斎藤別当実盛 第二

 

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                 イ14-00002-331

 

18(左頁)
   第二
くさ枕むすびもはてぬ夢さめて 兄の行方いづこぞと斉藤六は爰かしこ
小松の姫も引つれて 旅路物うきみのゝ国谷ぐみにこそつかれけれ 其頃手塚の
二郎光成は 兄の太郎討れて後ないえんにより 源氏につかへ不義にしてとみさかへ風
にうかめつ雲のはま若狭の国に住けるが けふ此寺に参詣しすりちがひ行かさのは
に 二人のかほを見かへりて扨もよいふうの 都者とこそみたれ 順礼衆何万よりの
道者成ぞ 定て卅三所そくさいにてめぐりをさめ給ふらん ヲゝ めでたいことやとなれ/\
しげ成詞つき 旅の情とうれしくも斉藤六はふりかへり されは私共ははるか遠国の者


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なるが 尋る人の候てか様にさまよひ申也と打しほれたることのはを聞につけてもいた
はしく かく申せば何とやらあなづりがましく候へ共 修行の身をかんじ些少ながら是
を御へんに進ぜんと こしにさげたる小袋をさし出す 御しんてい忝は候へ共此義は
御めんといはせもはてずハテ左様にじきふかくの給へば かへつて拙者めいわく也 是ひた
すらとふところへ むりにをしいれ扨是はかうさつそくながらちと頼たき事の有 お
侍と見うけいひ出すからはいやとはいはせぬ心底ぞと 袖のわきより手をさし入
ほと/\たゝいて コレ近頃はつかしいことながら 先程たがひに行ちかふ袖のうつりがぞつと
してきもたましいもぬけ出てほうがらとなつて候 何とぞ貴様の情

にてぬけ出たりしたましいが もとるやうにし給はれと正体 もなくしなだるゝ
斉藤六さしうつぶき 是はあまりの御ふぜい偽りながらにくからぬお詞やと おと
なしきあいさつにねくどれて是お若衆 二としをさす者がいつはりを申すとは
神ぞ聞えぬ仰かな ひやくらい誠のせうこには お尋なさるゝ其人をけらい
共に申付 尋出させ申さんが何といやかといひければ 斉藤六よろこび此上
はともかくも お心にはそむくまじ/\御身の御心中 かはらぬやうにいつ迄も
かはゆくおぼし給はれと打もられ色めけば 光成大きに悦喜して ヲゝうれしや此
うへは早々したくへ同道せん こなたへ来らせ給へやと姫君の手をとれば 小松の


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姫は打笑ひ誠にふりよの事に ふかき契りのにいことばみづからとてもいか斗
よろこばしさは限なしめでたいことやとの給へば ヲゝ/\成程さ様共今よりそなたは身が女
房 ちとだきつかんと立よるをふりはなち ハテされことぶかいお人やと いはせもあへずい
たき付されごとゝはきよくもなし めをとの中に何の遠慮の有べきと かほさしつ
くるを斉藤六をしべたて 是はみだりな私をさし置て どうしたことゝいへば光成聞て
ハテそなたはかまひにならぬこと いらざる法界りんきやとあさわらふてぞいたりける い
や/\何程にの給ふ共 いたづらがましきたはふれをせくは衆道のならひ也といへば 是は大き
なくあひちがひ ほれたといふは此君と 小松の姫に取付をコレ其上らうは某が兄

よめ也 けんざいおとこの有女房にふぎをいひかけ 思ひもよらぬきずを請見ぐる
しき死をせん せうしなことやといかりける光成くはつとせきめんし ヤアこゝなこしびこ
め それ程男の有ならばなぜさいぜんより申さぬぞ 心詞をつくさせて今更主有
女と云 ムゝすればすをのれは某をつゝ持せにする分別か あの盗人のこつちやうめ
とそりを打てねめ付る 斉藤六はらを立なんじや我を盗人とは何をもつて申ぞヤア
盗人たけ/\゛しとさかねだれにりくつをはく いで/\せうこを見せんhと むなぐら取てふと
よつに手をさし入 コリヤ是は拙者かさげしきんちやく成を ようも/\ぬすんだなあ アノ巾
着切め夫しばれ 畏て侍共ばら/\と取付を 二三人取てなげやあ無体千万 其巾着は最前りふじんに


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?ふところへ入たるにてはなきかと  いはせもはてず四方より 手取足取あへなく
もをさへてなはをぞかけにける 小松姫は心きへナフ情なや何故に か様にはし
給ふぞとすがりつく手をじつとしめ ハテそなたはわるいがてん か様にせいをもみ
いきすぢをはるも 皆々御身を思ふ故それをそれ共思はれず 我心にしたがひ
給はずはこいつは盗人の法にまかせ 只今きつてすて申すが サアとうぞ/\と是
非もなきわんざんとは思へ共 斉藤六の身のなんぎ何とがなしてのがれんと 心
の外の笑ひがほにつとほゝえみ コレ殿様 只何事もみづからにもんじておゆるし給はらば
たとへ西を東北を南との給ふ共 御詞にはそむくまじ さあ/\御きげんなをしてたべと手を

合せてぞ頼まるゝ 光成につこと打笑ひ ムゝ其一言に相違はなきか 然らばたすけ申
さんか いや/\物には念を入るがよし ふるき草子物語浄るりかぶきのしぐみにも
敵役をだまさんとてうはべ斗のぬれ付 五法八ケ(介?)のちりやく也 どうでも此
わつはめを たすけては物がない御身と我が二人ねの 枕もとにこいつめを
ねこつなぎにしばり付 某がいふことをちつと成共そむき給はゞ 十のゆびを一
本づゝもぎはなしてみせ申さふ サアそいつめをつれ行と情なくも引立る エゝ無念やと
斉藤六やれまて云こと有 コレお侍りひはともあれ 先ずは某が過言故なはめの
はぢに及び 今更後悔致す也去によつて先非を改め あの姫を貴様の心に入


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様に致すねし おかに小松姫 我々か様に成はてば あのかごの内成白さぎかへしなんかなし
さに 御身の心一つにて籠をひらき はなつやうにして給はらんやといへば 姫君実
もと心づき光成が袖をひかへ わらはが申事とては御聞わけも侍はず さりとは
むごき御心行末とても頼なく 云まいとは思へ共なをこりずまのうらみわび 又一こと
の望有 あの籠の内の白さぎは 此谷ぐみにてはなさんとはる/\゛つれて来りしが
あれをはなして給はらば何より嬉しく思はんと よぎなき望に心とけヲゝ是はやすい所
望 さあ/\出をれと籠をしひらけば白さぎ中よりふつと出 はぶしをならし口ばしをつつ
かけ/\光成を めがけてかゝればひらりとはづし身をしづめ あなたこなたとにげさまに

すきを見すましぬき打に はがいをちやうど切おとせば大地にかつぱと打ふし くるし
げ成こえを出し二こえみこえ なくかとみへしがついにむなしく成にけり エゝ口おしやと斉
藤六はがみをなしてとびあがり うぬめけころしてくれんと立よるを ヤアこしやくなせがれ
め高声にてかしましし はなをそいで言舌の聞えぬやうにしてくれんと 太刀取なをし
乗返り光成何とかしたりけん うんといふてもつけにそり侍共きもをけし 是は
いかにとだきかゝへ申/\とよび生る 其隙に姫君は斉藤六がいましめを とかん
/\とし給へ共女力にかなはねば 鳥のしがいをいだきあげ 斉藤六をかいほうし
忍びて落行給ひけり 光成が郎等共主人の病気にどうてんし やれ先近所に


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くすしがあらばよんでこい 此ていにては御馬には召れまじ 御乗物の用意せよそれよ是
よとさはぐ内 弥病気さかんにてヤレさむいは/\ 何にてもいふくをおほくきせてくれよ
なふじゆつなやとうめくにぞ供まはりのかちはをり 着物を我一とぬいでは打
きせ/\する程に 中間馬取道具持 沓籠持に至る迄皆丸はだかに「成に
けり ちりの浮世に 雲衣瀧口入道実歳は 諸国修行の身と成て至ればきりぬ
るればかはく袖の露 志の極主有て新藤?笠をたんせに?を手に
たづさへ かしこ成松のしずえにむすびさげ 南無帰依仏帰依法帰依僧と
念じ終つてうしろをみれば衣類をおほく打重ね そばにはたくましき男共

まつはたかにて十四五人 車座につくねんとひざをならべていたりけり 瀧口入道心
えず かた/\゛は何故か様にはし給ふぞ けうがるなりやといひければさし当てとうわくし
されば我々は辻すまふを取候が 御坊のかつほく一ひねり成さうにみへたり 何と一ばん
参らふかといへば瀧口えせ笑ひ あゝもつたいないこと 何茂方に此やせ法しがなんと
して成申さん 去ながら若い時のけつきにまかせ 力わざ又はすまふを取たる人の?後
には 大かた病者と成者也 先おつ取て身に物をもきず けんとうの寒きをわすれ
ては春陽の病と成 三ぶくの夏の日しよにあたりては秋陰の痛をうけ 痢病あ
るひはおこりなとゝ云煩と成もの也 かまへて/\人たる者は養生が第一也と云ければ ハテそなたは


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醫心が有とみへたヤそれに付 我々が主人俄にふかひ付おこりを煩れ候御情に一りやう
ぢあそばして給はれともみ手をしてこそ頼けれ ハアそれはせうしなこと なれ共持合せたる薬
もなし ムゝよい/\ まじなひをしてそくざに落し参らせんと 重ねし衣類を取てのけ はものを一
こし借給へと刀を請取するりとぬき つか/\と立寄 親の敵覚へたりときり付れば 光
成かつはとおき心得たりとぬき合す 侍共立ふさがりぞんさい成すて坊主 打ころさんとひしめくを
アゝせくまい/\ 是がまじないにて候 シテ 御病気はいかゞといへ共光成足をふんばつて 手くびをし
なてハアすつきりとなをり申た さつてもめいよのりやうぢ先是はどうしたことそと尋ぬ
れば されば瘧病(ぎやくびやう)のさしつめたる時 きもをつぶさせぬれば百人が百人ながら落申と

云光成聞もあへずムゝ扨はおこりを落すにはきもをつぶすとなをるとや ヤイまいすめ をのれ
かやう成こしぬけめはさもあらん 百人のことは扨置一人当千の此手塚の二郎光成が
太刀風におどろき病がなをりしといはれふか いやそれでぶしの一分が立か こりや 頼み
もせぬになぜおこりを落しをつた サア本のごとくしてかへせさなくばをのれをねぢころして
くれんとて そくびを取てふり廻せば入道大きにはらを立 こいつにつくきあぶれ者はり
くだいてと 思ふ心をじつとしづめエゝ我ながらあさましや 昔の心がなをらいでしんい
こうしやう成こそうたてけれ 人にはくずの松原といはれん出家の身の上に 何の御心
聞入へきとかほばせをやはらげ 有々にわぶれ共かつに乗て聞分ず小がいな取てね


25(裏面)


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ねぢまはせば 入道わざとかほをしかめ 不借身命のぐそうなれば お手討になさるゝ
とていたむことはなけれ共 只一つ残り多きは 大事の宝物を残し置きなんと思へば 是
のみよみぢのさはり也とをろ/\かほしてだましけれ どんよく無道の光成にて ムゝ何と其方は
宝物を持れしとやそれはいか様の物成ぞ 少みることは成まいかといへば ヲゝ成程御
めにかけ申さふ アレあれ成松にかれしは かくれみのかくれ笠と云物也 此義について
有がたい物猶をして聞け申さん 我年頃観世音をしんじける(?) 過し夜あらた
なるむさうの歌に しこ草のおにの宝はめにみへぬ 笠きてかへれみのゝ谷ぐみ
と 聞やさめゆく夢のつげ是こそみのゝ谷ぐみの 観音大士の御利生

ならんと早天に参詣し みればみづしの仏前にみの笠置りて候を をしいたゞき是迄持
て来れ共 能々思へば世を捨る出家の宝はいらぬ物 あはれ信心の人もがなゆづりを
かんと思ひしに 今死はてんkはになつてふつと心にかゝりてと 誠しやかに偽れば光成
手を打 扨も奇妙な事先々拝見申さんと 立寄つく/\゛打詠め ハア是は世上に
多きみの笠に別にかはつたことはなし しかしどこやらじんじやうにほそ/\゛と結びさげ
あみすきかけてあをかりしみのくさのうつくしさ 何共申かねたれ共拙者に下されと?へがし
元来身共はいかい信心者 ゆく/\は御坊の為 月なみの斉旦那にも成べき也 さあ 
?く頼むと一むきにむさぼる心ぞをろかなる サアだませしと入道はかふりwふつて いやとよ


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此みの笠をたとひ所持したり共 行もつとめずとなへる文をしらぬ人は 何の
役にもたゝず しつかい宝の持ぐさらしと云物なれば 御望は御無用といへば シテ其
行法は六ケ敷事か いや/\そくざにも成こと也 いかうほしくは手まはりの人をとを
のけ給へ 御身一人に伝授致し申さん ヲゝ忝ない 其義ならば侍共旅宿をかつて
休息せよ 畏て候と皆々「かたへに入にけり サア伝授はいかゞと望まれて 入道
何共せんかたなくしばししあんしいたりしが エゝいつそこいつめをねぢころしてくれふか
いや/\出家のいらぬこと とかくいやつめを思ふ様 なぶつてあそばんとみの笠をおつ取 さあ
そちむき給へとうしろより打きせて 只今ぐそうがとなふる文 身の立ふるまひ少し

もちがはぬやうにし給へ 右の足を此やうにふみ出して ハアさうではない 両のひぢを
かうはつて それ/\そこでほうらいの嶋なる鬼の持つたる宝は かくれみのにかく
れ笠打出の小づち 諸行無常しやう /\ ぐはつし国にぐはつたり ヤ是々お侍ど
こへ御ざつた なふ/\とよばゝれば ハテ爰にいるにめうとい御坊やと打笑へば ヤア爰にい
るう 扨も/\ふしぎなことかな もはや行力つうじてやそなたの姿がみへ申さぬ ムゝ何
とおしやる某が姿がみへぬとや フウ/\うれしや/\ そんならば此宝物は すぐにもらふて
帰りませふさらば/\とゆかんとするを イヤそれは大事の物なればやらぬぞ/\ コレヤそこへ
いたか ヤア爰へきたかと手をひろげわざとうろたへまはるをば 誠と思ひうれしがりさし


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足をしてそつと立寄 入道がはなをちよつとつまむ コレヤとつたハイ またどこへやらかくれた
はよい/\とらへてみせんとひぢまくりして あなたこなたと立廻るを うれしさう光成が
かほつきするもおかしくてしばらくじごくをうつしけり かゝる所へ斉藤五両人の行方
を はう/\と尋わび此所に来りしを 弟の斉藤六も姫君諸共かけ来り ヤアそれ
成は兄上かまつかく/\の次第にて らうぜき者が父上をきりころして候と 始終を残
らず語けりヤアそれは誠か エゝ今少しはやくはさやうにさせじもの そいつはいづくへ行つる
とかけ出んとするを瀧口入道つつとより 是は/\と手をつつて 先々思はずもめぐり
あふこそ嬉しけれシテ 敵を討そんせじとや コレせかず共語られよと云うちに光成は かし

こ成松かけに立よりて やうすをためしいたりけり 入道二人にむかひ 其ねらふ敵
の手の程 なりかつかうはどのやう成者ぞといへば さればまつか様/\の男つきにて候
ヲゝそれこそ此坊主がとゝめ置たれ それ討とれととびかゝりみの笠とれば是は扨
せいさう久敷石仏こりや瀧口 お身は人をなぶるか 此石仏を敵とは扨は気
ばしちかふたか どうしたことゝせきにせきていひければ 入道けうさめ是はがてんのゆかぬ
事 まさしくまちつとさき迄人てあつたが ハアめうなことかなとかしらをかいていた
りける 所へ光成大勢引つれわめき来り こりや/\悪僧のまいすめ 先程
からあまり人をつかふゆへ 心だめしにあれ成石仏にみの笠を打かぶせ 立のき


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みへれ共 仏の姿は其まゝにちつ共かくるゝこともなくようも/\だませしなアレ討とれ
とけぢすれば侍共ばら/\と ぬきつれてきつてかゝる入道につこと打笑ひ 何を
せゝる青蠅共たゝきひしいですてんとて そば成松の木エイちゃつとねぢきつて
まつかうにさしかざし落花みぢんに「打ひしく此いきほひに きもをけし跡をも
見ずしてにげゆくを斉藤兄弟ひつそふて かへせ/\とおつかくる瀧口をさへヤレまて
かた/\゛ をくびやうものゝにげあしはおふ程はやきもの成ぞ ことをしづめてわき道
の さきへまはらんこなたへとゆふつゆしげきくさむらををしわけ/\ 行
みちのこゝろ ばかりぞやるせなき 

   小松姫道行(第三かも?)
かり枕 元ならぬゆめの さめてのちおきてうつゝ
にくど/\と むすぶをがさのひものあと ゆふべ/\にた
びなれて うきにあふみの水うみにやがて うちでのはま
づたひ しゆぎやうの道のおいひじり たき口入道これ
よりは世のぢんあいをうちはらふ 松のあらしも
高野山 我すむてらに帰らんと わかれ /\て
ゆくそでのえんに ひかれて 小松姫なごりはいとゞ


30
おしけれど 我もこきやうのこひしさの おなじ心を
くみてしるさいとう五さいとう六ともにつれだつ
みちのべの おぎやすゝきのいとまごひ うなづき あふも
かげぼうしさらば/\と夕日てる うしろすがたのそれと
まで ふりかへり /\あとに みかみの 山たか /\なみの
こすかと しらくもの あはづのもりてよそめには へだて
ぬなかのめをとつれ すりちがひゆくさと人の わる口
いふもはらからのおもはづかしき水かゞみ うつる月日は

とゞめえぬ 世にあふさ かのせきのとも さくでなよくも
なよたけのみやこに かよふうしぐるまつむやをもにを大
津馬 はいどう/\はい/\/\ はいどうしつ /\とおひ
わけの みぎにこだかきぐごの山 ふもとのわさだ いろづきて
しづが手わざのとり/\に 夕ぐれちかきをのかじゝ手を
引つれてかへるさの あとにさびしきとりおどしかさ
きてつえをつつくりと月をみる共思ふ人 まつ共なしに
立つくす なれが心に 玉ゆらも なりてみたやな世の中は


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我が思ひを我ゝにならのはがしは風そよぐ人の心ぞ うら
めしき とてもかくてもゆくすえのながきいもせのかねことを
かけてぞたのむあふひぐさ もろはのみやいしん/\と ふかき
ちぎりを やれむらさきぼうしいろに出るもそこしんじつに
神のちかひのめぐみもあれと 恋の をもにを心のこまの
はなれがたなき我思ひ やぶしわかぬに 山しなのあかね
さす日もかきくもるくもよりあめのほろ/\と まどをに
ふりていものはの をときく斗しるべにて とものすがたも

くらまぎれみへずなりゆくあとにつく こゝろばかりはい
そげ共あゆみぐるしき馬ざくり 山かげくらきよひやみの
うばかふところわけすぐる袖に やどれるつゆのまに
なれてもうときいなづまのくもより もれて道しばの
ちらとみへては 又きえ/\ときへて はかなきあはた山 ぎ
をんしやうじやのかねのこえ ぼんなふのゆめをさま
すやのりの こえもしづかにまつ しよやのかねのつく
/\と思へば しよぎやうむじやうぞと 身にしむ秋の


32
はつがせも いましらかはのせきあへぬみづのまに/\とめ
ゆけばいなばの露にすそぬれて 心もほそきあせつ
たび こいへがちなる のきのつまそれかこれかといにしへ
の なをばしるべにたづねよるいとくりくるま「わづかなる ま
きのいたどのすきまより 火かげかすかにかげらふをせめて
たよりと立よれば をろみしりたるおもかげはえにし つきせぬう
れしさの こよひは身にもあまるかと 思ふ心もうちとけて
たびのつかれもひとしほにやをら やすらひ給ひけり