近頃河原達引 中之巻  河原の段 堀川の段

 

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      イ14-00002-527


28(右頁5行目)  

   中之巻  河原の段   「出て行
名に高き 四条河原も ふゆぎれて 川かぜさむくふきすさび ゆきゝも
浪の石ばしる 水おとまでもよるはなを いとしん/\と物ずごく くもるそら

より我むねも 恋ぢにくらむ官左衛門 万八勘蔵引つれて立とゞ
まり 何でもおしゆんを引さらつてと出かけた所 たいこ持の久八めにじや
まされてさん/\゛の仕合せ すご/\ともどる所なんぢら二人に行あふたこそさ
いわい 今夜中にうけ出して 喜左衛門めがつれてもどるとぬかしたおしゆん
此かはらに待あはして つらをかくして引かたげ どこへなりとものくりやう
けん ホゝヲそれよごんす 何かんしにおまへのだんびら ずばと引ぬいてひら
つかせたら ほかのやつらかごをほつてにげるはでう そこでくだんをかたげて


29
のくのじや 万八ぬかるな ヲツトがてんじやのみこんだ もしじやまするやつは
しらども頼んでかた付けさす われらにおまかせ ひとはしりいて頼んで
つれてかふ コリヤできた そんならちつともはやいがよい はしれ/\に万八は
いち足出してかけり行 かゝるたくみのありぞとはしらぬ井筒屋伝
兵衛は わが家へもどるつぢかごに 道をいそかせさしかゝれば そりやこ
そきたはとぬつと出 てうちんばつたり切おとせば かごかきどもわつと
おどろきにげちつたり コハらうぜきとかごよりも とんで出たる伝兵衛が

かほ見てびつtくり ヤアわりや伝兵衛か おまへは横渕官左衛門様 おのれは
中うり勘蔵め よくも/\いつぞやはにせ金をつかましたな おのれにあふて此
せんぎがしたかつたはい/\ ヤアそこな蚊とんぼめ けれう人めなけりやよ
けれ 大きなこへでぬかすなやい にせ金のぎんみがしたふてもしよせんわが
手にあふ此勘蔵ではないわいやい あたいま/\しいとふみ飛ばす 足くび取
てはらひのけ こゝろえがたきは官左衛門様 かゝる悪ものを手につけて 何ゆへ
此伝兵衛にらうぜきをさせたまふぞ ホゝヲそのしさいいふて聞かさん なんぢが


30
親喜左衛門が身うけして つれかへるおしゆんを 待ぶせして引さらへ かたげて
のかんとさいぜんから まつていた此官左衛門 かごにのつたはおしゆんぞと 思ひの外
に伝兵衛サゝゝゝおしゆんはどこへかた付けた サゝそれぬかせ ぬかせ/\とかさだかなり
こなたはわざとさからはず イカニモおしゆんはおや共が身うけを今夜中にいたして
つれかへるべきはづなりしが 御国より急の御用金申しきたり おしゆんが身
うけは明日とやくだくいたし置き おや共義は瀧口様の御旅宿へせんこく参
上 これによつてそれがし事も あとよりたゞ今まはりがけ 瀧口様もあなた様と

御はんだんなされたかろ早々御帰宅しかるべし 身も親共が待ちかねべしと こゝろ
せかれ候へば 御さきへまいり候といひすて立つを引とゞめ どこへ/\一寸もやること
ならぬ スリヤ身請はあすへのびたとな いま/\しい手はづちがつた今夜のし
だら おのれにしられたからは此まゝではもどされぬ ヲゝそふじや/\そやつをかへし
ていけ口たゝかれては こちとらが身のはめつ いつそだんな一思ひに ヲゝサ/\この官
左衛門も其りやうけん イヤ何伝兵衛 此横渕官左衛門はなんぢが出入やしき
のおも役人 身がほれたと聞かばおしゆんと手をきりはなれべきはづなるに


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親喜左衛門までがひとつになり 身うけして内へ引すりこみ 官左衛門に
鼻のあかせんとは 言語道断につくきしかた おのれといふ色男が有ゆへ
に おしゆんめにふりつけられたはらいせに 思ふぞんぶんさいなんだ其あとで
いきのねとめてこますのじや たとへしたばたさはいだとて しよせんらち
のあかぬ事 我手にアフ折れ時柳井あきらめてどろ水くらへと 雨の
たまりへどふとなげ あたいま/\しいとくは平足に ふみ付け蹴飛しさいなむに
ぞ 伝兵衛もはぎしみはぎり 無念のむねをなでさすり イヤ何官左衛門

様 此伝兵衛はいやしひ町人 けられてもぐまれてもくるしからねど 此脇指
の小柄は 殿様よりはいりやうしたる祐乗が作の三びき獅子 此小づ
かを御家来の身として 土足にかけてももつたいなくもござりませぬか
ヤアおけ/\いふな たとへいぜんは殿のものなりとも おのれが手にわたつたからは
素町人の家のだうぐ ふんだとてけたとつて 何の勿体ない物か 小柄ぐる
みにふみにじつてさいなまん ヲゝ此勘蔵はもとより小づあいあけあいない おの
れがゆうなくどんなやつは うどんぶみにしてこまさんとふたりしてふむやらける


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やら河原へなげ付けふみ付られ エゝあまりといへば非議ひだうな官左衛門
出入屋敷のおもやく人とむねんをこらへて手むかいせねば つけあがつたるひ
だうのてうちやく さほどおしゆんにしうしんならば とくにも身請はなされい
で はらたつまゝのふぢてうちやく 武士に似合ぬんされかた ホゝヲその金が
出来るくらひなら にせ金のぐらい事かあたりはせぬわいやい スリヤあの八はしのつ
ばのをか ヲゝ是なる中うり勘蔵 手代の万八とはだをあはせ 三百両
ものしたのじやわいやい さてこそそうと伝兵衛が むねんにむえんかさ

なる思ひにらみつけたるはら/\なみだ官左衛門は せゝらわらひ ハゝゝゝホゝゝくち
おしいか大こえあげてとこぼへろ はらいつぱいさいなんだあとでいきのね
とめてやる これが此世のなきおさめなけ/\ほへろ 大べらぼうめと立
かゝり 又ふみかゝればもふこれまでと官左衛門が かたさきすつぱりきりきさ
くれば 勘蔵は気もきやうらん ヤレきつたとよばゝりながらいつさんにこ
そにげて行 ふか手ながらも官左衛門 ぬき合せてきりつくれば てうど
うけとめきつさきするどにてう/\/\ あやうかりけるありさまなり いたで


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にたへかね 官左衛門河原へどつさりたをるゝを たゝみかけてきりつくれば ざん
ねんむねんのうめきごえ のたうちまはるをなぶりぎり 数ヶ所のきづに
官左衛門くるひじにこそこゝちよき をりから来る人かげに すでにしがいと
伝兵衛がかくごのかたなとりなをすを ヤレはやまるまい伝兵衛様 マア/\まつ
て下さんせとこえかけられ ヤアそういふは久八かおしゆん そなたの事をねに
もつて さいぜんより官左衛門がひだうのてうちやく こらえるたけはとこらえしが
どふもかふもならぬしぎになり むねにあまつて手にかけたれば 人ごろしの

此伝兵衛 すぐに此座でしぬかくご おや人さまの御なげきも さぞかしと
おもひはすれど 此期になつてはせんなきくりこと ふかうのだん/\よきよふに
わびしてたもと 又とりなをすを久八はおしとゞめ 河原にけんくはがある
と聞たゆへ おまへの事がこゝろもとなく おしゆん様もろともはしつて来た
人をころせばしぬるとはもつともの事ながら 喜左衛門様や これなるおしゆん
さまのなげかしやる所をも思ひやつて あたりに人のいぬこそさいわひ
はやふ此場を立のいて下され サアおちて下され 久八さんおいわんす通り


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かんくはと聞てむなさわぎ かういあふしだらもあろうかと ぬけて来たこのお
しゆん わたしが事からおこつての人ごろしのとが何とせう そふいふ事なら
しぬるかくごはだうりながら おやごさまのなげきや わたしがかなしさをすひ
りやうして どこの山おく いづくのからにものがれるたけはにげかくれても
どふぞしなずにくださんせ しぬる事ならおまへひとり死なしはせぬ わつぃも
ともにしぬかくご おまへをさきだて わしが身が一日いきていられうか 親
かう/\と気を入れかへ みれんひきやうな心にも ちつとはもつて下さんせと 身を

なげふしてなきいたる サアおやへのふかうやそなたのなげき おもはぬには
あらざれど 人をころした此伝兵衛 ながらへるしよぞんはない とめずとはな
してころした/\ はてさて聞わけのない おまへのおんになつた此久八 わる
い事はいひはせぬ たつたひとり子のおまへを 家のちすじと喜左衛門様
のたいせつがり あとさき見ずの ふりやうけんも出よふかと おしゆんさまの
身うけなさるも かなしひ事のないためのおはからひ そこをよふきゝ
わかて とゞまつて下さりませ それ聞わけぬにもなけれども そん


35
ならおちて下さりますか 夫じやてゝ此死がい ハテあとはわれらにおま
かせあれ おしゆんさまも此所に長居して人めにかゝつては伝兵衛
さまのためいならぬ はやふうちへもどらんせ ついでに伝兵衛さま こつ
そりとおくつてやらんせと いふにおしゆんもこゝろせき サア/\/\伝兵衛さん
はやふのいて下さんせ もししないでかなはぬその時は わたしも一しよに
死出のたび ハテサテおしゆんさま おまへまでがそんな事 千のまんの
とことばかづいふているうちひまがいる 何をうぢ/\ はやふ/\とせき立て

られて伝兵衛は こゝろならずものがれ行 ほしのひかりにうしろかげ 見へる
あいだはのびあがり やれうれしやとはじめて吐息つくをりから むかふへ
万八がしらども引つれはしりよる かくと見るよりびつくりし 無二無ざんに
しめかゝるを ひらりとかはして身づくろひ かとうどつれたるどろぼうめら
久八が手なみを見よと 左右ぜんごをあい手どり 手をつくしたる手練
のはたらき コリヤかなはぬと万八はじめほう/\のがれにげて行 勘蔵が訴へ
にや 所の代官とり手引具しかけ来り 勢州亀山の御家来 横渕


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官左衛門を切ころせしと ちうしんあつてめしとりにむかふたり じんじやうになは
かゝれと よばゝるこへに久八がとがをわが身に引うけて とり手のまへにどつかとざし
人をころせばかくごの前 御くらうながらと手を廻せば 早くもかけたるしばりなは
   堀川の段                      めしうど引け ハア
おなじみやこも 世につれて いなかゞましのうすけむり ほり川へんにすまいし
て後家のみさほもたつ月日 琴さみせんしなんやも 合の手もつれ きも
つれを ほやうがてらのくすりぶろ あふぐも我をしぶうちは 目さへふじゆうな

くらしなり おつる様まちどふに有ふなア そして何やらのさらへで有た ヲゝそれとり
べ山 アリヤじたいしんぢう事 会にでもひくのなら おまへはおなごの方 おしげ
様はおとこの方 かけ合にうたふがよいぞへ ドレ/\おしげ様のかはりにわたしとかけ
合にうたいませうと おいてひく手もしほらしき 女はだには白むくや うへに
むらさきふじのもん 中着ひざやにくろじゆすのおび としは十七はつ花の 雨に
しほるゝ立すがた おとこもはだは白小そでにて くろきりんずに色あさぎうら
廿一五の色ざかりをば 恋といふ字に身をすてをぶね どこへ取つく嶋とても


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なし 鳥部の山はそなたぞと 死に行身のうしろがみ ひくさみせんはぎをん町 ちや
やの山衆がいろ酒に みだれてあそぶさわぎ合 あのおもしろさを見るときは
イエ/\しほれがないあのおもしろさを見る時は あのおもしろさを見る時は よし/\
そめどのそなたとそれがしが こぞの初あきたなばたの ざしきおどりをかこ
付けて しのびあふた事思ひ出す けふはマアそこ迄せいが出るほど有て きつ
う手もまはり出した もふ/\どこでひきなさつても はづかしい事はないと 聞てえ
がほのかたをなみ 又明日といふしほに おつるは立てかへりける 母を大事とゆ

だんなき身すぎもかろき小ぶろしき かたにのせたるさるまはし もどりはいつも日くれ前
与次郎はいきせき門口から 母者人今もどつたぞや ヲゝあにもどりやつたか
さぞひもじかろ ちやもわいて有 ぜんもそこにして置た ヲゝとくよもどつたか け
さから子ざるめがおやをたつねてやかましい ちやつとそばへやつてやりや アイ/\そふ
でごんしよとも ソリヤちやつとちゝをのましてやれ イヤノウ与次郎 そなたがかふ/\にして
たもるに付 わしが此なが/\のびやうきも いつ本ふくする事で有ふと思へば つか
れのうへになをつかれる わづかな弟子しゆのよせいや わが身のはたらきで この


38
やうじやうがなる物かと 思へばくすりもどくとなり 母ではなふては子供のために
は かしやくのおにと思はるゝ おにはめいどに有ものを つれなのおいの命やと 身
をくやみたるむせびなき あはれにもまたいぢらしし アゝコレ母じや人ソリヤ何をいわん
すぞいのふ 其やうにひそやかなしんだいしやと思はしやるか 此間弟子入した
米やのむすこ殿から なが/\おふくろのわづらいでさぞかしかつてもわるからふと云
て ゆきか花かと申すやうな白米のしおくり たな/\゛のだんな衆からは何
なとようが有ならばいふておこせ もし出やうじやうさしますなら幸ひな

いんきよ所もあるほどにといふてくるおかたもあり やうかんまんぢうなまざか
な きんじよとなりへそふ/\すそわけもしらねば たいあかゞいのたぐいはよこ
町のすしやへおろしうり モあんじる事はみぢんもないぞや それにまだ/\/\き
のどくなは 此家ぬしが此家をいなりにかふてくれぬかとたのまれる ヤレい
やゝの/\アゝあだせはな家もちよりは金もちが はるかましでも有ふかと 母に
あんじをかけさせぬ うそ八百さへ一くはんにたらぬせつきの断訳を いふ下げい
こやこれなるべし うそとはしれどおいの身は子にしたがふがならいぞと きげんよ


39
げにうなづき ヲゝそれ聞ておち付ました ガおち付かぬは娘が事 此間も
おやかたが おしゆんをあづけにきていはしやるには コレ伝兵衛殿といふきやく
の事で ちと内におかれぬ事が有る たとへ伝兵衛がたづねてござろとも
おしゆんがかへつている事は つゝみかくさねばならぬぞやとくれ/\もいはしやつた
サアわしも其入わけをきいたゆへ おしゆんが心ねを思ひやり 思はずなみだが
ドレ マアひをともそとたなのすみ こて/\取出すあんどうの 火かげももるゝ
のれんごし おしゆん/\ アイとへんじもしほ/\と 思ひなやみしかほかたち マア/\こゝへ

と小ごへになり 門の戸はかけて有 見る人もきく人もない ほう/\゛でうはさをきく
に 此間の川原のけんかうは ころしては わがみのきやくの伝兵衛殿なれど 其場におちて有た小づかゞ
カノ伝兵衛殿がおやしきから はいりやうした小づかじやゆへ 天めいのがれず御詮
議さいちう なれ共 其夜から伝兵衛の行衛もしれず 其あいかたの
女郎はおしゆんといふ事お上にもよふ御ぞんじで おやかたのほうへもいろ/\と御
せんぎがあれど 是も行えがしれぬといゝきつて 今もめて有さいちうじやと


40
とり/\゛のうはさひやうばん おりやもふ聞くたびにびく/\すると きくほどせ
まる おしゆんがむね 其夜のおこりもみなわしゆへ ふぉこにどふしてござるや
ら 心もとなさあいたさも いふにいはれぬ此場のしな いかゞとむねもふさがりし
母は一づに娘のかはいさ コレおしゆん なんにもあんじる事はない しかしつきつめたお
とこ気で ひよつとこちのうちへきて はものざんまいでもしやせまいかと 四
五日は夜のめもろくにねられぬまゝの物あんじ せけんにたんとあるかくな心
中やなどしてくれたら 此母は目かいは見へず あにはアレあのやうなおくびやう

もの もしもの事が有たらばあとで母はどふしやうぞ 袖ごいもののらひにあるい
てもそりやもふひつとつもいとやせぬけれど そなたのからだにきよじでも有
たら おりやモウすぐにしんでしまふぞや わかい気にあとさき思はず 義理
じやイヤ人のおちめを見すてゝはと つまらぬぎりをたてぬいてとしよりの此
ばゝに つらひめ見せてたもんなやと かはいさあまるおやごゝろ アゝ なむあみ
だぶつもなみだごへ あにもとも/\コレおしゆん 今母のいはるゝとをり何のぎり
もへちまもいらぬ どいてしまへばあかのたにん またおれもきにかゝつて すき


41
のめしさへのどへとをらぬ 母じや人のきやすめ おれがはらたすけじやと思ふ
て どいてたもや や ヤたのむ/\とせうじき一へん 母の心をあにのことば もつ
たいないと思へども きるにきられぬむねのうち しよせんしなねばならぬ身
の 此ばをぬけて其上でと 心ひとつにしあんをきはめ かゝさんあに様 おづたり
のおことばよふがてんいたしました ことに又伝兵衛様 つい一通りであふたきやく
ふかいわけでもないわいなあ しかしつとめのならいにて 人のおちめを見す
てるを さとのちじよくとするはいナ とてもすへのつまらぬ事 わしやとく

しんをさせまして 品よふわけのたつやうに イヤ/\其やふにわけ立るといやつても
あつりにとくしんせぬ時は それ/\いにがけのだちん馬でぶみころし アゝイヤ/\む
りころしにしやうもしれぬ コリヤめつたにかみ合されぬ ヲゝあにのいやるとをり
じや そなたにけがでも有ては 伝兵衛殿とやらもなんぎ 思ひきるのがあつ
ちのため わかみに心ひかされては ついとらへられるはしれた事 のき状をやつた
らそなたの事も思ひ切て きれる共/\とをい国へでもかげをかくしたら 身をのが
れまいものでもない ソレ/\むつかしかろ共一ふで あにすゞりばこ取てやりや ササは


42
やふ/\と母とあに ことばにいなもなきがほを かくすすゞりのうみ山と かさなる
思ひのべ紙に ふでのたてどのあとやさき なみだにすみのにじみげちなる
むねのうち かきのこすとはつゆしらぬ 与次郎がそばから コレ 其やうにな
がたらしう書かず共 ついどきますとかいても すみそふな事じや イヤ ノウ 書いた
ものはあと/\までのこる物 男のさり状とおなじ事 とつくりわけのわかる
やうにかいてやるがよいぞや アイ/\此じやうにとつくりと 御がてんのゆくやうに
あに様 此ふみおまへから おわたしなされて よし/\ 此状さへあれば千人力じや

マア/\母じや人もおちつかしやれ とやかふ云内九つまへ おまへおかくでもうふね
やしやんせ ソレ/\こんやこそゆつくりと 心よふねるであろ あにもそなたもそ
こにねやと おくそくもなきへだてをば おしあけてこそ入にける サアおしゆん こ
ちらもこゝにおうじやういたそ アイとおしゆんがとも/\゛に しばし此世をかりぶ
とん うすきおや子のちぎりやと まくらにつたふつゆなみだ 夢のうきよと
あきらめて ふけゆく「かねもあはれそふ ころしも師走十五夜の 月はさ
ゆれどむねのやみ すぎしわかれの云かはし しなば一しよと伝兵衛が しのぶ


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すがたのしよんぼりと たゝずむのきは目覚への たしかにこゝと門の戸へ さはる
あいづのせきばらい 聞くにおしゆんはとび立つ思ひ 上るまくらもうちはづす
与次郎はそばに高いびき こころもともにあんどうの ともしびふきけしさし足
に心せくほどあきかぬる 戸口のかけがねおもてにも おしゆんじやないか 伝兵
衛様よふあいにきて下さんしたと いふこへねみゝに与次郎がひつtくり おきると
あける門の口妹がすがたもくらまぎれ とらへるそでのふり合せおしゆんと
心へ伝兵衛を むりに引こむ取ちがへ 戸口を内からひつしやり引立 ソリヤこそ

つれに来おつたぞ おしゆんかならずそとへ出まいぞや 戸口はおれがおさへて
いる 門にいるは伝兵衛じや おのれを入れてよいものかと いふもがた/\どうぶるい
コレナアあに様 わしやおもてにいるはいナ 何しやおもてにいるはいな ヤア其こは
色おいてくれ そんなことくふおれじやないわい 母じや人/\ 伝兵衛がおしゆんを
ころしにきたゆへ 今おもてへ立出した おれ一人では手がまはらぬ こなたもか
せいして下され かせい/\/\とうろ/\/\/\うろたへさはぎ 母おやも 何じや伝
兵衛のかせい ムゝマタほかにどうるいでも有のかと さぐりよつたる伝兵衛がそ


44
ば コレ/\おしゆん ふるふ事はない あにや母が付ている マア気をしづみやとなで
さする せなかの手さはりがてんゆかず コレ/\与次郎 どふやらコリヤ娘ではない様
な ヤアくらがりまぎれにざいもくがまぎりやせぬか こなたつかまへて居て
下されやと さぐる手さきにひうちばこ がち/\ふるふ付け木のひかり コリヤ妹
じやない伝兵衛じや おおふくろあにごエゝめんぼくもない此すがたと なをも小
すみにかゞみいる コリヤヤイ 其やうにしほ/\して見せて おいらをだまして おしゆん
をつかふとするのか 其手はくはぬと ふところより一つう取出し こは/\゛なから

そばに夜寄り コリヤ伝兵衛 おしゆんと我と手が切れぬと とが人のわれじやによつて
妹迄なんぎする それでさつきに妹にとく心さして どき状が書かして有る コレ是を
見い これじやによつてモウ/\/\おしゆんが方に残心けはなれて有はい ムゝスリヤお俊
が其のき状を コリヤ どき状じや/\ エゝ其心とはしらず 云かはした詞を誠と思ふ
て まよふてきたがむねんなはい 口おしいとはをくいしばる男泣 うらみを聞くも
へだゝる戸口 心はそふじやないじやくり ヲゝさぞはらがたとだうりじや/\ マア
とつくりと気をしづめて のき状を見て下さんせ ヲゝそれでよい 長ふ物いやんな


45
くづが出るぞ 伝兵衛 おれがよんで聞したふても かいもくおれは祐筆じや サア/\は
やふとふうじめ切 つき付られて目にたまる涙をはらい ナニかき置の事 ヤアなん
じや書置 コレ/\兄正直な びつくりする事はない そなたは無筆私はめくら 書
置じやとよみちがへ うろたへさして門へ出て 娘をぞんぶんいせうとのたくみ そん
なうそはくいませぬ サア/\ほんまいよまつしやれ コレ/\与次郎 おもての娘に
気を付て 門の戸をあきやんなや ヲゝのみこんでいる こゝにはおれがへたばり
付ている サアはやふよめ 物こそはよふかゝね 聞く事は無筆じやないはい サア/\よん

だ/\ 是迄の御やういく うみ山にもたとへがたき親の御おん ことさらふじゆう
なる御身のうへ何とぞしゆびよふつとめをのがれ よをらくに過ごさせまし候はゞ
せめてすこしの御おんほうじ かう/\のかたはしにもなり候はんとそれのみあさ夕
いのりまいらせそうろう所 二世迄と云かはしまいらせそうろう伝兵衛様 思はず此度の御身のなんも皆
なわれゆへに候へば 今さら見てい候ては女の道立申さず候 ふかうとは思ひな
がらともにかくごをきはめまいらせそろ 母じや人どふやら風がかはつてきた様な サイノウ
わしもむねがどき/\と サア/\あとをよんで下され さきほど伝兵衛退き状と


46
申してしたゝめしは 此事申上たきまゝのきじやうといつわりかきのこし
まいらせそろ 何事も/\ぜんぜよりのさだまり事と御あきらめ下され候 申上
たきかづ/\はふでにもつくしがたく候へ共 心せくまゝ申入れまいらせそろ さてはそふした心か
と おどろく伝兵衛おや子はうろ/\ エゝきづかいなコレあにや むすめを内へ
はやふ/\と母があせれば与次郎も 戸口をあくればはしりゆく いもとを
むりに四人がかほ見あはしてためいきつき なみだはさらにわかちなく
なんとことばも伝兵衛がなく目をぬぐい 一いひかはしたことばをたて

ともに死ふとかくごして ぎりを立てぬくそなたのていせつ わすれはせぬうれしい
ぞや 思ひまはせば廻す程 われこどしなでかなはぬ身 そなたはとがの
ない身の上 ともにしんではおふたりのなげき いのちながらへなき跡の
といとむらひを頼むぞと ことばにわつとなき出し そりや聞へませぬ伝
兵衛様 おことばむりとは思はねどそもあいかゝるはじめより すへのすへまで
云かはし たがいにむねをあかしまい 何のえんりよもないしやうの せはしら
れてもおんにきぬ ほんのめうとと思ふ物大事の/\夫のなんぎ 命の


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気はにふりすてゝ 女の道が立ものか ふかうともあく人とも 思ひあきらめ
コレ申 一所に死して下さんせと かくせしかみそり取なをす マゝゝゝマアまてまちおれ
やい コレしぬると命がないぞよ コリヤ何の事じやとんとわからぬやうになつ
てきたはい ころしにきたと思ふた伝兵衛殿より 今ではわれが方が手づよふ
なっつたぞよ コリヤマアどふしたらよからふぞ といふもおろ/\母親も ヲゝそふじやわが
子がかはいひ/\と 子ゆへのやみにわきひら見ず 是迄おしゆんがおせになつ
たおんもぎりもわきまへず 一づに中を引わけふと思ふた母はぎりしらず いやしひ

つとめする身でも女の道を立てとをす 娘の手まへめんぼくない そな
たの心にはぢ入て何事も云ませぬ 伝兵衛様と一所にの コレ死出の道
づれしやいのふ いたがコレ申伝兵衛様さだめておやご様たちもござりませふ
が 親の心といふ物は人げんはおろか たとへてうるいちくるいでも 子のかはいさに
かはりはないもの おしゆん伝兵衛といはす気か もしやおまへが死しやつたと
おやごたちがきかしやつたら かなしうて/\此世にのこつているきはあるまい
いづくいかなる国のはて 山のおくにも身をしのび どふぞのがれて下さりま


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せ 娘が心にはぢ入て 天にも地にもかけがへない かはい我子をしんぢうに
がてんしてやる親心 こゝのだうりを聞わけて コレおがみます 頼ますと
手を合したる母親の 子ゆへにまよふやみ ふたりは何とことばさへ なみ
だになみだむすぼるゝ ちすじのわかれ与次郎もなみだの雨の古ぬのこそ
でくいしばりしやくりなき アゝ伝兵衛様のなげかしやるもだうりじや 又
おしゆんのなきやるもだうりじや 母じや人のなかしやるもなをだうりじや
だうりじや/\ だうりじや/\といふてはねからはから いつまでもわからぬ

だうりじや ガコレふたりながら母じや人のことば 御がてんがまいりましたか エゝコリヤ
われもとくしんしてくれたか がてんがいたか サゝゝゝ がてんしたらば どふぞ此場を
立のくふんべつ しかし其なりでは人目にたつ 京の町をはなれるまで 此
あみがさに顔かくしさいわいのさるまはし まめでふたりがすへながふ めでたふ
めうとになりとげる 門出のいわひに此与次郎がおはつ徳兵衛が
しうげんのことぶき こなた衆もわかれのさかづき イヤ/\しうげんのさかづ
きと いはいうたふもこへひゞくに おさるはめでたやな むこ入すがたものつし


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りと/\ コレさりとは/\ノウ有かいナ さんな又有かいな ヲゝ徳兵衛様ござんせ
あまりこな様が来やうがおそいによつて おはつ様はかほまつかいにしてはら立
ていやんすはいのふ コレお初様 むこ様が盃をしたいといのふ きげん直して盃を
いたゞかんせ コレ/\/\いたゞくのふ盃を さんな又有かいな ヤコレむこ様 あしで盃をさ
すあまりつれない 夫レでは嫁ごがいたゞかんせぬはいのふ ひぞらずとほんまに
さしてやらんせ そふじや/\ そこでお初かいたゞいた物じや コレいたゞくのふ盃を
さんな又有かいな コレよめこのひるねもころりとせい/\ ナ コレ エあるかひな

さんな又有かいな コレむこ様 あまりつれふさんすによつて おしゆんよめご様が
おきさんせぬわいのふ そこらでちよつとおこしたり/\ エコリヤコリヤイコリヤ さりとは/\ノウ
あるかいな さんな又あるかいな おきたらたがひにだきつきやれ ヲゝそれできげん
が直つたぞ エゝゝあるかいな さんな又あるかいな くるりとかへつてたつたりな たつ
てくれコレ/\/\たゝしやませ ついでに日よりを見てたもれよい女ぼう
じやに/\ノウあるかいな さんなまたあるかいな 日よりを見たらばおちてたも
/\ コレそふじや/\ おさるはめでたやめでたやな サア/\きり/\この家を さる


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まはし まさるめでたふいつまでも いのちまつたふしてたもと 目はみへ
ねども 見おくる母 ことばも+此世できゝおさめ こゝろうちのいとまごい
あすのうわさと なりふりもやつす すがたのめうとづれ 名を
えざうしにしやごいんもりを あてどに「たどりゆく