お長屋にとうりういたし?ある大坂の住人うつぼ 油かけ町八百屋半兵衛と申て もとは
御当地えん州生れ私とは腹がはりの兄 様子有て五さいの時大坂へ立こへ 町人に奉公しあき人の
やう子と成 今の親は八百屋伊右衛門 じつふ山わき三左衛門は私が生れし年相はて 当年
十七年親のはかへのねんき参り 私こともなつかしう 召つかはるゝ御主人へ御礼も申たしと とう留
いたせし兄半兵衛 商売はやを屋こと更料理きゝ 幸と今日のおこん立をいたさせしぶ調法は
私 おめでたき折から御きげんをなをされ 兄へも御あひ下されかしと恐れ入たりあやまりに 主
人のかほも打とくれば 是半兵衛殿よきおりのおめみへ おこん立もしなをす為はやふ/\と
よび立り こえを力に兄半兵衛玉しひは武士なれど 三十余年町人にわざもすがたも

しみ付し 料理ばかまをかりそめに御前といへば気をくれ たい所の板敷けづま付くやらすべ
るやら はふ/\はひ出手をつかへ お国の御かふうも存ぜず おこん立をいたせしはぶ調法 先達てお使に一汁
三さいとの御意なれ共 大坂くらやしきるすいがたのふる廻でも ずいぶんかるいが二じう五さい けつ
かうにはだん/\ てうせん人のもてなしみだうへもやとはれ 七五三五々三 山かげ中なごんの家の切
かた 料理一通りは承りつたへし故 申ても7お大名のぜんぶ よもや一じう三さいとはお使の聞
あやまりと いはれぬ念をいれ過しはなをぶ調法 おこのみの一汁三さい 我々が手ぎはで
きり/\しやんと切立たき立 あんばいよしの御きげんよき 御意を私だけつけ竹の子なまにかはら
ぬ仕様がひみつと 口も料理のあんばいかげん 郷右衛門打笑ひ ムゝ山わき三左衛門かぜがれなれば身
が為にもけらい筋 親のべうさんきどく/\ えうせうより他国にそだち 当御代の御ふうぎ
しらぬはことはり 料理は勿論 いるい諸道具すべてむやくのついえおきらひ 上方でもやうぶんは


5
ないか 去年十月高師山のおかりば 身が相役佐野文太左 始ての御供にちりめんのはをりきめ
されたを 殿がじろ/\と御らんなされ ちりめんは風にしぶきめんどうな 重てをけろ是をくれると
御意なされ お手づから下された召がへのもめんばをり さしもの文太左はつとせきめん 其後此ことを
くふうすれば お供に参る文太左 ちりめんのはをりきめされふ様がおりない かねて文太左におしめし
合せ 諸家中の見る前もめんばをりを下されしは びれい御ちやうじとはなく をのづからおごり
をやむる一家中への御いけん それをさつせぬ御家中の二ばんばへ逹のざまを見よ こびき丁さ
かひ下の役者からつりを取えもん付 をのが身のぶんざいもしらず 一がいに殿がおしはい/\ともつたい
ないかへこと あやにしきを召れてもお大名 めんふくを召れてもお大名さいとう別当さねもりが
さいごに 錦のひたゝれはきたれ共 源氏をすて平家へかへり忠のぶし 心はよごれしつゞれ同然 又 
さゝ木源蔵は二君につかへずつゞれのかたをすそにむすび 頼朝の御代を待しは心の錦 今のぶしの

びれいをこのむはさねもり さゝ木がいやうをかうばしと思召す此殿の御かうせきは 下をくつろ
げ世をゆたかに いりかひをやすくせん為の御けんやく 武士はもとより町人のそちとら迄此をんを
わするゝな 朝夕の御ぜんぶも一じう三さい 酒も数を定められ三ばい限り 今日のおもうしも 
そさう程御意に入 こん立も云に及ず コリヤめしはあかまじりのひねくさいをすつくりとたかせ かき
立じるにこなのうかし むかふづけはおろし大根いはしなます やき物はむろのすいりそれも二切 引
てひねなすびのかうの物 扨ひらにはヲゝそれよ けらいい持せし山のいも是へ/\とよび出せば 五尺斗の
山のいも中間ふたりが持になひ 料理場の板敷へ こもをはなしてかき上れば 半兵衛よこ手を打扨も
づなし 御当地はいも所か一生の見始 大坂で見せ物にいたしたら銭かねのつかみ取 第一お家の吉さうな
ぜと申すに 今日は殿のおなりだんなの御出世追付屋真野いもからうなぎにおなりなされふと けいはく
ぬらくら口にうなぎの油とろりとのせかくれば されば/\けふの仕合 手下の百姓殿のおなりを


6
聞付身が帰るさの道料理にせよとてくれしは幸 けふの御馳走是一種 お身がじまんの包丁
ずいぶん切かたを出かしてくれ 頼む/\と詞の下おなり門のくはんの木の音 すは殿の御入とひしめけば
郷左衛門も次の間はかまあらためお迎とて出ければ 山わき小七丘大橋金田もつゞいて急ぎゆく
半兵衛料理に心はせくうつたりまふたり身は一つ うすばをつ取五尺の大いも三寸斗切とゝのへ ついかは
むいてちよき/\/\ くずじやうゆの出しあんばいにかたはいそぐ殿のお白いもおがみたし座敷口よりさし
のぞけば 御城主ももゝ引がけ上だんにつき給ふ 一間へだてゝきんじゆの人々たかぜう犬引せこ足がる けn
くはの小庭に居余り だい所口をおし通り長屋/\を休息場 おくには料理のかつ手を急ぎ 郷右衛門殿
の御ぜん目八ぶんに持出れば 思ひ/\にきうじの作法 お汁があはるめしづき 初こんの肴はたこの足一きれ当て
の引重箱 二こんめも御きげんよくお盃がかはつてひらのふた 有がたがためのだい引物 定の通御酒三
とんすひ物はからしゞみ 思ひの外のぶちそうに上には御悦喜おさめの盃 坂部もちやうど下

されて首尾よく 御ぜんはとれにけり 郷右衛門板本に立はたかり半兵衛をねめ付 今日の料理はいも一しゆ でつかい
所をおめにかくるが御馳走 どの様にきればとて五尺余りの大いも一寸 たらすに切くだくこんご道断 手討に
するやつなれ共他国者といひおなりの時節やしきにかなはぬ出でうせべいと いきつまつたる腹立は詞
ずくなにすさまじし 半兵衛ひざもうごかさず 是はだんなの御意尤覚えず 今日のお料理ずい
ぶん切かたに気を付 心一はい出かせしと一ふじまん 御ほうびはなされいで存じの外の御しかり 惣じて
貴人大人へは 何にかぎらずか様のめづらしき物おめにかけぬが料理のならひ 大名高家はお外様に
て 一度おめにふれられてはたくさんに有物と思召 りん国のお出あひにも 身が領内にはめづらし
き山のいも有などゝ お国じまんのお咄しのうへ ふとよこくより御所望の時跡へも先へもいかず 国
中を尋ても有合せず をのづから殿様をうそつきにしてのける そこを存じて常のごとくのてうみはだんな
へ御奉公と存ぜしに 御きげんにちがひは身のふ仕合 いか様尤御存分に遊ばせと どこやら詞のひつは


7
なし残る所がぶしかたぎ 郷右衛門口あんごりムゝ こりや尤 イヤ尤 あやまり申た/\ そちがいひぶんまつすぐに
御前へ申が又御馳走 やれ/\/\/\ 山のいもで足ついたと どつと笑へば 早お立とお供廻りがふり出す毛やり
だいがさたて笠大とりげ 乗物引馬いなゝき立御城内迄お礼の御供 郷右衛門もおこしにそひ くれぬ間の御帰
城と気もせきやうの「入日影 ざしきの仕廻は 侍かた庭のしまりは中間小者 やくめ/\に立わかるゝ
だい所には半兵衛一人包丁まなばしうすばまな板取かたづけ きせるくはへてふくいきに てつかいがしはをの
ばしけり 二ばんばへ共ばら/\と立より 拙者らは郷右衛門組下の弓役共 お身は山わき小七郎舎兄とな
早速の無心 弟のことを頼むもばからしけれど 前がみすがた神ぞつまさきよりぎり/\迄打込 毎日/\
しづの心なき玉づさ 奉公の代も五百目斗 身上を紙に打こんでもつれない小七郎 兄き ぜひ所望
申た是 ぐん右衛門がねまり申て手をつかへるこりやさ おがみ申すくれ申せとたぐりかゝれば甚蔵
いつ平コリヤ半兵衛 おゝとゆつたらむつかしいぞ とがたにもほれてが有 奉書代はおろかなこと

君にかゝつて一貫五百がういらうつんだ此甚蔵 ゆみや八まん身にくれろ イヤサ此いつ平にくれろふと
みゝぎはにかみ付ごとく悪風吹かけ眼もくらミ ぜんごばうずる斗也 きせるもはなさず半兵衛大あぐら
御城下のならひ衆道御はつと おゝといへば弟が首がござらぬはいの イヤサ当国は女のみだらは下々迄御せい
道 衆道にはおかまひなし 三人の内とれふなりと 玉しひすへて返事せろともやつくうしろに 小七郎
是迄うけしふみ一とだかへ半兵衛が前に置 兄じや人の手前も恥しながら かふ成うへはかくされず数
ならぬ私に御しうしんとはふり袖の身の思ひ出 忝いは山々なれど ひとりならずあなたこなたのふみの
? 無下にかへすも情しらずと受取ては置ながら 一通もふうをきらぬがいづれも様へのたてぶん
どなたにしたがふ心もなし 兄半兵衛の存ぜられしことでなし 此ふみふうのまゝに御返弁 おぼし切て
下されと 男色立ぬく詞のやさしさ 其いきかたに猶なづむとしみしたゝるに取廻せば 半兵衛見
かねハテサテ聞分けもないかた/\゛ なりこそ町人心は侍 拙者がめきゝでほれての内へやりませふコリヤ 小


8
七郎 装束せいと心をめにてしらすれば あつと心へうなづきて部屋に入ば半兵衛多くの文のうはがきよみ
ハゝア皆各々の名書 此くゝりの上書に 小一兵衛とはたがこと御存じないかととひければ 三人共口をそろへ 其
小一めは此やしきの中間 ヘゝエ慮外なげすめがやりをつたはとえせ笑ふ イヤそふでこざらぬ 此みちに
高下はない 其小一兵衛もよび出しならべて置て念者に頼む イヤ/\下主め 身などゝ同座に置
やつでない ことにるすやらつらも見ず無用/\といふ所へ 山わき小七郎白小袖にあさ上下 かくご極
めて座につけば 半兵衛は取あへず肴だいの三方に ぬきみ二ふり弟の前に置 ほれては四人ほれられ
手は弟一人 何かたへ進ぜても残る三人のうらみ 此兄は他国ずまい行末もきづかひ いやといはさぬ御所
望 れき/\のお侍町人ふぜいに手をさげてのお頼みのつひきならず 弟にかくごさせての死しやう束
うはべ斗のれんぼでなく みらい迄も小七郎不便と思召すならば此場にて指ちがへ 人のかまはぬみらいで
入念者わかしゆ サア弟をやる どなたなり共兄弟のけいやく/\と三人をねめ付る 思ひがけ

なきぬき身の盃 死装束にびつくりしてへゝん/\とせきにまぎらし身ぜゝちし ぐつといひ手もなかりけり
御門わきの長屋よりこんのだいなし すそ七のづ迄引からげ一ふり ふつてふり出すは 恋にこひとや小一兵衛
三人のはなのさき しりつき出してかつつくばひ 兄御半兵衛のお手前も シヤお恥しいべいながら 小
七殿にとんと打込二合半のもり切おだい のどにつまつてぎつち/\てきないこんでごはりまする 今日
君がお情をつん出して みらいではやつかれめを お念者になさるべいとは 有がたいやら かなしいやら セゝ/\/\
たうがらし五つ六つかぶつても こんなあつい涙は出ませぬでごはりまするで ごはりますると しらはを
取て立よれば 小七郎も引よせてすはやと見へしかたなの中 半兵衛飛入コリヤ 狂気したり小一兵
衛と二人をき右へ引わくる コレサかみ方のおだんな ぬかみそじるの御をんにかへたおわか衆 こゝでしなねば
心中が見へませぬ ぜひにしなせて下されと立あがるを引ふぜ 男気見へた 小七郎に誠のほれては
そち一人 あらそふ者が有てこそ大じの弟をころそふつで あらそひ手のないわか衆山わき半兵衛が挨拶


9
向?兄ぶんに頼んだぞハゝはつと悦び小一兵衛 お侍がたと同座のならぬやつこめが 武士にをとらぬ
玉しひゆへ けつかうなお若衆様の兄様とは忝い/\みやうがない 手付にちょつとほてくろしいこと御めん
/\ 半兵衛様も気をお通しと べつたりだき付こんのだいなし白むくに 黒白すいの兄弟也 岡ぐん右衛門
ほうかいりんきくはつとせき コリヤ下郎め 見ぐるしいをきおれとかたを取て引のくれば コリヤ何なさるゝ ムゝ
聞へた お取持の御酒が過たか ムゝがつてん/\ さすが二こくのお心がけはかくべつ やはらのけいこ遊ばすな ぶ
調法ながら相手と座興にもてなし ずつとよつて一あてあて引かづいてうんとなげ ハゝ/\/\ こりやそ
さうでごはりまするで ごはりまするとそらとぼけ 甚蔵いつ平たまられず一度によつてむなぐらつかみ
ぞんざい成小でつちめはうばいをなぜなげた 返報にすなかぢらせんと引立る 扨々お心がけのよい お前
がたもこりややはらか どりやお相手と立ひやうし 二人がいき合はつた/\とかかへせば板敷よりまつ
さか様 ハゝ/\/\こりや又そさう御めん/\といふをしほ三人ぐず/\おきあがり エゝどんな所へきうしにき

 

★以下赤字部分は正しくは中の巻の一部分につき読みとばすべし。 

 おそらく綴じ違えたのだと思う。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
?ふしらせんと思ひしに 此病はしなぬ気の取にくいしうとしうとめ持たおちよ むこ半兵衛もいそ
かしいじぶん 聞たり共じゆうにくるとは成まい あんじざするもふびんさたするなとの病人の気にもさ
からはれず かうらいばしのをば様ときは町へもしらせぬ コレ気遣しやんな京の御てんやくにかへて
から めつきりとくすりも廻り けさもかゆを中がさに三よそひ やまひは受取てなをすとのおい
しや様のうけ合は ほんぶくも同じこと そなたのかほ御らんなされたら いよ/\とゝ様の病はすつへり
なをらふ 嬉しい/\おめにかゝりやと有ければ エゝとゝ様はおわづらひかしらなんだ/\ いつからのこと
でござんすか ヤなんじやおわづらひしらぬか そんならそなた何しにきた 何かなしうてなくぞ ア
はつかしや又さられてとかほをしかくしむせび入 あねもおどろくかほに血を上 なふおちよ 五度三度の
むこ入よめ入も世に有ならひとはいひながら わるいことは?本にならぬ恥しい/\と口でいふ斗が私と
しつたといはれふか そなたもかる/\゛三度のよめ入 尤始のおとこだうしゆ町ふしみ屋の太兵衛殿


10
心ふじやうに身体を持くづし たゞすみもない様に成はてあかぬわかれ 其次は死わかれ互になんは
なけれ共 人はそなたのしんぼうかない様に さられた/\とひなん付 此度のよめ入も追出さるゝに間は
有まい わすれても嶋田平右衛門が娘のかざ下にいるなと 娘持た人々はより合茶のみ咄しにも
そなたのうはさ ま一度もどつては親兄弟 人中へかほが出されぬとはしりぬいて 火に入ほねをくだか
るゝ共帰るまい ヲゝかならずさられてもどるなと 念に念をつかふたこんどのよめ入 よふもどりやる
たと?お聞なされたら お悦びなされふぞお顔見せる折が有ふ かならずこは高に物しやんな
して半兵衛がいとまの状取てもどりやつたか いや跡の月半兵衛殿 てゝごの十七年のとふらひの
ため 生れ古郷えんしうのはま松へ もどり次第道具にそへいとまの状は跡から 先いねとわけも
いはずおなかに四月たゞもない身を しうとめどが手を取てかごに引ずりのせ むごいつらいと斗にて
?げくを見ればいた/\敷 子の有ものをおつとのるすひまくれるしうとめ 心に一もつ有はいの をば

むこながらそなたの親ぶんかうらい橋二丁目かはさきや源兵衛殿指置て すぐにこしへつき付るしかた
もにくし よい/\こちの人が京からの帰りを待てつめひらかせ たいていでいとまはとらぬ とはいへ世上のめうと
中 さるといふこと誰こしらへういめをさせるかはいやと なげゝばわつとなき出す声 ア高い/\障
子のあなたとゝ様のねいりばな 泣な/\といひつゝも つたふ涙のちすぢとてしんはなきよりあはれさよ
平右殿御気色けふはいかゞとつゝと入 同じむらの金蔵おちよはちやつとあねのかげ 見付られじと身を
かくせば アイ/\かくれまい/\ たつた今つゝみの茶屋で 大坂へもどりかごの咄しで聞た おちよ殿めで
たい さられてもどらしやつたげなと 口も気まゝのとはうなし おかるははつとよそよりも親の聞ミゝ
はゞかりて 金蔵御たしなましやんせ つんぼうはなし声びくにいふてもすむこと ちよはさゝれはいたし
ませぬ 親の病気を見廻のもとりおくにはとゝ様すや/\ねてござる めをさまして下さんすな
ひくう/\おなしくはいんでもらひたいと きのどくがる程猶こは高 おやじねてかおもしろいなんぼかくし


11
てもたしかなこと聞ています おちよ殿いくたびでもさられさつしやれ あれこれのむこたちが
ふみひろげた田地でも 百姓の女房には大じない おれが持て一よさもさびしいめはさせまい さ
られてもどつた悲しいと気をくさらし かならず女房ぶりそこなふてもらふまい 去春もらひかけた時
おれが方へござればよいに ほれかゝつた一念わきに足はとまらぬはづ 入りまい/\もどるといふも 此
はなにえんがふかいからじや おやじ殿にいひ込でけふからでも我々受こむ あねご大じにかけてもらひ
ましよと わめけば二人は死入斗 ひやす心のおくに手を打 かるよ/\あい/\/\なむ三おやじおきられた 金
蔵が見まふたといふて下され 又あす御見廻申そふと帰ればかるは腹も立 是々いなずとち
よをおもひなされぬか いや/\いふても大じのえんぐみ 日を見て申出そふとへらず口して立帰る
とゝ様おめがさめたかと あねがしやうじをあくる跡よりちよもおづ/\指のぞけば よぎにもた
れておきふしも なやみくるしき老の坂 たがかりすとはなけれ共 落くるしゝにかほあれて見か
     ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ★11の左頁へワープ!(前文「きうしにき=給仕に来」の続きになります)


て 酒もつてしりふまれたとはかまのこしのいたいかほ こらへてこそは帰りけれ 半兵衛ぞく/\小きみよく
?も手ぎはに小七兵衛 我は他国使なき弟がこと頼む/\ けふの料理の御ほうびに ふたりがことを旦
那へそせう けんへいはれて念頃さすか其中立は半兵衛が八百屋の神かけてむすぶ ちぎりぞ 

 

  上の巻オワリ。中の巻 へつづく。