仮想空間

趣味の変体仮名

好色入子枕 巻の四 (一)まいらせそろで口過

 

読んだ本 http://mahoroba.lib.nara-wu.ac.jp/y05/html/1049/index.html

 

巻の四


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好色入子枕  目録  巻四
(一)まいらせそうろうで口過 日本の野等(のら)嶋 此国の人ふだん黒羽二重
(二)気違の八文字(もんじ) 色紙あてたかたびら たんさく結ひの風付
(三)異見も長暖簾(のふれん)粋(すい)ないなづまに やぼな神鳴(かみなり)


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好色入子枕
  (一)まいらせそろで口過
男女諸分けちわ文書所(かきどころ)と大かんばん打て二間半口にひとり法師
のすみける一人まへを三?づつにきはめ墨筆をかして主持親
にかゝりあるひは女房おぢるおとこ。なとのたすけ夜昼三百人
余(よ)の文をかきすくない日も百二三拾匁ほどのあきなひ。又
づり十四匁の家賃をかいてえいらずのたゝどり気を付たらば
まだ此うへの身過も有べし。人には粋といはれて博奕宿
さへせねば一生の口過見ながしの文塚奉書杉原の反古(ほうぐ)
一年に壱貫五百目がものもうりため。口わりのかねかして


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穢多のやうにいはりやうよりはるかましなる商売家(や)の
うちの。はつとがき 密夫のとりやり文 目安の下書并
に火の札右三ヶ条堅く禁制と其みち/\の掟一間半の
状さし女は男を恋るすさみ。男は女のかがへの届 とり
わけ節季まへの大込かたをなしへてかいたりけり。又
友達と顔見しりあひて御自分はいつくの色里への(農)
文とたづねて。はつかしながら女郎の一つかひ折々
かよひ少(すこし)なじみもあれど卯月大火事以後彼
地へ足をとめ作病おこして女郎へことはり文と。いふを
きいてからはかさねて付あふやつてなひと。となりをみれ

ば。しんからにかまへ口舌の返事少すけませうかといへば
土用の内に。から風呂へ入と此やうに汗は出ませぬと。りち
きなる客人おてきは茨木屋の大野。このころあたり
役者此粋な付合に頭巾ふかくうしろむいたぼん様
まいらせそうろうの夏書(げかき)座中せばじと文のかけはし巻紙七八
けん。はやがきは手代衆よめにくはす魚屋どのにとふかくの
は。からかさ屋無筆は祐筆をつれ是ふたりまへ書?
恥かきなから三?の損はるか末座(ばつざ)に町人とも見えす
侍らしき一腰みつくきの跡も泣の涙是にふしきをたて
根をたつぬれば。物あはれにいつれもとは格別のふみ恥し


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なから浪人の糧に娘を曲輪へ売ほどの仕合不都合なる
事打つゞき娘が全盛をきいて親かたのめを忍び少々
の無心親もとより文のとりやりも気のとくゆへ此家に
まいりわざといろがましくしかけ折節のたよりおもはづも
涙の風情かた/\に見とめられて今の物がたりと奥底
もなき咄し爰らがさふらひ其娘子の名はととへば丸の内にかやう
の紋とあらはには申さづ。それこそ今の我等が逢方。それがし
も馴染拙者も二三度出合しとそく座に四五人の聟どの
達へ対面思へば我等/\がしかと聞に捨がたく割付けにして
少ばかりやりて。たかいに悋気もなく後はわらひにして一座も

しづまりおなし連中に高麗橋の大黒屋たほしといふ男さも
つよそうに進み出各々の女郎ばなしきくもうたてや。ありかたき地女房
の門にいり給へと授法さして此頃世間の評判の腰元本町の菱屋のき
さおそらくは今の半太夫よりまたうつくしく其上はたちまで
おとこ心をしらずと。聞て人はうつり気なる物かはきさを見ぬ恋
にこがれ横平たふないととへば。しかもほそてといよ/\それに
きはめ我先とせり合ふ内に日も暮におよび女中の文
書き衆門口につかへ座敷を追たてられ三?つゝ銭筒へいれ
て亭坊はかよふ神棚へ灯(ひ)をあげ夜の文書衆猶しのはしき


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挿絵

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