嬢景清八嶋日記 日向島の段

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/856524

参考にした本 http://image.oml.city.osaka.lg.jp/archive/ (管理番号 b0123001)

 

 

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308
向島の段
再板 娘景清 三之詰

 

 

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309
  嬢景清八嶋日記 三の切
いちご持まいみめのよい娘 うら
の畠が道になるしやうがへ 夕部
したのは広いとおしやる 廣か
せばめよ小繻子の帯しやうがへ

 

 

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310
茶摘小歌のなまりさへ 日向の
国の花香有る きて宮崎の浦
さびて峯の松風あら礒に
鳴子をおのが友千鳥 梅と
桜と月と日の外は都に似もやら

ず爰にも住めば住なれて 世渡る
賤の春仕事 茶えんに辛苦
を摘にける 中のよいどしよき合
けふのひる食(け)遅いじやないか
なべは何して居る事とぶつゝく

 

 

 

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311
向ふの畦道を 昼気(げ)かあじかたづ
さへてそりやこそ見へたと気も
いそ/\ 待胸先もひるさがり
金三が母こらへ性なし 槌松の
姉ちよろ作のかゝや ついこらへ見へ

たか鍋がなぜやらこぬはよ ヲゝ
けふは内のお志しの日じやはな
めくら小家へ銀射(ほうしゃ)持てかな
帯しめてまちやれな まちやれ
じやおじやらぬ 一昨日もあのめくら

 

 

 

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312
で萩餅(ぼたもち)二つへつられた 乞食
めくらめおれが咽じめ食がたき
昔は平家の侍悪七兵衛景清
とやらいふたやつじやげな 今ては
宮崎中が持てあましてほつと

悪七兵衛 親の敵と喰物の
恨み死んでも忘れぬとぶつゝく所へ
小屋から走つておなべが声 ひもじ
かろ待どふかろ 休み時いざ皆ござれと
打連れ家路に 松門(しやうもん)独り閉じて ←


313
年月を送り自 清光を見ざれば
時の移るをも 弁へず 暗々たる 
庵室に徒に眠り ころも寒暖
にあたへざれば肌はけうこつとおと
ろへたり 春や昔の春ならん

古郷の空はいづくぞや 憂き事茂る
草の糸芽ぐむを撫でて春ぞ
と思ひ 汐しむ風に秋をしり
難面月日のみにつもりくる 昨日は
北山に名玉を得 けふは南山に


314
足切られし 憂世は卞和(へんくわ)がたま/\も
慰む事の有ばこそ 牛飼樵者(きこり)
賤の女(め)の 情の食に命をつなぎ
物たべ なふと叫ばぬばかり 去ながら
めくら乞食の悪七兵衛景清

と 昔の我名を我心に思ふも
苦し足なみや 枯木(こぼく)の杖によろ
/\とよろぼひ 巌にたどり寄
首にかけたる袋をひらき取出
せば 錦の包にうや/\敷いつき


315
の位牌両手に持ち押戴き/\石(せき)上
にすへ備へ 合掌頭(かうべ)を地に付て
南無 小松の内大臣平朝臣重盛
浄連大居士速証菩提 唱ふる
声もかきくれて消入 斗のひたんの涙

天晴君は三世を見抜く日本の
賢人 国家の棟梁御一門の北
辰 治承(しせう)の空に雲隠れ給ひし
より 源平数ヶ度(すかと)の戦ひ闇に
険阻の山坂を越ゆる如く 謀る事

 


(このあと一頁分落丁にて、大阪市立図書館デジタルアーカイブ

    http://image.oml.city.osaka.lg.jp/archive/ 管理番号 b0123001 参照)

 

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7頁4行目 
   なす事跲(けつまづき) 斯申景清を
初め難波越中武蔵の有り国 河内判官

宗清なんど 一騎当千の者共 何となく
心臆し雑兵の手に落命し御一もん悉く
終に赤間がせき留ても 返らぬ昔物語
草葉の影より見給はゞ さぞ悲しうも無念
にもおはすらんよし人は兎も有れ 景清一人

8
生きながらへ 頼朝が首取て討れたる人々の  (落丁ここまで。国会図書館に戻る)

 


316
教養 欝憤を散ぜんと思ひし
一念の 通らぬのみか乞食(こつじき)めくら
の生き恥さらし 業に業をはたい
ても死なんと思ふ一心の極まらぬは
よつく摩利支尊天の冥感

にも 尽果たるか口惜やと 身を
かきつめり拳を握り落涙 五
臓を絞りしが ハ ハアゝ不覚のくりこと
今日は御命日 先年仕堂金に
渡されし三千両の功徳 唐土


317
経山寺(きんざんじ)にては御追善嘸取々
今日本(にっぽん)にて君が為花一本水
一滴 供養仕る者もなく成果てし
せめて景清生残つたる身の本
懐 且(かつか)は御目見への為と存ずれ共

庵の内は臣が不浄の伏所恐れ
を存じ 石を七宝の仏壇と観じ
位牌を出し此食(いゝ)を霊供(れいく)に備へ
奉る 此食香味(しきかうみ) 上供一切仏昔
の饗の膳 七五三五々三とも受


318
させ給へとは云ながらいかに世に
住み侘びる共 手がら煑焼(にたき)調味
してさゝぐる程の便りもなく 匹夫
匹婦のかまどを分けし栃の食(いゝ) 木
の柴の折敷(をしき)萩の折箸 是が
十節万乗の朱安徳天皇
おぢ君 内大臣重盛公の霊
供か 大政大臣清盛公の侍大将
悪七兵衛景清が 備ふる膳か
と斗にて 大地にどうど身を


319
投ふし聞く人なければ声をあげ
前後もしらず泣いたる 世の盛
衰ぞちからなき たれかあはれと
とふ人も 渚に寄する波の音 浦
山風に声添てからろの拍子舩

つなぐ声 スハ人こそと御骨を
なく/\袋に入れ奉りさぐりさし
足あたふたと 庵へ隠れ入らんとす
影を見付ておい/\ 申し/\物問はん
と 娘をいたはり左次太夫 急ぎ


320
舩より欠上れば娘は小石をふみ
くじらし 爪突きよろめき走り寄
是乞食殿 此嶋に平家の
侍 悪七兵衛景清様のめくら
に成てましますよし 東国方より

はる/\゛と行衛を尋ね参りし者
有り家をしらばおしへてたも 頼む
ぞやいのと有ければ 思ひがけなく
コハいかにとぎよつとせしが色にも
出さず 此島に去る人ありとは聞き


321
及べど 我とても盲目なれば
終に見もせず 今少し先でとい
給へと詞すくなに入んとす なふ
其詞の五音(ごいん)ていたらく 聞及びし
に少しも違(たが)はず 疑ひもなく御身は

父御よ 二つの時に生け別れし娘
の糸瀧 是迄尋ね参りたり
名乗てれ下され父御前と縋り
付ば飛しさり 杖をこだてに声
あらゝげ めくらの打つ杖とがめはなし


322
近よつて娘たゝかるゝな 景清で
ないぞ親でないぞ 当所初めて
ならしらぬも理 日向一国の習ひ
貧福(びんふく)貴賤の差別(しやべつ)なく 両眼
しいぬれば此島へ捨られ 乞食と

なり此世で因果の業を果s
未来仏果を祈る故 我等如き
の乞食盲何十人と云ふ数も限らず
人の上にも 身の上にも 哀れを
見るが悲しさに 景清が有り家


323
しらずといひしは偽りよ 爰より
おくにさまよひしが誠は去年
かつへ死に 土になりしと知らざるかと
我とわが身の偽りも親子火
宅の輪縁を切けんによもなげ

に入にける 娘はされ共あひ
見んの心便りも楽しみも 精
も力もよはりはて それは誠か
悲しやと 其儘そこにふし
転びもだへ こがれて嘆きける


324
左次も涙にかきくれながら
吉野初瀬の桜も不断咲て
有ると思ふは不覚 さくからはちる
筈生れるからは死る筈 生者
ひつすいの断りは釈迦だるま

も遁れ給はず 四百余里の
海陸(かいりく)をしのぎ あはんと思ひ
かためたる初一念になり共
詞をかはさんと思はずか 道理
ながらなげくは愚痴 いざ其


325
人のなき跡を 尋ねて見ばや
こなたへと 肩に引かけ行く力
も 甲斐も渚の小夜千鳥
ないて「おくへと尋ね行 折ふし
里人二人づれ すり違ふて行

過ぐる 是々と左次太夫そつじ
ながら物とはん 悪七兵衛景清
の最期の跡はいづくの程 教へて
たべと有ければ ハゝゝゝいやはや卒尓(そさう)
とて是に上こすそさうもなし


326
かうお出の道に物ふりたるわら
家(や)に 盲目の乞食はなかりしか
其目くらに尋ねてこそ景清
死去と聞てそふ それこそ景
清盲目なれ ムゝ聞へた となへを

憚り名乗ぬ筈 幸い我等参る
者引合せて参らせんと 聞と
便りにいそ/\と 元の所に立帰る
なふ/\景清お出ぞい 悪七
兵衛やおはする 物申さんと呼ば


327
はれば かしまし/\ 古巣に捨てし
鷇(ひな)鶴の親はなけれどとや出して
千(ち)さとをかけり尋ね来て父よ
となけど身を恥て我は答ず
夜の靍 膓(はらわた)を断つとは人しらじ

今は此世になきものと思ひ切
たる乞食を 悪七兵衛景清
と呼べば是にと答ふべきか 其上
住家も此国の日向とは日に
向ふ 向ひたる名をばよびもせで


328
情なくすてし梓弓 引けば引かるゝ
悪心を又起こさすか腹立やと
隔ての笈菰(すがごも)引ッちぎり 追取
て立出しが 所に住ながら御扶
持有旁(かた/\゛)に憎まれ申物ならば

ひとへに盲の杖をうしなふに
似たるべし かたはなる身の癖と
して腹あしくよしなき云い事只
赦し おはしませ 娘はそでぞと聞く
からに なふなつかしや御身が


329
父上様かいの うばが今燭(わ)の物
語 御有家を聞くととし遅しと
はる/\゛尋ね来りしに 娘よふ
きた不便やと 一口云たら科にならふ
か 最前はなどどうよくに 包み

隠させ給ひしと縋付て泣けれは
父も引よせ撫さすり 若しやと
我子の顔見たげに 指で眥(まぶた)を 
引ぱつても 闇(くら)きに迷ふ盲目
の 心のやみにかきくれて前後も


330
わかず見へけるが 我熱田の
宮司の娘に契りなんじを
もうく 憎しわるしでなく女なれば
足手まといと 二才の時うばが
娘にくれたれば 今では子でなし

親でなし 娘有る共思はざりしに
血筋程有る心ざし 親は子に
迷はねど子は親にまよふた
なあ 礼は云ぬ出かしおつた
不便やうばめもてこねしが


331
みなし子の年はも行かず 誰
を力何とか暮す聞かせて
くれと有ければ あいとはいへど
云兼てわつと泣き入るばかりなり
左次太夫目をしばだゝき 我等

御息女の御供し供に御有家
を尋ねし左次太夫と申す者
御物語申さん 昔の御自分
ならば公家高家のれき/\にも
御縁組 それは今申してせんない


332
事 時々の花を折と云世の譬
日影の景清殿の娘御 押し晴れ
て嫁には呼ぶ人も遠慮 あちら
こちら致す中幸いの縁あつて則
我等仲人仕り 相模の国て田地

持ちの大百姓へ氏系図を土産
にして去冬婚礼さらりと相
済み 村中の参会にも二番と
さがらぬ座並案じさつしやり
ますな不自由な事も何んにも


333
ござらぬ 其元の身の上聟殿
の親御が聞及び 裏の隠居
所立て呼よせて養はせまする
もいと安けれど 天下の恐れ 気の
どくなこつちや 盲人のさぞ便り

なからふ官をさせましお身を
安ふして上げましや 金持せて人
やるも合点なれど 孝行にも
ならふお顔見がてら 嫁直(じき)に
持ていきやと 何から何迄気が


334
付て あんまり心が付き過ぎて傍
からも涙がながれますとさし
出す財布と文箱と 胸の内
とはしらぬひの心づくしぞ哀れなる
景清面色筋をいらゝけ ヤア左次

大夫とやら ながの海陸いつかい
世話 つれて来て逢せた一旦
の礼はいふ 人うりめ 盗(すり)め なぜ
景清が娘土百姓のはたけ
かぢり 土龍(うころもち)の女房には仲人した


335
稚く共女郎(めらう)父を見よ 頼朝
にしたがへば国郡の主となり
くはつけいくはんらくをふり捨此島
のうづ虫めらが五器のわけを
すゝるも 弓矢取る身の我(が)と云ふ

物 男も女も義は同じ 喰物に
尽きたらばなぜのたつてくだばらぬ
此金で官せよとは 親まで土
くらひの名を穢せか エゝにつくい
奴 討殺そふか踏ころそふか


336
それも腕よごし足けがれ よい
/\自滅のよいものくれんと 探り
よつて庵の中より黶丸(あきまる)の
名剣取出しがばと投つけ 景清が
錆ぬ勇士の心は此太刀 我手に

かゝると観念せよ立て帰れ
左次つれて行 心に任する身
ならば たつた一目白眼(にらん)でくれたい
と 見はる眼にばら/\と こぼるゝ
涙を稚な気に誠の叱りと悲しさ


337
つらさ せき上/\泣ければ 里人を
初め左次太夫 跡に心を残さ
せぬ詞の邪見と心の慈悲 顔
と気色(けしき)に見て取る共 訳ては云れ
ず差うつむき供に涙にくれけるが

はつちやこはし長居せばまた
此上に恐ろしや/\ サア娘御舩に
乗て帰りましよ 蹴ちらす程
いらぬ此金 残し置は国土のついへ
と拾ひ集め里人に 目まぜで渡せば


338
目まぜで受取 ヲゝよい合点早に舩
に乗しませ まだ舩に乗ぬか ほへるか
女郎めいや只一討ちにぶち殺さん
と杖ふり上るを拍子にて アゝ左次が
乗ますと 娘の手を取り引立/\

涙を呑で立出る 討ち殺さるゝ
と父の顔 此世の見おさめ
暫くなふとこがれなげくも
いた/\しく よはる心の父は猶
杖とぼ/\とよろめく姿 それ


339
討殺しにやれくるはと おどしつ
すかしつ袖を引立て手を引立
いだき乗すれば舩人は 纜(ともつな)といて
はせ出す 舩よりは扇をあげ
陸(くが)には声の立限り 今しかりしは

皆偽り 人に憎まれわらはれず
夫婦中よふ長生きせよ あたへし
太刀を父と思ひ肌身も放さず
回向せよ重ねて逢ふはmねいどて
/\ さらば/\といふ声も涙にくもる


340
汐ぐもり 追い手の風の心なく
親を残して沖津波舩は 遥かに
行過ぎぬ 里人立寄りたがひの
御心中さつしやる 七珍万宝多し
といへ共 子に勝つたる宝もなし

残し置かれし財布と史箱受
取給へと差出せば 扨はさとく
盲目が心を察し 金を残し
置いたるか 文箱とは何やらん
御苦労ながら開いて見てたべ


341
心得封をきり/\と上包とき
ほどき ヤア書置と書いてある
とは何の書置 早ふ聞かせて下
されと心そゞろに気をいらつ
なに/\ひなの御住ま居 それさへ

有るに両眼迄しいさせ給ふと
聞きまいらせ候故 余り悲しさ
やる方なく 官を上げ御一生をやす
/\暮させ申さんため 我身を
手越の遊君に売りしろなし


342
まいらせ候 やれ其子は売るまじ
左次太夫殿娘やい おい舩よ
なふ /\ かへせ戻れと声を上 心
乱るゝ足よは車 たどりめぐれば
アゝ是々 近頃便なき事ながら

舩は遥かに帆影も見へず 思ひ
諦め給へといへば はつと砂(いさご)に伏
よこたはり 涙干潟の荒磯
に 汐の満ちくる如くにて身も浮く
斗嘆きしが 普代相恩の主君


343
ながら 入道殿の邪見ほういつ
仏神三宝に捨てられ奉り 亡びし
平家の運命とは知らずして 仁義
正しく道を守る頼朝に敵せん
と 生甲斐なき命をながらへ

勇者の義を磨く/\と思ひしは
皆天道に背く悪人の方人(かたうど)
兎に角弓取りは死すべき時に死な
ざれば 死に勝る恥ありとは今
景清が身に知られたり 我身は


344
斯ても命のつらさ末近し つれ
なの人がいや 積悪(せきあく)の余殃(ようをう)我
子にめぐり報ひきて 君傾城
に身をおとせし 娘が身の油の
あたへにて 老の命をつがん事

直に肉(しゝむら)を喰ふ同然 孝行かへつて
不孝の第一 但しは人外ちくるいになれ
とのしはざか 泥水をすゝり土砂を
くらへば迚 これで官が成る物か 恨し
のこがねやと大地にがはと投つけ


345
打付け 苦しみは肝に焼金さす 見へ
ぬ眼玉の飛出る斗押拭押こすり
大声上て泣きくどく理 せめて哀
なり 供に 涙にくれけるが 折よしと
里人近く立よつて 少しき恥を悪(にくむ)

者は大切をなす事あたはずと云へり
かばかり苦悪をかみ分けし景清 なと
志を改め頼朝に帰伏せんと思し召
すや さも有らば息女の身も穢さ
ず 鎌倉殿にも嘸御悦喜 良禽は


346
木を撰て住み忠臣は主を撰で仕ふ
と云ふ万世の確言 思ひ当り給はずや
と有ければ 耳をそば立て 今までは
賤き土民とこそは思ひしに かゝる道理
をのべ給ふおことは誰 ヲゝふしん尤 斯申すは

天野の四郎土屋の郡内 鎌倉よりの
隠し目附け 御辺に付添ひ起ふし立
居 其日をもつて鎌倉へ告げしらせ
ずと云事なしと 懐中より取出す
家形紋の錦の胴服 右大将家

 

 

 

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347
の御紋の光傍(あたり)をはらつて見へに
けり アゝ恥しや嘆きに本心を見咎め
られし 此上はたゞ兎も角もと
我(が)を引詰し梓弓 矢竹こゝろ
よはるを見て 天野四郎礒辺に

立出 悪七兵衛景清志を改
頼朝公に御味方 上洛の御船
参れと呼はれば 俄にそよぐ芦
辺を押分け 渡海 作の召の舩 五
色の吹貫綾の幕 浦風に吹き

 

 

 

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348
そらさせざんざめかして漕ぎ寄す
れば 直ぐに二人が抱き乗せ 早おし
出す棹の歌 四海波風静かにて
枝も ならさぬのんえい/\ 玉の小柳
もまれてよれて たどろもんどろ

なびきおさまる八嶋のえいよ
ほんほゝほ ほん/\外迄君が代
の めぐみの海に情の舩 詞の
しほに心のみちひ 敵と味方は
追ひ手追風向ふ風 千里一とび

 

 

 

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349
一走り 一つ涙を昔と今にこぼし
分けたる女浪(めなみ)と男波(おなみ) 動かぬ
義心のかな碇も 引かゝ輪縁
も親子の紲 長き世かけてもし
ほ草筆の すさみと成にけり


大字五行義太夫本此度斯板に致し
紙仕立を念入表紙に厚紙を用ひ奥付は
本のいたまぬやうに仕候

書を御若寄の絵草紙屋へさし出置?
間? 御近所にて御求めかひ下候