仮想空間

趣味の変体仮名

好色入子枕 巻の五(三)身請講の懸銭

 

詠んだ本 http://mahoroba.lib.nara-wu.ac.jp/y05/html/1049/index.html

    巻の五

 

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 (三)身請講の懸銭
思ふ中の競べものたいせつにおもふてくだんすのと。こち
のいとしいのと。そちのほか心の有と。此方(こち)のつゞけかひに
する客の有と。そちのひそると。こちの悋気と。逢ぬ
夜もまかきまでござんすのと。こちの夢に見るのと。わしに
酒のせつかんごと。そちの尺八の異見と。此方の親かたのせくと
其方(そち)の旦那のふすべると。雨のふる夜一入ゆかしいと。此方の五
節句にならんでめしくひたいと。其方の年をきりますのと
此方の大尽鐘かるのと。わしか名月あたに見るのと。おれが


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ひめはしめのひとりねと。其方のこはいもみぐきと。此方
のおそろしい鰒汁と。数々いふにつきず恋しりの
こひしらずとゝはおもふ中を根引にする大尽の事
ぞかし尼崎屋小ぎくは半兵衛と仮初のやうにいひかはし
今は鑿でも鉄槌でもはなれぬ中/\心中下地と世間
の風聞もきのどく。其上此度の見請の客はとふもいはれぬ
粋様五十両手付渡したる日より三十日小菊に心まか
せに隙をとらせ勤の内に間夫(まぶ)といふ。かはゆい男かなふては
すまず。いたづらがなければ客あしらひもおかしからず我等が
手に入ば勅符よりもかたく。かこひの生花日々のなかめ物

深い男のあるを。銀の威光を以て押付て見請すれば其男の
ことをわすれず恩を見た男の目をぬき。かよひぢのすき間に
内証を申合(あはせ)彼(かの)ふかき男を呼入密夫(まおとこ)同前の仕方。不義のおとこ
より銀出した男をうあつけのやうにいあふは。見をよびいくたりか
それゆへ小菊に三十日の隙をやり若(もし)左様の男もあらば何
事も縁次第とあきらめさせ。心にかゝることもなふ手にいれる
分別と申太臺(たいこ)の喜八も大地震此かたのきもをつぶし田舎に
京有八百屋に玉子あり。小菊は結構なる大じんの仕かたな
れど真綿で思ひをしめらるゝごとき月日のたつを
かなしみて三十日切の暇乞も廿日にあまり日数も


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しほり。涙もしほり。心もすまぬ折節月波の身請
講よね中間の付合しかも当番にあたり浮瀬屋四郎右衛門
方へ身仕廻過(すぎ)早々御出座くださるべく候と廻(くはい)状もおかし

  見請講之連中  次第不同
なを こはん あづま きよ 小さん とは(此だんふり
すま みちのく まさ ちよ う源 のぶ
さよ 小きち うね 小はる しほ 小かん
小りん かしはぎ たみ ぎん しめ かぢ
小きち いそ やつ 玉はし せ野 さよ
るい 小かん そめ しのぶ たか みつ

小ぎん をの 初花 せんyほ さご つた
小ふち うら つう 小てふ 小げん 小せん
いくよ いく野 とよ せの ぬひ こしも
ため 花さき さか たか むめ いさ
まつ ふさ とのも 小しゆん きし しめ
小ぎく あさ 小すみ をさ せう つね
ぎん くめ 小野 るり とよ 小まつ
かもん つげ ゆき わか すが まさ
かつの つね しほ げん ごぜ)いくた つな
右連中のほかのがれざるつとめこれ有今日不参


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身請講と名付よね一人前に金二朱つゝの懸銭百五十人余
の連中一年に二百両あまりのたまりかね。銘々の名を札に
しるし二年め/\に富を突(つき)をんにもひらにもきず。一人つゝ身
請する事也曲輪を出たよねもめうがのために跡三年はかけ
すての懸銭のきはめ。殊更けふは富開き思ひ/\に信をとり
精進して其宵には客もせぬとや。時は午の刻九つ斗の
心なき子供に富を突せさあ/\今じやといへば。一座のよね共
水揚此かたの身揮(ぶるひ)札か二枚かゝれば元が本じやと。突あぐ
れば。あんのことく二枚かゝりうへの札は尼崎屋小菊なかなかの
もの思ひ彼札をおとし下のふたをみれば。是も尼崎屋小菊と

書付一座不思議をたて。箱の預りぬしせんきすれば
則小菊。当時の当番猶あしさまに申ふらし。其日はへの
字なりにことすまし来月は閏正月富開きを仕直し小菊
きのどく大かたならず。神かけて少もおぼえはなけれど
折あしき時分人々のうたかひはことはり。其後此分(わけ)
をきけば小菊半兵衛ふたりの中をしつたるよねの仕業
小菊を見請さして半兵衛にそはせたく此度のの根引の
大尽は粋なり。よしなにことはり申他力をもつて見請
さすれば人間ふたりつくる道理と。情有心からいひ合せ
もなく。ねんころなるほうはい女郎おもひ/\に。袖のした


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挿絵

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よりも小菊が名をしるしたるふた数をいれしも。かへつて小菊
が身のあたとなりぬ。あらそむれぬは小菊が弓箭筋半兵衛
は三十二の厄だゝりもはやしぬるにきはめ心の錠錚(?じやうかぎ)襖
にも尻ざし。池田屋の二階座敷憂世の名残も後の
正月五日ついに夜の淡雪。相客はかへる駕篭うつらぬは
小菊半兵衛かうき身。最後の小袖。今黄八丈と絹尽しの
哥につくり色里のはやりふし。惣じて心中は心中にあらず
も四百里あなたの人々は手たゝいて笑ひけるとなり