仮想空間

趣味の変体仮名

戯場楽屋図会拾遺 下之巻 コマ39~52

 

 読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2554349

 


39(左頁)
楽屋図会拾遺下之巻

白拍子女楽屋之図 初日の賑ひ 顔見世 二の替り
四連中の藍觴(らんじやう) 連中根本之写し 番附絵本の写し
衣裳方 人形頭仕懸見る図 女形頭面(かしらおもて)之働き仕懸見る図
人形全体之図 道具方 小道具方 床山 鬘の品目
囃子方 部屋(立役・女形) 人形役者部屋
三番叟棚 浄瑠璃部屋 浄瑠璃稽古本藍觴
人形細工場 芝居六好仙(ろくかうせん) 拍子木 役者似顔之画(え)
阿蘭陀人芝居を見る語(はなし)


40(挿絵)


41(絵図)
白拍子水歌舞図(しらびょうしよぶをなすづ)なり 尤も此図は
本文にしたがひて上の巻にいだす所
なれども下のまきの潤色として
こゝにいだせり

(以下略) 


42
初日 昼九つ時分より始り 夜早きは四つ おそきときは八つ時分にはてる
   此日は楽屋廻り萬事こんさつなる事いはんかたなし まづ衣裳方に手
おくれの時か わたり物延引するか役者衆中は書抜(ぬきがき)をくり 小詰め中通りなどは
立廻りなどの稽古をさらゆる故に 平日より幕の間も長し こゝをわきまへて
見物すべし

○此日にいたれば江南(みなみへん)の妓婦(げいこおやま)芙蓉(はな)のさかりをあらそひ さんじきにつらなり 毛せんの
いろ いとゞ花々にあたりをてらして おもはゆく 山海の美味(ちんみ)をあつめて酒宴
をもやふし青楼(ちゃや)の座敷よりもこゝろけりてなをたのしけれ 酔をさます塩
茶には淀川・逢坂の水をくみ 折上(まくあけ)の木にねむりをさまし舞台を見やれば
日はたそかれになる木とともに口上云がいかめしく いよ/\只今の続き第貮つ目
さやう御覧チヨン/\

(中略)

顔見世 儀式は前編にいでたればこゝにのせず 扨顔見世は昼夜打が間
    なりしに近年夜十日にかぎる くれ六つ時より一番太鼓を打ち
出だし初夜に打切れ是より二番を打つなり 是を四つ時に打切 それより三番を
九つ時にうち切り それより三番叟はじまる 次に座附き引合せになる 是をすみて
三社いでゝ舞納めるなり 次で顔見せ狂言上中下三幕ありて 明け六つに はてのたい
こを打つなり

始まり触れ 十日が間毎夜四つ半のころよりじはじまり ふれといふ事あり「頭取曰く はじ
      まりイゝ?と此(かく) のごとく大音にて触れる事己上(以上)三度なり おはりをふるゝ頃は


43(絵図)
顔見世積物(つみもの)図
并に連中寄茶屋

団三郎
きやう(ら?)安
小うり
南?ヨリ
ざこばヨリ
堂島ヨリ
百俵ヨリ

連中挑燈(てうちん) 数は略す

ざこばヨリ

炭積図
冨坂屋


44(42の続き)
およそ九つ時(よなか)にしてこれより場さんじき舞台のちやうちんに火をてんじ 三番叟
はじまるなり ○始まりぶれは たとへば平日幕の間(あい)に打つ○聞き合わせ○知木(しらせ)○聞き掛け
などの拍子木にをなじ

?見せや 浅ましくなく夜もあらん 大江丸

四連中濫觴(らんじやう)○笹瀬連中 此開発は享保五年に笹屋小兵衛 瀬戸物屋
            伝兵衛の両人これをはじむ ゆへに笹瀬の名あり 今もなを
子孫たへず今共和三年まで八十四年になれり○大手連中の元は 大手
といふ三味線屋是をはじむ 夫故名字頭(かしら)字を取とりて藤石の名あり 明和七寅年に起こる
花王(さくら)は安永四年未のとし始まる 此開発は御堂(みだう)のほとりに藤屋喜助といふ人あり
元より芝居好人(ずき)にして ついには此連中を組む 享和三戌のとしまで三十年になれり

連中根本之写し 并に節付(ふしつけ)之事

 ○新江戸登り
御江戸出立て 品川 かわ崎 ろくこ(六郷)の渡しは 武蔵

野 玉川 さらす手造りさら/\に 何ぞととへば
西行の鴫立(しぎたつ)沢か ふじ沢越て大磯小磯 小
田原に名をなし とらやかういらふの ぐは
ら/\ひつしやり 早口の口上聞けば 何馬かそ/\
馬からふ馬かろへ チョイト 飛乗はい/\はい
歌 おまへまつとて門にたつ それつまづいてころぶなよ エイ
サツサ/\ 箱根をおりて三嶋に沼津 めちり
/\/\/\ぬらり/\とぬらつくは
鞠子の宿のとろゝしる 大井川渡す ザンブリ
サ/\ また?へきと思ひきや小夜中山あめ


45
歌舞伎芝居楽屋二階之図

いろは 

市川団蔵 市川団三郎 市川団之助

進上 三木
俵御(?)

のし ひいき
御肴

のし 大分 清七
酒五斗
中山甚五郎丈え

進上
白銀??
酒三斗
御肴 山一 ?? ??
あらし??丈え

進上 ヒイキ
傘十本
尾上??郎丈え

しん上 北ひいき
炭拾五俵

進上 てんま?しゆ
大根百把


46(44の続き)
の餅 なく子にくわせわらひ餅 につ坂 見付
浜松すぎて吉田通れば にかいからまねく/\
岡崎女郎衆/\岡崎女郎衆はよい女郎
衆 コリヤ 宮の渡を乗おくれじと いそ/\足元
チヨコ/\/\チヨンチキチ/\チョイ チヨイト
飛乗 やれおせチツチキチヨ それ出せチツチキチヨ
おせさつさトツコイ/\エイさつさトツコイ/\
エイサツサ/\エイ/\/\/\/\エイトあかれば桑
名 四日市「馬士歌をいるゝ アイ/\ 歌 ぬれてしつほりしめてねた
夜はひげ/\/\/\/\をはひかれたやんれひけ引 津田引袖

引石部草津の宿屋の女こハレワイサノサコレワイ
サノサ大津伏見の嵐につれて 浪花の花かた
まつていた/\ アリヤ/\/\エイ アリヤヨイ

 ○里の花
まつ初春の顔見せや歩き行くをむこふ人々
の からりころり/\ヤアからりころりと
下駄の音 道頓堀の賑はしさ チヨチヨ/\
チキ/\/\チヨ/\/\チヨン シ シ シシヤ サ昼
かとおもふ大ちやうちん なにおふざこばの大


47(絵図)
顔見世座附橋懸りより舞台へ出端之図
 但し舞たいちかんさんじきの後よこより見る心なり


48(絵図)
来る霜月吉日子之年顔見世極役者附
座本片岡愛之助
   内茶屋

(上段)
太夫 尾上幾久松
娘方 浅尾友次郎
子役 山村松之助
若衆方 坂東岩太郎
子役 藤川音作
若衆方 中山文吉
子役 嵐亀三郎
娘方 吾妻冨次郎
娘方 中山徳次郎

(中段)
立役 嵐吉三郎
立役 よめない

(下段)
長歌・鼓歌 鈴木萬里
立やく
藤川友藏 三舛定吉 坂東伊三郎 大谷九郎次 嵐又九郎 藤川七蔵 生鳶光八 市川升蔵 
ふり附 市山源蔵
敵役 浅尾為右衛門 (以下略)

顔見世番附 此番付全体の図は先に出だせり こゝにのするは二つに折りたる所なり
      顔見世番付 役割番付 二の替り壱枚摺 絵本等の順にしたがいて爰に出だす

二の替り一枚摺 はじめは紙の大小段々あり 今杉原一枚にかぎる事なり
        右の図は一枚看板のうつしにして茶屋より客さきへおくる也

近日より道頓堀角の芝居二のかはり新狂言

 座本藤川勝次郎
往古(むかし/\)
唐倭(からやまと)の物語
(下)閨の??(こんたん)ひとつに集まる日本丸の舩諷はヤンラ目出度き
嫁入の白小袖結納(たのみ)の印は希代の名剣抜けば輝く天女の影向
又納むれば身体自在 池上七九郎是を帯(たい)す
(上)虎と見て 石にたつ矢の あるものを けいせい会稽山(ゆきみるやま)景色 七曲
(上)其頃 敵打ちの聞書き
(下)情け有馬の湯玉と滾る 瀧本流の達筆は むかし床敷
寺子やの壮者(わかもの)ほれた娘に奇縁の橋詰 天海(あまみ)神に誓いの誰(たが)袖
掛け奉る大願成就 岩倉競正(きそふのかみ)是を捌(はかる)
千穐万歳楽叶
 尾上恋三郎
 中山文五郎
  罷出お?申候


49(絵図)
芝居段書(だんつゞきの)絵本

表紙はさい しきにして 歌舞伎 操とも是い おなし

大坂心才ばし塩町角本屋清七はん

二のかはり 新狂言 廓 源 

けいせい廓源氏 
ほりを帯刀取なしいふ 猪三郎 発端 名古屋陣中のてい 口明 加茂川堤 大でき/\
蔵人つまなでしこ 粂太郎 万次郎 さかし?(ま?)なる

大でき/\ 吉三郎 かづらぎいろは 曲ものを うかゞふ 奴岡平ぎせいする 八百蔵 しがらみ かうがいを打立のく

芝居内茶屋より売出だす 又新狂言道行の文句を本にこしらへ
売る事あり

狂言役割番付

半紙一枚摺にして役並び
かくのごとし 末に宮園の太夫
狂言作者頭取の名まへを
あらはす

此時浅尾為十郎一世一代
として神村宇田太夫
役を舞たい納めとす

其九月十五日より道頓堀中の芝居  内茶屋岩七板

座本 姉川熊次郎

狂言 増補 加々見山花媚合(かゞみやまはなえあはせ)上中下

児女中 なでしこ ふじ川清吉
    ちくさ  市川よし三郎
お女中 みかづき 中山文吉
    うの花  よし沢ともへ
    もみぢ  中むらそめの介
    さなへ  ばんどういは太郎
    きゝやう あさを吉次郎
    夕がほ  山下むつ?
    とこなつ あらし小ちよ
ぬしやどうらん  ばんどう清ぞう
はちや十兵へ   あさを為右郎
お女中はるの   三保木吉左衛門

(下)
はしたおはつ  吉沢いろは
お女中うきふね 中村粂太郎
   かしは木 中山文五郎
茶弁当持江戸釆 市川市蔵
お女中あきくさ 桐の谷桂十郎
やよいひめ   藤川勝次郎
お女中くれは  叶珉子
   はつせ  市川団之助
早じまちうら  中村元
お女中わかな  朝井國五郎
もゝの井もとめ 浅尾奥次郎
お女中さはらび 中山一とく
中老おのへ   藤川友吉
つぼね岩ふじ  市川団蔵
お女中むらさき 座本 姉川熊次郎

浄留利 竹本花太夫 竹本勝太夫
三味線 つる沢?ぞう つる沢新ぞう

非人 敵討 織合襤褸錦(おりあはせつゞれにしき)五重(いつかさね)

高市庄之介 中村作ぞう
しのだけん五 中村
ひくに

番付一まい摺は筆方の根元をえらんでわたや庄兵衛書之


50(46の続き)
れん中ひいき/\の積ものは山のことくに
めさましく 向ふに建し建物はさく 瀬
藤石さくら 大木戸口はエイヤ/\押合 チ
ヨチキ チツチキ へし合 チヨチキ チツチキ 舞台をすつと
見渡せば虹のことくのちやうちんは コリヤ
ゆるかぬ北(所?)の大れ中 場売のおえもいさま
しく 出よ割よ/\矢倉たいこの打切は
ヤア から/\/\ ヤ チヨン/\ 大返し/\とん/\から
/\ヤン チヨン/\サア 打切初る三番叟 ヤアおん
はシ チヨチヨチヨン/\ エイ/\/\/\/\と大評判を

わつさり祝ふて打ましよしやん/\も
一つせいしやん/\祝ふて三度おしや
しやんのしやん年の為ヨイ

○此外に 四季 大矢数 関帝 三系 道成寺 若戎
舟歌 新京下り 初市 名目 太郎冠 駒桜 へた打続
蔵立て 三番叟 正月尽 打ふ 玉川 チエイ サア/\ 橋尽し
商人八景 新さらし 京名所 石橋 川口八景
右之外四連中の内数ありといへどもしげければ爰に略す
○拍子木節付之事


51
チヨン 壱つ打なり チヨン同く壱つなれども少しちいさく打なり チヨン/\ 
二つなり ( )此間文句の中を飛ばすなり 大小に打て
中を抜く  つゞけ打  三つつゞける
さとすべし  三つ手じなたり  此(かく)のごとく拍子木をはすに
つかふなり  打あはす  手の品なり  拍子木のかし
らを ン と打なり  筋違いい打なり

二の替りは 顔見せおはりて春狂言をさしていふ 又大替りともいへり 此狂言
      出来(しゅつらい)せぬときに至りてはつなぎに間(あい)のきやうげんを出だすなり 
人の知る所なれば略す 正月二日より初芝居をなす 表にはつりかんばんを
出だし 其にぎはしき事筆紙にのべがたし

 人魚喰たこゝちはしらすにん形て芝居の表わかやうしけり 将酉産人

衣裳方 衣裳元といふは此所の衣裳を番いしやうといふ 小詰中通(こつめちうとをり)若衆方に
    いたるまで こゝにていしやうを着ることなり 自前の衣裳を持ちたる

役者衆中は此所のいしやうを着せず 自前の衣裳といふは立もの衆は銘々持ち衣裳を
さして自前といふ 此所々衣裳屋より衣しやう着せ二人を出だすなり 此外勘定
場の衣しやうといふことあり 又小切れものといふ事もあり 是等のぶんは前編に出たり

 ○衣裳品目
○着付 男役(たちやく)女形にいたるまで上に着る衣しやうを云に帯付きともいふ
○裲襠 かいどりといふ 二まひうちかけと云事有 ○帯
○差し込み 仕懸おびなり 形面木綿にてこしらへ はしにひもをつけ はじにまきて
      此ひもにてかたくむすび あとより結びめ斗をさし込なり 女形の用る所也
○重ね付け 上着にても袖口つまえり小口すそに至るまで廻りばかり幾重もかさ
      ねたる衣しやうをさして重ねつき又は人形仕立ともいへり
○仕懸 早かはりのるい色々仕掛の衣せう有
○胴襦袢 衣裳の下に着る伝中羽織のごとし 
○脱懸け こしより上斗の衣裳なり 肩を脱ぐときにいたりては下着の心持也
○壷折り うちかけのごとくにして腰にひもあり さきに玉を付くる
     是を帯へはさむなり 義経頼光のたぐひいづれにも 大将の着るものなり
○差し抜き 公家社家のはく所也 多くはむらさきに八つ藤の模様 
○狩衣(かりきぬ)人のよく知る所なり 松風行平の片身にもろう所の衣なり
○大口 仕立は錦白木綿にてつくる
○素胞 人の知る所なれば略す ○大紋 素胞大紋


52(絵図)
二階の楽屋
下なる釜の
すへたる所は
湯場なり   床へ行かけはし

臆病口の後ろ  床のよこ

橋懸りの内  まくの引こみ

浄瑠璃の床   あかりとり
但し床はうしろ
よこより見る
所なり