仮想空間

趣味の変体仮名

堅田の亀

 

 

堅田の亀

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8929433


3
永禄十三年近江国堅田の浦
より両頭の亀しゆつげんする

りやうしせんどうかめ
をとらへる

かわつたかめがでた

ほんにめづらしい
かめだ

 

永禄十三年近江国堅田の浦より両頭の亀出現する
漁師船頭亀を捕らえる
変った亀が出た
ほんに珍しい亀だ


4
かたゝのかめ
両とうのかめを
せうぐんよしてる公へ
けん上する
すなわちうらかた
よしだのかねなり

をめして
吉凶をうら
なわせらる
かねなり
申あぐるは

是まさしく
吉事なりと
うらなふに
よつてすなわち

(左頁上)
ねんがうを
あらためらるべ


きん
りえ
さうもん
とげられ

(右頁下)
諸こくえ
ふれしらせ
元亀と
かいげん有
ける

あふみの
くに
かたゝの

うら
より
あがり
たる

(左頁下)
かめ

うらび
せうらんにいるゝ

 

両頭の亀を将軍義輝公へ献上する
即ち卦(うらかた)吉田の兼成を召して吉凶を占わせらる
兼成申し上ぐるは
是まさしく吉事なり と占うによって即ち
年号を改めらるべし と禁裏へ奏問遂げられ
諸国へ触れ知らせ 元亀と改元有りける

近江の国堅田の浦より上りたる亀
浦人照覧に入るる

 


5
其頃はりまの国
赤松びぜんのかみ
よしつぐは山名
さがみの守と
たび/\かつせん

ありしが赤まつがた
のちのちしろをのつとり
すなわち
きよぢやう
としてすま

(左頁下)
れける

みかたのせい
しろにこみ
いり
まして
ござります

(左頁上)
浮谷
やくみ
ひでつぐ

 

其頃播磨の国赤松備前の守よしつぐは
山名相模の守と度々合戦ありしが
赤松方後々城を乗っ取り
即ち居城として住まわれける

味方の勢 城に込入りましてござります
浮谷たくみ秀つぐ


6
赤まつどのいくさにうち
かちいせきんごくに
ふるひけり

其頃みやこ
しらかわのほとりに
いなばげきといへる
ものいづなの
ほうをき
めうに

おこ
なふよし
申〃
??

(左頁上)
いかにげき なんじ
地になみを
おこし大じや御
あらわし

または
ときならぬうりを
せうじつるをはわせ
めをおどろかすよし
なになりともかわりし
めうじゆつを
いたして
みせい

うきたにたくみ

かたゝのかめ

(右下)
浮谷たくみひでつぐ
じやねいきよくにして
せいたうわたくしのみ
おゝかりける

(左下)
ひでつぐが
物がたりにて
あかまつどのすなわちいな
ばげきをめして
いづなの法をしよもう
ある

かしこ
まり奉りました

 

赤松殿戦に打ち勝ち伊勢(威勢?)近国に振いけり
其頃都白河の辺に因幡の外記といえる者
飯縄(いづな)の法を奇妙に行う由
申し??

いかに外記 汝地に波を起こし大蛇御顕し
又は時ならぬ瓜を生じ蔓を這わせ
目を驚かる由
何なりとも変りし妙術を致して見せい

浮谷たくみひでつぐ邪佞極みにして正当(?)私のみ多かりける

ひでつぐが物語にて赤松殿の即ち因幡外記を召して
飯縄の法を所望有る

畏まり奉りました

 


7
あかまつどの
げきが
めう
じゆつを
かんじ給ふ


(左頁)
かくていなばげきからかみの
しゝにむかいひもんをじゆし
ければふしぎや えの
しゝにたましいいり
からかみをはなれ
ぼたんにたわむれ

とび
くるい
けり

(右頁中)
これ
きめうじや
(下)
なんとわかぎみ
ごらんあそばせ まこと
にきたいのめうじゆつで
ござりませうがな
げきにごほうび /\
うきだにたくみ
ひでつぐ
げきをとりたてんと
(左)
とり
もつ

いなば
げき

 

赤松殿 外記が妙術を感じ給う

斯くて因幡外記唐紙の獅子に向かい文(もん)を誦しければ
不思議や絵の獅子に魂入り唐紙を離れ牡丹に戯れ飛び狂いけり

これ奇妙じゃ

なんと若君御覧遊ばせ 誠に希代の妙術でござりますがな
外記に褒美 褒美

浮谷たくみ秀つぐ 外記を取り立てんと取り持つ


8
嶋むら
九郎左衛門
なを
さだ

じひ
れん

ちよく
なるちうしん
なるゆへうきだに
きみにおもねり

すじなきものを御そばちかく
とりなしてめしよせけるを
あやしとひそかにいなば
げきをうしなふ

(下)
かやうの
くせもの
はいくわい
する事 みな
たくみひで はる 


なす はざ

なむさん
アゝいたや
くるしや
/\

 

嶋村九郎左衛門なおさだは慈悲廉直なる
忠臣なる故 浮谷 君におもねり
筋無き者を御側近く執成して召し寄せけるを
怪しと密かに因幡外記を失う

斯様の曲者徘徊する事 皆たくみひではるが為す業
南無三ああ痛や苦しや/\


10
(左)
あかまつどの

うき
だに
たくみは
なにがなとり
いらんとみめよきおんなを

せんぎしてえにかゝせあかまつどの
にみせ申す  なんとうつくしいもので
ござりませうがな

 

赤松殿 浮谷たくみは何がな取り入らんと
見目良き女を詮議して絵に描かせ 赤松殿に見せ申す
なんと美しい者でござりましょうがな


11
??あかまつどの
??たくみがすゝめに
?よつておるいが
おどりを
みたまふ
これより
ちうや
たいしゅいん らんに
なりたまひいくばくの
きんぎんをついやしたまふ
(下)
浮谷
たくみ
ひではる


(左頁)
じやうか かごまち
しみづ蔵たつが
むすめおるい
赤まつ
どのへ

(下)

ばれ
ごぜんにて
おどり
ごきげんにいる

 

?赤松殿 ?たくみが勧めによって
おるいが踊りを見給う
これより昼夜大酒(たいしゅ)淫乱になり給い
幾許の金銀を費やし給う

城下籠町清水蔵建つが
娘おるい赤松殿へ呼ばれ
御前にて踊り 御機嫌に入る

 


12
かたゝのかめ

とりもなくかねもきこへぬさともかな
?たりあるよのかくれがにせんわがきみ
おるいをおねまのおとぎすんしながら
せつしやがはたらききまりか/\
ちとおあいつかまつり ませうかな

(右下)
浮谷たくみひではるすが原

しん
えい
なら

らうえいをかきて
あかまつの
ごらんにいるゝ


(左頁上)
おるいがおどりをほめての
らうえいのとんさくできた/\
おもしろし/\

なにゝつけても
そのほうが
とんち
しよじひでつぐ
せんせいでなければさげがのめぬ
嶋むらのいしべきんきち
いけぬぞ/\


(左下)
おるい
はつかし
がる

あかまつどの
おるいが
きいやうに
なづませ
たまい
ける

 

鳥も無く鐘も聞えぬ里もかな
?たりある世の隠れ家に 先我が君
おるいをお寝間のお伽 
寸志ながら拙者の働き決まりか/\
ちとお挨拶仕りましょうかな

浮谷たくみ秀はる 菅原のしんえい(神詠?)并
朗詠を書きて赤松の御覧に入るる

 ★菅原道真 和漢朗詠集より★
羅綺(らき)の重衣(ちょうい)たるは情(なさけ)なきことを機婦(き ふ)に妬(ねた)む)
管絃の長曲(ちょうきょく)に在るは、闋(を)へざることを伶人に怒(いか)る

おるいが踊りを誉めての朗詠の頓作出来た出来た
面白し面白し
何につけてもその方が頓智
諸事秀つぐ先生でなければ酒が呑めぬ
嶋村の石部金吉 いけぬぞ/\

おるい恥しがる
赤松殿 おるいが器量に馴染ませ給いける

 


13
嶋むら九郎衛門
なをはる
つく
/\゛

浮谷たくみ
ひでつぐがありさ
をみるにちか/\に
わざわいおこらん事を

さとりきうにたばかり
うつてすてんとてだてを
めぐらししぶちやしん上
申たきあいだ御出くださるべしと
申しつかわす

(下)
いす/\
ひでつぐ
めう日
まいろう
となよ
し/\

(左頁)
浮だに
たくみ
ひでつぐ
嶋むらが
かたへ
いり

来る


14
おいへをみだす
したごゝろと
にらんだる
がん



ちがふ

まじ
それゆへ
かくの
しあわせ
なるぞ
たくみ

(左頁上)
さてはわが しゆつとうをそ
ねみ
たばかり
よせしよ


きやうものめ
いで/\
たくみが
しに
もの
ぐるい
なんにんでも
かゝれ /\

(右頁下)
浮谷をさしきへ
せうたいしてさんかい
のちんみをもつて
ていねいにちそうし
さかづきすこんに
およぶころ

まち
もう
けたる
くつ
きやうの

りきしや
おつとり
まくつい に

(左頁下)
たくみ

うち
とり
ける


15
浮谷たくみ
うたれ
しかば
しよ
りやうを
もつしゆ
せられ

(下)
くにざかい
より
おい
はら
わるゝ

 

浮谷たくみ討たれしかば 
所領を没収(もっしゅ)せられ
国境より追い払わるる

 

   (おしまい)