仮想空間

趣味の変体仮名

御伽草子. 第1冊 (文正さうし) ③

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2537569

 

42
挿絵

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ちうしやうどのをはじめ
て。おかしくぞきゝ給ふ。其
のちはつくしき物ども。箱
のなかにいれて。ひめ君の
かたへとてつかはされける。ひ
めたち御らんじて。おほくの
物をみつれ共。これほどめづ
らしき物をいまだみずと
てみ給へば。すゞりの下にも
みちがさねのうすやうに
 きみゆへに
 こひぢに
 まよふみちしばの


43
 いろの
 ふかさを
 いかでしら 
 せん
ひめ君これをみ給ひて。か
ほうちあかめて。つゝまし
ながらみ給へば。ふでのな
がれ。すみつきいまだみな
れぬなり。此とし月。おほ
くのふみをみつれども。これ
ほどいつくしきをみざり
けり。ものをうりつること
はつき。さればこそとおもひ

て。あねひめはかへし給ふを。
かいしやくの女ばうたち。こ
れほどやさしきものを。御
かへし候へば。いろをもしらぬ
やうに覚え候。たゞ御と
め候へと申ければ。げにもと
おぼしけん。とゞめ給ふなり
又いもうと。此いろ/\を御ら
むじて。うらやみければ。ぶん
しやう申けるは。つねをかむ
すめを二人もちて候。さきに
給はり候ものを。いもうとう
うらやみ申候。これにも給はり


44
候へと申ければ。かねてよ
り。よういしてをき給へは。
をとらぬいつくしきものと
もを。をくり給ひめる。ぶん
しやう申けるは。とのばら
たち。あれ/\にましま
さば。此ふしのみだうへまいり
て。なぐさみ給へと申けり。

 

 

やがてみだうへまいり御
らんずるに。まことにたつ
とくありがたき心ちして。
かなたこなたみ給へば。びは
ことたてならべをきたる
を御らんじて。めづらしく
おぼしめしびはをひき
よせひかせ給ふ。ひやうえの
すけことをひき。とうま
のすけしやうをふき。し
きぶの太夫ふえをふき。
おもしろくかんるいをなが
しける。ぶんしやうがうち


45
のものこれをきゝて。よし
なき人を御だうへいれ給
ひて。かきかべをやぶる
らん。ひしめき候と申けれ
ば。ぶんしやう申は。みて
きたれと申ける。十人ばかり
ゆきて。おそくかへるほど
に。又廿人ほどゆけども
かへらず。あれゆき。これゆき
ゆくほとに。みな/\ゆき
てかへらず。ぶんしやうふし
ぎに思ひて。いそぎゆきて
みるに。二三百人しらすに

なみいたり。ちかくよりて
きゝければ。くわんけんの音。
みゝにあきれたるふぜい
なり。おもしろさたつとさ
心もをよばず。これほどおも
しろくありがたきことを。今
まできかざりし事の
うたてさよ。ありがたくつ
もみきえ候。ひきでもの
申さんとて。さま/\の物
まいらせければ。此人々かねて
より。むこひきで物取給ふと
てわらひ給ふ。ひめ君は。有し


46
すゞりの下の文。人しれず
心にかゝりけれ共。いひつ
たふべきたよりもなし。其
うへひとゝせ。くだり給ひし
こくしよりも。したの人に
て有らんと思ひみだれ給ひ
けり。ぶんしやうつかひをた
てゝ申けるは。わがひめたち
こんどはきかせべく候あひ
だ。いま一どおもしろく引
給へと申ける。ちうしやう殿
みな/\うれしくおぼし
めし。ひきつくろひて御

みだうへうつらせ給ふ。ひめ君
たちもひきつく給ひ。女
ばうたち。はしたものに
いたるまて。心もをよばず
出たゝせ。御だうへ入給ふ。かた
いなかとも覚えず。心にくき
にをいにて。ぢんじやかうのに
ほひみち/\て。よしある
さまなれば。いつよりも御心を
すまして。びはをひかせ給ふ。
ひめ君はきゝしり給ひて。ば
ちをとのけたかさ。あひ
きやうつきたる手あつかひ


47
も。たとへんかたなし御身を
やつし給へども。ゆふにけた
かくいつくしくいかなるかせ
のたよりもがなとおぼし
めしける。おりふしあらし
はえkしくふきて。みすを
さつとふきあげたるひま
より。ひめぎみと
 ちうしやうどの
  の御めを
 みあはせ  
  たまひ
    ける

挿絵

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48
かのひめぎみの御ありさ
ま。かんのりふじんやうきひ
もこれにはすぎじとぞ
みえ給ふ。いよ/\たしなみ。
ことびはをひきあはせ
ふきならし給へば。ちやう
もんの人々。あまりのおもし
ろさに。ずいきのなみだを
ながしける。ひめたちの心
のうち。くとへんかたなし。
ぶんしやう又さかづきをは
しらめて。ちうしやうどの
にさしにけり。ちからな

くまいりて。又つねをか
に給へば。いつぞやも申て
候御きらひけり。ひめのかた
にみめよき女ばうたち
おほく候。いづれにてもめ
され候へ。これより北に候とて。
ゆひをさしてをしへける。人々
めをみあはせて。御心の中
をしはかり。うれしく候とて
わらひ給ふ。さてそのよをす
ごし給ふべしとも覚えね
ば。人しづまりてしのび
いり給へば。姫君もあり


49
つるすがたわすれやらず
おもひ給ひ。かうしもおろ
さず。月くさなきをなが
めつゝい給ふおりふし。ちう
しやうどの八重のかきを忍
びいり給へば。れいならずお
とちのかけみらければ。むね
うちさはぎ。かたはらにいり
給へば。ちうしやうとのもとも
にいらせ給ひ。御そばにそひ
ふさせ給へば。かの人やらんお
そろしくもあさましく。
さしも人々をきらひ。あき

人にちぎりをむすびて。
ちゝはゝのきゝ給はんこと。
かなしくはづかしくて。おも
ひよるまじきよしの給へば。
ちうじやうどのもことはえいと
おぼしめし。えぶのくらんど
かたりしよに。はじめ今ま
でかきくどきかたり給ふに。
ひめ君もうちとけ給ひ。いつ
しかあさからずちぎり給ふ。
さるほどに秋のながき
よなれ共。あふ人からのしのゝ
めはやくしらみければ。


50
こひしてあひ見し
よはのみじかきは
むつことつきぬ
にいまくらかな
と。か様(やふ)にの給へは姫君打そはみて
かずならぬ
身にはみじかき
よはならし
さてしもしらぬ
しのゝめのそら
それより天にあらはひよくの鳥
ちにあらばれんりのえだ
とそちきり給ひけり

挿絵

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51
しのぶとすれどあらはれ
て。さゝやきあへり。はゝ上
もきゝ給ひて。あさましや
大みやうたちをきらひて。
あき人にちぎりし事
のかなしさよ。あき人に
つけてをひいださんとぞ
申しけるほとに。ぶんしゃう
がところにこそ。みやこよ
りくたりたる。あき人を
あひしをきて。くはんげん
させるよし大くうじどのへ
きこしめし。御つかひ有

しかば。ぶんしやううけた
まはり。かしこまつて候と
て。あき人に申けるは。
大ぐうじどの御ちやうかん
あらんとの給ふあひだいつ
よりもひきつくろひて。
くはんげんし給へと申けれ
ば。けふよりあらはれんとお
ぼしめし。みこにての御し
やうぞく。いづれももたせ
給へば。御かふりそくたいの
すがたにて。かねつけまゆ
つくり給へば。心もことば


52
もをよばず。いつくしく
みえたまふなり。ぶんしやう
がうちのものこれをみて。
あき人はいずれやらん。たゞ
かみほとけのあらはれ給ふ
かと。おどろきける。大ぐう
じどの。きんだち五人つれ
たまひて。こしにていらせ
給ひ。みだうのしやうめんを
み給へば。ちうしやうどのと
み給ひきもをけしこしより
よろこびをり扨もてんかの
御子に二いのちうしやう

どのうせさせたまふとて。
くに/\゛をたづねまいら
せ給ふとうけたまはり候。
これにましますを。遊め
にもしりたくまつらぬ
こと。あさましさよとあき
れて。かしこまりてぞ
い給ふ


53
挿絵

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さるほどにひやうえの
すけ。たちいでゝいかに
さだみつ。これへまいれとの
たまへば。ぶんしやういそぎ
いえにかへり。あさましや
人のめをみすましけも
のは京のあき人なり。かた
じけなくもわか君を。な
めけに申は。ふるひなき
けり。大ぐうじどのはぶん
しやうをめし。なんぢしら
ずや。かたじめなくもてん
か殿の御子に。二いのちう


54
しやうどのと申て。ならぶ
かたなき御人なり。さても
みやうがにつきなんと申
給へば。ぶんしやううけたま
はり。きもたましいもう
すか心ちして。このほど
あき人とおもひつるに。てん
かの御子にてはたらせ給ふ
を。ゆめにもしらずとせき
めんして。又うちへもどりけり
むこどのはてんかそ。てんかは
むこどのよと。ものにくるふ
かしによろこびける。大ぐう

じどのは。手づから御こし
をかき。わかやどへぞうつし
申。八かこくの大みやうにふ
れければ。われも/\と
まいりあつまりける。これほ
どめでたきさいはいを。ひ
け給はんとて、しよ人をき
らひ給ひけると申ける。
ちうしやうどのは。ひめき
みをぐして。みやこへのぼ
らんとおぼしめし。御いて
たちたまふ。とうこくは
大みやう一まんよき。御とも


55
にまいりけり。御かいしやく
母は。大ぐうじどのゝきたの
かたをはじめとして。われ
も/\とぞまいりける。文正
が四方のくらのたからもの
は。いつのようぞと。御くるま
をばきん/\゛にてかざり。女
ばうたちをいつくしく
かざり。みやこへのぼり給へ
ばみる人きく人うらやま
さるは
なかり
ける

挿絵

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56
三月十日あまりに。みや
こへつかせたまふ。てんか
のきたのまんどころも。たゞ
ゆめの心ちせさす給ひて。
うれしさかぎりなし
たとひいかなるものゝ子成
とも。をろかにはおもふべ
からずとて。もてなし給ふ?。
ひめぎみは。ふぢかさねの
七へきぬに。えいその?か
さぬ。さくらのくれない
はかまにほやかにきな
し給へば。すがたかゝりまこ

とにいつくしさたとへん
かたなし。いかなるゆへに
ぶんしやうとやらんが子に
むまれ給ふらん。ひとへに
てんにんのやうがうかと。御
てうあひかぎりなし。こん
どの御よろこひにとて。
ひたちの国を大ぐうじに
たびにけり。さてちうしや
うどのいかとへまいり給へば。
此ほどはこひしきおり
ふしに。御よろこびたとへん
かたなし。やかて大しやうに


57
ぞなし給ふ。さて此ほどの
ことども御たづね有ける
に。いち/\かたり給ふ。みかど
おほせ有けるは。いもうと
さだめてよかるらんとの給
へば。あねよりもまさりて候
と申給へば。やがてせんじを
くだされけり。ぶんしやう此
よしきゝ。せんじかたじけ
なくと候へども。あねはちか
らなし。いもうとは此国に
をきして。あさゆふみまいら
せてはかなふまじきよし

申ければ。そのよしそう
しけるに。さらはちゝ母
ともにみやこへめしけり
みかど御らんずれば。あね君
よりもいつくしくおぼし
めし。御てうあひかぎり
なし。よき子をもちぬれば。
ぶんしやう七十にて宰相
にぞなされて。引あけ
給へば。五十ばかりにそみ
えにける。ひめぎみは女御
になり給ふ。さるほどに
れいならずなやみ給へば。


58
みかどをばじめさはぎ給
へば。ひきかへ御よろこびか
ぎりなし。十月と申に。
御さんへいあんし給ひて。
わうじをぞうみ給ふ。御め
のとには。くはんばくどのゝひ
めぎみ。ちうぐうにまいり
たまひぬ。又おうぢこのさい
しやうと。やがて大なごん
になされけり。いやしき。し
ほうりのぶんしやうなれ
ども。かやうにめてたきく
女ほう共。中々申にをよ

ばれず。はらも二いとのと
ぞ申ける。いかなるくわこ
のをこなひにやらん。みな
みなはんじやうして。えいぐは
にほこり。としさへ
わかくみえ給ひ
 げにん
わかたうおほくめし
 つかひ女はう
   たち
丁下にいたるまで人に
 もちひられえように
  ほこりたまふ


59 

挿絵

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さるほどに大なごんは
たかきところにたう
をたて。大にふねをうか
め。せうかにはしをかれ。せん
こんかすをつくしたまふ。
いつれも/\御いのち。百
さいにあまるまでたも
ち給ふぞめでたき。ま
づ/\めでたきことの
はじめには。此さうしを
御らんじあるべく候

 

    (了)