仮想空間

趣味の変体仮名

大阪錦絵新聞 第四号

 

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第四月十五日の午後。正七時大妙珍な
咄あり。鉄砲らしき事ながら。旦那を
送って戻り道。狐を乗せたと噂する
其車夫(くるまや)は天満にて。十丁目天神橋通
元与力町まる人力車屋にて。柴嶋(くにじま)
へ行た明き車。さらし堤の客待に。
日笠かた手に年頃は。三十歳に
近き美婦人(うつくしもん)が。元西役町へ何程と。問はれて
えたりと車夫は。定めて恋男(といち)の所(とこ)ならん。一朱ならば
よからんと。いへば女は首(かむり)振り。五銭で行きてたまはれと。ゆふ/\賃(ね)を
極め走る道。元与力町へ来かゝるに。東から来る老男(としもん)か。車にはたと行あたり。
人力車曵(じんりきひき)は詫びせんと。あたりを見れど人は居ず。行かんとするに其車が。
一倍おもく成りしゆへ。不思議ながらもいきせきと。元西役町の角舎なる。
餅屋におろせばコハいかに。客の姿は見へぬゆへ。扨は狐と心付き。稲荷の事なら
此後に。仕合(よきこと)有るをまつ屋町。北へと去(い)ぬるから車。群集の人を
おしわけてクワイたのみ升/\
  よひ客を乗せたつもりの車夫は
     狐にちよつと乗せられたらし

大阪錦新聞第四号 笹木芳瀧誌
           芳光画

 

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