仮想空間

趣味の変体仮名

薩摩歌妓鑑 第一

 

 

 読んだ本 https://www.waseda.jp/enpaku/db/

      ニ10-02059


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  おまん源五兵衛
  さゝの三五兵衛 薩摩歌妓鑑
 第壱芍薬の段
難波津に咲や此花冬籠り 今を春べと芍薬
盛を見する植木屋の 花壇の花も動きなき 御代を祝する
印かや 播磨の国の一城主尾上式部太夫 其身は俄の
所労により 名代として子息同苗桂之助例年の古礼に任せ
琉球人耒聘の馳走の役義承り 家臣薩摩源五


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兵衛関口三五兵衛 正使副使へ挨拶のちんぶんかんの請答へ
通詞を以てそれ/\に分るも賢き君が代の国の いとくぞあり
がたき通事の役人青木兵内 若殿の前に罷出 今日は唐使(たうし)馳走
の為例年のごとく 竹田がからくり見物致させ 直に江戸表御出逹の
送り舟 船場に用意仕る 是によつて唐使達へは此所の芍薬
物の後牡丹屋に??馳走の御料理申付置ましたれば あれへ誘引
仕りたし 若殿様には其間暫く是にて休足と いんぎんに伺ふにぞ 桂之

助打頷き 成程/\汝が申通り 唐使馳走はそちに任する 必ず麁抹のない
様に 心を付けてもてなせと 顔も心も柔和の詞 はつと領掌青木兵内 両使
の前に打向ひ ちん/\すん ふんちやるめいたか くはこらいひいつうしやみしやほん にや
らいすふと手をつけば 正使岐治満(ぎやまん)威儀を改め ぢやぼすてろんぴんきやる
るいた かぶさ/\きやァにそてぶぎやァ いんろりまるめろきんなんちやァと頭をさ
ぐれば 田連岐万(でれんぎまん)も同じく頭(づ)をさげ りんぷんちやんたからくめいしう ぼつすうちう
すふきびやらこん きやら/\さいきやくてんちうらい ほんすうりんろやしやく/\てんと


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何をいふやら唐人の 寝言を聞取る青木兵内 若殿の前に出 只今の様子唐使へ
申聞せし所 殊の外の悦びにて りやぼっすてろんびんきやるろいたかと申すは 段々のお
心づかひ忝しと申す義 又ぶた/\ぎやァにすてぶたぎやァ いんろりまるめろきんな
ちやァ きやら/\さいきやらてんちうらいと申たは 我国にて聞及びしよりは 扨々面
白き竹田がからくり 此上もなき能慰め 私より宜しう御礼申上れと申す義でござりま
すと 聞て若殿打笑ひ とかふ内時うつる早々あれへ同道せよ 身共は是に
て此花を 此花を見てなぐさまん ナ合点か兵内と 何かはしらずめまぜと仕形を

呑込兵内 いざ先あれへと源五三五が案内に 唐使の面々床几をおり めい/\殿に
目礼し 袖かき合す唐織や 芍薬畠の隣なる 牡丹屋さして歩行く 跡には若殿只
一人 花壇の床几に腰打かけ 花の盛も目に付かず 人待つ身にはたばこぼん 引寄せなが
らさし覗き きせつぐはた/\がん首も 鷺の首見るたいくつ顔の折からに 唐の若衆と 夕
化粧髪異国の角わげや 花のかんざしたをやかに 桂之助が傍近く立寄ば取て突
のけ ヤイ性悪め おれ一人を待たせて置て なぜとうから出てこなんだ 唐人めが傍が離れと
むないな そしてさつきにも見ていれば 花壇の花は見もしおらいで 毛唐人めがあの大きな


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鼻ばかり見てけつかる おのれ夫程鼻が好きなら 其鼻柱へ此天狗の鼻をくはそふと
腕ふり上ればコレ殿様(さん)兵内様のしらせはたつた今 又無理いふていぢるのか わしが心をしらぬか
なんぞの様に 口舌いふたり無理いふのが お前の気では面白いか そふしたあさいお心を頼に思ふ
て海山をこへてきた身が便りない 神仏にもかへまいと思ふ男を浅はかな 唐人づれに見
かえふか 無理をいはずと機嫌よふ お笑ひ顔を見せていの やいの/\も目にもるゝ涙ぞ
恋の誠也 桂之助も誤り顔 サアわしもてつきりそんな事で有ふと思ふていた イヤ太夫
久しう乳に対面せぬ エゝ唐人の形(なり)はきうくつで 急な間には合そむないと よれつもつ

れつ唐猫の 蝶にそばゆるごとくにてたはいやくたいなき折から 申若殿 桂之助様と 呼
れて恟り ヤイ源五兵衛三五兵衛 いつの間にめつそふうなと うろ/\もぢ/\ましぬ顔 源五
兵衛はにが/\敷 是は又日本の者でも有る事か 唐人の若衆を捕へじやらりくらり 両使
の思はく近頃ふ行儀千万と 目に角立れば ハゝゝこりやおかしい あれを唐人の若衆とは ハゝゝ
こりやたまらぬと高笑ひに 三五兵衛も立寄て イヤ申若殿 唐人の若衆と 若衆じや
と申た源五兵衛 夫を何で其様にお笑ひなさるゝ イヤモわれ迄が其様に しかつべらし
ういふがおかしい そんなら唐人の若衆と見へるか コリヤ皆がふしんばらしに 若衆の由来咄して


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聞そふ ちかふ/\ コレ唐人の若衆 隠れる事も恥しい事もない 爰へおじやいの 是はそち達
に咄して置た 江戸の太夫小紫じやはやいと いへば太夫も顔赤らめ マアあられもない恥しい
わたしが形と袖覆へば 二人も恟り スリヤ是が 江戸表にておなじみなされし 太夫殿か小
紫殿か サレバイヤイ 今年は琉球人来朝故 例年のごとく親共が同道する筈なれ共
病中故おれ一人が上り下り 太夫も付ていかふといへ共 付け家老の結城大学が付廻つ
て邪魔に成 是虫を一日先へ立たせ太夫を連て道中の楽しみ 国へ戻る事は戻つて
も 又気の毒は琉球人 同道の道すがら はでな太夫と一所にも下られず アゝどふしたら

よからふと 思案の底をふるひ出し 唐使達に呑込せ唐人の若衆出立 其上にまだ難
義は江戸の親方が 身受の金を受とらねば手放さぬ太夫故 時の用には鼻の格で
彼預りの外龍の兜 見受の金のかはりに親方へ預てきあ なんと思案も有物かと 跡
先構はぬ智恵咄 遉育ちは大名の 懐子とぞしられたり 源五兵衛は眉に皺寄せ
一々御咄承はつて驚き入外の事は格別 外龍の兜は天下の重宝 此兜の義は往昔(そのかみ)
異国退治の時 宝の徳によつて 日本の勝軍と成其吉例に任せ 尾上の
家に預り奉り 異国の使い来る時は日本の威をてらす為 関東にて是を錺る


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古例 預り奉る尾上の家の規模 其重宝を傾城狂ひの揚代なぞとはナフ三五
兵衛 いかにも/\ 我々が耳に入しは畢竟内証 若し大学なぞへ聞へてはお家の大事 アゝモ
仰山な そふじやによつてそち達に頼で置た身受の跡金六百両 おこしてさへくれゝば 兜
は何時でも戻るといふ物 随分早ふ頼むぞと いへば太夫も立寄て 又しても/\お二人
様のいかいお世話 此上ながら宜しう頼上まする なんの/\ 其義はちつ共気づかひ有なといふ
折から 早出舩の刻限と唐使を伴ひ青木兵内 若殿の前に手をつかへ もはや御乗
舩の時刻過れば早々御立なさるべしと しらする詞に打點き 皆一同に立上れば 唐使の

両人に腰をかゞめ 桂之助に目礼し打連れ舟場へ急ぎ行 跡へ来るはおなご連所目馴ぬ品
形 大振袖と詰袖と なりはかはれどかはらぬは 髪の結ぶり歩行(あるき)ぶり 芸子のおまん
笹野とて播磨の室で早咲の 桜か梅の名も高き難波に運ぶ足引も 恋
の種まく植木屋の 花壇の庭に立やすらふ 跡よりたいこの伊勢八が 中居二人を伴ふ
て 扨も早いお二人様 此跡の樋の上で さんしよ魚とやらのかげ干を 薬屋が売ておりまし
たを 此千代やおいわが見て 宮守(いもり)の黒焼かと思ふて 惚薬にする買てくれと せがむ故
の隙入何ときつい色事に こつた物ではござりませぬかと いへば中居が口揃へ 又伊勢八


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様の悪口か どこにわしらがそんな事 うそばつかりと云訳を 聞ておまんも打わらひ ほん
に大坂といふ所は 物見だけい所じやと聞たが咄に違はぬ 賑やかな所じやないかいなさゝ
の様 ソレイナ 何じややらわしらを見て しやじやそふなといふたが ありやマア何の事じやいな
コリヤ御存ないは御尤 又物見猛(だけい)斗じやござりませぬ 第一物知が多て 何でも評判
致します 此頃も難波色八卦とやらいふ本が出ましたが 此大坂の色町 すみから隅迄
紋所での位定め 其外かぶき役者は申に及ばず 浄るり太夫 濱芝居の子供まで
それ/\の見立評判 まだ出ぬ者が芸子様方と 中居衆の評判 是も追付でき

るでござりませふ イヤこんな事いふている間に 源五様三五様のお迎に 舟場迄参り
ませふ 千代子(す)黒子(す)サアお出 何でも今夜はとんだやで いもだこ汁で呑かけふと 中居伴
ひいせ八は しやべりちらして出て行 おまんさゝのは跡見送り 源様や三五様の見へる迄
奥の花なと見てこふと せことなしの花壇の庭 花物いはねど芍薬も 風につつ
むく折からに 立帰る二人連 源五兵衛がくつたく顔 跡に三五が物怪顔 コレ源五 道々
もいふ通りに 身受の金才覚どふせうとしやるぞ ハテどふといふたら一先ず国へ下り かけや
方へ申付るぶんの事 去ながら 若殿のお名は出されまい 身受のさたは猶ならず お身と


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我とがぬつぺりこつぺり サアそこが相談づく 我とても其通り 折悪い今道でたいこの伊
勢八 中居共がおだてかけるつらにくさ マアそこへいね 追付そこへ帰ると間に合せ事
は合せたが おまんさゝのがきているとは合点行ず 但貴様が迎にこいなどゝ約束でも
しておいたか 三五兵衛嗜め お身が約束して置きつろ 是はめいわくみぢんも覚は ないなら
ばまお次手に 頼まれた身受の金 あいら二人へは猶 さたなし/\と 點く二人立聞く二
人 顔は悋気の芍薬畠踏ちらし ヲゝさたなしにせずば成まい ヤアおまんか さゝのか
今の聞ていたか何じや 聞たかとはぬけ/\と 身受の相談皆聞た わしらを退けて

誰を身受夫聞ふ エゝよい機嫌な悋気所か 常とは違ふ ちつと気がもめて有る まあ
そつちへのいてくれ ヲゝ退きたかろうるさかろ 大坂の色様達になじんで こちらが顔はいやな
筈 いやでもおふでも付まとふ 四つの角をふり立られ 是はめいわく さふではないかいの さり
とは疑ひの深い イゝヤ深いはそつちの色 楽しましやんした移りがの 此下着の袖口は大
方女ゴの肌着であろ あたいやらしい笹野様 引さかしやんせやぶれかぶれ 肩衣袷もむ
しやくしや腹 ぬがす下着の二つ紋 お前の轡に抱牡丹はわしが紋 やつぱり着て居さ
しやんすか おまん様 笹野が紋の笹りんどうに主の定紋四つ目結ひ 今に放さぬお心な


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ればおふたりながら 何の心が替らふぞ アゝ嬉しや落付たと 俄にいき/\笹野の露ぬれて
互に抱牡丹 もんたいもなき風情なり 源五三五はふしん顔 合点行ぬはそち達が 思ひも
寄らぬ大坂登 さればいな おまん様も此笹野も くる気ではなかつたを大事ないと 伴之進様が
むりやりに ナニ判之進が シテ其判之進はいづくにと 噂半ばへ よいや/\ さつま関口の御両人をちくとん
斗ほめ申そふ さつま関口とかたい苗字を和らげて おまん源五兵衛 笹野三五兵衛と今
室中で専らもてなす色事し 関は則恋の関 人めの関を忍びつゝ 此大坂の関迄も付いて
きたのは心中者 何と頭段(づだ)八そふではないか ない/\ 成程左様でごはります おらは何にもしら

ないが さつまと有れば芋の名物くさりあふたるお二人の 其くさりと客の目をぬいて あんどのかげ
でころ/\/\つい転び寝に子芋迄 かけ合せたる恋中の小いさいかとて太股を ふつつりつ
める手がはづれ 握つた所がぬく/\ほつこり/\むまい事だとホゝうやまつて申すでごはりま
す 是は又判之進殿の悪じやれお赦し/\ イヤ赦す事も何にもない 二人共に悦べ/\ 室の
親方に逢て おまんさゝのが身受の相談 六百両に極て何時でも金さへ渡せば つい
済むよふにしてきたと いふに供々おまんさゝの 何かはいかい判之進様のお世話 ちやつとお礼を/\
と すゝめられてもすゝまぬ両人 夫は近頃忝いが 六百両といふ金 何としても思ひも寄らず


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と いふを云せずコリヤそこらをむかつてよい物かい 千両や二千両の金は 若殿の放埓に 云くろ
めてもつい済む事 そこで此判之進が 此所の掛屋 西国や八右衛門が所へいて金も才覚 かう
世話する此判之進 元はさゝのに惚ていたれど 三五兵衛に心中立ぬく心いき 夫に恥てさゝのが
事ふつつりと 思ひ切た其証拠に身受の世話 又おまんも 源五兵衛と子迄なした中 どふ
ぞ二人ながら 女夫にせうと思ふて はる/\゛と大坂登 イヤかふいふてもふしん晴まい 其金是へと
呼出す手代が革財布 二人が前にすつしりと直し置き 何ときついか 此金さへ親方へ渡せば
誰が点の打人はない 天下晴て女房にせいと 思ひがけなき小判の山吹 いかな牡丹も芍薬

恥らふ色は真赤な顔に似合ぬ実事は 底気味悪く見へにけり 源五三五は顔見合せ心で悦ぶ
金の入用 若殿の御用に立る是幸と 伴之進に打向ひ 是は/\重々の御懇志近頃以て忝し
三五兵衛もお礼申しやれ 何の/\例には及ばぬ 得心なれば我等も嬉しい 是は其金の借手形
此証文に判仕やれと いふに三五が手に取上 ムゝ借用の金は六百両 此証文の表は金子千両 四百
両の金子の違ひ イヤ其訳は頭段八めが申上ませう 主人伴之進がお前様方の世話致すも 畢
竟が盗人の昼寝宛の有る四百両 くるめに借ッて貰たさ故と申主人めも ちくとん斗の色
事で 遣ひ過した故の義でごはりまらすでごはります 成程汝が申通 面目ないが恋は曲者 不


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肖ながら頼入る 何が扨/\ 其御遠慮は却て迷惑 さらば印形仕らふと 両人印判取出せば 掛屋
の手代が指し寄て 畢竟是には及ばね共親方が念の為と めい/\其名の下にしつかと印形済めば
伴之進はしすまし顔 是でさらりと埒明た 此悦びにわつさりと 冨市(とんいち)へいて祝言の盃 サア/\いきやれと
すゝむれば イヤ/\我々両人は今少し用事有れば跡より追付 そんなら必ず待ている 違ひはないかへ三五兵衛
様 源五様もとおまんがめづかひ サア/\/\とせり立る 伴之進に誘はれ別れて こそは出て行 跡見送り
て源五兵衛 ナニ三五兵衛 家来を呼びやれと懐中より やたて取出してつ取早く 状認(したゝ)むれば三五
べえ 若党参れと呼出し 様子一々云含る 後ろの亭(ちん)に最前より誰共しらず顔隠し 始終の様子に

目も放さず 一々窺ひ見る共しらず コリヤ此金と書状と共に 若殿のお舟にぼつ付き金子を直に
お渡し申せ 受取の御返還は直ぐに国へ持ち帰れ 大事の使じや心得たか 急げ/\といふ内に 亭にも
同じく家来を呼出し 何やら私語(さゝやき)點き合 是も急げを仕形で教へ 両方一度に家来共 道
は一筋善と悪別れて こそは 「行く空も 早黄昏の時も過ぎ川の水音松吹く風 人音とては
源八の 堤伝ひを旅乗物 供の奴が提燈も 主の威光を先に立て川辺にこそは歩くる 向ふ
の方よりいきせきと 走り付たる侍卒 尓ながら其お乗物 結城大学様ではござりませぬか
と 尋る内より乗物立させ さも悠々と結城大学 夫レといはねど家老職 姿に勿体


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顕はれたり ムゝそちは江戸に残いた 岩淵捨蔵ではないか ヤレ待兼た近ふ /\の詞に捨蔵指寄て 仰
付られし通り江戸表において 吉原の揚屋が方へ忍び込み シイ 高い/\ コリヤこりやしやない家来共
此者に用事有る間 暫の内爰を遠ざけよと 提燈取て松に打かけ コリヤ此火の消ゆるを相図に
是へ参れ いけ/\ シテ/\どふじや ハアお悦びなされ 念なふ外龍の兜を奪ひ取 此ごとく商人(あきんど)
荷に仕り 漸今日ヲゝよし/\ ドリヤ其兜是へ/\ はつと答て荷箱より 外龍の兜取出せば手
に取上 ホゝウいかにも外龍の兜に違ひない 天晴の手柄大義/\と悦ぶ所へ太平次が 息もすた
/\かけ来り ハア大学様是にお渡り お差図に任せ 宮兵衛が家来めにぼつ付きなんの苦もな

く打放し 金子を奪取立帰り候と 息つぎあへず語るにぞ 大学ほゝえみ ヲゝでかした/\ こりや
太平次 そちも兼てしる通り 外龍の兜は手に入たそな者にほうびをくれよ コリヤ ナナ 合点かと
仕形を夫と呑込む太平治 ハア承はるといふより早く抜打て 肩先ずつぱと切付くれば 思ひ
がけなき捨蔵が眉間の初太刀に目くるめき よつばふ所をおこしも立ずとゝめの 刀むさんやぐつ
共岩淵が 此世の縁は切果たり ヲゝ仕課(しおふ)せたな 其死骸を はつといふ間も荒川が 後ろげさ
に切さげられ 仏倒しにのた打つ太平治 咽ぶへぐつと 大地へ芋ざし 片手でえぐる 目配り気配り
しすまし顔に刀を鞘 兜も金も乗物の戸をぴつしやりとしめくゝり 一人點くにた/\笑ひ 松


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にかけたる提燈 ふつと まつくらやみ 相図を待し下部共 ばら/\/\と立出れば 物をもいはずのつさ/\
ちつ共ゆるがぬ岸の乱杭 うづまく水は底しれぬ 心の内の大丈夫 工を 人に堤伝ひ旅宿を
  第弐 橋の段          さして「立帰る