八陣守護城  政清本城の段

 

 

読んだ本  http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/856587

参照した本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/856518

 

 

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3
 八陣守護城  八ツ目の切 (政清本城の段)
行先は 二重に建し思惟(しゆい)
の間 人の出入はとゞむれ
ど 秋を告る風のこへ
庭の 木草におとづれて

 

 

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4
すざくむしさへ物すごき
我本城へ我ながら 心 置
露踏分て窺ひ来たる
主計之助 隔ての垣に身を
寄せて 母の教への綱手

引ばすゞむしそれでとは
兼て松虫雛絹が手燭
たづさへ庭におり 母様
お越遊ばしたか イザこなたへ
とゆふしでの 神の結ぶの

 

 

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5
縁ぞとは思ひがけなき
主計之助 のふなつかしや
と雛絹が切戸押明走り
寄 夢ではないかと嬉し
さの跡は詞も泣ばかり

ヤレ音高し密かに/\ 先何
よりは父の身の上 余人を
遠ざけお身一人 おそば
仕へ有と聞く 物いみなりとは
心得ず コレ様子聞して下

 

 

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6
されと すかしなだめて尋
れど こなたは猶もすり
よつて アゝコレ申 久しぶりで
逢た私 無事にあつたか
かはらぬかと たつた一こと

おつしやつても 不孝の科
にはよも成まい 其お心
とは露しらず 跡でお別れ
申てより 勿体ない事な
がら とゝ様や母様を思ふ

 

 

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7
案じはどこへやら あなたの
事が苦になつて ほんに
寝た間もわすれかね
逢たい見たいと明くれに
こがれしたふて居る物を

聞入ませぬと娘気に 跡や
先なる恨み言 ホゝ尤ながら
夫は内証 今日国へ帰りし
は 我のみならず母様も
同然 湊口より魁せしは


8
父の安否を尋ん為 コレ
御病気に相違有まいがの
アイ別間の様子は母様始
誰にもいふなと口留成ど
そふおつしやればお食も

少なし 折々手箱の草
の根を 出しておあがりな
さるゝ斗り 亥の刻よりは
樓(たかどの)にて 御祈念有も只
お一人 ムゝ夫にこそ子細で


9
あらん 母上 お聞なされ
たか 委細は是にてきゝ
ましたと 思ひがけなき切
戸のかげ 出る葉末を見
て恟り 様子明せし案じ顔

母は娘を押しづめ 別間
に向ひ手を仕へ 都の御
所より上使として 主計ノ助
参上と 取次母の詞より
外に こたへもなき折ふし


10
あやしや庭の草がくれ
顕はれ出たる数多の鼠
コハいぶかしと三人がすかし
ながむる間もなく 透を
つたひて楼閣へれん/\

として入よと見へしが 俄に
人声烈しき物音 すは
一大事とかけ寄る障子
蹴はなす別間は燈火
も消て分らぬ真くらがり


11
数輩(すはい)を相手に政清が
或は捻首手足をもぎ
あたるを幸ひ人つぶて
投出す庭先主計之助
得たりと仕留る早足(さそく)の

働き 後にひかへしまつ川
玄番 政清やらぬとしつ
かと組む ふりほどいてがん
づか掴み 膝に引敷大声
上 ヤア鼡と変じ我居間へ


12
閑者を入しは時政の家来
忍びに名を得し鞠川よな
首引抜は安けれ共 助け
かへすは都へ使 我存命を
物がたれと 宙に握つて

悪いやつと 投越すからだは
堀の外 鼠となつて逃
さりけり 主計之助は父
の声 聞嬉しさに差寄て
時政云より父へのつかひ


13
何にもせよ 明しをてらし
御教書御披見下されと
縁側に直し置 ひらきも
やらず高笑ひ ハゝゝゝ此書面
見るに及ばず 日本無双

の政清を 味方に付ん何
どゝはあざとき計略 ヤイ
主計之助 儕生年十七
才 忠孝信義のぜひを
もわかたず 大切なる幼


14
君の 守護に残せしかひ
もなく 時政の甘き詞に
たらされて おめ/\と帰て
うせたは 女に迷ふ大馬
鹿者 御教書などゝは

穢らはしと 引さき庭へ投
捨たり 主計ははつと赤
面の 詞なければ母が引
取 そりや余りお気強い
何ぼうお気に叶はいでも


15
助けられたる恩は恩 あの
子の難儀になることを
思ひ返して給はれと 母の
願ひも慈悲なりし 思案
を極め主計之助 座を

立上つて実(げに)誠 親子兄
弟矛盾となるも 戦国
の常武士の習ひ 母上
御無事とかけ出すを アゝコレ/\
其一言が敵味かた 侍の


16
義と云ながら 母が悲しさ
此子が思ひ 跡の難儀を
推量して マア/\待てたもい
のと 母が諌めに雛絹も
たとへお返事遅くとも

父上都にましませば お
首尾悪ふはなされまい
頓(やが)て母様お越まで待て
給はれ待ていのふ コレ/\申
舅御様 親子夫婦の生


17
別れ不便と思し只一云
お留なされて下さりま
せお慈悲/\と手を合せ
拝む内にも恋人に離
がたなき女気は 哀にも

又いぢらしき ホヲゝ娘が願ひ
去事ながら 執成すべき
三左衛門は とくに落命致
つらん が女の縁に主計
之助 其身を立る心成や


18
アイヤ 父上の御意共存ぜ
ず 三左衛門殿死去有事
御存じ有ば猶もつて 御身
の上気づかはしく 立帰りし
は変有時 此本城を守ら

ん為 ハゝゝゝ何さ/\ たとへいか
なる変有共 六十余州と
釣がへの政清が此本城
いつかな/\人手に渡さぬ
此身此儘樓にて 四海を


19
守護する我精神 跡
構はずと幼君へ 忠義を
立る心を見せよ 親子の
対面是限りと 烈しき
詞諸共はつたと 立切る

障子の内 ハア其御遠慮
を聞上は 所存を立て御
詞にかけん 此一封は雛
絹殿 跡にて披見いた
されよ 母上様おさらば と


20
云捨てこそかけりゆく
のふ是待てと雛絹が 夫
をしたふ娘気に よべど
詮方泣倒れ伏沈みたる
斗なり 泣声聞て母柵(しがらみ)

小影を立出傍に寄 ノウ
雛絹 何ぼうこがれ慕ふ
ても 主計殿には添れぬ
わいのふ ヤアかゝ様か そりや
又なぜでござります ヲゝ


21
驚きは尤ぢやが コレ夫の
最後もお主の業 恨むに
甲斐なき家来の我々
縁を切らねは主計殿は 時
政公に助られし 恩に命を

捨ねばならぬ コレ引別るゝ
も操じやと 諦めてたもい
のふ 証拠は残せしソレ其
文と 忍びの燈火(ともしび)さし
寄せれば 涙ながらに押開き


22
ナニ/\父の仇たる時政の
忠臣 森氏(うぢ)の娘なれば
所詮添れぬ敵同士(どし) 縁
切上は一旦の 恩も情も
是限り ハアはつと斗りに

読さして正体(だい)涙にくれ
けるが 覚悟極めて懐刀
咽(のんど)にがはと突立れば はつと
驚く母と母 ヤレ早まつた
何事と 抱起して介抱に


23
娘はくるしき顔を上 ノウ早
まつたとは悪(おろか)の仰 主計
様に添れずば 斯成行は
身の覚悟 アゝ思へばはか
ない私が身の上 父の最

後といふ事も今聞迄は
夢にもしらず 御無事で
ござると思ひ詰 あだに
くらした不孝者 其罪科
が報ひきて 二世を誓ひし


24
恋中もけふを 限りと成
果しを 可愛い事じやと
思し召 未来は女夫になら
るゝ様 取成頼み上まする
と今死る身の際までも

輪廻に迷ふ心根を 思ひ
やりつゝ二人の母 いぢらしい
やら可愛やらむね一ぱいに
せき上て とかふの詞なき
別れ心も乱るゝ斗なり


25
ホゝ雛絹が最後の願ひ
加藤主計之助清郷 是
にて承知致せしと ひらく
閣には父政清 以前にかは
る六具の出立妙法蓮

華の七字の籏 主計が
俗名書添て 弓手に押
立座したる姿 武威三軍
に鳴ひゞき 唐国までも
今の世に おぢ恐るゝも


26
理りなり 妻は見るより
ヤア/\我子の仏果をその
籏に お書有しは死るのを
御存じ有てか何故にと
問もうろ/\しがらみ親子

供に様子を気遣へり ヲゝ
時政の恩を請まじと
我強く云しは都にて 命
を捨よと教る謎 親が
胸中能知て 帰国以前


27
に雛絹へ 離縁の状を
認めしは 女に心引されず
忠義に死る伜が潔白
ハゝア健気にも出かしたり
それに連添身程ある

娘が貞女も育てがら 我
子へ立る心の操 ホゝ遖
なり雛絹 敵と成味方
と成も此世の業 せめて
未来は仏果の縁 結で


28
くれんと此籏に 二人が
俗名書付しは 親がゆる
せし夫婦のかため こりや
寂光浄土に生(しやう)を請 妻
よ夫と睦まじう 誰憚からず

添とげよ 南無妙法と
閉る目に 不便の涙はら
/\/\ 唱ふる経も口の内
手負の耳に通じけん
エゝ有難ふござります 其


29
おゆるしを聞ませて 嬉しう
成仏いたしまする 主計
様に覚悟とは 悲しい中
にも私が楽しみ あの世の
道で待合せ一つ所に参り

ます 二人の母様舅御様
御息もじでと斗りにて
娑婆の名残に莞(?につこ)りと
笑ふて息は絶にけり ハア
悲しやと柵葉末あ(はずへ) 死骸


30
に取付抱きしめ 身も
世もあられぬ悔み言 生れ
て此かた二親の手元放
れぬ此娘 よく/\おもひ
したへばこそ百里百里

此国へ 勇みすゝんで只一人
来た心根がいぢらしい 夫婦
と成た其日から国と都へ
引わかれ 死る今迄一夜さ
の添ひぶしもせぬ薄い縁


31
結んだ神も恨めしいそれ
ばかりかは夫(つま)にもおくれ
残る一人のいとし子の自
害するのを見よふとて
はる/\゛来たのは何事と

かひなき骸(から)を右左 おしや
可愛の数々を露置葉
末柵も かぞへ立て/\ 涙々
は漲りて満ちくる汐のあら
岬浪打寄する如くなり


32
嘆きの中へ灘右衛門 息を
切してかけ戻り コレ旦那
殿 小影に忍んで様子を
聞 息子殿を助ふと追つ欠
た一里の松原 長持へ入欠

出す所 南無三宝と走り付
組んず転んずして見たが
多勢に無勢雲霞 趾
に残つた此状箱 上書は
加藤氏へ湖水の某 お前は


33
知てござりますかとさし
出す 様子を聞て政清は
物をも云ず封押切 八十
川の其源はかはるとも 心
近江の末をみづうみ フウ

ハレ心よき秀句じやよな
と吟ずるこなたに声高々
ホウ其歌の心は大内義
弘 とくより是にて承知せり
政清殿に対面せんと


34
明智の大将物影より
欣然(きんぜん)として出給ひ 携へ
持たる藁づとの 中なる
釼取出し 焼刃にあらはす
足下(そつか)の本心 よく見られ

よと差出せば 子細有んと
頂戴有 とつくと詠めて
抜放せば 俄に一天照りかゝ
やき 北斗に映ずる釼の
光り 赫々(かく/\)たる其有さま


35
政清はつと押戴き 是ぞ
北辰尊星より 授る所の
七星丸 某年来守護せし
名剣 幼君の御味方に成
べき勇士を撰(えり)出し 釼を

渡し下されよと 片岡殿へ
頼置しかひ有て 今日只
今 釼を証拠に来(きた)られしは
夫レなる船頭誠は備前
住人 児嶋(ごとう)元兵政次殿


36
今日只今幼君の 味方に
属する割符の一腰 慥に
落手仕ると 釼を鞘に納む
れば 詞異議なく児嶋
元兵 真中にどつかと座し

ホゝウ遖眼力政清殿 片岡
氏に盟約せし 我本名を
藁苞(わらづと)に 包みかくせし釼の
割符 児嶋元兵政次也
某味方に属する上は 先(せん)


37
君恩顧の諸候をかたらひ
スハ合戦の時来らば 近江
路に根城をかまへ 美濃信
濃路へ出張(でばり)して 時政が多
勢を切所(ぜつしよ)にさゝへ追詰/\

泡吹せ 狸親仁が白髪首
引提げんは瞬く内 我方寸
の胸に有と勇すゝみし勢は
軍師とこそはしられけれ
義弘につとこ打笑ひ ホゝゝゝコハ


38
おこかましき児嶋が広言 国
威(せき)たる北条に刃向ふ心底
聞捨ならず しかし小田家より
恩義を受し事成レは 只何事
も余所に見ん 今の一首に

八十川や其源と顕して 主
計ノ助を助しは 近江源氏
隠れなき 佐々木左衛門高綱
ならん 二人の軍師揃ふ上は
早安堵の加藤氏 我   


39
も察説(?さつせう)仕ると 始終を斗る
名将の詞は鉄石後ろだて
実に大国の主なり 政清
きつと空打詠 アレ/\光りを
失ふ将星(しやうせい)の 今迄地下(ちげ)に

落ざるは 北辰尊星感
応有り 百日の満ぐわんに
佐々木児嶋(ごとう)の両大将
味方にくはへし今月今日
アラ悦ばしや嬉しやと 云


40
息ざしも心のたるみ 忽ち
変る其面色 見るに義
末がまた恟り 扨は噂に
違ひなき お身の悩みか
悲しやとすがり嘆けば

ヤアおろか/\ 時政が工(たくみ)は
知りながら いなまあば違勅(いちよく)に
おとさん方便(てだて) 元からお命は
天に有 とは云ながらお通
のかた 斯成果は御存じなく


41
帰国の砌(みぎり)幼君をわれに
いだかせくれ/\゛も お頼み
ありし其時は 勿体なし共
労はし共 百万軍の強
敵を 掴みひしぎし政清が

五体をつらぬき 肉をさく
よりつらかりし 其心を休めん
と百日の今日まで 胸を
くるしめ 身を苦しめ 折
いのりし甲斐有て 念願


42
とゞきし我身体 此樓(たかどの)に
止(とゞ)むべし 三左衛門のらく
命も 時節と諦め柵殿
葉末も供にさまをかへ
都の倅が先途を見よ

さるにても嫁雛ぎぬ
さぞや倅を待わびて
くさ葉のかげを行な
やみ 迷わんことの不便
やと 百連の明きやうを


43
てらすがごとき両眼が
血しほをそゝぐ 斗なり
なげきをとゞめて児嶋
元兵衛 此うへは義末殿
しがらみ殿 政次が付

そふて 子息の安否を
尋ねし上 佐々木にてう
じて治国の計策 日本
はおろか唐高らい 刃
向ふ奴ばらみなごろし

 

 

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44
幼君四海太平を その
たかどのに安座して 見
物あれよ加藤殿と つつ
立あがれば大内よし弘
ホゝヲいさましし児嶋政次

しかし天運いたらずば
幼君の御供して 我本
国へ来たられよと 残す詞
は義弘が妻と妻へも
末々を いさめてすぐに

 

 

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45
帰国の舩路 女ごゝろの
二人づれこなたも法の
はちす葉にいたらせ
たまへ南無妙 法蓮花
経/\/\ となふる功徳は

先の世にやがてぞ廻り
愛別離苦 会者定離
とは聞ながら 返らぬ事を
くりかへしおさらば さらばの
声ばかり跡に 名残は神

 

 

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46
がたを 出る本城帯曲輪(そとくるわ)
注連(しめ)を引はへしたかどのに
端座合掌古今の英雄
見上る空に星象光(せいしやうくはう)
照す 威徳ぞ有がたき

 

  おわり

 

 

参照した本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/856518

 

39 左頁

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大字五行義太夫本此度斯板に致し
紙仕立を念入れ表紙に厚紙を用ひ奥付は
本のいたまぬやうに仕候

 吾其?(ほん?)最寄の絵草紙屋へさし(?)出し(?)置
間(?) 御近所にて御求め かヒ下候(買ってちょんまげ??)

 

  ちゃんと読めましぇんでちた。