御伽草子. 第1冊 (文正さうし) ②

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2537569

 

22
挿絵

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かどのほどより。あなめ
でたやをんなごはもつ
べき物なり。こくしの御
しうとになるぞや。み
な/\よういして御とも申
せと申つゝ。むすめにむ
かひて申やう。さて/\
めでたきことなり。いち
いちに申せば。これをも
うけでさめ/\゛となき
ていたりける。はゝも文
しやうも。これをさへきら
ひ給ふことのあさましさよ。


23
此ことかなはぬものならば
つねをかなにとなるべ
きといひて。いろ/\申
せども。へんじもせず。あ
まりにくどきければひめ
たちは大ぐうじどのゝき
むだちをきらひて候へば
大ぐうじどのもこゝろ
うちは。さこそおぼしめ
さん。たゞ身をなげん
とぞ
申ける

挿絵

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24
このうへはとて。大ぐうじどの
へまいり此よし申ければ。
大ぐうじどのは。こくしへは
じめよりをはりまでかた
り給へは。此よしきこし
めし。此ほどはあひみん事
をおもひて。ものうきひ
なのすまいもなぐさみ
いれ。いまはそのかひなし
とて。みやこへのぼり給ひ
ける。ひかずかさなりて
みやこへつかせ給ふ。まづ天
かの御しよへまいりける。折
ふしくに/\の物がたり
どもはんべりしにえふ
のくらんど。わか心にかゝ
るまゝに申けるは。いづれ
のくにと申とも。ひたち
のくんほど。ふしぎなる
ものゝある国は候まじと申
ければ。てんかの様子に。三郷
のちうぢやうどの此よし
きこしめし。なにごとや
らんと御たづねありければ。
かしまの大ぐうしと申も
のがざうしきに。文正と


25
申もの。いかなるせんせのい
はれにや。しちまんぼう
たからにあきみち。たの
しみさかふるのみならず
候。かの大明神より御りし
やうに給はりたる。ひめを二
人もちて候が。ゆふにやさ
しく。ひかるほどのみめかた
ち心さま。げいのふにいたる
まで。人間のわざともおぼ
えず候ときゝ。みちしげも
とかく申て候ひしけども。更
になびく気しきもなく

候。しうの大ぐうじをはじ
めて。国々の大みやう共。
われも/\と申けれ共聞
いれず。ふたりのおやが申こ
ともきかず候と。かたり申
ければ。ちうしやうどのはつく
づくときこしめしやがて
みぬこひとならせ給ひて。い
つとなくなやみ給ふ。その頃
しかるべきゝきやうてん上
人の。ひめぎみたちを。われ
も/\と申けれども
さらにきゝいれ給はず。うち


26
ふし給ひける。てんもきら
のまんどころ。御いのりさま
ざまなり。やう/\月日も
たちければ。あきのなかば
なれば。くまなき月にあこ
がれ。ちうしやうどのたち出
給ひければ。なぐさみ申さん
とて。くわんげんをぞは
じめ給ひ。さま/\゛の御あ
そび共有。中将殿かゝなん
 月みれば
 やらんかたなく
 かなしきを

 こと
 とふ人の
 などなかるらん
かやうによませ給ひて。
そでをかほにあて。なみ
だぐませ給ひて。又打ふし
給ふを。ひやうえのすけみ
とゞめ申て。此ほどきみの(農)
れいならぬ御うち。いかなる
御申にやと思ひ候へば。人し
れず物おもはせ給ひける
を。いままでさとり申さぬ
事よとて。ひやうえのすけ


27
しきぶの太夫。とうまのす
け。三人御まへにまいりて
申けるは。これほどにお
ぼしめし候御ことを。おほせ
もいださせ給はず。いかなる
もろこしまでもたづね
申べし。なにかくるしく候
へきなどゝ申ければ、つゝ
めどいろにおけることの。
むづかしさよとおぼし
めし。われながらうはの空
なるやうに。はゞかり多(おほく)
はんべれども。いまはなき

をかつゝむべき。すぎにし
はるのころ。えぶのくらんど
が物かたり候ひし。大ぐうじ
がうちのざうしきに。ぶん
しやうむすめに。かたちす
ぐれたるをもちたるよし
をきゝしより。一すじに
思ひはんべるなり。人をくだしてめしたけれども。
世のそしりもはゞかりあ
れば。たゞおもひに身を
くだき候とて。御なみだに
むせび給ひければ


28
挿絵

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人々申されけるは。むか
しよりこひのみち。かくこ
そ候へたゞひたちの国へ御
とも申てくだり候んと
申ければ。ちうしやどの御
よろこびはかぎりなし。かく
は申ながら。いかゞしてくだ
り申べき。みやこにてだにも
まぎれなく。いつくしくま
しますに。あつまのおく
にては。いよ/\まがふかたも
有べからずと。あんじめぐ
らすに。たゞあき人のまね


29
をして。つる/\のうり
物をもちたらばしかるべし
とて。さま/\゛の物をも
ちて。をの/\でんだんび
つをせほひ。すでにくだ
らんとぞし給ひける。ちう
しやうどの。さすがはる/\
のみちにをもむき給はん
に。いま一どちゝはゝたちに
もみえたてまつらんとおぼ
しめし。御まへにまいり給へば。
此ほどはなにとやらん。なや
みうちにておはしませしが

たち出給ふうれしさよと。
よろこびあひ給へば。ちう
しやうどのは。をんごくへくだ
らん事もしろしめさず
あたにてなげき給はん
ことよとなげき御なみ
だぐみ給へば。御ふたところ
ながら。そでをかほにあて
給ふ。ちうしやうどのおもひ
さつて出給ひける。御心
のうちかきくれて。御し
やうぞくをぬぎをかせ給ひ
て。御守をしのそでにかくなん


30
 あつまぢの
 かたみとて
 こうぬぎをくに
 かはる
 までとは
 おもふなよきみ
かやうにあそばして。いつめ
しなれたる事もなく。
わらぐつひたゝれをめし
て。御みをや供し給ふ御とも
の人も。おなじくやつれくだ
り給ふ。ちうしやうどのは十
八。しきぶの太夫二十五。いづれ

もわかてんじやうにて。いつ
くしかりける御すかたにて
御身をうあつしくだり給へ
共。まかぶべきかたもなし。
十月十日あまりのころ都を
たち出させ給ひて。ひた
ちの国へぞくだり給ふ。みち
すがらうたをよみ。心をす
まし。物あはれに思召よろ
づくさ木までも御めをとゞ
めて人々ととものひくだり
給ふ程に。有山を御み(え?)んして


31
 身をしればこひは
 くるしきものそとて
 さこそはしかの
 ひとりなくらん

ありあけのくまなき空
を御らんじて。うらやましと
おほしめし
 うらやまし
かれもかはらず
すゝむ月の
われいんはくもれ
あきのそらかな

しきぶの太夫
 めぐりあはん
 ほとこそ
 くもらん
 月かけと
 ついにくもいの
 ひかり
 ましなん
かくて物ごとにいはい申
ゆくおどに。みかはの国やつ
はしをすき給ふに。から衣
きつゝなれにしいにしへ
も。いまのやうにおぼしめし


32
つゞけて。くもでに物をこそ
おもひ給ひける。あるやま
なかにて。としのよはひ七八
十はかりなるおきなの。み
くてまつりて。をの/\い
かなる人にてましますぞ
と申ければ。これはみやこよ
り物うりにくだるあき人に
て候が。ひたちの国へくだり
候との給へば。いや/\あき人
らとはみ申さず候。此ころ
てんかの様子に。二位のちう
しやうどのとみ申て候。恋

ぢにまよひいでさせ給
ひて候か。此くれにおぼし
めす人にかならすあはせ
給ふべし。此おきな。よくみ
申て候ぞと申けるに。そら
おそろしくおぼしめし
ながら。思ふ人にひき合(あはせ)べき
といふがうれしけにとて。
御こそで一かさねとり出して
かのおきなにたびける。これ
はこきゆるみどをしのぜう
にて候とて。かきけす
やうにうせ(勢)にけり


33
挿絵

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さてそのゝちは。たのもし
くおぼしめして。御あしの
いたさもおぼえずいそぎ
てくだり給ふ。みやこには。二い
のちうしやうどのうせ給へる
とて。いんちうのさはぎ。中
/\申もろかなり。北の
まん所の御ことは申に及ばず
京中のさはぎかぎりなし。
いつとなくむすぼられて
おはしませば。いかなる御う
らみもやとて。すみ給ひし
かたを御らんじ給へば。ぬぎを


34
き給ひしひたゝれの袖に。
そばしたるを御らんじ
て。すこしたのもしくおぼ
しめしける。さるほどにひた
ちの国へつき給ふ。まづかし
まの大みやyじんへまいり給
ひて。御つや申させ給ひ。ねか
はくは。ぶんしやうがむすめに
ひきあはせ給へと。よもすがら
きゝねん申させ給ひて。あけ
ればげかうし給ひける。ある
いえにたちよりてたづ
ね給へな。あるじみちしるべ

してをしへ申けるに。
ぶんしやうがたち七十町
のついぢをつき。かゝるいな
かにも。めでたきところ
ありけりとおぼしめし。
たちやすらひておはし
けるに。げぢよの出申ける
は。いかなる人そととひけれ
ば。みやこのかたより。物うり
にくだりて候なりとの給へ
ば。さやうのことをこそ是
にあいさせ給ひ候へ。申いれ
候んといひければ。うれしく


35
てやがてつゞきていり給ふ
か。うり物にとりては。かふり
しやうぞくむらさきのさ
しぬき。しやくあふぎ。に
ようばうのしやうぞく。は
るあきの。よしのはつせの
はな。いろ/\をつくしをり
たる。こうばいむめさくら。
やなぎのいとの。はる風に
みだれて。ものぞ思ひける
ちぎりのほどはしらね共。
をとにのみきくの水。心つ
くしふねこがれて出にし

やまぶきの。いろをしるべに
あこがれて。あふにいのち
とながらへて。むすびかけ
たるちぎりをも。めした
くや候。なつはすゞしき
いつみとのかもやをしとり
をりかけて。しやうぶがさ
ねのからころもに。こひの百
しゆをぬいつくし。そのはな
がざねの。十五夜のこひしき
人をみちのくの。しのふの里
はたづぬれと。あはれをた
れかさゝかにの。くもでに

 

 

36
物や思ふらんをも。めしたく
や。あきはもみぢの色ふかき。
思ふ心のあいそめかはなの
みして。袖はくちばにあこか
れて。こひぢにまよふみち
しばの。露うちはらふ白菊
の。うつろふ色に。めしたくや
候。冬は雪まにねをませ
ば。やがてか人をみるべき。ふじ
のけふりの空にきゆるみの
ゆくえこそあつきなれかぜ
のたよりのことつてもかな。心
のうちのくるしさも。せめて

はかくとしらせはやといろ
をりたるもめしたくや候。は
るにとりては。しろさあか
きかれおび。きちやうひき
ものなともめしたくや候。
さてぐそくのいろ/\は。手
はこすゞりにかけこなり
又みのつほに。あひそへて。
とよのあかりのせちえには。
くしたたうがみ紅むらさき
色ふかき。うすやうすみけ(?)
ぢんじやうかう。たき物なども ←
候也。まくらのすぐれておぼ


37
ゆるは。殊にやさしき花枕。
一(?)すけのまくらからまく
ら。こひぢにまよふよきまく
ら。ちんの枕をならべつゝ。人
にはじめてにいまくら。鏡
にとりては。しろかねのうら成。
とりのむかひたるからの鏡や
ひわことり。鶯ひよ鳥なと
までも数をつくして。い付
たつからみやめされ候と。言ば
花をさかせつゝ。かやうにや。た
しきうり物ども。こひの心を
たよりかや。きゝしる人もあ

るやとてうり給ふ。ぶん正が
うちのものどもおほけれ共。
やましろなれば聞しらず。
女ばうたちのそのなかに。
みやこ人にてありけるが。情
もふかく。よみかきわかの道
にくらからず。みめかたちいつ
くしき人とて。ひめ君の
かいしやくにつけたりしが。
此あき人をうちみつゝ。すが


38
しき人也。ふしぎなり。もし
わかてんじやう人たち。聞
をよびあこがれて。是ま
でくだり給ふかと。あやし
気にこそ思ひけれ。いまだ
かやうのおもしろきうり物
こそはね。きかせたまへと
いひければ。ぶんしやうもでい
のまとあけれきゝつれば。
さもおもしろくぞ覚えける。
あのとのばらは。いづくの人
にてましませば。かく面白くは
うり給ふぞ。今一ど売給へと申せ

挿絵

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39
人々めをあはせて。これ
こそきこゆるぶんしやうに
とて。又さきのことくうりた
まふ。あまりおもしろきに。二
三どまでぞうらせける。
にしてか此人々を。これにと
どめんと思ひ。あのとのばら
たち。やどはいづくにて候
ととひければ。やどはとらず。是
へすぐにまいりて候と申給へば。
かれしと思ひ。やがてなか
のでいに入たてまつり。御あし
のゆるどいだしければ。とう

まのすけ御あしをすゝまし
ければ。ひやうえのすけ。ねり
ぬきの御手ぬぐひにての
ごひ申けり。ちうしやう殿は
御身もおとろへやせ給へども。
なを人にはすぐ猶みえ給ひ
ける。ぶんしやうがうちのもの
ども申けるは。せんだんびつ
もちたるおとこ。大事のはん
ざうだらひにあしを入て。
一人はあらひ。今一人は。いつ
くしききぬにて。のごひ候
おしさよとてわらひける。


40
ぶんしやう。京あき人(商人?)ははづ
かしきぞ。はんなどじんじゃう
にして。まいらせよといひけ
れば。くりつきに八しゆの
ぐそくし。みな/\おなし
やうにしてすへける。をの/\
はとりおろしければ。みやこ
人はおかしきものや。あのや
せおとこにものをくはせて。
ひれふすやうにして。くいも
ならはぬやらんそなへを皆
とりおとして。くいけるおかし
さよとわらひける。ぶんし

やうでいに出て。此人々
に。さけをすゝめんとて。色
いろのさかなをこしらへい
だし。よこざになをり。さか
づきをとりて。申やう
あるじくはんばくと申事
の給へば。まづのみ給へべしと
て。三どのみてのちにぢう
しやうどのにまいらせけれ
ば。ちからなくてまいり
けり。御ともの人々。めもく
るゝ心ちして。こひほどかな
しきものはなし。いんより


41
ほかは。たれか君よりさき
にさかづきをとらせ給ふ
べきとて。をの/\なみだを
ながす。ちうしやうどのもあさ
ましく思召けれ共。力なく
まいりける。さてぶんしやう。
さけのえいのまゝ申けるは。
つねをかいやしきものにて
候へども。かしまの大みやう神
より給はりて。みめよきひ
めを二人もちて候が。しうな
とのやうにもてなし候。八か国
の大みやうたちわれも/\

と申され候へども。さらに
なびかず。つねをかしうの
大ぐじどの。よめにとおほ
せ候へ共。たがひ申さず候。又
こくしにくだり給ひし。京上
らうも。とかく仰候へども。たゞ
一すじに。ぶつだうをねがひ
申也。その女房たちに。みめ能(よき)
があまた候。けいせいほしくは
十人も二十人もまいらせ申
べし。しばらくこれに御たう
りうして。御あそび候へと
申けり。

 

    (③につづく)