仮想空間

趣味の変体仮名

仁勢物語 上


 読んだ本 http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/index.html
      ヘ13 00062  1(上)

 

 

2
おかしおとこほうかふりしてならの京かすか
のさとへ 酒のみにいきけり そのさとにいとなま
くさき魚 はらかといふありけり 此おとこ かふ
てみにけり おもほえす けるきんちやくにいと
はしたせにもあらさりけれは心ちまどひにけり
おとこのきたりけるかりきるものをぬきて 魚の
あたひにやる そのおとこしふそめのきるものを
なむきたりける
 春日野のさかなにぬきしかりけもの
 さきのみたれはさむさしられす
となむ またつきてのみけり 酔ておもしろ
きことゝもや おもひけむ


3
 みちすからしとろもぢすりあしもとは
 みたれそめにしわれならざけに
といふ 歌のこゝろばへなり むかしの人は かくいら
ちたるのみやうをなんしける
おかしおとこありけり ならの京ははなれこの京は
またやとのさだまらさりけるときに 西の京にて
女をもちけり その女世人にはをとれりけり その
人かたちよりは心なんこはかりけり 人のやうにも
あらさりけらし それをかのおとこうち物かたらひて
いかゝおもひけん 時はやよひの朔日雨しよぐるによめる
 おきもをきねもせてよるもまたひるも
 めうなかほとてなかめくらしつ


4
おかしおとこありけり ひさうしけるをん
なのもゝにひぜんかさといふものをや
見て
 おじやるならむしろのうへに
  ねのしなや
 ひぜんかさには
  けたをしつゝも
二てうのうすへりの まだいでこではみ
やに をきけるときのことなり


5
おかし東の五てうにあふぎやのかゝはら
ぬありけり にしの調院にくすし有けり それはほん
道にはあらてはりにこゝろふかゝりけるゆへに 行
とふらいけるを 正月の十日はかりのほどにほか
とはれにけり はれところはきけど 一も見るへき
所にもあらさりけれは なをうしとおもひつゝなむあり
ける またのとしの正月には 月とはなとの間に出てはれ
てとちてみいてみみれとこそにわるへくもあらす
うちわらひてあはらほねもいたきに つらのゆかむま
てわらひてこそをおもひ出てよめる
 つらやあらぬはなやむかしのはなゝらぬわか身ひとつはもとの身にして
とよめて夜のほの/\とあくるになく/\おきにけり
おかしおとこ有けり 名人のごうちへ石なをされに


6
いきけり 大身なる所なれは たび/\も畳うたて
わらつとなとにふけやり 朔日せつくにかよひけり
人より下手にもあらねと まけたびかさなりけれは
あるしその相手によことに 上手をつれてうたせ
けれは うてと畳かたで手もなをささりけりまて
よめる
 一二わか手なをらぬものならはよひ/\こをばうちも
しなゝんとよめりけれは いとやさしかりけるあるし
ゆるしてけり
おかしおとこありけり 女の子にてうましかりけるを
こしをとらへていたきわたりけるを からうしてかま
せていとくらきにあくたかみのやふれなとしきて草
のうへにをきたりける 子をうれはおとこか母子かと

おとこにとひける後のものをかく夜もふけにけり
鬼子ともしらで かみさへいといみじうくろくあた
かもいたうふりまはりけれは あはらなるくらかり
に 女をはおくにをし入て おとこ湯をわかひて
あびせをりはや夜もあけぬに この子おほきに
なりて 鬼子母を一くちにくひてけり あいたや
といひけれと かねなる????に畳きかざりけ
り やう/\夜もあけゆくにみれは うみし女も
子もなしあしすりをしてなけどかひなし

 おのゝ子か
 なにそと人の
 差しとき

 鬼とこたへて
 きりなま し物を


7
これは二條のもどりはしのもとにつかまき
やにていたりけるを かたなのtるかいとめぬき
なとぬすまれて をふて出たりけるを ほり
川のほとにて太郎左衛門すめつぼといふ大工
まだくらきにいてけるに いみしうをふ人
あるをみつけて とゞめてとりかへしてけり
そのゆお鬼子はうめたり


8
おかしおとこありけり 京にありわひてあつま
にいきけるに 伊勢おはりに あはびはまぐりの
うみつらにあるを 人のいとおほくうりけるをみて
 いとくしくすきぬる貝のこひしけに
 うらやましくもかへる人かな
となんよめりける
おかし山ふあり 京やすみうかりけん あつま
のかたにゆきて たんなもとむとて かちにて
行けれは あせもなかれけり しらかなるあたまの
はちに いげのたちけれは
 しらかなるあたまのはちにたつけふり
ふどうと人の見やはとかめぬ


9
おかしおとこ有けり そのおとこ身をえうなき物て
おもひなして 京にはあらし 東のかたにすむへきとて
ゆきけり つれとする人ひとりふたり行けり みち
しれる人もなくてとふてゆきけり 三河国をかさき
といふところにいたりぬ そこをおかさきとはちやうり
あるによりてなむおかさきとおもひける そのやとの
家にたちよりてはたごめしくいけり そのたなに
かきつへたいとおほくありけり それをみてつれ人
かきつへたといふ又もしをくのめにすへてたひの
こゝろをよめといひけれは よめる
 かちみちをもにふもけふもつれたちて
 へめぐりまはるとひすしそおもふ
とよめりけれはみな人わらひにけり


10
ゆき/\てするかのくにそつのやまにいたり
て わかのほらんとするみちはいとくらうとかれ
に つたかへてはしけり ものこゝろほそくひらき
めをみることくおもふに すき行者あふたると かゝる
みちはいかてかいまするといふをみれは しる人
なりけり 京にその人のもとにとてことつてす
 するがなるうつのやまへの たうだんこ
 せにかなけれは かはぬなり けり


11
ふの山をみれは 五月のつごもりに雪あり
てめしにくたり
 ときしらぬふのねほとのいひもかな
 かのこかたびらかへててふへき
そのやまをものにたとへは ひへめしを
かさねあげたらんやうにて なりはすりはちの
やうになんありける
なをゆき/\て むさしの国としもつふ
さのくにとのなかにおほきいなかは
あり それをすみ田かはといふ その河の
ほとりにむれいて おもひやれは かきり
なくひたるくもあるかなと わひあへるに

わたしもりはやふねにのれ 自もくれ
ぬといふ さておりしもしろきあほに
おひと小袖とあかきふねのうへにあそひ
ていひをくふ わたしもりにとへは これなん 
みやこ人といふをきゝて
 なめしあらは いさちとくはん みやこ人
 わかおもふ ほとはありや なしやと
とよめりけれは ふねこそりてわらひに
けり


12
おかしおとこむさしの国にてまとひありきけり
さてその国にある女をよはひけり 父はまだ人にあ
はせんといひけるを はくなむあたまものにこゝろ
つけたりける ちゝはまだ人にてはくなんとて
はらなりける さてなんあたまものにとおもひけ
る このむこかねをかりて をこせざりけりすむ
ところなん いるまのこほりみよしのゝさとなり
ける
 みよし野のたのもねんくをこはるゝに
 きみかかりたるかねかへせかし
むこかねかへし
 わかかたにくるといふなるみよし野の


13
 たのもしかねをついとりかへす
となん人の国にても なをしへくせんいやまたりけり
おかしおとこ神なりのなりけれは ともかみちとも
のみちにておちけれはよみける
 たゝくなよほとは雲井になるかみも
 やいこのかはのうちへふるまて
おかし男ありけり きりしたんの御法度あり
て むさし野へつれて行ほとにとか人なれは
町奉行にからめられにけり 女も男もくさむらのなかに
をきて火つけんとす女わひて
 むさし野はけふはなやきそ浅草やつまもころへりなもころへけり
とよみけるを聞てふうふなからたすけてはなちけり


14
むかしむさしといふ男 京なる女のもとにきこゆれ
ははつかし 聞ねはくるしとかきて 上かきにむ
さし坊べんけいとかきて ほそ心さしをこせて
のち 春もせすなりにけれは 京より女
 むさし坊さすがほとなる長刀をふらぬもふるもう
るさしと あるを見てはつかしき心ちしける
 ふれはいふふらねはうらむむさし坊かゝるおりに
や人はにぐらん
おかしおとこかひの国へすゝろに行いたりにけり そこ
なる女江戸の人はめつらしくやおもひけん せちにおもへる心ちな
んおりけるさてかの女
 なか/\とつれてこさらはてかけにもなるへかりけり此月はかり
歌さゝへに ひなたくさかりける さすかに おかしとやおもひけん

よひてねにけりよふかく出して
 夜もあけはきつねたぬきと人やみむまたきおくして
銭をやりつると よみてこのおとこ 急とへなん帰かるとて
 くりのこのあたゝけもちのあるならはみやけにこん
とたんとやらましをと いけりけれは よだれこほちて
うれしかりけらしとそいひをりける
おかしおとこかひの国にて なでうことなき人のめに
かよひける いやしうあかゞりなと有へきをんなともあらす
みへけれは
 しのひつましりにあかゝりなくもかな人の手あしのう
らも見るへく女かきりなくつまたしと思へと さるきた
なきゝびすなとを見せては いかゝとせんとて
おかしきのそう正の弟子有けり 都の内にてらもち


15
てときあきけれと 後は世かはりときへりにけれは よ
のつねの坊主のこともあらす人からは心うつくしう味
なく物をふて こと人にもにす うまき物をくひても
なをむかしよかりし時の味なから 世のつねのことも
しらす としころにたてたる弟子やう/\とこはな
れて ついにぞくになりてあにのさきたちて行
たるところへゆくを坊主まことにむつかしき経な
とこそをしへけれ いまはと行をいとあはれとお
もひけれと まづしけれはやる物もなかりけり おもひ
わひてねむころにあいしらひける 旦那のもとに
かう/\いまはとてまかるをいたいけなるものも へやら
てつかはすとかきておくに
 ほねおりてそたてしことをかかふれはとをと五つと四つ

はへにけり かの旦那これをみて いとあはれとおも
ひて かたなわきさしまてをくりてよめる
 ときたにも十日廿日もへりけるをいくたり君をせ
かみくふらんかの弟子よひて うをなとくはせたりけれは
 けふやこの僧のころもをむきすてゝきみか大小さして
まつるよろこびにたへて 又
 あきをやく鶴やまかもとおもふまてすふはなます
の汁にそありける
としころとりつけなる人の酒のあたひとりに来
りけれは みなすましけり さてさかや
 すりきりと名にこそたてれさせくらひつも
まれなる銭も持けり
上申かへし


16
 けふこすはあすはよそへそやりなましやら すはあり
ともさかなをかはまし
おかしなまなりをつけける女ありけり おとここちかう
ありけり 女歌よむ人なりけれは 心見にとてきく
の花のうつくしきをしきておとこのもとへやる
 なまなりのそしをはいつく白ききの枝になりつく
ふらめくとみゆおとこしらすよみによみける
 くさりつゝにほふかうへのなまなりはくれける人の
ものゝかとみゆ
おかしおとこ都人なりける女のかたに五十はかり
なりける人をあひしりたりけるほともなくか
れにけり おなし所なれは女のめにはみゆるものから
おとこはわか物かとおもひたら次女

 あま酒のちにも人のなり行かきのふにけふはかは
るものからとよめりけれはおとこ返し
あまさけのあぢをのみしるける人はわかいるや
とのやまの神なりとよめりけるはまおとこある人
となん
おかし男やまかにある女をみてむかひてあにひけり さて
ほとへて おやのさとへかへりけり 弥生はかりにむき年
の末おほうおひて おとこのもとにまかせとさとよりいひ
へりけれは おとこ
 君のとめたはへる末は春なからかくこそあきのもみぢ
しにけれとてもみをなんへりたりけれは つきてなんくれ
てとてをんな
 いつのまにひけとてもみをくれぬらん君かさとにはうすなかるらし


17
おかし男いとかしけおとろへて 末銭もなかりけり
さるをいな事をならひて いさなふものにつきて世
中をすぎんとおもひて 出ておとらむとおもひて かね
なとをかふてくびにかけける
 出てゆかは心かるしとわらはれむよの方さいを人
のしねはとよみおきて 出て申けりこのおとこかね
をたゝきおどれと けしう米をくるへきともおほし
ねはなにゝよりてか かこちんといといたう申て いつかた
にもとめもらはんと門/\に行て とんづはねつおと
れと いつくのおなしことくれさりけれは 帰りいりて
 おもふ米くれぬなりけり銭かねをあたにつかひて
われやすりきるといひてなかめをり
 人はいさわらひやすらむわれかつら水はかりのみいとゝ


18
やせつゝ
此をんないとひたるくありてねんしわひてにやあり
けん いひをたきたり
 ひだるさをわするゝ米のめしをたに一はらくひて
へらせすもかな
返し
 米のめしくふとたにきく物ならはあまりのなくは汁も
すはましまた/\ありしとていひもひておとこ
 おとらむとおもふこゝろのうた念仏あかき/\も申 ぬるかな
返し
 なかき日にたちはるすねのくたひれはかふかひ
なくもなりにけるかねとはいひけれと をのかよくにて
ありけれは うとくになりにけり

おかしはいなくてとみにけるもの なをやわすれさり
けん うはのもとより
 うはなからあちをはへしもわすれねはかくうまき
物なをそくひたきといへりけれは されはよといひて おとこ
 いひともに心ひとしきかのしゝのみそのなけれはくは
しとそおもぐとはいひけれと その夜ににけり いにしへ
くひけることともなといひて
 あかりこのわんををりへになすらへてやたひくは
はやあくときのあらむ
返し
 あがりこのわんををりへになせりともしるはのこ
りてみやはのこらんいにしへよりあばれと
なんくらひける


19
おかしい中くたりしける人の子とも猪(しゝ)をゆてゝ
くらひけるを おとなになりにけれはおとこも
をんなもはちたゝきの子なりけれと おとこはこの
わあさいやとおもふ 女もこれをいやとおもひつゝ親のをし
ふれともならはてなんありける さてこのとなりの
おとこのもとよりかくなん
 つといつかいのしゝくひしまろひたひ
  わりにけらしないひしるのわん
をんなかへし
 くらひにしふるかけこきのあひわりぬ
  きみならすしてたれかくるへき
なといひ/\て 終にほいのことくよびにけり


20
さてとしころふるほとに をんなおやなくたより
なくなるまゝに もろともにいひ米なくてあらん
やはとて吏趾国たかさ国へわたりて いきかよふた
より出きにけり かりけれとこのもとておあしなと
おほくほとのなくて たのしかりけれは おとここと
をんなありていたうおもひくたひれて ちとせの中も
かれ/\にて うかうちな見ぬるかほにて 見れは 此
をんないとしことなとしてうちなかめて
 風ふけはおきてしらなみしようまふの
  ようじんきひしひとりなれとも
きひしひとりなれともとよみけるを聞て かき
りなくかはゆく思ひて手かけへもいかすなりにけり


21
まれ/\かの手かけにいきて見れは はしめこそ
心にくゝもつくろひけれ いまはうちとけて 手つから
いひかまたきて けうのかうの物をきりけるをみて
心うるさくていかすなりにけり さりけれはかの女おと
このかたを見やりて
 きみかあたにみす/\ならんいかつちの
  雲まにおちてあたまとるへく
といひておどすに こはかりて おとここむといへり
よろこひてまつに たひ/\うそなりけれは
 君こむとなきて夜ことにきつねとも
  たぬきとも身をなしつゝやねん
といひけれと おとこすまぬかほなりけり

おかしおとこかたい中にすみけり おとこ都へ
とてわたらんちのをくしめてゆきけるまゝに 三月と
さりけれは まちかねけるに いと仕事する人に
もちくはせんとちきりたりけるに このおとこもと
りけり 此戸あけ給へとたゝきけれど あけて歌
をよみて いたしたりける
 あはひえの
  ことしみこと にできたれは
    もちをつくとて
     手のひまもなし


22
といひ出したりけれは
 あづきもちこもちあはもちとしつくと
  わかせになくはうるもへつかし
といひていなむとしけれは女
 あるきもちつけどつかねどそとよりの
  くろくはあとへあきにしものを
といひけれと おとこはらたてけり 女いとかなしくて しり
からげしてちさうすれど おゆものまて白水のある
ところにすべりけり そこなりけるもちわんに大
ゆひのつめひたしにもりてさしつけくる
 あはおもはてしかれる人にすゝめかねわかくふもちは
ひへはてぬめるとよみて それははなひらになりにけり


23
おかしおとこ有けり じゆくしかきともいはさりける
かきのさすかうまかりけれは 女のもとにいひやりける
 秋のよにさはしくかきのあちよりもあはせさるにも味まさりけり
かきこのみなる女かへし
 せにもなき我をはすきとしらねはやかひなてかきの味よくもくふ
おかしおとこ五十あまりなりける女をまうけゝる
ことく わひける人のかへしに
 おもほえすひたひになみのさはくかなもろこし舟のよりしはかりに
おかしおとこ女のもとにてにいれて又もいかすなりにけれは 女の
物あらふ所にぬきかれをうちやりてたらひに物の見えけるをみつから
 我はかり物あらふ人はまたもあらしとおもへは水のしたにも有けり
とよむをかのこさりけるおとこ のそきて
 水そこに物やみゆらんてさへもまめたらひをはのそきてそいく


24
おかしなすひこのみなりけるをんな ゆてゝ
くふて
 なとてかくはやとしよりに成にけん
  水なすひそとむしりしものを
おかしやまてらのちこたちの はな見に
めし酒もなかりけれは
 はらにあたる
  なめしはいつも
   くひしかど
(下)
けふの花
 見ににる
  こめも 
    なし


25
おかしおとこ はつれなりける女のもとに
 あふなきは目たまのうへのいもゝらひつぶしけんしてかくはなるらん
おかしみちのはたにて ある子とちの鴉をすへてとをり
けるに 何あみとかいひけん よしやせつしやうなむさ
かみたといふあこ
 つみもなき人はうをかひわなをはりおほくの
さかなくふといふなりといふをうらやむはうすおほかり
おかし物おゝひける女にとしころありて
 いにしへのしちのふだをはうけ返しむかしの
かねをなすよしもかなといへりけれと なにともかまは
すやありけん
おかしおとこひぜんの国たかくのこほりしまはらの
城へむかひける 女このたひは又はかへらしと見へる

けしきなれば おとこ
 あし手より身うちのしはのいやましに君にとしをもよらせますかな
返し
 こもりぬる大人数をはいかてかは無勢に先をさせてみるへき 
い中人のことにては よしやあしや
おかしおとこうをのほねを のどにたてゝ
 なまたいのせぼねはむねにはさまりてこゝろひとつ
になげくころかな じゆなくていへるなるへし
おかしごくにもたゝてたえたる人のもとに
 たまとのをあまのよりつゝぬすめれとたつかをひきてくはんとそ思ふ
おかし仕事をぬなめりと いけんしける人のもとに
 たなをはみみちまてほせるたうゆみのあけふとさらにわか思はな?に
おかし男銭へりける女にいへりけり うしろめだくや思るけん


26
 我ならてことせにえるなかたなしやころかけとらぬはつとなりとも
返し
 札たちてきはめし銭をひとりしてあひよみはかりへらしとそ思ふ
おかし紀の河にかりして 大なるふなを こいといひけ
れはよめる
 きの河のおほきなふなを山かなる人はこれをやこいといふらん
山家人かへし
 見しらねは山かのものはなまづをもこいとはいふとおもふわれらも
おかしさいいんのなにかしといふ侍有けり 其侍のわこ
たかいとすきにて いつもかりしけり そのわこよひ
竹ふて 御れうりの夜 その家のとなりなりける
おとこ御れうりにせんとて 大かにくるまえひをあ
ひもちていてとりける いと久しくこひて出し

たへまいらす うちわひてかへりぬへかりける間にあま
の酒のいろのよきを ひのきの小樽に入て客これも物
くふに このくるまえびをひめくるみとみて よりきて
かぐになまくさき間 かの小樽の酒をとりて くるま
えひをさかなにてのみたりけるを くらがりなりける
人この小樽のともしくやみゆらん ともしびけちなむ
とするに のめるおとこのよめる
 のみあけはかきりなるへみともしけにたるのそとにてなる音をきけ
あまの酒のさけこのみの歌にては なんそ有ける 小樽は
しふかきのおほきさなり わこのほいなし
おかしわかきおとこげいにもならぬすまふを取けり
うれしかるおやにて よくとまと思かて 此子を外に
てとらせんとす さこそいへまたとらせす ひとり子なれ


27
はあまやかしけれは とるにいきほひなし 此子やみあかり
なりけれは すまふのちからなし さる間に あひ手はいや
まさりにまさる 誠におやこの子をつれてゆく 此子ちり
めんのたんなをして とゝろあしふみし出てとりぬ この
子なよ/\とよめる
 出てとらはたれかわれ見かたさらんありしちからもけふは
かなしもとよめてなけられににけり おやあはてにけり
よくとるとおもひてこそとらせしかいとかくもなげ
られしとおもふに しんしつにとはいりにけれは かた
やにてくわんやいぇkうぇい けふの入相はかりにたえ入
て またの日のいぬのときはかりになんやうじやうし
ていき出たりけり むかしのあほうはさるすまふをなん
とりける いまのをの/\きさに仕なんや

おかし女はらみてふた子うみけり 一人はいやしき
おとこのまつしき 一人はあてなるおとこの子なり
けり いやしきおとこ 七夜の内にうふきぬをして 手
つからもちてやりけり 心さしはいたしけれと さる
やしきことにもなれさりけれは うふきぬのかたに
はりをのこしけり きせんとてきせけれは たゝなきに
なきけり これをあてなるおとこ見ていとおかしか
りけれは いとけつこうなるれうらのうぶきぬをじ
まんしてやるとて
 むらさきのいろよききぬは今春の
  のふのいしやうにまさりたりけり
むらさきのこそでなるへし


28
おかしおとこむまこのみにて あらむまをあひもあちけり
されとくせはたあらさりけり しば/\せめけれと なを
いとうしろめたくさりとていかしなとはえあるましかり
けり なをはだかせにてのりける事なりけれは ふつ
とかけ出て えをひつかでかくなむ
 出てにげしあとたに見えぬ河原毛を
  たかいちもつといまはなるらむ
ものうきによめるなりけり 
おかしがきのめに水の見えぬとつひならはしけり
そのわこぼくせきをほしかりていとたかうかねて
??給ひけるを なまめきゝにて有けるを われのみとじ
まんに思ひけるを また人きゝつけて ふみやるほとゝきす
のかたをかきて


29
 ほとゝきすなにそと人のとひけれは
  なをひよとりとおもふぼくせき
といへりこのわこけしきあくて
 ひよ鳥としてのたおさとけさそなく
  これをはにせうとまれぬれは
時はさ月になんありける おとこ返し
 にせのおほきしくのたおさはなをたのむ
  わかすむさとにすきしやたらすは
おかしおとこ ありまへ行人になまだいくはせん
とて よひてうときひとにしあらさりけれは 家主
わかひしやくしきゝせて女のきうりくはせんと
す あるしのおとこ 歌よめて みそこしにゆひつけさす
 たいのみをきみかためにともりつれは

  われうはけ汁をすひぬへきかな
このたいは あるかなかにあたらしけれは こゝろ
とゝめてくはすはるにあぢはひて
おかしおとこ有けり 人の家をかりつゝ いかてこの
なかき日に 物きはんと思ひけり うちくはんことかた
くや有けん ものくさくなりてしぬへき時にかくといふ
病者とおもひしかといひけるを くすしさい/\くすりをの
ませ やうじやうしけれはよくなりて つれ/\とこもり
をりけり 時は六月のつこもりいとあつきころほひに
ひはすゝみをかて夜ふけてすゝしきかせふきけり ほ
たでたかうしけるこのおとこ見ふせりて
 あをほたで雲の上まてしけるともなまなりすしにませたれもやし
 くひかたき度のひらめし思ひやれはそのことくなくはらそひたるき


30
おかしおとこいとうるはしきともありけり かた時
さらすあひおもひける はりまの国あかしへいき
けるを いとあはれと思ひてわかれにけり 月日へ
てめはるに文そへてあさましく行たいもくはで
月日へにけることれうりはし給ひにけんと いた
はしくおもひわびてなん侍る 世にある人の心には 目
ばるなとはわすれ給ひぬへきものにこそあめれと い
へりけえうぁ よみてやる
 めはるをもをこしもえやはわすらるゝ
  おあしなけれはおもかけににたい
おかしおとこちんとりてひかんとおおふ田の草あり
けり されとこの男ぶしやうなりときゝて つれ


31(欠)

32
なくやとはさりつゝいへる
 大勢のひくてあまたの?なれは
  おん身をえこそやとはさりけれ
返しおとこ
 おほせいとなにやとはさるなにかしも
  つゝとよるまてひかんずものを
おかしおとこありけり むまのつめきらせんとて
人をまちけるに こさりけれは
 つまそしるくるしき物とひとまたん
  つめをはしらすきる人かりけり