仮想空間

趣味の変体仮名

無間鐘梅枝伝譜


読んだ本 http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/index.html
     文庫06 00999

  参考 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9892610 


1
寛十一未年 三拾?

品川鯨児(しながはのくじら)
三又水虎(みつまたのかつぱ)

山東京伝
無間鐘梅枝伝譜(むけんのかねむめがえでんぶ)


2
  序
戯作家の大人(おやだま)京伝子盛衰記の雑劇(じやうるり)を抜書して
這固(これこの)梅が枝が一念を編で百年の古へを量る千万年
といへども此名木朽(くつ)るの期(ご)ならじ況や桃栗三念柿八念
柚と達磨の九念はなんぞ苦界十年の実情を穿つは
山東の一念 余此書を閲して頓(とみ)に一念発起の発語(ほうご)と
なす嗚呼可賞(せうすべし)梅が枝が一念悟導師(ごどうし)の十念よりは
夫(それ)ありがたひかな  式亭三馬

「かのひらかなせいすいきに見へたる
梅がへかおもふねんりきの口にも
せよ金にもせよこゝろざす所は
むけんのかね是より小夜の中山へはるかの
みちははだつれどその一念のとゞきたるをさべるに即ち左のごとし
  山東京伝


3
おもひつめ
たる梅がへが
ねんりきはる
かにみちはへだて
どもさよの中
山さして
一ねんとび
ゆく

むかしせんぞかいらざる
わるい事をさだめて
おいて子そんがなんぎ
をする今とき三百
両のことはかけ月/\三もんめの
たばこさへかわれぬものをそれに古人きくの
せうからしてしんむけんおびむけんかゞみむけん
のかねかあとひけになつてそれでなくてさへ
此ものまへはかねがふちへでも身をなげねば

ならぬ此あたまさへしやでん丁の大日ぼうの
うけ人で田まちの山さきへ
十五両のしちにはいつて
いるわなそんりやうでつかつ
ているあたまさ

二どの月をするよりもなんぎだぞ
おめへまたやりてにかけやわせて江戸
丁のかしわやでもひけばいゝ

(右頁下)
梅がへが一ねん
むけんのかねに
たいめんして
とふぞ三百両
くめんしておくん
なんしあれあの
めりやすのきれぬう
ちはやく/\とせつ
きけるはさりとはむり
なたのみ事なり

どふぞ
そふしてでも
みておくんなんし

どふで此ふもとのあめで
もちをくふよふな事は
ないのさ


4
つくならつくと一月もまへからことわつてつけばいゝ
金ならたつた三百両なぞとたくさんそうに
どふりでそんなめにをふよしわらやうじのふさ/\しい
女郎だ

つたへきくさよの中山むけんの
かねをつくときはうとくじざい心
のまゝとはひらかなせいすいきに
つまびらかなれば此たびむめがへが
三百両の金子ぜひさづけてやらねば
此すへむけんのかねの名をれとなる事むかし
はうみ川にすたりしかねをとりあふるうけ
をいにんありてりうわうのまへをしきり
むけんのかねにわたしてつみ金にしてをき

しよ/\へかしつけて利そくをもとりける
ゆへそのかねこゝにとむぞうさにさづけ
てやる事もなりしが今は
うみ川にすたりし
金もとりつくし両ごく中づの
花びの代金よりほか
川にすたる金はなくむ
けんのかねは大きになんぎして
ともだちたはら藤太ひであsとのかね
はりうぐうは手いつはいゆへこいつに
けんもんしてりうわうへこへがゝり
をたのみうみ川へすたりし
かねをさがしとりあげくださ
るゝまで三百両はいしゃくをね
がひもらわんとそうだん
するそれにしておまつむめ
がえが方の日のべをせねばな
らぬよいくふうがありそうな
ものだ

(右頁下)
きさま
又はし
たがねへ
つくな/\
といへば
いゝ


5
てまへはひしやくを
もつているをれは
一つうの手がたを
なげいだす
なんの事はねへ
ぬけまいりの
はこねをとをる
やうだ

そのひしやくで
つりがねこんりうと
いへばいゝつり
がねのく
もに のつたのを
はじめてみたらうそれでも花の
くもかねはうへのかあさくさかといふほつくり
あるぞよまたかえんのしたからもでられねへ
からえかきもせうことなしにかふかいたものよ

(下)
歌「今はむかしのかたりぐさツンシヤンとめりやすきれければ
ねんでなきほんとうの梅がえめんしよくたちまちかふ
ばいの花はちり/\心もかみもさか立あがりひしやく
もつ身もふるはれすでにうたんとふりあげるその
かねこゝにと雲中より三百両のかねにはあらで
こはいかにいつつうのかきつけをひらり/\と
なげいだすみつけのはしで大屋さまねかいしよ
とばせしごとくなり

これはゆめかやうつゝかや
かねじやアなくてばか
らしいものがふりいす
のこりねんのしやう
もんじやア
ねへか


6
なんの
こつたば
からしいきやく
じんの所からばかり
ことはりの文がと
思へばむけんのかねづら
までが日のべさじ
れつてい今どきのた
びうどきやくとむけんの
かねはあてになりん
せん

 借用申 証文之事
一金三百両は 但し文字小判也
右此度貴殿無間のかねをつかれ候所近年
甚のこんきうゆへ早遅にとゝのいかたく候間
日かづ四十日の間日のべか成可候依て日の
べ日限迄の所借用せう文に致候

もしさういいたし候はゝ此せうもんにて
いかやうにも御かり可成候そのせつ
一こんのぎ申間候い後日せうもん
仍如件

月日 さよの中山君わあめの
もち反もん店
かみわ
むけんのかね八判
梅がえどの

(下)
梅かへはいぶかし
ながらも
かの一つう
をひらき
みれば
さのごとし

此とをえい
源太様へいつて
やらすばなるまい
こんやちうによろいか
なくては一の谷のいくさ
にをくれるちょいゝなんした
かどふせうのふそれに
まあ四十日とはばから
らしいおかいてうの日
のべじやアあるめへし


7
たつの
みやこ
のある
じは
たい
りう王立出たまい其方たちのね
かいといふはなんたりう王とふ
したりう
王ときゝ
たまふに三百両の金子はいしやくをいた
したきよし申上れは金ときてはてきぬく/\とあたまの
りうまでかふりをふる
むけんのかねはたはら藤太のかねと
とふ/\してりうくうへきたりむめ
かへか此たひのやうすを
申あけ三百
両はい
しやくを
ねかふ

(下)
きん
ねんのさ
くしやは
せつなく
なるとりう
ぐうを引
ずりだす
にはこ
まる

8
りうくうもきよねんの大水
にて御てんをはしめ所々の
りう門をしながし
御ふしん
さい

ちう此せつお入用おゝけれはなか
/\三百両といふ金さり
そくとゝのひかたくされとも
むけんのかねはりうくうの
しはいゆへたかみならぬひ
くてけんふつしてもいられす
日のべの日けんまてにうみ
川の金とり上げむけんの
かねにわたすへしと
龍用人の
赤井えひ
右衛門へおゝせ
つけらるゝ

こふふたりよつたところ
はいゝやきものとたい
ひきた

(下)
えび右衛門龍王
をふせをうけからう
たいのひれ右衛門か
方へきたりそう
たんする

日きりのある
事ゆへいそいで
はいふをまはすが
よふこざらう


9
りうぐうにはいるいいぎやう
のうろくつあれどもあして
のつきたるものなくそれゆへ
此たびの御用にたちがたく
うみのかたはうみほうつ川の
かたは川太郎へおふせつけ
らるゝ

わたくしども
両人はりう
ぐうの御し
はいにいて
はけものゝ
なかまゆへ
なんの事は
ねえてうにんが
寺地をかりて
いるやうなもの
て両かゝりゆへ
しやうしきは
うるそう
こさり
ます

(下)
わたくしはねなしぐさ此
うたとき/\くさそうしへ
出つけてをりますから
まこつきはいたし
ませぬ

此御ようをしゆびよくつとめたら
御ほうびには両人にしな川うみかはの
むらたやでさへさせるぞをれはよし
はらの丸えひやでしゃ
れるきだ

たいせつの御よう
しやかつぱはね
なしくさの
やうなこゝろ
えちかいを
せまい


10
鰺なものを
ひろい上げ
たの

「梅枝御すくひ
  龍用舩」

烏賊さま

かくてうみぼうづは
しよ/\のうみの
そこをさがせども
ぜにかねはもちろん
金になりそふな
ものとてはなくこれ
ては手からかみへぬと
こんかきりにさかす
うちかまくらいな
むらかさきの
をき中にて
こかねつくりの
太刀をひろい
あけるこれはにつ
田よしさだ
ふうんいのも
のゝため
うみへ
しつめし
太刀なる
べし


11
なかず
三つまたの
けしき

さかつきをひろへば
たかふ人ごゝろた
こいつはろふかをれか
ものにしたくなつたす
かつは六十両
くらいには
なりそふ
なもの

かつぱは川のほうのやくめゆへねなし
ぐさでをちをとりし中ず三つまた
今ははなはだにきやかなればさだめて
なまえいなきやくなぞがふねへのるとて
おとしたるかみ入どうらんのるいある事も
しれずとみづのそこをさがせしに一トつの
さかづきをひろいあけるよく/\あらいみれ
ばきんのむくゆへこいつはよほどのねうち
ならん三百両のひとはなもつしろ
ものとよろこぶこれは中むかしきやうの
げたをはいたる大じん三郎やの高
をゝつれてこのところへふなあそび
に出たまいしが此さかづきをふ
ねの中にてたかをへさしたまい
しが高をは此大じんをきらつて川へ
なげこいしさかづきなるべし


12
そのほかうみぼうづか
ひろいえたるはかのしげ/\
夜話にいでたるむろの
つのゆう女しらきくが
はくじやうをうとみ
かいちうへなげいれたる
きやらのかうはこ
るりこはくさんご
じゆの玉川
太郎がひろい
えしは深川
どばしのみ
はるやのさん
ばしにて
べつこうの
しのぎ一本
これはおくりげい
しやのをとし
たるなるべし
その外

にほか
の大
さんばしの

(左頁)
きにてぎんの
のべのきせるひ
ろいとるこれは
よしはらきやくの
おとしたる
なるべしいち/\
赤居えび左衛門が
まえへさし いだす

いやはやうみにも
川にもちりつ
ばがいつほん
ござりませぬ
大きに
ほねをおり
ました

(右頁下)
かふした所は
さんぞくの
てうほんと
いふみへ

此たびのは
たらきあつ
はれ/\しか
しこれでは
三百両が
しろものはない


13
むけんのかね立合て
入札を
ひらく

えび左衛門はおかへ
あかりてもせいの
つよき人ゆへにn
げんかいのどう
ぐやすきやがし
の伏甚すみ
よし丁の
川銀を
よびこの
しな/\
をふ
ませる
さかづきもさせるも
つぶしにほかなりま
せぬいけにいくものは
たまとしのぎばかりさ

(下)
こかねづくりのたちもほそみの御
太刀とちがつてかたいきでござりま
ますきやらのかうばこなどは
ひさしくうみの中にござりま
ものとみへますればみなかゞぬけ
ましたこれをたくとどろくさう
ござります


14
うみ川よりあがりたる
しろもの百五
十両にほか
かはざり
ければあ
と金
百五十
両たら
ざりけれ
ばいかゞ
せんとえび左衛門もまゆをひそめ
むけんのかねとさうだんしけるにむ
けんのかねきつとくふうして申けるはどふぞ
りうぐうへねかいてはこ入むすめのをとひめさま
に三日があいだどう
じやうじをおどらせわた
くしかさしつめかねのや
くをつとめやすふだ
でえせたらけんぶつ
がありそふなもの
でござりますと
りうぐうなら川師な
はづだがむけんのかねは山が
そだちゆへ山ごとをたくろみける

どふした
もんだらう

(下)
ぜんてへどうじやう
じもふるさはふるい
のさえらのしろく
なつたしゆがうさ

それは
こうとく
じものもん
ではない
りう
ぐうの
もんさ


15
くじらは品川めい
しよをしるおいらァいながら
しばいを見るわにのおもし
ろくもねへアゝいわしでも
くればいゝすこはらかきた
山じるしだ
国立国会図書館: 
 むけんのかねてれた
 やくをつと める)

「むけんのかねが
思ひつきりう王
せうちにて
龍鱗乙姫道成寺
いふえたいにて
こうぎやう
する

これかしら
くじらを
むうつせへ
はなしが
ある

大じんばしらにはさくらのがいの
つくり花をかざるえのしまみやげの
びやうぶのごとくなり

こんなしろいうじらがあるものか八さくの
くじらじやあるめへしといゝつこなし
くろくすると本やで
はんかうを
するとき
こまりや
すからさ
極のじとおなじ
事でくろくなるのは
今のま/\

歌「鰈に鰻が蛸々小雑魚(こじやこ)
穴の蟹を突ときはしゝにほう
むしやうとにげるなりふねに鰐の
つくときはじやくめついらくとしづむ
なりきいておどろく人もなし

をとひめさまはこれから瀬川じよかうと
名をかへてさくしやになるとさ

わにとくじらが
わりこみにきて
けんぶつ大きに
なんきする


16
りうづに手をかけ飛魚
とみへしがひきかづいてぞう
せにけるとまねのうちへはい
ればふたりのたこのにうだうは
じゆつさり/\とをしもんで
なまぐさばんだなんでも
せ/\といのりいのられ
つかねど此かね
ひゞきわたり
ひかぬと此 かね
上へ
あがり
ければ
こは
いかに
赤井えび右衛門せつふく
していたりければみな/\
おどろきしさいをとふ

此せつふくのしさいといふは三百両の金とゝ
のはざれば永々りうぐうのちじよくゆへ
らうじんのいのちさしあげでぢばらを
きります此たび梅がへがむけんのかね
をつきしはもとうぶぎぬのよろいを
うけいださんためなれはわたくし
がなきがらをよろいにつくり

半金の百五十
両をつけてうぶ
きぬの入かへにつかは
されかのよろいを
とりもどしてむめがえに
あたへてたまはゞかれがのぞみは
かなふべしはやく/\とくるしき
こえのしたより申せしは
ちうぎばらをきる事の
らんじやう也これより
えび
どう

いふ
よろ
いは
じまる

ういやつだ定之進
もどきをやりをつた
ふびんや/\


17
源太どのが
あんまり梅かえを
ひいてあそんだ
からわるいのさ

うぶぎぬのよろ
いはなにばつかん
ざきのあげや
梅がえが身あ
がり
此三百
両のかたに
とりをき
しがあげや
もくりまはしの
ため七つやへ
まけてをき
けるときく
むけんのかねは
なく/\かの
えび左衛門
がなきから

からにて
つくりたる
よろい
をたづさへ百五十両
金をつけいれかへにして
うぶきぬのよろいを
しちにとりはとつ
たがいまどきかた
いきなものゆへもち
あましているところ
なればさわいせう
じんのえびどうの
よろいはめづらしきもの
ゆへみせものに出しても
おほへのあることゝおもひ
百五十両のかたにとる

うぶぎぬのよろいの
かわりにうぶけやのけ
ぬきでかんにんしてくれる
とこれほどほねはをれぬに

よりもとからはいりやう
していへにもかへぬよろいをどふきで
女郎にあづけたか源太もきまくれだ


18
梅がえはやくそくのにちげんとあり
ければまたぞろむけんのかねとくわんねんし
なをしこんだはめんしよくもかはらずかたつぽ
ふところ手に右の手でわざつとひしやくの
えをつまんだばかり二どめゆへよつほとしやれて
やらかすものなれやうものなりをもひかけないでなく
ずいぶんそのやくそくなる雲中よりその金のかはりの
よろいこゝにと金ならなげいだすはをよろいゆへ
なげたらわるゝならうとこゝろ
かいして手わたしにする

こんぢうの
せうもんは
こつちへ
かへしな

おmちつとのび
あがつてそれ手を
はなすによ

しやうのものを
しやうでたしかに
らくしゆめされ

こんどはほんに
ゆめかやうつゝかや
うれしうござんす

金なら
こゝに三
両かしこに
五両といふ
ばなれど
よろいゆへ
たつた
一領なり


19
「梅がえぐんぶ」  
えび左衛門がちうきむけんのかねが
ばかりちぎ梅がへがていせつより
うぶきぬのよろいげん太が
手に入四十日をく
れけれども一の
谷のごぢんに
出てはたら
きしゆへかん
どうとゆる
されもとの大名になるは
づなれどそれよりは町人の
ほうがいきだとかなんとか
いつて梅がえをもみうけ
してもらいむかしかぶり
しほうろくづきんの
えんあるかはらけまちへんへみせ
をだしてもらい梅かえ
でんぶをあきないめで
たくいちごさかへ
けるとなり

(下)
「京伝作」
むめがへは女郎あがりゆへ源太が女ぼう
になりてもとかく
あさねにて
いつでもあ
さめしがひる
じぶんになる
ゆへむけんの
かねをつきし
ものはめ
しがひる
になると
いゝつたふ