仮想空間

趣味の変体仮名

妹背山婦女庭訓 第三(太宰館~妹山背山)

 

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      ニ10-00469  ニ10-02226


46(左頁)
    第三
太宰館の段)奈良の都の八重九重 禁裏守護の太宰の館 入鹿公のお成迚?(さゞめ)き渡る奥
女中 荒牧弥藤次一間を出 コリヤ仕丁(じそう)共 今日は入鹿公御目出たの御悦びに 奈良の町へ
入込の諸職人 商人芸者に受領の下さんとの勅諚 相詰たる町人共一人つゝ呼出せ はつと
答へて立出る縣めしかや諸人に司を給(たび)て夫々に 国名を付きし烏帽子子の 始めにかけし烏
帽子やが 身を立て烏帽子両(もろ)眉は 三大臣のお召迚 高き位やかけえぼし 十二の冠式法の
えぼしやなれは平七を 頭平と受領なされける 跡へ出たはえぼしに白丁 弥藤治屹見 フウ其方は


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神職な 神職ならばなぜ吉田へ参つて受領を受ぬ イヤ拙者めは鹿嶋の事觸れ 当年
は辛の卯の年祟り年とござつて 鹿嶋の御宝殿よりでつかちない光り物が飛出 神の
扉が八文字に披(ひら)け神馬の四足に大汗をかいてござる 禰宜神主是を歎き御湯を捧げて
七座の齋(ものいみ) 時にお鹿嶋の御託宣に氏子共が下用櫃にしやりを切らしてむらつぎを
するで有ろ 人の物でも手廻り次第打殺して其日を凌げ むくりこくり地の底より潤(うるほ)はして 
米は下直(かちよく)に 銭は高ふさしてやろとの御託宣でござる 無上礼法新兵衛嘉兵衛 払ひ給へ
清めて給ふとしやねりける 扨は汝事ふれよな 向後(きやうこう)そちが受領には 口松の差出の頭(かみ)佐

平次とゆるせし跡へぼつとしよ髪 云ねど手足黒々と 鍛冶やの木梃(てこ)の衆てんからり ころ
り てん/\からりの相槌に打つや打ち者元が焼刃の焼物なれば 備前の守とや名にし
あふ 桜に色香取交ぜて 手品やさしきびんさゝら 京の水色よい染上げの との茶小紋見初め
て染めて 酔てしやらくらさゝの葉小紋 今夜必かならずやいの 松葉小紋の戸明けて門に
ちつとやつて下ん シテ儕は伊勢か熊野か イヤ私は伊勢比丘尼 夫なら比丘尼の司 お両 
なんどゝいへ楠の樫(かたぎ)作りのどつてう声 アイおらは摂州西成の郡 上福嶋の船乗でござり
ます 夫ならば大名の船歌 上(うえ)つ方には珎らしからん 諷へ/\の声に連れ エヤつるつつ共いつきや


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のふ来てな こはきに立よる見て有れば おんめんもとはころり ごろりんなころ/\共 こんころが
しやりかの しやなりんがちよろよけんれんばまたのいよほん ほんほわか枝や はんは葉も
栄へやはんは葉も ろやんはいよイヨヘさかへ諷ひ納めし舩歌に 弥藤治は聞入て ヲゝ出かし
た/\ 此後は其方を 船の頭となすべしと 云しより名を船頭と 名付けし跡へ道心者 風呂敷
かたにひよるか/\ コリヤ/\汝 所化ならば上人和尚に成たい望か イヤ/\ 愚僧は願人坊主 寺号
をお赦し下さりませ ムゝ願人とは何の宗旨 されば八宗九宗をもれ 二季の彼岸は鉦
太鼓で町々を 六斎念仏 お目にかけふと風呂敷より 取出し始める太鼓の拍子 やあん

やうりうし/\なつてんりうたん金銀花さいた ぎんなんきんかん楊梅かん梅瓢箪ほう
せんくは やあてつせん花 /\ せんだんぢんてうふようりんご ちやうしゆん半夏草(けさう)エゝスエ/\りよ
エゝスエスイリヨこんりやうエゝスゝリヨ こんりやうこんしんこんりやうこんしん/\ こすへぶく/\゛いしせ
ほろみとす と打納め 扨盆前のせがきには 鐃鉢(ねうはち)なんど打ならし法界の 施餓鬼/\と
六字詰 七月廿四日には地蔵菩薩を背たら負ひ 一つや二つや四つ 十より内の緑子は 小石
拾ふて塔を積み 一重つんでは親の為 二重つんでは きやうり兄弟我身の為と 回向する
庚申にはどら打て かうしんのだいまち 扨傘(からかさ)に赤前垂を腰に巻き 住吉踊り 四社の


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お前て 扇を拾ふた 扇めでたや末?昌 サ住吉様の岸の姫松めでたさよ 白かん
かねのべてのふ襷にかけて よね/\はかるせきのと せんととのやさらは/\エ踊り仕廻へば弥藤
次も 是はしんどい宗旨じやな 向後は其方を 暁山西方寺と寺号をお赦しなさるゝぞ ハアゝ有
難し忝しと 悦び勇む春駒は めでたや/\ 春の初めに春駒なんど 夢に見てさへよい
とや申 ドウ/\/\/\三吉乗つたか 右の袂に三七三夜 左の袂に三七三夜 両方合せて
六七六夜 ドウ/\/\/\ 勇み舞ふたる春駒が 轡の紋もさつぱりと 能男共ゆふぜんの 伊
達な下着を一つ前 目つかふて白洲につくばい 私は堺の素人浄るり 三右衛門と申す者 紋

太夫は播磨 君太夫は越前 筑前大和と受領致す 是は大坂の名人芸 私は太夫号を下さ
らば有難ふござります ナニ浄るりを語るとな 幸い/\ 奥女中も聞たがる無間の鐘を所望
/\ 是は迷惑 私はちやり声で歌事が参りませぬ いかぬを是非にと権威の所望
迷惑ながら声はり上げ テゝテン/\テン/\石にもせよ 金にもせよ 心さす所は無間の鐘 其金爰
にと三百両 深山おろしに山吹の花吹ちらす われ声にて 語れば扨もこはい声 最
前の薬鑵やと いつしよに置たら能からふと どつと笑ひを催せり ヲゝ一興/\面白し 梅
が枝は諸木に先立咲く花なれば 三右衛門も向後は咲太夫と改むべしと 仰にはつと悦び


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て お礼申せば残りし受領 又明日と云渡しいづれも「白洲を立出る 召に応じて大
判事清澄 袴の襞稜(?ひだ)も角菱有る 不和成中の定高が屋敷 互にそれと白
書院 目礼もせずつゝと通り 入鹿公の御座の間へ 誰(たそ)案内仕れと 云捨て行んとす
定高声かけ先ず暫く 珎しや大判事殿 太宰の小弐が跡目を預るわらはが屋敷 挨拶
もなくお通りは女と思ひ侮つてか 但し武家の礼儀御存なくば 少(ちつ)と御伝授申そふ
かと 詞の非太刀裲捌き 騒がぬ清澄空嘘ぶき 小弐存生より領池の遺恨に寄り
此屋敷の内は今日迄 足踏もせぬ大判事 入鹿公のお召に寄て参つたは 勅諚

を重んずる故 皇居の間へ出仕の心 女童に用なければ挨拶する口は持たぬ イヤ夫なれば
猶もつて 今日入鹿様お成なれば大内も同然 大判事に御疑ひの事有て 此定高
に吟味致せとの勅諚 此詮議済まぬ内は一寸も御前へは叶はぬ お控へなされ清澄殿
ムゝハテ珎らしき事を聞く 君御詮議の筋有らば検非違使に仰て拷問有らんに何の御遠慮
元来(もとより)御疑ひ蒙るべき覚えなし なまぬるき女の吟味 受る様な清澄でおりない お身見
事詮議して見るか ハテ太宰の後家此定かゞ 屹度詮議して見せふ イヤこしやくな そこ退て
早通せ 罷りならぬと根に持つ遺恨 互に折れぬ老木の柳 松の間の襖押しひらかせ 出


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御成と警蹕(けいひつ)の 声に二人も飛しさり恐れ 入たる斗也 入鹿の大臣寛然と 上段の褥
より遥かに見下し ヤア大判事 未明より参内せよと 勅使を立るに甚だの遅参 アレ見よ今日は午
の上刻 流星南に出て北に拱(たんだく)するは 万乗の位に即く丸が吉星 夫程の事知らぬ大
判事でなし 但し入鹿につかへるが不足と思ひ 身を退かん下心か 緩怠也ときめ付られは コハ御諚
共覚へず今一天四海君の御手にしよくするとは云ながら いまだ残党先帝に心を寄する族(やから)
有て 帝都を窺ふ折から 我等が料地紀伊国は 西国南海の咽首にて大事の切所 弓を
張り矢尻を磨くに隙なければ思はざる遅参其上忠臣第一の大判事に 何事の御疑ひと

憚りなくぞ申ける ホゝ其子細といつぱ 先帝の妾者(おもいもの)釆女の局を 丸が后妃に定めんと行衛を
尋求める所 猿沢の池へ入水せし由 いかにしても合点行かず 察する所釆女が有家は大判事
そちがよくしらふがなと 思ひがけなき疑ひに 清澄不審の眉をしはめ コハ存じ寄らざる義 其
釆女の御事は 猿沢の池に捨身有しとは 誰しらぬ者ござなきに 我等が行衛存ぜしなどゝ
は 何を目当の御仰なるぞや ヤアとぼけな 汝が?久我之助は釆女が付人ならずや 其親
たるそちなれば よも知らぬとは云れまじ サア真直ぐに白状せよ 陳ずるに置ては計はふべき胸有り イヤ
のふ大判事殿お聞有しかわらはに仰付られし詮議とは此事 サア覚へが有らば申されよと云はせも


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立ず イヤだまり召れ 女のさし出る所でなし イゝヤ勅諚を受ての詮議なれば 勅答の有
無に寄て 其座はちつ共立しはせじと 膝立直し詰寄て 双方いどみ争ふたり 入鹿大臣大口
明き ハゝゝゝゝイヤ工んだり拵へたり定高が領分大和の妹背 清澄が領地紀の国背山 隣国
境目の論に寄り 互に確執せしとは表の見せかけ 内々に申合せ古主の帝へ心を通は
す儕等と 我眼力に違ひはせじ さすれば天皇釆女は両家の中に 隠し置んも知れざる
故 大判事が詮議を申付た定高コリヤそちにも此疑ひはかゝるぞよ 是は又君の勅
諚共覚えませぬ 夫小弐より中悪き大判事殿 何故申合さふ様もなし 私に迄お疑ひ

は恐れながら 云な女め さ程音信不通の中なるに 大判事が?久我之助 そちが娘
雛鳥と 密通致し居るはいかに イヤしるまじと思ふか ?共が縁に繋がれたる汝らなれ
ば 両方共に吟味は遁れぬ 何と肝に答へふがと あく迄邪智の一言に 何思ひけん大
判事席を蹴立て行んとす 透さず定高が刀の鐺むずと取り コレ待給へ清澄殿
屹相かへてコリヤ何国へ 何国へとは 親々が不和成中を存ながら 忍び逢ふ?が不所存 引
捕へて吟味せねば 子供が縁を幸いに和睦せしと云れては 我家の恥辱となる ヲゝそ
りや此方も同じ事 一旦は武士の意地 今更中が直りたい斗に 娘にわざと不義させし


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と 世上の人にさみせられては 過ぎ行給ふ夫へ立たぬ わらはも供にと裾引上 かけ出す二人をはつたと
ねめ 私の趣意に立騒ぐ尾籠やつ 儕らが?の不義をを吟味はせぬ 丸が尋るは釆女が有
家 サア何れからなりと早くいへ 何と/\イヤ?が性根はいさしらず 釆女殿の儀は且て存ぜず
我詞に偽り有らば 弓箭神の御罰を請んと 刀すらりと抜放し 丁々と金打(きんちやう)し 此上にも御
疑ひ有らばいか程の拷問なり共 サア遊ばせとどつかと座す ヲゝわらは迚も小弐が妻 家に
かへて釆女殿は匿はぬ 水責火責に逢迚も しらぬ事は存じませぬと詞するどにいひ放す
ムゝ然らば釆女が詮議は追て 先ず汝らが面晴なれば 匿はぬといふ潔白に 定高は雛鳥を

入内させよ 又大判事も覚なきに相違なくば 久我之助を今日より 朕が目通りへ出勤さ
せよ 屹度其旨心得よと 何がな探る当座の難題 二人は胸にきつくりと 答へも暫しなし
かりしが 良(やゝ)有て詞を揃へ 斯有難き勅諚を 互の子供が違背致さば ヲゝ云にや及ぶと傍(あたり)成
生け置く桜の枝追取得心すれば栄へる花 背くに置いては忽ちに 丸が威勢の嵐に当て 真(まつ)
此通りと?(おばしま)に はつしと打折り落花微塵 はつと斗に親々の 心も共に散乱せり 猶も
ゆるまぬ大音上 ハア/\弥藤治早く参れ 汝は百里照の目鏡(めがね)を以て かぐ山の絶頂
より屹度遠見を仕れ コリヤ/\両人よつく聞け 若し少しでも用捨致さば両家は没収 従


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類迄も絶やするぞ 性根を定め早行けと せき立諚意に親々の 思ひは千々の胸の中
見せぬおもてに忠と義を はり詰し気のたゆみなく 打連れてこそ出て行 誠に秦の
趙高(ちやうこう)が 馬と欺く小男(さを)鹿の 入鹿が威勢ぞ類ひなき かゝる所へ中門より追々欠け入
鎧武者 御注進と呼はつて御白洌(しらす)に頭をさげ 河内の国に武知郡司安彦 先帝
に味方をして大鳥の城に籠りしを 官軍残らずはせ向ひ 敵を攻付一昼夜に落城 大
和に安曇の文次宗秀 当麻の邊に陣を取 南都を攻る其結構 馳向ふて戦ひしに
味方の 官軍利を失ひ 残らず敗北仕ると息つぎ敢ず言上すればハゝゝゝ物数ならぬ逆

徒のやつばら 朕馳向ふて微塵にせんぞよ 彼穆王(ぼくわう)が龍馬(りやうめ)に勝れし希代の名
馬 吉野の牧より狩出したる其馬引けと広庭へ引出させ ?よりひらりと打乗 名
馬の勇み 手綱かいくりしと/\/\ 轡の音はりん/\/\ 綸言誰が背くべき 大地狭しと馬
上の勢ひ 刻む蹄も衢の谺 いそふれ やつと出陣の駒を 早めて「(妹山背山の段)駈り行
古への 神代の昔山跡の 国は都の始めにて 妹背の始め山々の 中を流るゝ吉野川
塵も芥も花の山 実に世に遊ぶ歌人の 言の葉草の遊所 妹山は太宰の小貮
国人の領地にて 川へ見越の下館 背山の方は大判事清澄の領内 子息清舩


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日外(いつぞや)より爰に勘気の山住居 伴ふ物は巣立鳥谺と我と只二つ 経読む鳥の
音も澄みて 心細も哀也 頃は弥生の初めつかた こなたの亭(ちん)には雛鳥の気を慰めの
雛祭り 桃の節句の備へ物 萩のこは飯(いゝ)嬪の 小菊桔梗が配膳の腰も すふわり
春風に柳の 楊枝はし近く ノウ小菊 いつものお雛は御殿でお祭りなさるれど 姫様のお
しつらひで此山岸の仮座敷 谷川を見晴らし桜の見飽き 雛様も一入お気が晴てよからふ
の こちらも追付よい殿様持たら 常住の様に引っついて居たら嬉しかろ フウ桔梗の何云は
やるやら 何ぼ女夫並んで居ても あの様に行儀に畏つて斗居て 手を握る事さへなら

ぬ窮屈な契りはいや 肝心の寝る時は離れ/\゛の箱の中 思ひの絶る間は有まいと
仇口々も雛鳥の 胸にあたりの人目せく つらひ恋路の其中に親と/\は昔より 御中
不和の関と成り逢ふ事もかた原の 結ぼれとけぬ我思ひ恋し床しい清舟様 此山の
あなたにと 聞たを便り母様へ お願ひ申て此仮屋 お顔が見たさの出養生爰迄は来れ共
山と山とが領分の境の川に隔られ 物いひかはす事さへもならぬ我身の儘ならぬ 今
は中々思ひの種 いつそ隔て恋詫る 逢れぬ昔かましぞかしと 切なる思ひかきくどき
歎けば供に嬪共 お道理でござりますほんにひよんな色事で隣同士の紀伊の国 大和


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御領分のせり合で お二人の親御様はすれ/\ 雛鳥様と久我之助様の 妹背の中を引分ける妹背
山 松も筏も御法度て たつた此川一つは渡られそふな物 小菊瀬踏して見やらぬか ヲゝめつ
そふな 此谷川の逆落し 紀列浦へ一てきに流れて往たら鮫の餌食 したが申雛鳥様
お前の病気をお案じなされ 此仮屋へ出養生さしなさつたは よそながら久我之助様に お前を逢
す後室様の粋なお捌き 女夫にして下さりませと 直にお願ひ遊ばしたら よもやいや
とは岩橋の渡る事こそならず共 せめて遠目にお姿をと 障子ぐはらりと
縁端に 覗きこぼるゝ嬪共 久我之助はうつ/\と父の行末身の上を 守らせ給へと

心中に念悲観音の経机案じ入たる顔形 手に取様にノウおれ/\ 机にもたれ
て久我様の 物思はしいお顔持お積かなおこりつらん エゝお傍へ行たい コレ爰に居るはいな
といへど 招けど谷川の 漲る音に紛れてや 聞へぬつらさ エゝしんき こちらか思ふ様に
もない コレこつちや向て見たがよいと あせるお傍に気の付/\ほんに夫よ 口でいはれぬ
心のたけ 兼て認め奥山の鹿の巻筆封じ文 恋し小石にくゝり添 女の念の通せよと
祈願をこめて打礫 からりと川に落瀧津波にせかれて流れ行 エゝどんな心の念は
届いても 女力の届かねば思ふた斗片便り 返事を松浦佐用姫の 石に成り共成たいと


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ひれ伏山のかひもなき 久我の助川に目を付 何国よりか水中に打たる
石は重けれど 逆巻く水の勢ひに沈みもやらず流るゝは 重き君も入鹿といふ
逆臣の水の勢ひには 敵対がたき時代の習ひ 夫を知て暫しの中 敵に従ふ父
大判事殿の心 善か悪かを三つ柏 水に沈めば願ひ叶はず浮む時は願成就 吉野
を仮の御禊川大神宮へ朝拝せんと 柏の若葉摘取て 谷を伝ひに水の面 見やる
女中が申/\今の小石が届いたか 久我様が川へ下りなさるゝあの岩角のおり曲りか 川
端かいつち狭ひ 幸のよい逢瀬と いふに嬉しさ雛鳥の飛立斗振袖も 裾もほら

/\坂道を折から風に散る花の 桜が中の立姿しどけ難所も厭ひなく ノウ久我
様かなつかしやと いふに思はず清舟も 雛鳥無事でと顔と顔 見合す斗遠間
の 心斗が抱き合詮方涙先立り 申清舩様 わしやお前に逢たさに病気
といひ立爰迄は来て居れど 親の赦さぬ中垣に忍んで通ふ事叶はず 女雛男
雛も年に一度は七夕の 逢瀬は有に此様に お顔見ながら添事のならぬは何の
報ひぞや 妹背の山の中を隔て川吉野の川に鵲の 橋はないかとくどき言
聞く清舟も楫(かち)有は早渡りたき床しさを 胸に包みて 道理/\ 我も心は飛立ど


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此川の法度厳しきは親々の不和斗でない 今入鹿世を取て君臣上下心/\
隣国近辺といへ共親しみ有ば徒党の企て有んかと 互に通路を禁しめて船をとめ
たる此川は 領分を分る関所も同然 命だに有ならば又逢事も有へきぞ 今流し
たる水の柏 波にもまれて浮しは心の願ひ叶ふしらせ 入鹿が掟厳しければ我も世上を
憚りて 此山奥の隠住心の儘に鶯の 声は聞共籠鳥(ろうてう)の雲井を慕ふ身の上
を 思ひやられよ雛鳥と 儘ならぬ世を恨泣 ノウ又逢ふ事も有ふとは 別るゝ時の捨
詞 譬未来のとゝ様に御勘当受る共 わしやお前の女房じや 迚も叶はぬ浮世

なら法度を破つて此川の 早瀬の波も厭ふまじ 何国いか成る方へなと連れて退いて
下さんせ わたしはそこへ行ますと 既に飛込む川岸に周障(あはて)驚きとゞむる嬪
イヤ/\放しやと泣入る娘 ヤレ短慮也雛鳥 山川の此早瀬 水練を得たる
者だに渉り難き此難所 忽ち命を失ふのみか母後室に歎きをかけ 我に
も弥憎しみかゝる 科に科を重ねる道理必ず早まり召されなと 制する詞一すじに
思ひ詰たる女気も今更よはる折こそ有れ 大判事清澄様御入也としらする声
はつと驚き久我之助帰るを名残 押とむるも 我身を我身の儘ならず コレ


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のふ待ての声斗 後室様御出と告ぐる下部に詮方も なく/\庵の打萎れ
登る坂さへ別れ路は 力難所を行く心地空に しられぬ花曇り 花を歩めど
武士(ものゝふ)の険阻刀して 削るがごとき物思ひ 思ひ逢瀬の中を裂く 川辺
伝ひに大判事清澄 こなたの岸より太宰の後室 定高にそれを
道分けの石と意地とを向ひ合ふ 川を隔てゝ 大判事様 お役目御苦労に存じ
ますと 声裲をかい取りの夫(つま)の魂 放さぬ式礼 清澄も一揖し 早かりし定
高殿 御前を下がるも一時参る所も一つなれ共 背山は身が領分 妹山は其元の御

支配 川向ひの喧嘩とやら睨み合て日を送る此年月 心解けるか解けぬ
かはけふの役目の落去次第 二つ一つの勅命 狼狽た捌きめさるなと?(ましり)くしやつく
茨道 脇へかいして仰の通り 入鹿様の御諚意は お互に子供の身の上受け
合ふては帰りながら 身腹は分けても心は別々 若しあつと申さぬ時は マアお前
にはどふせふと思し召す 知れた事 御前で承つた通り 首討放すぶんの事さ
不所存な?は有て益なくなふて事かけず 身の中の腐りは殺(そい)で捨るが跡
の養生 畢竟親の子のと名を付けるは人間の私 天地から見る時は同じ世界に


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涌いた虫 別に不便とは存じ申さぬ ハテきつい思し切 私は又いかふ了簡が違ひます
女子の未練な心からは 我子が可愛て成ませぬ 其かはりにお前のお子息様の事は
真実何共存じませぬ 只大切なはこちの娘 忝い入鹿様のお声のかゝつた身の幸い 譬
どふ申さふ共 母が勧めて入内させ お后様と多くの人に 敬ひ傅かそふと思へば此様な
嬉しい事はござりませぬ ホゝゝゝと空笑ひ ムゝシテ又得心せぬ時は ハテそりや
もふ是非に及ばぬ 枝ぶり悪い桜木は 切て接木を致さねば 太宰の家が立
ませぬ ヲゝそふなくては叶ふまい 此方の?迚も得心すれば身の出世 栄華

を咲かす此一枝 川へ流すが知らせの返答 盛りながらに流るゝは吉左右 花を散らして枝
斗流るゝならば ?が絶命と思はれよ いかにも 此方も此一枝 娘の命生け花
を 散らさぬ様に致しませふ ヲゝサ今一時が互の瀬ごし 此国境は生死の境 返
答の善悪に寄て 遺恨に遺恨を重るか サア是迄の意趣を流して
吉野川と落合ふか 先ず夫迄は双方の領分 お捌きを待ておりますと 詞
峙(そばだ)つ親と親 山と大和路分れても 替らぬ紀の路恩愛の 胸は霞に埋づも
れし庵りの「内に別れ入る 立派にいひは放しても定かに知らぬ子の心 覚束


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なくも 呼子鳥 娘々と谷の戸に 音なふ初音雛鳥も 母の機嫌をさし足に
嬶様よふぞ 今日はお目出たふ存じますと 武家の行儀の三つ指に かたい程猶親
子のしたしみ ヲゝよふ飾りが出来ました 今日はそなたの顔持もよさそふで 一入めで
たい 母も祝ふて献上の此花 備へてたも いくつに成ても雛祭りは嬉しい物 女子共何
なりと娘が気に合遊びをして 随分と勇めてくれと いつに勝れし後室の機嫌は
訴訟のよい出しほ 今のをちやつと乗出して 御らうじませと嬪に 腰押されても兎や
角と いひそゝくれのもつれ髪 イヤのふ雛鳥 背たけ延た娘を 親の傍に引付けて

置くは結句病の種 夫レで急に思案を極め そなたによい殿御を持す 嫁入さすが嬉しいか エ
ハテ気遣ひしやんな 可愛娘の一生を任す夫 そなたの気に入らぬ男を 何の母が持たさふぞ ナア
嬪共 ハイ/\ 左様でござります お気の通つた後室様 嫁入も先は大かた今のナこがるゝ君てご
ざりませふと 押し推当てども得手勝手 誰にか縁を組紐に 胸は真紅のふさがる箱取出し
妹背をならぶる雛の日は嫁入の吉日 此箱の主は極る殿御 雛の御膳で夫定め コレそ
なたの夫といふは誰有ふ 入鹿大臣様じやわいの エゝそんならわたしを嫁入さすとは ヲゝ太宰の
小貮が娘雛鳥 美人の聞へ叡聞に達し 入内させよと有難い勅諚 エゝい はつと恟り


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うろ/\と詞は涙ぐむ斗 ヲゝ肝が潰れる筈 夫と申すも恐れ多い 一天の君を聟に取る家の
面目 日本国に此上のない嫁入の随一 果報な娘 此様な目出たい事が有る物か ナア女子共
ハイ/\お目出たいと申そふか いつそ乱騒ぎでござりますと工合違ひの嫁入に 菊も桔梗も
投げ首の 二人は小腹立て行 母の心も色々に 咲分けの枝差出し 親の赦さぬ云かはし徒らは??つ
て返らず 一旦思ひ初めた男 いつ迄も立て通すが女の操 破りやとは云はぬが 貞女の立て様か有り
そふな物 とつくりとよふ思案しや 此花は八重一重 互に不和なる親々の 心揃はぬ二つの花
一つ枝に取結び 切放すに離されぬ悪縁の仇花 今そなたの心次第で 当時入鹿大臣

の深山嵐に吹ちぎれ 久我之助は腹切ねばならぬぞや 雛鳥と縁を切て入鹿様へ
降参すれば 清舩も命を助る しらせは川へ流す桜 ちるか散ぬか身の納り 時に従ふ
風に靡き 君が手生けの花になれば 八重も一重も恙なふ 九重の内に傅かるゝ互
の幸 恋しと思ふ久我之助 助けふと殺さふと今の返事のたつた一つ 貞女の立様サア/\見たい
と 恋も情も弁へて 義理の柵せきとめても涙せき上/\ながら母様段々聞訳まし
た お詞は背きませぬ そんなら得心して入内してたもるか アイ/\ ヲゝ嬉しや 出かしやつた/\
夫でこそ息女なれ 馴ぬ雲井の宮仕へ 武家の娘と笑はれな けふより内裏上


63
臈の 髪も改めすべらかし 祝ふて母が結直してやりましよと いそ/\立は立ながら娘の
心や思ひやり 別れの櫛のはかなさも 解きほどかれぬ浮思ひ 重き背山の庵の
内 父が前に慎で 久我之助が心底聞し召分けられ 切腹御赦免下さるゝ事 身に取
ていか斗大慶至極と手をつけば 黙然たる大判事良打痺(うる)む目を開き 今朝入
鹿大臣此大判事を召出し 先帝寵愛の釆女 身を投げ死たりとは偽り 其方が
伜久我之助 人知ぬ方へ落しやりしに極れば 必定汝らが方に匿有べしとの難題
元来知ぬ大判事よく/\思へば釆女の御難をさけん為 猿沢の池に入水の体に

もてなして 密に落し参らせは 中々久我之助が智恵でない 鎌足公の差図を受て
の計ひと 知たは身も及ぶが始め 親にも隠し包みしは大事を残さぬ心の金打(きんてう)若輩
者には神妙の仕かた ハゝア出かしたりと思ふに付け邪智深き入鹿 久我之助が降参せ
ば命を助ん連れ来れと 情の詞は釣寄て拷問にかけん謀 責殺さるゝ苦しみより切腹
さすれは 釆女の詮義の根を断つ大功天下の主の御為には 何伜の一人など 葎(むぐら)に生る
草一本引ぬくよりも些細な事と 涙一滴こぼさぬは武士の表 子の可愛(かはゆふ)ない
者が凡そ生有者に有ふか 余り健気な子に恥て親が介錯してくれる 侍の


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綺羅を錺り いかめしく横たへし大小 倅が首を切刀とは五十年来知ざりしと 老の悔
に清舩も 親の慈悲心有難涙 命二つ有ならば君には死して忠義を立て 父には生て
養育の御恩を送り申さんに 今生の残念是一つと 顔を見上げ見おろしてわつとひれ
伏す親子の誠 こなtがの亭には母後室 サア/\目出たい そなたの名の雛鳥
を 其儘の内裏雛 装束の付け様も此女雛と見合せて サア/\早ふと有ければ
恨めしげに打守り 女夫一対いつ迄も添遂るこそ雛の徳 思ふお人に引離され
何楽しみの女御后 茨の絹の十二一重 雛の姿も恨めしと 取て打付け椽板に ころりと

落し女雛の首 驚く母の胸板に必死と極る 娘の命包めどせきくるはら/\
涙 娘入内さすといふたは偽り 真此様に首切て渡すのじやはいのふ エゝそんならほん/\゛に負(を)
女を立てさせて下さりなすか アゝ忝い有難いと 伏拝む手を取て ノウ入内せずに死るの
を 夫程に嬉しがる 娘の心しらいでならふか あつと受ても自害して 死る覚悟は知ながら
そなたの死る事聞たら 思ひ合た久我之助 供に自害召れふも知れぬ せめて一人は助
たさ 一旦得心したにして 母が手つからといた髪は下げ髪じやない 成敗のかき上髪 介錯
の支度しやはいの 尊いも卑(ひく)いも姫ごぜの 夫といふはたつた一人 穢らはしい玉の輿は何の母


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も嬉しかろ 祝言こそせね心斗は久我之助が 宿の妻と思ふて死にや エゝ是程に思ふ
中 一日半時添しもせず さいの河原へやるかいのと 引寄/\雛鳥も膝に取付き抱付き 忝さ
と嬉しさと逢て別るゝ名残の涙 一つ落る三つ瀬川 川を隔てて清舩が 最
期の観念悪びれず 焼き刃直なる魂の九寸五分取直し 腹にぐつと突立る ヤレ暫く
引廻すな 覚悟の切腹せく事はない コリヤ冥途の血脈読さしの無量品 親
が読誦する間 一生の名残女が頬(つら)一目見てなぜ死なぬ イゝヤ存じも寄ず此期
に及んで左程狼狽た未練な性根はござりませぬ 去ながら 今はの際の御願ひ

私相果しと聞かば 義理に繋れ雛鳥も 供に生害と申べし 左有る時は太宰
の家も断絶 暫の間ながら切腹の義はお隠しなされ降参承知致せし体
に 後室方へお知せ有ば 女も得心仕り 入内致せば渠諸(かれが)為 不義の汚名
は受たれ共 是ぞ色に迷はぬ潔白 ヲゝ出かした能気が付た 年来(ねんごろ)立てぬ武士の
意地 不和な中程義理深し 命を捨るは天下の為 助るは又家の為 気づかひ
せずと最期を清ふ 花は三吉野侍の手本になれと潔くいへど心の乱れ咲き
あたら桜の若者をちらす惜さと不便さと 小枝にそゝぐ血の涙落て 波間に


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流れ行 夫共知ず悦ぶ雛鳥 アレ/\花が流るゝは嬉しや久我之助様のお身に恙
のないしるし 私は冥途へ参じます 千年も万年も御無事で長生遊ばして
未来で添ふて下さんせと心でいふが暇乞 思ひ置事云置事もふ何にも
ござんせぬ 片時も早ふサアかゝ様切て/\と身を惜まぬ 我子の覚悟に励
され 胸を定めて取上れど 刀は鞘に錆付ことく 離れ兼たる血筋の紲 今切
殺す雛鳥を 無事としらする返事の桜 同じく川に浮ふれば ハアゝ嬉しや
是ぞ雛鳥か入内のしらせ 久我之助が心の安堵 釆女の方の御有家は 最

前申上る通り 此世に心残りなし 御苦労ながら御介錯 サア/\嬶様切てい
の 未練にござんす母様と泣かぬ顔するいぢらしさ 刀持つ手も大盤石 思ひ
は同じ大判事 子よりも親の四苦八苦 命もちり/\゛ 日もちり/\
ハアそふじや 早西に入日輪は娘がお迎ひ 弥陀の来迎西方浄土
導き給へ 南無阿弥陀仏と眼を閉て 思ひ切たる首諸共わつと泣声答ゆる
谺 肝に徹して大判事 刀からりと落たる障子 ヤア雛鳥がくび打たか
久我殿は腹切てか ハアしなしたりと どうど座し 悔みも泣も一時に呆


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て詞もなかりしが 良有て定高声を上げ 入鹿大臣へ差上る雛鳥
が首 御検使受取下されと 呼はる声を吹送る 風の案内に大判事
歎きの 姿改めて 衣紋繕ひしづ/\とおり立つ 川辺の柳腰 娘の首
をかき抱き 大判事様 わけては何にも申ませぬ 御子息の御命はどふぞと思ふた
甲斐もない あへない有様 お前様のお心も推量致して居まする 添に添れぬ
悪縁を 思ひ合たが互の因果 此方の娘も添たい/\と思ひ死に余り不便
に存ます せめて久我之助殿の息有る中に 此首を其方へお渡し申すが 娘を

嫁入さす心 実に尤も 嫁は大和聟は紀伊国 妹背が山の
中に落る 吉野の川の水盃桜のはやしの大嶋臺 目出
たふ祝言させふわい そんなら是迄の心もとけて 互に
婭同士 エゝ忝いと悦ぶも跡の祭り ほんに背たけ延た者を いつ迄
も子供のやうに思ふて暮すは親のならひ あまやかした雛の道具
一人子を殺して何にせふ 跡に置く程涙の種 嬪共其一式 残らず川へ
流れ灌頂 未来へ送る嫁入道具行器長持犬張子 小袖


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箪笥の幾棹も 命ながらへ居るならば一世一度の送り物 五町
七丁続く程 美々敷せんと楽しみに 思ふた事は引かへて 水に成
たる水葬礼 大名の子の嫁入に 乗物さへも中々に 紀念
も仇の爪琴に 首取乗する弘誓(くぜい)の舩 あなたの岸より
彼岸に流るゝ 血汐清舩が 今般(わ)の顔ばせ見る親の 口
祝言心の称名 千秋萬歳の千箱の玉の緒も切れて 今は
あへなき此死骸 生きて居る中此やうに 聟よ嫁よと云ならば いか斗

悦ばんに 領分の遺恨より 意地に意地を立通す 其上重る
入鹿の疑ひ中直るにも直られぬ 義理に成たが二人が不運 あれ程
思ひ詰た嫁 何の入鹿に随はふ迚も死ねばならぬ子供 一時に殺したは
未来で早ふ添してやりたさ いひ合さねど後室にも 是迄不和な
大判事を 婭と思し召ばこど 伜に立てて一人の娘 ヲゝよくこそお手にかけ
られし 過分に存る定高殿 アゝ勿体ない 其お礼はあちらこちら
ふつゝかな娘故 大事のお子を御切腹 器量筋目も勝れた殿御


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夫に持た果報者 とはいひながら あれ程迄手しほにかけて育てた子を
又手にかけて切心 サゝゝ推量致しておる 武士の覚悟は常ながら まさか
の時は取乱し 介錯仕遅れ面目ない いえ/\それで目出たい此祝
言 是がほんの葬よ嫁入 一代一度の祝言に 聟殿の無紋の上下
首がかりの嫁御寮に 対面せふとはしらなんだ それも子供
が遁れぬ寿命 兎にも角にも世の中の子といふ文字に
死の声の 有も定まる宿業と 隔つる心親々の積る思ひ

の山々は とけて流れて吉野川いとゞ 漲るばかり也
涙はらふて大判事首かき上て声高く 伜清舩承はれ 人間
最期の一念によつて輪廻の生を引とかや 忠義に死する
汝が魂魄 君父の影に付添て 朝敵退治の勝軍を草
葉のかげより見物せよ 今雛鳥と改めて親がゆるして
沈未来 五百生迄かはらぬ夫婦 忠臣貞女のみさほを立
死たるものと高声(かうしやう)に 閻魔の廰を名乗て通れなむ


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成仏得脱と 唱ふる声の聞へてや物得いはねど合す
手を 合せ兼たる此世の別れ 早日も暮て人影も 見へ
ず庵りの霧隠れ うづむ娘の亡骸はこなたの山
にとゞまれど 首は背山に検使の役目 我子
介錯涙の雛 よしや世の中憂事は いつかたへまの
大和路や 跡に妹山 先だつ背山 恩愛義理を
せき下す 涙の川瀬 三吉野の花を 見捨てて 出て行

 


    
妹山背山 

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