斉藤別当実盛  第一

 

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                 イ14-00002-331

 

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  斉藤別当実盛 (第一
かくて右兵衛佐頼為木曽の次郎義仲 身は山川をへ
だつといへ共 たがひのぐんりよ一言にせいて 東山北陸両道より
せめ上ると聞ししかば 先義仲がほこさきを一ぢんにくだかんと 大
将軍には小松三位の中将惟盛 えちぜんの三位道盛ふく
将ぐんにはさつまの守忠のり 皇后宮(くはうごくう)のすけ経政わかくはん
げんの簀(ゆか)を出 堅甲利兵の姿にて都の花をあとになし こし
ぢのたびのくらき夜に火打が?をやきはらひ 加賀越中の嬪 


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なるとなみ山にぞさゝへける 時に木曽次郎義仲はいくさのきちれい
なればとて 五万よきを七手にわけ身は馬入(ばにう)にぢんを取 其間わづか
三町斗にさしむかひ矢合に目をくらし さしもさがしきからめてより
えびらのほうだて打たゝきときをどつとぞつくりける 平家の大
ぜいきもをけしうしろのかたを見返れば 白はたくもにへんほんたり
是はいかにとさはぐ内 大手のかたより義仲手せいすぐつて一万よ
き 松長のやなぎ原くみの森のかくしぜい宮の森にひかへたる
今井の四郎かね平が六千よきのぐんぜい共 えい/\わつとよせかけて前

後四方のときのこえ 山川くづるゝ斗にてやみにくれゆく宵月夜 めざす
もしらぬにげあしのきたなしかへせ/\やと みかたのいさむる其こえを
てきのこえと聞なして 馬には人ひとには馬がおちかさなり さばかり
ふかきくりからが谷 るい/\たるしかばねは七万よきにてうづめけり 義仲弥かつ
にのりにぐる敵をおつかくる 平家のざんとうたまありえず矢なみみだるゝし
のはらや たかにおはるゝない鳥のよはりはてたる力草 取物も取あへず皆
ちり/\゛に「成にけり おち行せいの 其なかにあかぢの錦のひたゝれに もへぎ
おどしの鎧きて金作りのたちをはき れんぜんあしげの馬に金ぶくりんのくら


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をいて のつたるむしや只一きかへし合てたゝかひけり 源氏の兵手づかの太郎
すゝみ出 アゝラやさしの御ふぜいいか成人にてましませば 皆々おちゆく其なか
に一人残らせ給ひぬる こころざしこそ神妙なれなのらせ給へといひければ 先さ
いふわ殿はたそ しなのゝ国の住人手づかの太郎みつもり ムゝ扨はよき敵 但御へんを
さぐるにはあらず 存るむねの候へばわざと我名はなのるまじ よれくまふ
手づかとてはせならぶる其ひまに 手づかゞ郎等我が主をうたせじと 
をしへだてゝくむ所をあつはれをのれは日本一の かうのものとくんでうつよ
と くらの まへわにをし付てくび かききつてすてゝけり 其後手づかの太郎ゆん手に

まはりて くさずりをたゝみ上て 二刀さす所をむずとくんで二ひきが 
あひに とうとおちけるが いくさにはしつかれぬをも手に力つき弓の やには
に手づかとつてふせ くびかきおとしずんと立 あせをしぬぐひいきをつぎ
扨々きいのくせものかな 大将かとみればつゞくせいもなし 又侍かとみればあかぢ
のにしきのひたゝれをきたり ものごしははんどうこえ ハアたれ人にかと打
あんじヲゝ 思ひ付たり内々ひぐちの二郎が物語に 斉藤別当実盛
こそ今度のいくさにこきやうきんえいの望をなげき ひんひげをす参
そめわかやぎ討死すべきと申せしが 扨はうたがふ所なき実盛にこそあんなれと 思ひ


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もあへずくびを持 かしこに立てあたりなる 此いけなみのきしにのぞみて
水のみどりもかげうつるやなぎのいとのひげをあらひてみれば すみは
ながれおちてもとのはくはつと成にけり げになをおしむ弓取は たれも
かくこそ有べけれや あらやさしやとて皆かんるいをぞながしける えんふに
かへる物語さいしゃうさんげのくどく共 ならんかしとて夕なみの立行かげも
まぼろしと きへにしあとをなつかしみゆかしのはらのいけ水の あはれかたちはきへうせ
てはてい きうぜんたうじやうのをともしづかに そよ/\と風に柳のえだをたれ

共にねふれるしらさぎのものしづか成寺のには きせんくんじゆのせうみやうの
こえ げにもまことにせつしゆふしやのちかひにたれがのがるべき されば
此寺のだうし遊行上人は今度七日の法莚けふけちがぐはんのせつほうに
くんどくの文をはりてもくねんとしてい給ひしが やゝしばしあつてさんけい
のちやうじゆにむかひ いづれもは只今がんぜんにあらはれたる しゅらのく
げんをみられたるか 何とあさましきことならずやとの給へば さんけいの道(だう)
俗けうをさまし イヤ何とも見ず候が たゞ/\上人の御詞 あやしうそ候へ
と堂内に有あふ人 めとめをきよろ/\見合ていぶかしげにこそみへにけれ


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上人涙をはら/\とこほし 扨は余人のめにはみへざるか しからばふしんに思はるゝは
尤々 いで/\有様かたつてきけ申さん 扨もしのはらのかつせんやぶれしかば
なかいの斉藤別当実盛はと いひもはて給はぬにちやうじゆのめん/\
口をそろへ イヤ其実盛のいくさ物語は御無用 有がたき御ほうだんこそ聞
まほしく候へとこえ/\にいひければ さればとよ其実盛のしうしん 今に此
土にとゞまりアレ あれ成いけのやなぎかげ白さきと生をかへ 愚僧が
せつほうをちやうもんし さんげえしんのため有しむかしの軍のてい今目前に
現然す さしもなたかきものゝふの身も鳥類と生れ出 かう成心も引

かへてちくしやうふいのくるしみとて 物におそるゝ有様を 見るにつけてもいた
はしやとこえ打 しほれの給へば 老若男女しその袖しぼらぬものこそな
かりけれ かゝる折ふし年若なるじゆんれい二人 くんじゆのなかををしわけ/\
高座まぢかく立より はづかしながら我々は 其実盛が二人の子 兄に斉藤
五弟に斉藤六と申者にて候が 此しのはらの古戦場亡父が
聖霊(しやうれう)ぼだいのため はる/\゛したひ参りしが生をへだつる肉眼に 当
然しゆらの有様をみぬまよひこそかなしけれ 其上あれなる白さぎは
父実盛にて候とや ナフなつかしやと手を出せばさすがをやこの印


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にてつばさをのがしふは/\とやがて「かしこにとび来り 兄弟が中にいて
みのげをふるひくびをたれ なつかしげなる其ふぜい物をばいはぬ斗也 兄
弟みるに心くれせきくる涙にむせかへり漸として申やう かくあさましき御姿
何ゆへかはとくどき立 云ことのはも白さぎのつばさをちゞめはら/\と 涙のしぐれ 
もみぢしてなくね あはれに聞えしを 上人つく/\゛聞給ひ 只今此鳥の物云たるを
両人にはつうぜざりしと覚へたり さればかやうに白さぎの身をうけしいんえんは
実盛一とせ坂東へうつ手にむかひし時 ふしぬまの若鳥のはをとにおそれ むれ
いる白さぎを源氏のはたかと見まがひしこと 将のふかくと云ながらしそつのをくれ

我身一つに思ひ取しつけのぼんなふとゞまつて今此鳥とげんじたり 然共兄弟の
孝儘にて じゆんれい修行の同行に此鳥をもいざなはゞ 今生一世につみを
めっし当来?金の身と成らんと 龍成御けうけ兄弟諸共手を合 扨も/\有
がたや仰にまかせ此うへは かたときもはやくとくだんの鳥を おりにしつらひいたはり
ていとまの十念 なむあみ/\あみた笠 くもはれね共行月の西国 断行
の「たび衣はる/\゛こゝにきの国や たなへの宿の夕ぐれにしばし心のひほ
とけて しやうじをしあけながむればつくらぬにはのをのづから 木立物ふる手
水鉢ていしゆが心ゆかしくも すかしまどよりつく/\゛と斉藤六はさしのぞき あな


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たをみれば松梅のまいら戸きりゝとをしあけて さもあてやか成上らうの はだへ
きよらにほら/\とゆかたながらのみだれがみ かしこのえんにはしいしてかゞみにむかふ
うしろつき かふしかたちのつや/\と見とれて立る斗也 それ共しらで斉藤五
ひよこ/\と立出 ヤアそなたはこゝに何してと とはれてほうど行あたり いや私は
是成南天か あまり見ことに候といへば はてめうな物がすきじやなふ 今頃の
南天は花にはをくれみはまだし ろうずるにさらずとて むかふのかたをちらと
見ムゝ出来た かゞみのうらの南天が御身がめにかゝりしな エゝなまじやくはいな
ぶんとしていき過たる心いき コレヤ侍と云ものは持が大事ぞ 万事は身共を

見ならひて行儀をたゞしくたしなみやれ さあ/\おくへはいりやれと めに
かど立てしかるにぞ かほ打あかめふしやうげにアイ あい/\とざしきのうちに
入にけり 斉藤五つく/\゛とまもりいて 神八まん弟が見とれたも道理
/\ 此女は宿のあるじか又娘共みへず ヲゝすいりやうするに相宿の旅人
よね アゝ何とがなしてこちらむかひてなあ かほをみんと手水鉢にそつと
あがり あしつまだてゝいたりけり 夕べ/\の かり枕 水の心もかくへつにぎ
すにつめたき 手ざはりの かみなで付てますかゞみ都の姫何となく さし
むかひたるおもかげは若殿たてゝさきほどから ひさしくのぞいているかほの


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かゞみの内にうつりしが はやきへうせしよきる物を もはやきませふと立んと
すればヤア また男のかほが見ゆるは アゝはづかしやしやうたいない我姿 とは 
思ひながらかげうつす姿をつく/\゛ながむれば はたち斗のきりやうよし かゞみ
にうつるかげよりもしやうで見たらばいかほとか うつくしう有らめと思へど
かゝる我姿 あちらむかんとおもはゆくかゞみにうつるおもかげと かほさし
むけてひとりごとこたへて物語どうともかう共いはれた事ではないもの
と 心のうちのたのしみをしらぬからとて斉藤五 とうぞしてめんていを見たい
事かなエゝきのどくやと そば成竹の枝を折手水鉢にをしひたし むれかけて

くれんとてさゝふりくるを斉藤六 はたきつまんで引とめコレ兄様何さしやんす
ととがめられ 持たるさゝをすてもせずあなたこなたとふりまはしさつても
ぎやうなくものすや かほにかゝつて是は/\とへらず口 ふつとふき出し斉藤
六ゆびざしして打わらひ 我せこがくべきよひなりさゝがにて くものふるま
ひかねてしるそとをり姫のゆかたごし みへすく姿にかきくもる心のすゝをは
らひ給へ コレ何といふ者はさやうの身持はせぬもの也 行儀万事は私を
見ならひ給へとさいぜんの口うつし 弟ながらもしかられずハテいふてもいは
ひでものことを さあ/\おくへはいつていや ハア私ははいりませふがおまへ様はなんとゝ


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いへば サアそれもはいるてば おじや/\と兄弟の打つれ立て杉しやうじさしあひくるもお
かしさよいとゞ思ひのますかゝみあたら男のおもかげを 見うしなひぬるわび
しさよアゝいづかたへおはせしと 都の姫はうつゝなくそつと身にしむ夕風に
きかゆるあはせふたへおびまへなる庭にをり立てばうぜんとしておはせしが
宿のはしため立出てたびのおきやくの夕御ぜん それよこれよとせはやくを
都の姫は是を聞 さいはいの便りぞとそつと立よりナフおか様 近頃わりない
無心ながら 其きうじをわらはにさせて給はれとの給へば アノおしやんすことはい
の たゝ人ならぬ御かたのみずしらずの殿様の きうじなどゝはムゝ出来た こゝらは

きとをし御のぞみじだいにいたさんと うけおふ色にまへたれをかりにむすべる
袖の露 をき手ぬぐひのはづれよりこぼれかゝれるびんのつや うつせみのはに
夕かげのひかりあらそふごとくにて そつといなをるしよていよく 斉藤五
ぞつとして是はりよくはい シテ先御身は此家の娘ごか たゞしよめごなどゝ云様
なことかとあれば イヤ私は都の者 卅三所を心ざしけふしもこゝにあひや
とり おなじやう成じゆんれい中間外のやうにも思はれず 正真のくはん
をん様に御きうじいたすと存ずれば 大ひ大じのおなさけに助給へとの給へ
ば ヲゝ殊勝千万 ことに見申所道づれとてもなきやうす 上らうの御身 


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からたびぢ物かくおほされん 去なからひとりたびはけつくおもしろいものにて ね
ようとおきようと心のまゝ なまじいかい道づれはいつそないのかましかと それぞ
といはぬみゝこすりいはれていとゞ斉藤六 物をもいはずいぢばつていんぎんら
しく畏り 是は餘成御こと此座には 父うへがましませば少たしなみ給へとは
ぢしむる 斉藤五はつと思ひヲゝそれよ/\ 夕くれ近きかのこえにさぞや物うくおはせんと 
かごにうすもの打かけて様々いたはる有様を 都の姫はいぶかしくシテ先あの鳥を
父うへなどゝの給ふ是はいか成御ことゝ とはれてさらにかなしくも又はづかしくもへと い
さいかたつてきけ申さん あの鳥のせんじやうは我々兄弟が慈父にて候ひしが

一念の祝着にてかゝる姿と生をかへ 二度めぐりあひ候 今生一世のこづしやうを
さんげのために思ひ立 修行の身とは成し也 哀と覚し給はれと涙と共に語けり 聞
につけてもいたはしく扨は左様に侍ふか かく申みづからは都下さがへんにすむ 小松
の姫と申者にて侍が 弟の身のうへに大事のねがひ候てかゝる修行の道すがら
御身も同じ御兄弟 父ごのおためと有からはねがひもあふたりかなふたり 只此うへのお
情にわらはをぐして給はれと せちに頼むもすてがたくヲゝ何が扨/\ 同道致し申さんと互
に心打とけてはなしなかばに主の女房てうしかはらけ持出て ひたすらすゝめ奉 
れ共斉藤五盃取上 ハア是はよい酒の爰紀の国は酒の名所と国本にても承る


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小松姫は上方そだちめづらしからず候共 一つ/\としいけるをあらそひかねて村時殿
こまつの姫も今ははやほの/\えひのかほつきに をしあらはるゝ桜色斉藤六は
もとよりも げこのくせとてふら/\といねぶりこけしうたゝねに 主の女房すそには
をりをそつときせ 御用もあらばといひながら おくに立入物をともしん/\ と
してせきばらひ 去程に斉藤五すはいの酒にきもみだれ したねもつれてアゝよふた
/\ 是小松姫 ちつととひたいことの候 ちよとみゝをかりませふとひよろり/\と立
より 惣じて世間の人が申は 西国巡礼の道にて ふてうほうなことあればばちがあ
たると申が 何と誠にて候やとぜら/\笑ふて云ければ 姫君につとほゝえみなんのいの

いつはりおほき世のならひ アノ大じ大ひのけつかうなくはんをん様が なんの初心な
とがめいはん アゝおかしやとことのはを いひさす心の下もへに たき付られて斉藤五
誠かうそかてんほやはち ばちがあたるかあたらぬかといだき付しがハアなむ
三ぼう げんざいつみふかきおやのため かゝる修行を思ひ立道にて女の色に
そむ 執着れんぼの悪逆エゝもつたいなしけがらはしと 手を打ふつて立のけば
小松の姫は色をかへ コレこゝな人 そなたはさきにからとやかうとの給ひしはいつはりにて
みづからが心を引て見給ふか 人にこそ?れさやう成さもしき心を持ものか それ共
しらでうか/\となぶられぬる口おしやとそゞろ ふるふてなき給ふ 斉藤五は詞なくまつ


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たく左様のわけならず 一しゆ一がのながれさへすくせのえんと聞なるを ましてや
一夜のあひやとり大かたならぬ御えんぞと思へば/\いとゝ猶御姿にめがくれて 命もちゝ
にくだくれ共 爰は大事の法の道父教義に思ひかへ 我と心の師と成てかやうには申せ共
扨もきられぬ我思ひ あはれと覚し給はれとこえ打しほれくどきける なをさりなら
ぬ思はくに小松の姫は一しほに ふかき心の有にそみヲゝ御ことはりしごくせり わら
はも同し法の友あさましくもまよふたり もう此うへは行道のとまり/\の
くさ枕 たがひに心をいましめて清僧のつきあひぞ かまへて?だりな
事共を思ひ給ふな思ふまし せいもんくされ神かけてと詞 すゞしき


夏の夜をながき心にねもやらず 小松の姫はふしながらかた手をついてお
きかへり 申/\とよびおこし 大事のちかひ立たればしゆ行のうちはずいぶん
と しやう/\゛に身をもち扨其後はとうぞとあれば ハテそれは申までもなく
なかうどいらずのめをとぞと かはす詞のたのしみにやゝふけ過るかねのねに
斉藤五はめをさまし次第につのる酒のえひ 水もがなとおき出あたりを
みれば小松姫 是も同じくえひ心みだれかゝれるくろかみの まゆほこらかにし
どけなくおびのしやらどけかたしきて扨もねがほのうつくしさ みるに心もくれ
/\゛と いだきつかんとしたりしがハアなむ三ぼう 思ひきらふか いや/\思ひきられし


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思ふまじと うしろのしやうじをそつとあけ立出んとはしけれ共 身ふしもよはり
ふむあしも わぢ/\たよ/\よは/\とよはの恋風身にしみわたり なむくはん
せをんさりとては此悪心とゞめてたべと いのれ共なをいやまさるれん
ぼのやみの くら/\/\/\わきかへる思ひのけふりむねにみち みだれみだるゝくろかみの
こぼるゝ袖の露涙 とゞむる心も我心みだるゝ心も我からと 物ぐるしき
心中にもねび観音ととなふれば ふしぎやそば成おひづるのひら/\ととびあがり
斉藤五がうしろにおほひ忽両のつばさと成 都のつまふく涼風に 心うかれてとび上り
四方をみれば籠鳥の くもいをしたふ心地してそらも見どりに

    卅三所観音廻
あけ過るよもの かしきもあを/\と 見るにすゞしきなつこだち心の
もみぢあこがれて 身は山どりのをのれのみかゞみのかけのつまごひの やえ
にかさなるをちこ地のやま又 山のくもをわけ 見おろせばいはほ がゞたる 
へきれいに 松はじねんとちよふりてもゝとかへりにさく花の きしうつ
なみとくちずさむうたのことばの かず/\はつきぬまさごのはまのみや
新宮本宮 是を合せてみくまのゝ なちのお山に ひゞくたき天の河より
おつるかとひれうごんげんなむきみやう 十一めんのくはんぜをん ほうしんふしよの


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ふるさとを はる/\゛こゝにきみいでら 花の都も ちかくなる らんのかぢとる月の舟
かつらのさほをさしよせて しほみちくればかたをなみわかのうらかぜふきあげの 松
のをとさへ高野山まよはぬ 道は父母のめぐみもふかきこかはでら ひはら松はら
まきのおのながれかはちの藤井寺 花のうてなにむらさきのくもかと みへて玉
だれのつぼざか寺のいはしみづ ながれてはやきひのかけの大和の国はあを
によし くさば/\をあさわくる 露をか寺のにはのおも さながらるりの
ひかりそふこしふをんともかくらくの はつせの川のあまをぶね 北の藤なみさ
かへんと なんえんたうの夕日かけさすやみかさのみねつゞき 山しろたへのくもはれて 月

を見むろとわけゆけば 宇治の川はしかけまくも 忝しやだいごみの御法の
花もひらくなる じゆんれいだうをふしおがむ いはまづたびのつゞらおりさつき
つゝじにきりしまの あけをうはふかむらさきの すゞりのうみのそこふかき石山
寺ののきばより松ふく風の をとそへて びはのうみづら見わたせばことぢににたる
かりがねの へいさにおつる夕日かけみいの ふる寺かねてよりきゝしにまさるな
かめかな むかふにひえの山たかみ王城ちんごの御法よりあくまを はかふのみ
ならず一ふつぜうのみねのくも ほしにむかへるてんたいの四ねいのほらを こゝに
うつし あらゆる山々みね/\のなかにひいでゝいやたかく うへみぬわくのみやま共


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なにあふさかのさねかづら をくれがちなるみだれかみ 夕日のをかの山かげにふはととび
をり「なつくさのしげみか下を 行く水にあしをやすめてめをふさぎ ねふるうちにも
見し夢のあはれむかしをいまぐまの仏のちかひたゝ頼め かれたる木にもさく花
の こずえにひらりととびあがる はかぜかろげに ちりかゝるさきの白玉清
水の 夏をわするゝたな心 五つのつとめをこたらば六はらみつの道すぐに
本住法のしるべしてたゞまる かれといのるなか六かくだうのかねのこえ ふけゆく
よはもかうたうの月はよしみねかつら川 なみのつゞみのたんばぢに さしかゝりつゝ行
道よ夕立 さつとかきくれてとゞろ/\となる神の をとに心もよは/\ときへてはひゞく

いなびかり あなふの寺の松かけにはれます しの/\゛有様は是ぞくはぎうのつの
国や よしあしこともをしなへてたかきいやしきそうぢゝのへうどう大ひのち
りきにて かちをゆくにもやすき身の ましてや雨よく 打はぶくひえんが体も
なか/\に 中山寺のおかのべにあさか小鳥のおのづから きうぐにとゞまる事
をさへしるに我身は引かへて 古(こ)こく無心に海山をこへてはりまの清水
の をともじつさうしんによぞと妙法花寺ののりのとく 筆にうつして
しよしやでらやから坂こへて見おろせば 水せい/\とよとみなきながれに
そふてとびゆけど なをすえとをきくもぢよりふつとをりてはくさむらの


17
あつさそまさるとこなつの花にをくべき露もなく てる日こがるゝ水鳥のくか
にまとへる心地してふむ あしもともたぢ/\/\ たぢ/\たじまのさかひなる
竹田の宿に夜をこめて たんごの国になりあひのふりとはあまのはし立や
松のじずえをくもてにてみどりに つゞくよざのうみ しばしとてこそいそしみづ
立よりみればこはいかに 我にもあらぬ我姿ふりわけがみのはら/\と ひすい
の鳥の水ふかく左右のわきよりつばさおひ みのげみたるゝ我心いか成いん
くはのなれるはて あゝかなしやなくるしやと さけべど こえの出ばこそ ちの涙
をほろ/\/\/\/\山鳥のヲゝ 思ひ出たり過し頃 一念れんぼのしうぢやくの


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寺のなも おなじあふみのくはんをんじばんば さめがいかしはばら はらとそを
ふるあめにきるみのゝたにぐみ打をさむ むねにかけたるふだらくの
くはんをんうえんのれいぶつれい所 こくうにかけりくもにのり心のまゝに
いたること もとよりしよきやう第一のなかにしようのふもんぼんげに
もろこしのぼくわうの天馬にむちうちじゆぼうにいたり四くのようもん
さづかりて 天下国家をさめしも此経文のいじんりき ちうかいかさを
げだつして 火きやうへんじていけと成はらうも すでにをだやかにくはさい きなん
のりやく有ありがたし ありそ海 ふくじゆむりやうととき給ひくどく ふじやうと聞えけり