仮想空間

趣味の変体仮名

仁勢物語 下


 読んだ本 http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/index.html
      ヘ13 00062   2(下)


2
おかし男いもうとのいとあかゝほなり
けるを兄をりて
 つらあかみくさけにみゆるわか草を
  人のわらはんことをしそおもふ
こきこへけるかへし
 はつかしやなとあてことの云のはぞ
  めんぼくなくもおもひけるかな


3
おかしおとこありけり うらむる人を恨て
 鳶の子をとらへて鷹につかふともおもはぬ人をおもふ物かは
といへりけれは
 朝はらに五里も十里もありくへし誰か此世をちやのみはつへき
又おとこ
 ふく汁にこそのなすひのかうの物あなしほからし人のこゝろ
又女返し
 ゆぐせずにふへるよりも恥なるは思はぬ人をおもふなりけり
又おとこ
 ひたるきと星のよばひと我せにといつれにててふことをきく覧
たはことかたみにしける 男女の仕事のなく
さみともなるへし


4
おかし男人の先約あるwんなをむかへて
 よひしうへは科なき時やさらざらんはなさへそげめ目さへたゝれめ
おかしおとこ有けり 人のもとより内裡粽をお
そとる返しに
 ちまきかひ君は銭にはまとひけるわれは田に
いてゝとるそわひしきとて 田にしをなんやりける
おかし男あひがたき入湯にあひて あかゞりなと
するほとに 鳥のなきけれは
 いかてかは鳥のなくらんあかゝりをそくふにくひはまた深きに
およしおとこつよかりけるおんたらし射て
 むらぬかぬ弓をにきれるたなうらはあまたかすなるまめやおく覧
おかし男おもひかけたる女をよう見たくおもひて
 おもくさはありもすらめとこときずのおりふしことに思はるゝ哉


5
おかしおとこふしてなでおきてなでおもひあまりて
 わかあたまは夏のほたるにあらねともくるれは月のひかりなりけり
おかし男みぁみそをおもひけり つぼある人のもとに
 こねとひぬあのぬかいそを入るてふしほからつほもくたきつるかな
おかし心つきて酒はかりこのみける男ながやにすみて
をりけり そこのとなりなりけるとのはらとも夜半
はかりに酒のまんとてこのおとこの所へきて いみし
のすき物のしわさやとてあつめをきたるとくりと
もをふりて見れとも酒なけれは おとこにげておく
にかくれにけれは
 あれにけりあはれいくつのとくりにもすみけん酒のをと
たにもせぬといひてこのながやにあそひけれはおとこ
 ひきおひてあれたるつらのねむたきはかりにもおにの

すかたなりけりとてなむ 出したりける このおとことも
ほうひげぬきてやらんとてぬきけれは
 うちよりてわかほうひげをぬかませは
  いたさにつらもゆがみしものを
おかし男きやうをは いかうならひてひがんによま
むとおもひ入て
 すめぞめの袖もかきりと八巻をは
  身にひつかれてよむふもんぼん
かくて物くさくよめてねいりにけれは 面に水
そゝきなとして目さめて
 わかかほに露そをくなるあかつきに
  にをきしたなのかゆのしづくか


6
となんkひてくらひけり
おかし女有けり つくりいそがしく米もまめ
もあらさりけるほとに まめ米ある人に読れて
よめりしにけり この男うしをうりにいき
けるに そのしゆくの人の女にてなん有ける この
男にやとをかさじと女あるしはらたちけれ
は そこに有けるたちはなをとりて
 さ月まつはらたちはなのかほ見れは
  むかしの人のものゝかそする
といひけるにそ はづかしかりて納戸に入
てそ有ける


7
おかしおとこ づきんまてあかうらをきて すきにいき
たりけるにこれは色このむすきしやと すたれ
の内なる人のいひけるをきゝて
 染物をきたらん人のいかてかはいろになるてふことのならん
返し
 名にしおはゝちやいろにてあれ赤うらのづきんかたぎぬきるをいふ也
おかしとし頃つかひやりける女 心ひつちうにやあり
けんばかなる人のことにつきて 近江国なりけるはた
ご屋につかはれて もと見し人のまへに出来て めし
くはせなとしけり 夜さりこの有つる人たまへと
あるしにいひけれはおこせたりけり われをはまた
わすれたりやとて
 いにしへの座(?)いつらんさくいろはなとけらくづともなりにけるかな

といふをいと恥かしとおもひて いきもせでいたるをなと
いきもせぬといへはみづばなのたなに 目もわろくもの
もいはれすといふ
 これやこのわれにあふみのかゞみ山とらへはすれとまじめなる
かほといひて とびぬぎてとらせけれどすあしにてにげ
にけり いづちいぬらんともしらす
おかしおとこすりきりはてゝ いかてくちすぎあらん
ところへ行てしよなれと思へとも たよりなさに 誠なら
ぬ有心をおこす 子三人をよひてかたる 二人の子はなさ
けなくいひていぬ 三郎なりける子なむ よき御はからひと
いふに このばうずけしきいとよし こと所はなさけなしい
かてこの西国中国にくたりてしかなと思ひて 乞食しあり
き下り 道々むまのくつひろひはきなどするを あはれ


8
かりけり さてこゝかしこほいとうしけれともくれさりけれは ある
家のもんくはいにたちて
もらへとも一つふくれぬつゝお米人はかむらしおもかけにたつ 
とてはらたつけしきにて いはらから竹のある家の
かけに来て つれ乞食のせしやうになれきてぬるとて
 ねむしろにころもをしきてこよひをやこひしきめしをく
はてのみねんとよみけるを あはれと思日て つれ乞食
とも もらひあつめる物をとらせけり 世かよの時はおもふ
をはくひ おもはぬをはくはぬものを いまはおもふをも
おもはぬをもきらひめみせぬ乞食になんなり
ける
おかし男女みさうをくらふわさもえせさりけれは くら
まへまいりも 祈てよめる

 ふくの神わか身にかねをたひ給へひんもとみつゝあるへき物を
びしやもん返し
 むまれつかぬかねをは我もたまはらししはくなりなはひんもとむへし
おかし大けいせいやありけり そこの女の乗ものゆか
されたる有ける 町人にさふらひけるはらはれなり
けるおとこ まだいとわかゝりけるを この女ちいんし
けり かのおとこつゝけがひにして つねに女と向ひ
をりけれは女いとしやらなり かねもいとうせなん
かくなかふそといひけれは
 思ふには忍ぶることもわんざくれをひにしかねはさもあらば
あれといひて かうしの内にをれは れいの此かうしの外に
は人の見るをもしらてのさばれは 此女おもひわび
てあげやへゆく されはよき事と思ひてあとからいき


9
けれは みな人みてわらひけり つとひてとのはちの
御出なれは くつは出ておくにいさなひいれてのきぬ
かく片時もはなれず有わたるに いたづらものになり
ぬへけれは 終に知音はなるへしとて このおとこいかに
をん吾かのさまよせたまへと仏神にも申けれと いや
まさりてよせざりつゝ なをわりなくいとすげなうあ
ひしらひけれは 御錫杖かるたなとつゝみかきつけて
もはやかはしといふせいもんをたてゝなむあひける
逢けるまゝに いとゞこひしき事かずまさりてあり
しよりげにこひしくおほしければ
 こひしやと見にこそきたれあけ銭の
  かねはもたずもなりにけるかな
といひてなむかひける


10
この君さまは かほかたちよくおはしまして 仏のやう
にをしへはいとよくてうたひ給ふ おとこ女いとうな
づきあひけり かゝる刻に つれたちてすくせかしと
かたくやくそくして はしるになんきはめける かゝる
ほとに長聞付て 此おとこをはつけとゞけしけれは
この女をはとばかりにてくらにこめてしばりけれ
はくらにこもりてなく
 あまのじやこおもきにたへしわれか身も
  音をこそなかめ人はうるみし
となきけれは この男は人の国より 夜ごとにきつゝ
尺八をいとおもしろくふきて こえはおかしうてあほ
うげにうたひける かゝれは此女はくらにこもり

なから それにあなるとは きけと逢みるへきにもあらて
なんありける
 ざれことおもふらむこそかはゆけれあるにもあらぬ身を
しらすしてとおもひをり おとこは女しあはねは かくしありき
つゝ 人の国にありきて かくうたふ
 つに行てはきぬるものくさをみまくほしさにはきやふりつゝ
貴氏の御ときなるへし 大須城屋は そめ物屋のかゝなり
六條のかゝとも
おかしおとこ つの国に知人有けるに きやうだいとも
だち引つれてなにはの寺にいきけり 蓮池をみ
れは 鮒とものあるをみて
 なには寺講堂のまへの蓮池にこれや近江のうみわたるふな
これをくひたかりて 人々かへりにけり


11
おかし男養性しに思ふ事かきて 和泉国へくすし
よびにやりけり あたまのはちをみれば くほみは
れみ うつきやまず あしたより痛て ひるはれたり
うみいとしろうはれ物のさきに見えたり それをみて
かのくすし 只一つけになをしけり
 きのふけふ頸のまはりの引つるははなのとをかのうしろなりけり
おかしおとこ和泉国へいきけり 住吉のこほりすみよし
のさと すみよしのはまに行に いとひだるけれは やすめ
つゝ 有人すみよしのはまとよめといふ
 あゆみ遊きて気くたひれしにあもくふと
  はらのへりともすみよしのはま
とよめりけれは みな人尤といひけり


12
おかしおとこ有けり 其男伊勢国へばくちをうち
にいきけるに かの伊勢のはくちうち つねの人より
はこの人上手なりけれは 親にもいふて いとねん頃に
あひしらひけり かくてねんころにちさうしけり
二日といふ夜 おとこ忍びてうたんといふ 伊勢の男
もうたしともおもへらす されと人めしけけれは えう
やす 宿せんといふ人あれは 人をしつめて 子のときより
かの宿に行て 戸のかたを見出してふせるに 月のおほ
ろなるに ちいさきさいをあまたもちて人たてり おと
こいとうれしくて わかいる所にいて入て 子ひとつより
丑みつまてうつに まだかちまけもあらず うちあかし
けり つとおきてあぶらの代に わか銭をやるべき

にしあらねは こゝろもとなくて しばしあるに
やどぬしのかたより
 君やかちしひとやまけゝむおもほえす
  かちかまけたか下手か上手か
おとこ いたう忍びて よめる
 うちあかすあぶらの銭にまどひにき
  下手上手とはこよひさだめよ
とよめてやりて出ぬ 今夜は人をしつめ
て いとゝうたんと思ふに 国の守さいの
上手のばくち打ありと聞て 夜へにさかし
けれは もはやうつこともえせで あくれば
尾張国へにけんろすれは ていしゆかたより


13
いだすさかつきのさらに 歌をかきていたしけり
 かちにげにもらへとくれぬ銭しあれは
とかきて すえはなしそのさらにたばこの
はいして 末をかきつゝ
 このゝむさけの代はやらなむ
とてあくれは 尾張国へこえにけり さい
うちは 水尾の御時 これたかの御子のむま
とり


14
おかしおとこ伊勢より帰て上りけるに大淀の
渡にて 伊勢のさいうちのでつちに いひかけける
 こひめうつかたやいづこそさいなけてわれにをしへよゆきてうたなん
おかし男伊勢の斎宮にみやつかへしける かのみやの
杉といひける女と わたくしめおとにて かみこぬはせて
よめる
 ぬひやふるかめこはせはく成ぬへし大いやきぬのうらのひろさに

 こはくともきてもみにかし紙子をは風のとをせるものならなくに
おかしおとこ 伊勢国にて となりへ すをもらひにいき
けれは 女いいしうしかりけり さて男
 をんなこはいつがくもんもあらなくにろんごよまずのろんごよみかな
おかし うへに有ける時 もらはれもせざる御はんどのかねを

おもひける
 目にはみて手にはとられぬ月の中のかへらることきかねには有ける
おかしおとこ 女をいたううらみて
 よこねふみたうがさやみにあらねどもあはぬ目おほく恋わたる哉
おかしおとこ 伊勢の国にて しよたいして あらむと
いひけれは女
 大淀のはまに生てふみるなりとこゝろのまゝにくひてあれかし
といひて まして酒もなけりけkれは おとこ
 袖ぬれてあまのかりほす青のかやみるをさいにてやまんとやする
をんな
 五月よりてくる麦めしあぢなくはしほにつけたる貝も有なん
又おとこ
 涙にてぬれつゝしぼるにこり酒のからきこゝろははなをはぢくか


15
よにおちふれたる女になん
おかしおとこ 二條どをり御りやうの宮のうち神の
まつり見にいきけり 近衛の町にて 大きな人々のちけ
まいり給ふついでに 御さじきより給てのみたてまつりける
 大はらやおつけのわんにけふこそはならももろはくをおもふまゝのむ
とて心にも嬉しくや思ひけん いかゝ思ひけんしらす
おかし田村といふのふ有けり その時の太夫たかやすと
いふいまもありけり それをよひててんわうじにて三日
しけり 人々さけじき籠もてきたり もてきあつめ
たるくひ者千々ばかりあり そこばくのさけ重箱を 木
のえだにうけて 堂のまへにたてたれは 山もさらに
堂のまへに ひかり出たるやうになむ見えける それ
を謡衆に有ける けぢいちの何ゆきとか申いたる祝

言のをはるほとに 歌よむ人々をまねきあつめて
今日の御能を影にて 春の心はへある歌とてまつ
らしめ給へといふ 右の馬の太夫なりける翁 目はたかり
なからよみける
 山うはのをはりして後の狂言は腹すぢきれてわらふ
なるへしと よみけるを今見れば よくのあらさりけ
り そのかみは これやまさりけん おかしかりけり
おかしたかぜうの娘おはしけり よめ入して七ヶ日
のいはひあんをんにしけり 鵜師殿こふのなにかし
その祝言にさいりて かへさに山崎のせむしの子
のいられける山崎の家に たきをとし水はしら
せなとして おもしろくつくられたるに まいりて
年頃よそにては 鵜つかへとも ちかくつかひて 御目に


16
かけずこよひ爰にて見せ申さんといふ この子悦て
よるの物なとかりてけり さるに かの鵜師いてゝさけ
すみけるやう 家見のはしめにたゝ何をかさいらす
へき 三條の大路に 紀の国もめん有けり いとおもし
ろきすぢたてまぜり 大雪の後かひたりしかは いら
て有けれは みそにかへたかりけるを 嶋このみ給ふ
人なり このもめん奉らむと おもひて みづし女して
とりにつかはす いくはくもなくてもてきぬ 此もめん
聞しよりは 見るにまされり これをたゞまいらせんは
すくなともそゆへしとて 歌よむ人によませけり 右の
鵜師の子なりける人のをなん青ききさみたはこ
をつゝみたる紙に かきつけまいらす
 あかねともべにともかつて色みえぬこゝろさしてふよしのなけれは


17
おかし宇治の上林寺もちけり 馬やより人々うち
出けり おほきなるあなへおちて死にけれは翁の
よめる
 わかかどにちひろあなあなをほりつれは
  よるひるたれかまらざるへき
これは 酒かすに酔て人のちうやうとなんいひ
ける あにちうやうにてあらざらんや
おかしおとろへたる家に ふきのたう出たる有けり
しはすの晦日に その日雨そろ/\ふるに 人のもとへ
ほりて たてまつらすとて
 ぬれつゝそしいてほりつるとしのうちに 
   春はふつきにならせられてよ


18
おかし左のきゝたるすくきりふしいられけり かも
河のほとりに 六條わたりに 家をいとわびて作り
て住れり 神無月卅日かた 菊皿のうつくしきに
もみなますをもりて 殿達よびて一日さけのみ
しあそひて 樽もあけもてゆくほとに この殿達
おかしき歌よむ そこに有けるかたきおきな 板おしき
のはたに はひきて 人に皆よませはてゝ よめる
 しほ物をいつかくひけん朝めしにつきぬるよねにもみもあらなん
となんよみけるはうすきねにてつきたりけれは あら
なく白き米にも見おほかりけり わか主殿六十
四五石とり給へは しほ物よりほかに さかななかりけり
されはなん かの殿さらに 是をめいわくしてしほもの
はいつかくひけんとよめりける

おかしこれもりきやうと申公卿おはしましけり
八嶋のあたりに むれたかまつといふところにふね
有けり としの頃のさふらひ与三兵衛いしどうまるを
つれて おぢむねもりなりける人をつねにうらみ
てぬけておはしましける 時代へて ひさしく成
にけれは その時の事はわすれにけり かねはたんとも
もたで すねを引くつゝ 大和のかたにかゝれりけり
今おはする荒野の瀧口か寺 そのいんの上人ことに
たつとし その寺のもとにをりいて かみをそりて 名
をかへて 上中下みな歌よみけり 与三兵衛なりける
人のよめる
 世のなかにたえて妻子のなかりせは
  いまのこゝろはのどけからまし


19
又人の歌
 しねはこそいとゝ妻子はめてたけれうきせにたれかひさにいくへき
とてそのてらをは立てゆくに ひたるくなりぬ 御ともなる
人もちを持て外よりいて来り 此もちをくひてんと
て よきところをもとめゆくに 岩田川といふ所にいた
りぬ きみもむまかりて おほくまいる きみ宣ひける
高野をいてゝ 岩田川のほとりにいたるといふを題に
て  うたよみてもちはくへと宣ふけれは かの与三兵衛
よみて奉りける
 かひくひしたなさらしもちかたからん岩田河原てわれはくひけり
きみもちをかす/\くひ給て かへしえし給はす かの
石堂丸御ともにつかまつられり それか返し
 一とせに殿のおともにきみませはやとかす人はあらんとそおもふ


20
帰りて風呂屋にいらせ給ひぬ よふくるまて ちや
のみ物かたりして あるしのていよひて風呂へいれ
まいらす 十一日の月もかくれなんとすれは かの
兵衛よめる
 あかなきにまたきも風呂へ入ぬるか山水さしていれすもあらなん
きみにかはりて 奉りて石堂
 をしなへてこれは平のこれもりと髪のなけれはたれもしらしを
おかし しなのにかよひ給ひし これもちしやうくん
れいの狩しにおはします 供に馬のりなと大勢にて
かりし給へり 一尾へて見るに かりやうちけり 女おほ
うしてとくよはんとおもふに 大勢をとゝめて ろくな
らん所きてとてのりうちをせざりけり 女この馬の
くちをとりけれはをりて

 まくらとて草引むすふこともせでたかつまとたにたの
まれなくにと よめける 時は九月卅日なりけり しやうぐん
おほきに酔て あかかほし給ふてけり かくしつゝまふつ
うたふつ飲たるをおもひの外に 御えほしもお
ちてける むりに鬼ともくひならんとて 大勢
まうてよるに やはた山のふもとなる かはら あしい
とはやしつよくて とがくしにまいりて見奉るに つぶ
つぶといびきかきておはしけれは やゝ久しくおこして
仰のことなれと御はかしとりいてゝ消にけり さてもさふら
ひしかなとおもへと 大鬼小鬼ども有けれは えため
らはて むりぎりに切てかゝれは鬼
 わるくして太刀はあらむとおもひきやゆみふみおれは
きみをくはんにとて なむ なく/\にげにける


21
おかしおとこ有けり 身はいさりなから 母なむ神
子なりける その母ながをかといふ所にすみけり
子は京にこつじきしけれは やしなふとしけれと 一
さいえやしなはず人もたのまねは召もせさりけり
さるにしはすはかりに とちのみとてふんしたるかみあり
嬉しくあけみれは歌あり
 おひぬれは枝のわかれの有といへはおつるなみたはとちのみのこと
かの子いざりなから なきてよめる
 世中にえたの別のなくもかなちよもといのる人のどんぐり
おかしおとこ有けり わらはよりつかまへられける てん
ぐねつてつのみ給ふてけり 六時には かならすいき出に
けり 大だけのみやつかへしけれは 常にはえまうて
す されともとの心うしなはてとんてまはりけるに


22
なん有ける むかしつかまへられし人俗なる禅師な
るあまたさいりあつまりて 六時なれは ことよしと
て 大いきつき給ひけり ゆりこほすことふりて 火の雨
やます みな人酔て雨にふりこめられたりといふを題
にて歌有けり
 思へとも身をつめらねはしりもせす雪のつもるそわか心
なるとよめりけれは てんぐいたうあはれかり給て御ぞ
ぬぎて給へりけり
おかしいとわるきおとこ わるき女を相いへりけり をの/\
親ありけれは つゝみていひさしてやみにけり とし
ころへて 女のもとになを心さしはらさんとや思ひけん
おとこ歌よみてやれりける
 今まてにわすれぬ人はよにもあらしをのかきみさまとしのへ

ぬればと今やみにけり おとこも相はなれぬ みやつ
かへになむいてにける
おかし男つりかみ いはら組 あしやかまふたとつて
の助なと 知人にて有けり むかしの歌に
 あしやかまふたのとつては釘もなみつれつをくれつさゝ て
きにけりとよみけるこのさとをよみける こゝをあ
しやのなことはいひける 此おとこなまかはもの也
けれは それをたよりにて えびのすけともかゝみあ
つまりきにけり 此おとこのかみもsびのすけなりけり
その家のまへの海のほとりにあそひありきて いさ
この山の神のをるといふ 布見にのほらんといひて
のほりてみるに そのはた物よりことなり なかさ
二丈 ひろさ五尺はかりなる 石のおもてに白きぬに


23
岩をつゝめらんやうになむ有ける さるはたのかみ
に わらんぢの大きさしてさし出たる ぶら/\あり
それにはしりかゝるにふら/\は てゝうち栗の大
さにて こほれおつ そこなる人に みなはたの歌よ
ますえびのすけまづよむ
 わか世をは 今日もへめくりまつぐくりをると此布いつれたかけん
あるしつきによむ
 ぬきたては人こそかむも白衣をまなくもをるか袖のせば
きにとよめりけれは かたへの人わらふ事にやありけん
この歌にめんして やみにけり 帰くるやとをくて うせ
にしくらひてのもちずきか家のまへくるに 日くれ
ぬ やとりの馬を見やれは あまのいひたく火おおほく
見やるに あるし男よむ

 汁さいはほしなかふらかほたてかも
  わかすむかたのあまのたくきか
とよめて家にかへりきぬ その夜みなみのかせ
ふきて なみいとたかし つとめてそのいへの
めのことも出て浮見る くらげなとの なみによせ
られたる ひろひて家のうちにもてkじぬ 女かた?り
その見るくらげをたかつきにもりて 柏をおほ
ひて さし出したる柏にかけり
 わたつみのかさしにさすといはふもゝ
  きみかためにはくらげなりけり
いなかの人の歌にては あまれりやたらずや


24
おかしいとわかくはあらぬ これかな百姓ともあつま
りて 月を見てそれかなかに名主
 おほかたは月をもめてしみしんせしつもれは人の?ひとなるもの
おかしいやしといふおとこわれよりはまさりける人を
あひてにてこひあひうちける
 人しれすわかにつゞみはあぢもなしいつれの流にうちもなをさん
おかし くもれるかゞみを とがでと思ひわひけれは あつはれ
とやほめけん さらはあすとぎてといへりけるをかきり
なく嬉しく 又うたかはしかりけれは 大きなるさくろ
につけて
 ざくろはなけふこそかくもにほふらめあのたのみがた
あすの水かねといふかゝみときもあるへし


25
おかし つりひけをぬくをさへ なげくおとこ三月
のつこもりかたに
 おしいかなはなのあらちのけぬきをはゆるしてたまへなむあみた仏
おかしこひしさにきつゝ帰れと女に少分をだに
えくれでよめる
 あみ笠てたなゝし売のほてかつき行かくるらん知人もなみ
おかしおとこ 身はおもくて いとたかき木のうへゝのぼり
たりけり すこしたてゝにやありけん ふして思ひ
おきておもひ わひてよめる
 あぶな/\のぼりはすへし枝もなく高き木のそらくるしかりけり
むかしもかゝる事はくもまひのしけるにや
有けん


26
おかしおとこ女ありけり いかゞありけん そのをんな 目
つふれにけり のちにやう生しけれと ほし有眼
なりけれは こまかにこそ見えねと とき/\ものは
みえけり おんなかさかく人なりけれは かきをれる
はかりなり いまのおとこ はうそうすとて ひとつの
はな落たりけり かのおとこ いとつらく をのかき
あひのことをは いまゝてのたまはねは 偽とおもふ
らん なてゝ見給へき物になん有けるとて 弄し
てよみてやりける ときは春になん有ける
 清盲は春日きつかとてりぬれはかすみにきりやふりま
さるらんとなん よめりける 女かへし
 ちく/\と木すえに春も成ぬれはもがさではなもねからちりけり
おかし二條の北に咳気つかふまつる男有けり 女とも

をあまたつかひて つねに見かはしてよはひわたり
けり いかて物語はかりして おそろしくおもひつめ
たる 山の神の心はるかさんとおもひけれは おんな
いと忍ひ給へ しはふきの聞ゆるにと いひけれと
ものをともせす女
 ひこ七かかほをするとも咳気ゆへかくれぬせきを今はやめてよ
このせきに めいわうして いにゝけり
おかしおとこ有けり 恩をたかくいふ事月日へに
けり 薪しもあらねは 心くるしとやおもひけん
やう/\奉公にいてにけり その頃みな月の土用
もちつかせけれは おとこ手にまめ一二出たり 時
もいとあつし すこし秋風吹たちなんとき かなら
すさいらんといへり あきまつころほひに こゝかしこ


27
よりその人 をかんずなりとて 公事こといてきに
けり さりけれと おとこのもとの主俄にむかへこしけり
されは此おとこ かつほのたゝきをこしらへて うたをかき
かきつけて をきたり
 秋かけてしたるたゝきはからくともおくはふくるゝあ
ぢにそ有けるとかきをきて かしこより人おこせは
これを進せよとていぬ さてやかてのち ついにけふ
まてしらす よくてやあらん あしくてやあらん いにし所
しらす かのおとこは 天野の酒手をおひてなん
かくれをるなるむたいけにて 人ののらとおもふに
やあらん おはのもとにあり いまこそはいてめとそ
いふなる
おかしほりいたしにや有けん 大橋あたりに 家を

かひけり 四十両が九十両の家にそなりに
ける なかだちしける翁
 作事してちりまでひろふさゝらくに
  ほねをおるとてまたたまふかね
おかしおほもちずき有けり たのみける坊
主なか月はかりに梅漬に きびもちをそへて
やるとて
 わかたのむ旦那のためにつくもちは
  ときひじわかぬちやのこなりけり
とよめてやりけれは いとうれしかり
てつかひに 銭くれにけり


28
おかしうどんのこ麦をほしける 日むかひにた
てかりける車に 女の仕事したむなきそに見え
けれは 中間なりけるおとこのよめてやりける
 ひきもせすつむがぬいとのしことをは
  あの麦のこにかへてひけかし
かへし
 事をきてなにかこ麦を分てひかん
 車のみこそしことなりけれ
後はたんとつむぎけり
おかしおとこ かうらい陣にて ちやうばに居たりけれ
は あるやれきぬきたる人の具足はたよりわたの
目をしらみとやいふとて 出しけれは 見て


29
 わたの目の人をくふとは見しらねと
  こはしらみなりまたもくらはん
おかし左兵衛のかゝなりけるあり こしのゆき女と
いふ有けり そのひとの家に よき酒うると聞て
うへにありけるさけ奉行を ふく汁 まなかつほ い
か なよし まらうと からすとなんその日のれうりに
したりける 興ある人にて かめに酒を入たり
その酒の中に あまさけ ふとう酒 なと有けり 酒
の入事三斗六枡はかりなん入ける それを題
にてよむに よみはてかたに 明石のめはるなと あ
るしし給ふと聞て もてきたりけれは とらへて
のませける もとよりさけの事は のまさりけれは

 すまひけれと しいてのませけれは かくなん
  酒かめのはたにならべる
     人をおほみ
   ありのくま 野へまいる なりかも

なとかくしもよむといひけれは 大酒のえひ
くはゝれるさかりにまかりて ふしからけの
さかはやしを おもひてよめるといひけれ
は みな人げにもと おもひけり


30
おかしおとこ有けり うたひはうたはさりけれと よの
中のこうたを知たりけり かぶきするわか衆
の座にありて 世中をおもひうむして 京に
もあらすはるかなるい中に住けり あねなる
女のもとの子そくなりける男 よみてやりける
 髪破とて雲にはのらぬ舞なれとよのかたよりはよく
そあるてづとなんいひやりける 左門かおどりなり
おかしおとこ有けり いとまめにこゝかしこありきせ
り ふか草のあたりになん しやうるりあやつりし
たりけん 見にゆきける せにをとらんといへりさて
 ねすみどのせにをはゆるせまづひらにいやといふともいりま
いらするとなむよみていりけり さる人のきたなけさよ
おかし ことなる事なくてにけてのほる人ありけり


31
太刀かたなは さしたれと心やをくれたりけん かも
の羽たゝきにおちたりけるを おとこ歌よみけり
 白ふりのあさのたゝれるかうの物かまくらとのにちやのまるゝかな
これは さいたゝのかにかし 物かしらにて ひしにくたりけるか みち
より帰りのほりけるとなん
おかしおとこ あたまはは はぐべしといひやりたり
けれはげきやう
 しらくほにはげははげなんはけずとてやく代く
るゝ人もあらじをといへりけれは あたまはなめしに
なると思ひて心うさは いやまさりにけり
おかしおとこわこ達のしやうばんにいて からはら
に さけをのみて
 千はやふる神代もさかす丹波ごきからはら酒をみつのまんとは


32
おかし下手なるかぢありけり そのおとこのもと
の主なりける人を ないせうにたのみけり 此かぢ
藤原の何ゆきとやらんいひけり されどまだわかけれ
は 物もおさ/\からす やきばもつけしらずいはんや
めいはきらさりけれは かの主なる人 本をかきてきら
せてしちにをく さて主の読る
 つふ/\となかめいきれるならかたなてまのみとりてうるかしもなし
返しれいのかち
 やすくともかねはとるらめなら刀身さへながるときかは
うれなんといへりけれは 主いといたうほめてつかまで
まきて 刀箱に入てやるとなんいふなるおとこふみ
をこせたり しちにをきて後の事なりけり あく
のいてきぬへきに 見わつらひ侍る御身幸あら

は このあくめは 出しといへりけれは 例のかちいろかは
りてよみてとりかへしにやる
 たび/\にのごひのごはずさびかたな身のこしらへにうん
そまされるとよみてやれりけれはみもさやもとり
あへすしとゝめそへてもとしけり
おかしとしより女の 人の心をうらみて
 風吹はとはになみこすひたいにもわかほうけたも
かはくときなきと常のたはことに云けるを聞おちける男
 よひことにからすのあたまこそとしつきまされ雪はふらね
おかし男友達のひたひをはらしけるかもとに いひ
やりける
 はなよりもひたいそたかく成にけるいつほうさきをこびんとかみし
おかし男みそつきにやとふ女有けり それかもとより


33
こよひ夢になんみえ給ひつると いへりけれは 男
 おもひあまりみそ玉ほしく有ならん夜ふかくきつゝ玉ぬすみせよ
おかしねずみやせたるねこのもとに やみける事を
とふらふやうにて いひやりける
 いにしへは有もやしれん今はなしねずみのねこをかづるものとは
返し
 頸(くび)玉のしつかとせしもとけなくにかふるねずみは恋ずそ有ける
又かへし
 恋しとはさらにもいはしくひ玉のとけんとねこはえしもとらしな
おかし男ねふとを煩ける女のちんばになりけれは
 すそのあたりしほらしくもあるかあしをいたみおもはぬかたわ腰ひきにけり
おかしおとこやみ目にて井て
 あからぬ眼のうちにしむ物はいかにあはせしくすりなるらん

おかし 仁勢おとこ せりやきのれうりしけるとき いま
はさる物はもなくおもひけれともとすきにける物
なれは 大たかつきに たんともりてもらはせけり
すりこ木にかきつけゝる
 翁とて人なわらひそせりやきもけふはかりとてたんとくふなる
大さけのみけしきよかりけり をのかすきを思ひけれと
も すかぬ人は聞にくかりけりとや
おかしみゝのあか有て 男女つんほになりける おとこ
みゝのあなほらんといふ この女いとかなしくて馬
のつきあひをだにのませんとて おきいて見やり
けれは 酒にてのみてよめる
 をきの火て身をやくよりもかなしきは耳のあなほるいたさ也けり
おかしおとこすゞきをみづ野の辺にてとらへにけり 京


34
におもふ人にをくりやる
 波まにてつれるすゞきのはましほは秋風ならぬきみにまいらす 
おかし 目くらすゝみに上洛して
 わか見てもひさしく成ぬ杉吉がきちんのはかまいくよへぬらん
をんづめはけんげうになりて
 むつかしと平家もしらすしやみせんもひはも小うたもいかて過てき
おかしおとこひさしくくすりのまで おこる心もなしま
いりこむといひて
 太刀かつきやい火あまたにすへぬれはたえぬくすりにけんへきもなし
おかし女はあざもつおとこはそうたもてり はやく
うちすてたりけるをみて
 かちにては今はあだなれ是なくはそうまはよもにあらまし物を
おかし女のまたよへすとおほえて つれなきかほにてふる

まひするとて
 近江なるかとくのふなをとくになん
  つれなき人のなべのしりみむ
おかしおとこ 梅ぼしを 雨にぬらしける 女
をしかりて
 馬とりのはなねぢほどのぼうもうかな
  ぬらせる人をきせてはらいむ
をんなかへし
 馬とりのはなをねづてふぼうはいな
  あすまでまてよほしてかへさむ
おかしおとこ ちきれる事あやまれる人に
 山城のこまの青ふり手ににぎり


35
  ちきりしかひもなき世なりけり
といひやれど いらへもせす
おかしおとこ有けり ふか草にて ねすみをとらへて
こえおさんと思ひて かゝる歌をよみける
 とらゆとも住こしあなへにげていなは
  いとゝふか草野をやさがさむ
ねすみ返し
 野ねずみはうづらとなりてなくものを
  かりにだにやはきみはころさむ
とよめりけるに めてゝ ころさんと おもふ心 なく
なりにけり
おかしおとこ いかほとひだるく おもひけるおりにか

よめる
 おもふほどいひをはたんとくひぬへき
  はらにひとしき人しなけれは
おかしおとこ 煩て 心ちしぬく おほえけれは
 ついにゆくみちにはかねもいらじかと
  きのふきへうよむ僧にくれしを