仮想空間

趣味の変体仮名

彦山権現誓助剣 毛谷村の段

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/856426 

 

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2
浄瑠璃は音声の曲節と文章の妙味と
相須ちて感興を起さしむるは世の普く知る
所なり今回発行をる此懐中浄瑠璃
五行稽古本は古来の五行本にならひて
特に朱点を附したるは珍しうも新きうへに
体裁いと美しけれは音曲同好の人は更にも
いはす文学を玩ふ人も座右に置かへに

 

 

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3
便よく小にして大をかなふるものといふへし
されは此本広く世に行はれなは斯道も
益隆盛ならんことを喜む具編者の
功労を感し拙き一言を述へて序に
代ふるになん
明治四十一年冬  摂津大掾

 

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(左頁 これより本文)

てこそ入にける 仰には不
審とつ置つ 思案吹散る
春風に 梅が香慕ひ
鶯の さへづる声に法華
経も既にくれぬとつげ

 

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4
ぬらん ハゝ刻限も違へず
鶯がもふ鳥屋に来た
アいかさま鳥でさへ法華
経とさへづるに 身のせ
はしさに取紛れ 念仏も

ろく/\に得申さぬ アゝ勿
体ない/\ 申母者人 如
才じやごんせぬぞや 必ず
叱つて下さるなと 位牌に
向ひ合掌し 在(いま)すが如き 


5
孝行を 感ずる天の加護
軈(やが)て深き恵みも有ぬべし
一心不乱他念なく 打鳴し
たる鈴(りん)の音に さそはれ
帰る稚子の 目元しほ/\

なき母と しらでこがるゝ
子心に聞覚てや拾ひ取り
小石積みてはかゝ様と 慕ふ
涙の雨やさめ 草葉に
落ておのづから手向の


6
水の哀れなる さいの河
原を目前に見やる六助
こらへ兼 其儘欠おり抱き上げ
ヲゝ尤じや/\尤じやはやい どふ
ぞ逢してやりたきに どこ

じやと問ど分りは知れず
勿論預けさしやつた人は
只一言も得云ぬ最後 スリヤ
いづくの誰が?かは知ねど
いたいけにしほらしう 伯


7
父様/\と廻す物 憎まふ
迚是は憎まれうか かは
いや/\な コレ伯父様 かゝ様
はなぜござらぬ かゝ様ほしい
かゝ様なふと泣叫ぶ コレ其

様に親をこひこがれて 煩ひ
やなど仕てくれなよ ひよつ
と死だら今の様にさいの
河原で石の数を一重積んで
は父を慕ひ二重積んでは


8
母親を尋ねこがれて六
道の地蔵菩薩に取すがり
父よ母よと泣くといやい
おれも二人の親に離れ
女房もなければ子供同然

ほんに親に逢はれるほど
成らば さいの河原はまだな
事 八万地獄の底へでも
尋ねて行たい逢たいもの
何弁へない心からあいた


9
がるのは無理じやない ヲゝ
道理じや/\可愛やと
抱して/\声立てて男泣
にぞ嘆きしが 漸なみだ
押拭ひ アゝ悪い孤(みなしご)殿 おれ

迄をそゝなかして泣した
程にの サア/\さつぱりと機
嫌直して コレ昨日買うて
やつた疣(いぼ)太鼓夫レを叩い
て遊ばしやれ イヤ/\太鼓は


10
いやじやヲリヤねむたい かゝ様
と寝たいはいのふ寝さし
てほしいと稚子のわやく
もぐはんぜ泣寝入 ヲゝコリヤ
もふ寝入たそふな ハテ

子供と云者は とんと罪の
ない仏様では有はいの ドレ
伯父が寝さしてやらふか
と供にふしどのくさ筵
折節竹の音もさへて吹


11
くらしなる虚無僧の宿
求めんと籬(まがき)に寄り ムゝ爰に
ほして有此四つ身は慥に
覚へ有小袖と取んとする
を後ろからこりや盗人め

と二三人 掴みかゝるを寄せ
付けず 振廻したる尺八の
たけた手利きにぶう/\
ども眉間肩先うで骨
背骨 ぶちのめされて


12
ちり/\゛に皆我先と逃
帰る 六助内よりきつと目
を付 見れば売僧(まいす)の贋
虚無僧 よつ程あじ
やりおつたとなじる詞を聞

咎め ナニ偽虚無僧の売
僧とは ハテ掟に違ふた身
の廻りと云 第一宗門の姿
で 喧嘩口論ならぬはづ
又常人が理不尽を云


13
かけても随分如法に済
せよとは 本山からの戒めで
ないか 其上尺八の本手
は吹かず 今時流行雑な
手をふきあるくからは 贋

者と云たが誤りか 山賤(がつ)
は仕て居れど 夫レ程の事
は知て居る 何とてごんす
梵倫字と 詞に一癖去る
者と見て取るこなたも笠


14
脱捨 ヲゝ其返答仕て聞け
んと ずつと入より替筒に
仕込し短刀抜放し 家
来の敵と打かゝるを ひら
りと替(かは)しつかととり

ハゝゝちよつと見るから女と
は悟つた故に咎めて見
たが敵と云るゝ覚へは
ないぞ ヤ覚へないとは卑
怯な奴 杉坂の辺(ほと)りにて


15
五十有余の侍を手に
かけ 路銀は勿論妹が わ
すれ筐みの稚(おさなご)迄奪ひ
取た山賊め 赦しはせじ
と振ほどき 尖(するど)き切さき

無刀の六助抜けつ潜りつ
あしらふ手?(だれ) 遁さじ
物と付廻す 屏風の内
より伯母様かと欠出る稚
子見て恟り ふしんながら


16
も小脇に引抱心赦さず
身構へたり コレ伯父様 伯
母様が来てじや太鼓叩
いて見せていのふ ヲゝ合点
じや/\後に/\ イヤ今

じや 早ふ/\と顔是なふ
廻せば廻る子可愛がり
持遊(もちやそび)箱を引寄てソレ今
鳴すぞ コレマ聞しやれや
廿三日は母者人の四十


17
九日 杉坂の墓所を戻り
がけ 泥坊めらが二三人 五
十斗な侍を切るやら突くやら
なぶり殺し 見るに見兼
て片はしからのめらせ 介

抱すれど物も得云ず
ソレ其子をゆび差しして拝
んだ斗がつくり往生 目
前敵の盗人めら 踏殺し
て谷へ蹴込み 連て戻つて


18
其子に問ど差別はなし
そこで思ひ付たアゝアレアノ
着物 門口に干て置た
は其子の所縁をしらふ
為 心が早ふ届いたか 現

在の伯母御に渡せばこ
つちも安堵 よふマア尋ねて
ごんしたの と悦ぶていに
偽りなき真実 見ゆれど
猶も根を押し しかと其


19
詞に違ひはないか イヤモ何
がこはふて偽り云ふ くどい
尋ねにや及ばぬ事 シテこ
な様の名は何と云 ヲゝ六
助と云まする ヤア何と

イヤサ毛谷村の六助と云
山賤でごんすはいの ヤアスリヤ
八重垣流の達人と 音に
聞へた六助様か エゝと飽きれて
取落す 子は狼狽へて逃げ


20
込む共 知らず構はず六助を
うつかり詠め見とれ居る
今の様に云ても疑ひ
晴ず やつぱりおれを敵
にするか エゝわつけもない

何の家来の一人や二人
どふなとしたがよいはいな
と 前に寄添後ろに立ち
テモマア遖よい殿御 マア何より
か落付た イヤ/\まだ落付か


21
れぬ事が有はいの イヤ申
お前にはアノ 女房様がござ
りますかへ イヤ様子あつて
女房は持ませぬ サア有や
せまいがな ないかへ/\ ヲゝ

嬉しや/\ 夫レでほんまに
落付た コレイナアコレお前の女
房は私じやぞへ サア女房じゃ
/\とかきたくる程今迄
も 逢たふ思ふた重荷が


22
おり 三衣(さんえ)袋も茶袋に
仕て見たがりの水仕業
袈裟も襷とかけ徳利
酒もあげふし夕飯(まゝ)の 拵へ
せうと釜の下 たきぎの

しめり燃かぬる 火吹竹
はと尺八を取違へてはホゝゝゝゝ
おかしがり 独り御機嫌六
助は 承知内義のふり売
を持余したるむつと顔


23
イヤモとんと訳が知れぬ けふ程
けぶな日はない 見ず知らず
のわろ達が イヤ親に成らふの
かゝじやのと 押入れ女房の
手引した あの子もめつ

たに油断は成ぬ 全体
こなたはマア誰じやと 尋ねに
はつと心付き 俄に行儀改
めて云べき事も跡や先
常々とゝ様のおつしやるには


24
豊前の国毛谷村の六
助と云者こそ 剣術勝
れし器量の若者 行末
はそちと娶合せ吉岡
の家を相続させんと 音

伝(つれ)通じ置たるぞと 仰を
守る此年月 廿の上を越し
ながら眉を其儘いかな
事鉄漿(かね)も 含まぬ恥か
しさ 推量なされて下


25
さんせ ムゝスリヤそこ元は吉
岡一味斎殿の ハイ娘のそ
のでござります ヤ是はし
たりと手を取て 無理に
上座へ押直し 先づ何角差し

置きお尋ね申したいは 御親父(しんぷ)
一味斎殿 御健勝で今に
お勤めなさるゝか 御老体の
事成ば自然のお労(つかれ)にて
もし御病気など?(おこ)りは


26
せぬかと寝ても覚ても
心ならぬは是一つと 問れて
薗は涙ぐみ 申もあへな
い事ながら おいとしやとゝ
様は隣国周防の山口と

云所でな ヤゝ何が何とどふ
なされた 口惜ややみ/\と
騙し打たれてはかない御
最後 シヤア シテ/\其相人は町
人土民でよも有まい 仮(け)


27
名は何と何国の誰 同じ
家中に名を得たる剣術
師範の京極内匠 シテ
豊前へ来たられしは 敵の
在所は当国と 知てか但し

知らずにか サア所々方々と
身をやつし 云に云れぬ
憂艱難尋ね捜せど敵
の行方けふが日迄も知
ませぬはいな ホイはつと


28
斗にどふと座し 拳を握り
悔み泣き園は取分け悲しさ
をやるせ涙のくどき言
ほんに浮世と云ひながら
見に憂事の斯く斗り 重なる

物か父上の 敵を願ふ門
出に可愛や弟は盲目の
儘成らぬ身を悔み死に 跡に
見捨てて古郷(ふるさと)を出るも散り
/\゛放れ/\゛ 有家を捜す


29
其内に悲しや妹(いもと)も釼の
難 父上のみかそもやそも
二人三人があぢきない 釼(やいば)
の霜と消え残る母と私が
憂き苦労つらい悲しい恥しい

なりもかたちもいとひ
なく あめ露雪の深山
路や野末にあるく一つ家
にもしや隠れて居やう
かと人なき道に日を暮し


30
さまよひあるく親と子が
便りない身の上もなき
便りの人に廻り逢ひ私が
心の奥底を明かすは二世
の我夫必ず見捨ててくだ

さんすな可愛と思ふて
給はれとくどき嘆いて伏
しづむ ひたんの涙六助
もかゝる憂きには猶さらに
思ひ忘れぬ昔 彦山の


31
麓にて 目なれぬ老翁
にま見へしが 高良の神
の使いなると 兵法印可
一巻を下されし 其老翁
こそ吉岡殿と 察せし

事は彼の巻の奥に有り/\
御姓名 書添られしはこな
たの事 夫婦と成て吉
岡の家名相続致せよ
と六助如きの拙きわざ


32
伝へ聞れて有難や 神
の使ひと偽つて印可をあ
たへ其上に 汝に勝つべき
者有ば 夫レにしたがい身
を納め 末長久栄へよと

教訓有しは後々迄 我慢
を押さゆる御情 たとへん方
もなき大恩 肉にしみ骨
に通つて忘られず 母だ
に見送る上からは 尋ね登


33
つて恩を謝し 師の緒顔
をにし/\と拝せんものと
思ひしも 皆むだごとと
成つたるか エゝ残念や悔し
やな せめての筐師の片

われあらなつかしやとおそ
のを拝し 飛(た)走る涙はら
/\/\腸(はらわた)を断つ思ひにてし
たひ嘆くぞ不便なる 時に
障子のうちしはぶき ホゝヲ


34
師匠を慕ふ誠こそ は
るかに届き冥途より閻
浮(ぶ)に帰る一味斎 対面せ
んと聞やれば 思ひがけな
くお園が恟り ヤアそふお

つしやるは母様かと 嬉しさ
とつかは押ひらく うちに
につこと以前のらう女
柔和の面(おもて)皺のなみ 裲
着なし稚子の手を引


35
連て立出るを 見るより
はつと飛しさり 師の後
室とは夢聊か存ぜぬこと
迚最前は ぶこつのあしら
い無礼の段偏に御免下

されかしと誤り入つてぞ平
ふくす イヤのふさつきに逢
た其時は 聟殿共姑共
互に知らねば他人も同然
今こそ真身泣よかし


36
親子が為には鉄(くろがね)の立
通したる娘が操 不便と
思ひ睦まじう夫婦に成つて
下さらば本望とぐるに疑
ひも亡き我夫(つま)の此魂 聟

引出にと差出せば ハハハゝゝ
こは有難き師の筐み 辞
退申さず頂戴せんと
押戴きし献々(こん/\)の盃三々
くどからず 古(ひね)た生娘けふ


37
よりは手打せ初(そむ)る花嫁
御母も悦ぶ其所へ 爰じや
/\゛と杣仲間遠慮亡(なき)
骸(から)戸板に乗せ どや/\と
かき込で コレ六助殿 聞しや

ませ廿三日の事であつ
たがよ 此斧右衛門のお
ばゝが見へぬ迚 仲間中が
手分けをしての ヲゝてや 何が
所々方々を尋ね歩き行き


38
よふ/\と杉板の土腹の
下で見付た所がよ 此
やうなおかいこ絹を引
ぱらせむごく殺して有
ましたよ 敵が取てやりた

けれどうら共では何として
サゝゝそこで頼むは六助殿
と云に欠けおり死骸の傍
立寄てとつくと見ムゝスリヤ
此死骸はそちが母か アノ


39
是が ムンと眉に皺思案の
体に杣仲間コリヤ斧右衛門
しめりふさずと頼みやれと
引起されて泣じやくり
アイ/\皆のお云やる通りじやよ

敵を取て下さませ アゝ死
しやるはしか其昼間塩
梅よふ出来た自まんの
だんご 棚からころり 其
身もころり 手でこねた


40
迚てこねる物か 何ぼう
杣が親じや迚斯しやき
ばつた枝骨はおろさゞ
桶へ這入るまいはいりとも
ない死出の山 覚束なか

ろのふば様 ばさま/\と
呼ぶ子鳥 谺に響き泣く涙
落込む谷に水かさのいとゞ
増さりて見へぬらん 始終
とつtくと聞すまし ヲゝ気


41
遣いするな今に敵は
取てやる其死骸大事
にして内へ逝んで香花取れ
サア早ふ連て行早ふ/\
と六助が詞を精に斧

右衛門 アゝ其様に云て下さ
るのが ばさまの為にはお
守様の御引導ノウ皆の衆
アゝてやあの人がアゝいははりや
ちつ共気遣ひ泣がほを


42
笑顔に直して帰りける
跡に六助無念の顔色
扨は杣が母をたらし込み
儕が親と偽つて孝行
ごかしに六助を 深い所へ

やりおつたな ヘエゝ思へば/\
腹立や卑怯未練の
微塵弾正 儕此儘かく
べきかと 胸も張裂く怒り
の歯がみ 庭の青石三尺


43
ばかり思はず踏ん込み金剛
りき イヤコレ聟殿待しやれや
こなたの腹を立さつし
やる 相手の苗氏は微塵
とや いかにもおのが流儀

を其儘に 氏となしたる
微塵弾正 ナニ其流儀の
名が微塵とな シテ其者
の年輩は 三十二三至極
の骨柄 面体白く目の


44
中さえ 左の眉に一つの
黒痣(ほくろ)慥に有々左りの
肘 二の腕かけて刀きづ
扨こそなァ 同し家中と
云ながら お園と云此

母も見知らぬ敵の人相
がき 妹に尋ね其砌書
せ置たる此姿絵 まだ
其上に妹が死骸の傍
に有し迚小栗栖村に


45
て友平が後の証拠と
渡したる此臍(ほぞ)の緒の書
付に 永禄九年の生れと
有る 月日をくれば廿四才
人相と云年の頃 割符

の合たは尋る敵 親の敵
菊が仇恨みを晴らすは今
此時 嬉しや娘片時も
早ふ母御用意と勇み立ち
アゝコレ/\二人共にマア待た 慥に


46
夫レと知れたれば六助がため
にも師匠の仇 コレ気遣ひ
せまい敵は討たす カ真剣
当てぬ其先に本太刀で
仕合の意趣がへし ぶつて

/\ぶちのめし申請ての
敵討 お袋女房いざ一所
にと取出す やぶれ裃
手伝にて 母は腰板あて
がふ紐 お園が取てしつ


47
かりと結び合たる妹背
の縁 コレ伯父様ぼんにも敵
討たしてや ヲゝ出かしたかし
こい/\強いなア ドリヤ行ふか
と云より早ひらりと庭へ

一足飛び コレ/\聟殿 軽き相
人(あいて)と侮つて必ず不覚を
取まいぞ そふ共/\だま
すに手なし 油断なされ
なこちの人 ムゝゝムハゝハゝゝ何さ/\


48
気遣ひ無用 一旦こそは
得心にて負けてやつたる
うづ虫め 謀り取たる五百
石 かゝへられたも我情け
却て足をつなぎしはもつ

けの幸い塞翁が味(むま)に出
逢ふた妻姑恨みは供に
六助も天地に恥る義の
一字 鬼神とて京極内匠
我見る目には一つまみ 併し

 

 

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49
御知行戴く中は殿の
後家人討得がたし 試合
を願いひ勝た上直に仇
討御免の訴訟 元くび
押へ討さすと 実にも尖き

魂を 見極め置し吉岡
が眼力違はぬ 若者也
お園は猶も勇み立 さき
乱れたる紅梅の花の一枝
折り持て ノウ/\我夫 梶原源

 

 

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50
太景季は平家の陣
に切入て 誉を上し箙(えびら)の
梅 これは敵の京極に
勝色見する兄(この)花の 可
愛男へ寿と 云つつ抱

つきたさも親に遠慮
の手をもぢ/\ 母も同じく
椿の一枝 本望とげた
其上で直ぐに八千代の玉
つばきかはらぬ色の花

 

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52
聟殿 いざと打ちつれ立ち
出る三人が 中に弥三松(やそまつ)は
ほんそう小倉の領内へ
勇み進んで出て行