ひらかな盛衰記 三ノ口 笹引の段

 

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/856522

 

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245 左頁四行目

「立さはく かぜも 
はげしき 夜半(よは)の空星さへ雲に

 

 

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246
おほはれて 道もあやなく物凄き
裏は田畑を隔ての大藪 押合けかき
分け 忠義一途にかい/\敷 お筆は
片手に若君抱き山吹御前の
御手を引 かけ出て息をつぎ 扨も

ひあいや危い事 とゝ様は多勢を
ふせいで跡から追付く早ふ逃よと有し
故 めつたむしやうに走つても
くらさはくらし勝手はしらす どつちへ
逃てよからふとうろつく向ふへ

 

 

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247
数多の人声 又むら/\とかけ来たり
遁さぬやらぬと無二無三うつて
かゝれば叶はじと 山吹御前に脇君
渡し 一腰抜てはつし/\ てう/\
つばさの早わざさそく 飛違へ

切ひらき弓手になぐりめてに受
ひるまずさらず戦へは さしもの
大勢たまり兼逃るをやらじと
追て行 跡にはあ/\山吹御前 長
追しやんな戻つてたも 此隼人は


248
どふしやつた アゝきづかひやあぶな
やとあせる向ふへ打合い切合切結び
追つまくつつかけ来る番場を相
手に鎌田隼人忠義にさへたる切先
刃先 受けつながしつ上段下段 秘術

をつくし戦ひしが 忠太がいらつて打
刃受はづして弓手の肩先けさ
にすつぱと切さげられ 心は鬼神
とはやれ共 腕もよはり目もくらみ
足を立て兼たち/\/\ よろ/\/\と


249
よろめく所を 付入り付込みたゝみかけ
とゞめの刀一えぐり はつと驚く山
吹御前 にがしも立てす向ふへつゝ立
サア女其世倅渡せ/\ ヤア何者なれば
此狼藉 様子が聞たい合点か行ぬ

ヲゝ様子はそつちに覚有筈 朝敵
謀叛の義仲が世伜 敵の末は根
を立て葉をからす ハアぜひもなや
此子一人助けた迚さまであだにも
かいにも成まじ 生としいける物ごとに


250
者の哀れはしる物ぞ 取分け武士は
情をしる 自(みづから)はともかくも此子が
命を助けたい 慈悲じやくどくじや
後生じやと 涙と供にわび給ふ
ヤアあまちこいならぬ/\当歳子

でも男のかぎ生け置ては後日の仇
くりこと云ずとサア渡せと 飛かゝつて
引取は わつと泣く子を放さじと取付き
給ふをもぎはなし 突飛せは又縋り
付 刎ね退くればむしやぶり付きやらぬ


251
/\と泣給ふ ヤア面倒な女めと肩
先掴んで投付れば うんと斗に息
絶へ/\ 其隙に若君を ちうに引提げ
首はつしと打落し小脇にかいこみ
飛ぶがごとくにかけり行 山吹御前は夢

心地 むつくと起てハア悲しや 西も
東も弁へぬ此子に科はなき物を
むごやつらやどうよくや かへせ戻せ
の声も遥かにお筆が聞付け 息を
切て立帰りはつと驚き抱かゝへ


252
コレお心は慥なか 若君様はどこにご
ざる 様子をおつしやれさあどふじや
/\とせき切て とへば答も苦しげ
に ホゝお筆か遅かつた 情なやたつた
今追手の者が爰へきて 隼人も

討たれ駒若も殺された ソレ首切て
逃たはいの エゝと仰天狂気のごとく
おきれて詞も出ばこそ 胸もはり
さく悲しさの 涙はら/\立たり居
たり 身をもがき歯をかみしめ エゝ


253
口惜や今一足早くばなあ 女でこそ
あれやみ/\と討しはせまいに シテ
其切たやつはとつちへ逃た かを見
しつてござりますか エゝ此くらさでは
夫レもしれまい 名はお聞なされぬ

か イヤ顔も名もしらねど梶原が
仕業であらふ かはいやわつとたつた
一声 泣たが此世の暇乞 父御と云
子と云刃(やいば)にかゝりはかなきさいこ
剰(あまつさへ)是迄付添い 忠義をつくす隼人


254
迄爰て死との約束か こはそも
いか成先生の 報ひか罪か浅まし
やと 御身も絶(たゆ)る叫び泣 お筆も
有にあられぬ思ひ 父のさいこはお
主へ忠義悔む心はなけれ共 おいとしや

駒若様 けふの今迄あいらしふ
私を廻し 片時も放さず抱れて泣つ
笑ふついたいけな お顔をやつはり
見るやうなと くどき立/\こへも
惜ます嘆きしが 涙の内に心つき


255
責めて一目若君の お死骸成とも
見ん物 と あたり見廻し尋る心も
空も闇 あやしや血に染む稚なからだ
手にさはるをかき抱き 涙とともに
撫廻し/\ ハア此き物はどふやら手さはり

もちがふ そして何やらびら/\とこん
な物はめさぬ筈 合点がいかぬとよく
/\すかし見 ヤア是は違ふた 申/\
こりや若君ではござんせぬ ヤア何と
いやる駒若でないとは ハテ此しがいは


256
笈摺かけているはいな どれ/\ほんに
かはつたこりやどうじや 是は/\と
二度恟り ムゝ扨は今の騒動に 相宿
の子と駒若と取違へたり ハア悲しや
アゝ是々そりや何おつしやる 悲しい

事はござんせぬ コレ取違へたのでな 若
君のお命に気遣ひない 是則ち天の恵み
御運の強さ アツア嬉しや/\有難や コレお悦び
なされませ コレ申々 是はしたり なぜものを
おつしやらぬ ハアまためまいがきたそふな 是は

 

 

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257
/\エゝお気の弱い ふがいないみでは有ぞ 是々
申と いへ共弱る身の上に 悲しさつらさ気
をもみ上げ又嬉しさにがつくりと引取息もあへ
なきさいご お筆はあはてうろ/\きよろ/\ コリヤ
何とせふどうせふと 脈取て見つ耳に口 是

々申し 山吹様いのふと 云声さへ人を憚り 思ひ切て
呼れぬか エゝ情ないエゝどんなと 心は千々に砕け
共 早色かはり手足氷と冷ヘ切て 押動かせど
其かいも 涙先立魂も共に消入浮き思ひ 大
地にかつはと伏転(まろ)び 声の限りを泣つくす

 

 

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258
理(ことはり)とこそ聞へけれやゝ有て顔を上げ ハアそふ
じや/\返らぬこと 悔むまじ嘆くまじ 一先つ此場
を立退きて妹ちどりと心を合せ お主の仇
父の敵 逃げ隠るゝ共天地の間 命限り根(こん)
限りやはか助て置べきかと かけ出しがイヤ/\/\ 夫レ

より大事の/\若君 片時も早く取かへさふ
アゝいや待て暫し 死骸を此儘捨置れず 無縁
の此子父の體諸共に 隠さんとは思へ共 前後
にみちたる多勢の追手 隙取らは却て妨げ せめて
お主の面影を先(まづ)々かしこへ葬らんと当りに茂る

 

 

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259
竹切て かき上げ乗る笹の葉は なき魂(たま)おくる
輿車ながへも細き千尋の竹 肩に打かけ
引く足もしどろ もどろに定めなき 淵瀬と替
る世の憂きを身一つに降る涙の おやみも
やらで道のべの草葉も ひたす袖袂泣々 「たどり

 

大文字五行義太夫本此度新板に致し
紙仕立を念入表紙に厚紙を用ひ奥付は
本のいたまぬやうに仕候
  ?(是?)を御最寄の絵草紙屋へさし出し置て
間御近所にて御求めか?(い?)下候