御伽草子. 第1冊 (文正さうし) ①

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2537569

 

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3
それむかしが今にいた
るまで。めでたきことを
きゝつたふるに。いやしき
もの。ことのほかになりい
でゝ。はじめよりのちま
でも。ものうきことなくめで
たきは。ひたちのくにに。
しほやきのぶんすあyと
申ものにてぞはんべり
ける。そのゆへをたづぬれ
ば。こくちう十六ぐんのうち
に。かしまの大みやう神
とて。れいしやまし/\


4
けり。かのみやのかんぬし
に。大ぐうじと申人おは
しけるが。ちやうじやに
てぞまし/\ける。四方に
四まんのくらをたて。しつ
ちんまんばうのたからみ
ち/\て。ひとつかけたる
こともなく。よろづ心に満
せて。いろ/\あり。いえの
かずは一まん八千げんなり。
らうどうにいたるまでかず
をしらず。女ばうたちなか
いのもの。八百六十人なり。

なんし五人ともに。みめ
かたちげいのふ。まん人に
もくれたり。又大ぐじどの
のざうしきに。ぶんだと
いふものあり。としころのもの
なり。げらうなれども心は
しやうぢきに。しうの事を
大事におもひ。よるひる
心にたがはじと。みやづか
へしけれども。心をみんとや
おもはれけん。しうの大ぐう
じどの。なんぢとしごろの
ものといへども。わがこゝろ


5
たがふなり。いかならんとこ
ろへもゆきてすぐべし
またおもひもなをし
たらんにと。かへりまいれ
とのたまひければ

挿絵

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6
ぶんだおもひけるは。た
とへ千人まん人ありといふ
とも。わがいのちあらんかぎ
りは。ほうこう申べきと
ぞんじ給ひつるに。かゝるお
ほせくだるゝうへはちから
なし。さりながらいづく
にこともおろかにおもひ
申べからず。またやがて
こうまいり申べしとて。
いづちともなくゆくほ
どに。つのをかゞいて(←?)。しほ 
やくうらにつきにけ

り。あるしほやにいりて
申やう これはたびのもの
にて候。御めをかけてたま
はれと申ければ。あるじ
きゝて。うはのそらなるも
のなれども。みるよりそゞ
ろにいとおしく思ひて
そのいえにをきける。日数
をふるほどに。あるじ申
けるは。かくてつれ/\゛に
おはせんより。しほや/くたき
ぎなりとも。とりたまへと
いひければ。いとやすきこ

7
となりとて。たきゞを
ぞとりける。もとより大ぢ
からなれば。五六人
して
もちたる
よりも
おほく 
して ぞ
きたり 
ける

挿絵

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8
あるじなのめによろこ
びて。又なきものとおもひ
ける。かくてとし月をふる
ほどに。ぶんだ申けるは。
われもしほやきてうらば
やとおもひ。あるじに申
やう。このとし月。ほうこう
つかまつり候御をんに。しほ
かま一つ給はり候へかし。あま 
りにたよりなく候へば。あ
きなひしてみせんと申
ければ。もとよりいとおし
くおもひければ。しほがま

ふたつとらせけるに。し
ほやきてうりければ。此ぶん
たがしほと申は。こゝろ
くて。くふ人やまひなくわ
かくなり。またしほのおほ
さつもりもなく。三十さう 
ばいにもなりければ。や
がてとく人になりたまふ。
とし月ふるほどに。いまは
ちやうじやとぞなりにけ
り。さるほどに。つのをか
かいそのしほやども。みな/\
したがひける。さるほどに


9
名をかへて。ぶんしゃうつね
をかとぞ申ける。ほかのう
ち七十五ちやうにかいこめ
て。四方に八十三のくらを
たて。いえのむねかず。九十間
つくりならべけり。むかし
のしゆたつちやうじやもか
くやとおもひける。されば
ひたちのくにのものとも
此ころのことなれば。しうな
きらひそ。をんをきらへ。な
にかくるしかるべきとて。見
な/\ぶんしゃうにぞつ

かはれける。しかればいえのこ
らうどうにいたるまて。三
百よ人のほか。さうしき
くさかり。しもべにいたる
まで。そのかずしらず。たか
らはいかなる十ぜんのきみ
と申とも
これには
すぎじとぞ
おぼえ
ける


10
挿絵

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さりながら。なんしに
てもによしにても。子はな
かりける。あるとき大ぐうじ
どのに此よしきこしめし。
さてもふしぎにおぼし
めし。かれをめしてたづねん
とおもひ給ひ。ぶんたをぞ
めされける。ひさしくまいり
候はねば。うれしくおもひて
いそぎまいりける。おほに
はにかしこまりて。い申
ける。大ぐうしどの御らん
じて。その身こそいやしき


11
とも。めでたきものなれ
は。いかでにはにはをくべ
きとて。これへ/\とこそ
めされける。さるほどに
ぶんだはひろえんまて
ぞまいりける。大ぐうじ殿
のたまひけるは。ぶんだはま
ことやうぎりなくちやう
しやとなり。十ぜんのきみ
にてましますとも。われ
にはいかでまさりたまふ
へきと。かたじけなくも申
とかや。さやうにみやうが

なきこと。なにとてか申
ぞとのたまへば。ぶんだ
かしこまつて申やう。わが
身のいやしきありさ
にて。これほどのたからを
もちて。御事おほみずあ
やなく申て候なりと申
ければ。いかほどのたから
なれば。きゃうあにおもふぞ
とのたまへば。きん/\゛あ
やにしき。しつちんまんぼ
うかずしらず。四ほうにつ
くりならべたる。くらを申


12
にかずしらずとぞ申ける。
大ぐうじどのきこしめし。
まことにめでたきものゝく
はほうかな。さてすえをつく
べき子は有かとのたまへば。い
まだこずと申ける。それ社(は?)
つたなきことなれ。人の身
には。子ほどのたからよもあ
らじ。たゞそのたからを神
ほとけにまいらせん。一人にて
も子を申べしとの給へば。ぶん
たげにもとおもひ。いえに
かへりて。ぜひなく女ばうを

しかり。すでにをひいだす
女はうこれはいかなること
ぞとさはぎければ。ぶんしや
う申けるは。大ぐうじどの
一人の子をもたぬ事を。ほ
いなくおぼしめすなり。いそ
ぎ子をうみてたび候へと
申ければ。廿廿のときだにう
まぬ子が。四十になりて何
としてかなふべき。そのぎな
らばちからなしといひけれ
ば。ぶんしやうげにもとお
もひ。大ぐうじ殿もかみほ


13
とけにも申せとこそ
おほせられつれと思ひて。
さらばかみ仏へまいりて申
かけべしと申ける。女ばうげ
にもとおもひ。七日せうじん
して。かしまの大みやう神へ
ぞまいりける。いろ/\のた
からをまいらせ。三十三どの
らいはいをして。ねがはくは
一人の子をたび給へとぞい
のり申ける。七日と申夜
はんに。かたじけなくも
御ほうでんの御とをひらき

給ひ。まことにけたかき御
こえにて。なんぢ申と
ころさりがたきにより
この七日のうちいたらぬと
ころなくもとむれども
なんぢが子に子になるべきも
のなし。さりながらこれを
たぶとて。きんげを二ふさ
給はりて。かきけす
やうに
うせに
けり


14 
挿絵

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さるほどにぶんしやうよ
ろこび。八かこくにすぐれたる。
なんしをうみ給へとぞ申
ける。九月のくるしみ十つき
のすえには。さんのひりを
ときたる。三十二さうたゝ
ひたる。いつくしきひめにて
ありける。ぶんしやうはら
をたて。やくそく申せし
かひもなく。をんなをうみ
たることよとてしかりける。
そのなかに。おとなしき女
はうたち申やう。人の子に


15
ひめぎみこそ。すえはん
じやうしてめでたき御こ
とにて候へと申ければ。さら
ばうちへいれ申とて。てう
あひ申ける。めのとかいしゃく
までも。みめよきをすぐり
つれにけり。又つぎのとし
も。なをひかるほどのひめご
ぜんをもふけける。ぶんしやう
なにぞと申せば。いつものも
のと申ける。ぶんしやうはら
をって。さきこそやくそく
たがへめ。さのみはいかて人の

めいをそむき給ふぞ。そ
の子をぐして。いそぎいで
給へと。しかりけることかぎ
りなし。そのとき御まへに
ありし人々申けるは。なん
しにてましまさば。大ぐ
うじどのにこそつかはれ
させ給はんに。御かたちすぐれ
たるひめたちにて候へば。く
に/\の大みやう。いづれかも
こにならせ給はさるべき。又
は大ぐうじどののきん
と申とも。御むこになら


16
せ給ふべし。これほとしかるべ
きことなしと申ければ。
そのときぶんしやうげにも
とおもひ。さらばとく/\い
れ申せとありければ。みるに
あねごぜんよりも。いつくし
くありければ。又めのとかい
しやくまでも。みめかたち
よきをそろへてつれに
けり。ひめたちの様子をは
むさうにまかせ。れんけ
を給はるとみたれは。あねはれん
げいもうとを蓮(はちす)御ぜんと付(つけ)

挿絵

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17
いつきかしづき給ふほどに
とし月かさなり。ひかるほ
どのきみにみえ給ふ。よみ書(かき)
よろづりこんにて。哥のさう
しならぶかたなし。これを
きゝ八かこくの大みやうたち。
われも/\と心をつくし。文
たまづさかぎりなし。ひめ
たち思ひ給ふへう。かゝるあ
つまりうまれけるぞや
みやこのほとりにもうまれ
なば。よにあるかひには。女御
きさきのくらいも。心が

け。さてよのつねのことは
おもひよらずとおもはれ
ける。ぶんしやうはこく中
の大みやう。いずれもおほせ
をかうふり。めんぼくと思ひ
て。ひめに此よし申せば。みゝに
もさらにきゝいれず。あかし
くらし給ふ。ちゝはゝも。子な
がら心にたがはじと。もて
なし給ふ。此ひめたちはらい
せのことまでふかくおもひ
いりて。つねにものまいり
し給ひけるを。大みやうた


18
ち。みちにてとるべきよし
きこしければ。ぶんしやう
此よしをきゝ。にしのはうに
みだうをたて。あみだのさん
ぞんをすへたてまつり。
心のまゝにひめたちをま
いらせけり。かやうによう
じんふかくいたせば。みちに
てうばいとることもかな
はす。大ぐうじどの此よし
をきこしめし。ぶんしやうを
めして。なんじまことやひかる
ほどのひめをもちたると

きく。大みやうたちのかたへ
いだすべからず。わが子にい
だすへしとの給へば。ぶん
しやううれしく思ひ。やがて
わがいえにかへり。あなめで
たや大ぐうじどのゝきん
たちを。むこにとるなり。みな
みな御ともせよとのゝしり
ける。やがてひめたちのかたへ
ゆきて。めでたや大ぐうじ
どのよめにすべきよし仰候
と申ける。ひめたちはあさまし
げなるけしきにて。なみだ


19
のいろみえければ。あきれは
てゝぞいたりける。ひめたち
おほせけるは。いかなる女御
きさきにも。又はくらいた
かききんだちなどこそ。も
しも思ひつき候んづれ。さ
なくは。あまになりてごせ
ぼだひをねがふべしと申
ける。ぶんしやうめんぼくなく。
大ぐうじどのに此ありさ
を申せば。大ぐうしどのはらを
たて。なんぢが子共のぶん
として。みづからをきらはん

こと。ふしぎなれ。いうぎま
いらせずは。なんぢをざいく
わにをよばすべしとの給へば。
ぶんしやう又むすめのかたへ
ゆき此よし申ければ。ひめた
ちおほせけるは。かやうのみ
ちはたかきも賤しきにも
よらぬことにて候へ。たゞあま
になりて。うき世をいとふ
か。さなくは。ふち河へも身を
いれんとなけきける。文正(ぶんしやう)
さめ/\゛となきて。又大ぐう
じ殿へまいり。此よしを申け


20
れば。それほどのぎならが。
ちからなしと仰ける。
さてそのゝち。えまのくらん
どみちしげと申人。ひたち
のこくしを給はりてくだり
給ひけり。此人はなのめな
らずいろごのみにて。 いかなる
やまがつ。しづのめなりとも
みめかたち世にすくれたる
人をと。心がけておはしける。
こくちうの大みやうたち。
われも/\とみせけれとも。
心にあはすしてあかし

くらし給ひけり。ある人申
やう。かしまの大ぐうじの
ざうしきに。ぶんしやうと
申もの。ひかるほどのむす
めをもちて候。こくちう大
みやうわれも/\と申され
けれども。もちひらず。これは
てんにんのあまくだり給ふ
かと。おぼえ候ほとのむすめ
二人もちて候。しうの大ぐう
しおほせられてめされ候へ
かしと申ければ。よろこび給
ひ。大ぐうじをめし。まことや


21
みうちのざうしきに。文正と
やらんもの。ならびなきむす
めをもちたるよしうけ給は
りて候。御はからひにて給は
り候へ。そのよろこびには。こく
しをゆづり申べしとの給へば。
かしこまつて候へとも。すべて
人の申ことをもきかず。おや
のめいにもしたかはず候なり。
さりなから申てみ候んとて。
御まへをたち給ふ。ぶん正も
御とも申けるをめして。かく
るめでたきことなれば

なんぢがむすめを。こくし
の御みたいにまいらせよと
おほせあり。さあらばこくし
をわれにたまはらんとな
り。なんぢをば。大くはんにな
すべきなり。めんほく此う
へはあるべからずとの給へば。
ぶんしやううれしげにて。
かしこまつてうけ給はり候。
さりながらおやの申ことを
ももちひぬものにてとへば
いかゞ申候んずらんとて。か
へりける

 

    (②につづく)