絵本太功記 六月十一日

 

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     イ14-00002-093
 

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   同十一日の段 
家来共やい 弥明日は山崎にて晴軍 時に抜目ないは久吉殿 敵方の間者 又怪しき曲
者も有らんと 此赤山与三兵衛へ密々の申付け 汝らもやかりなく 若しや怪しき者も有ば 男
女に限らずからめ取て 本陣へさし出せよ 褒美は屹度後日に御沙汰 必ずぬかるな合点か
と 示し合せて主従は 左右へこそは別れ行 身は世を忍ぶ 蓑笠に やつす姿も柵が 夫
の詞守り立し 主君の種の音寿丸 いたはり傅き参らせて 心ならすも夜の道 流れに
伝ふ淀堤 並木のかげに 立休らひ ノウ和子(わこ) 遥かの西に籏の手の 月に映じてきらめくは 山


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崎の御本陣 父上の御座所 わらはか夫政道殿も主君の御供 翌(あす)は早々光秀様御対面
お嬉しうござりますかへ ヲゝ嬉い/\ 早ふおとゝ様に逢たいけれど どふやらねむたい/\と 詞の内に
ふら/\眠り ヲゝお道理でござります 大切の蜜事を受た俄の旅立 若しや敵の間者に出
合 御身の御難儀有もやせんと 心は千々に誰有ふ江州丹州両国の御主 今では四海の
御大将 惟任将軍の御公達 あまたの従者引かへて 従ふ者は此柵 杖柱とも思し召御心根
がおいとしぼい 是といふのも父上の道に背きし御企 たとへ望は叶ふても 勿体ない御主君の 春
長様に刃を合し 主殺しの大罪と 世の口の端に情ない 夫レに連れたる我夫も 供に汚名を下

すかと 思へば悲しい/\と人目なければ声上て わつと斗に伏沈む心ぞ思ひやられたり
立戻つたる赤山か夫と見るより相図の呼子 友呼千鳥ばら/\と 顕はれ出し以前の組子
女めやらぬと 追取走り驚きながら遉の柵 音寿丸を囲ふてすつくと立 ヤア心得ぬ
人々の挙動 何者成そと咎むれば 赤山は大口明き ヤア何者とは舌長し 主殺しの光秀か
一子音寿丸 軍の幸先久吉公へ差出す 早く渡せとのゝしつたり ホゝゝゝゝ事おかしや
光秀公の御内にて 人も知たる松田太郎左衛門が女房柵 主なしの久吉殿 夫レに従ふそち
達が 及ばぬ事を云はせも立てず ソレ者共と赤山が 下知に従ひ一度に切てかゝるを事 


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ともせず 右と左になぎ立れば 口程にもなき雑人原はら/\ばつと逃散たり 隙を窺ひ
後ろより 切込む赤山早足の柵 ひらりとかはせば赤山が 首は前にぞ落にけり サア/\/\此
隙に音寿丸様 此場を早ふと かい/\゛敷く忠義一途の女気に 主君の若を伴ひて 定め
  同十二日のだん    なく/\短夜に心せかれて たとり行

 

 

 

 

 

        今朝大阪に大きな地震。ニュースで被害状況を見るにつけ悲しい。泣きそう。