仮想空間

趣味の変体仮名

如何弁慶御前二人

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9892799

 

3
恋ひとちうぎはいづれがおもひかけて思ひははかりなや
忠と誠のものゝふに源九郎といふ狐(こん/\)あり こゝにあは
れをとゞめしはあべの童子が母うへなりもとより野の
身も狐(こん)の いづれも古人の名作の二(ふたつ)の尻尾に化されて
あちらへ筆びよろ/\/\こちらへ筆のよろ/\と丸あん
どうの狐火に魚油を?(かけ?)鼠のにほひやしてかきへてる
てう初音のつゞみしらべと見ればあとさきもわからぬ趣向は一
体狐々御せずの干物でお茶漬さらかく事しかり 慈悲成


4
さるほどに
おうしう
ころも
川たかだち
らくしやうの
ときよしつね公
へんけいを
御ともにて
ひそかに
えそが嶋へ
わたり
ぶゆう
をもつて
かのしまを
うちした
がへながく
此しまに
おはしけるか
よしつね公
つれ/\のあ
まりみやこに
かへせし
??いに

いりの
しづかこせ
んの事共
おほしめしいた
されきうに
此ちに御きくはん
ありまつさしあ
たりて御こしを
おちつけ給ふ所
なくしてしのだの
しやうじがやかたへ
おちつかせ給ふ

よしつねこうしづか
御ぜんの事ばかりおぼ
しめしつきなれはさう
/\べんけいをみやこに
はしらせてしづかゞあ
りかをたづねさせ給ふ

かしこまりましては
これさどもくもをつかむ
やふなものでござります

(右頁下)
いかにへんけい日かづの
たんとかゝらぬやうに
してはやくしづかを
つれきたれきつと
もうしつけたぞ


5
(左頁上)
へんけいは
きみの御用にて
みやこへゆきけるが
しづかごぜんの
ありかしれざるや
いまだかへらざりけるが
しやうしがむすめこそたぐい
なきしろのものとおぼしめし亀井の
六郎片岡八郎におふせつけられ
しつかゝまいるまでおねまの?に
なされんとの事なればかめいかたおか此事を
あるししやうじにもふしければしやうじはありがたく
御うけをもふせともむすめくすのははごぞんじの
あべのやすなといふいろおとこがあるゆへになか/\
しやうちせずきくわけなければしやうじははら
きりしやう?ふなかだいじのところとくずのはは
やすなに此よしをはなしともしなんとかくこ
せしおりからしやうじがもんぜんにて
むさしどのみやこよりしづかごぜんを
どう/\しておかへりとよばわりけるに両人は
とびたつばかりよろこぶ


(右頁下)
ナニ
むさしほう
へんけい
どのゝ
かへり給ふとや
くずのはとの
せくまい/\

(左頁下)
きみの
あふせでもおとつ
さんのおつしやる
事てもおまへを
おいてほかに
おとこがもた
れま
しやうか
ころして/\


6
おもひがけなき
おりからむさし
ぼう
しづかごせ
んをいざ
なひて
みやこより
かへりしかば
よしつねこう
御よろこび
なのめならず
ひさしぶりの
しづかに御さか
づきありむかしがた
りのおりからにもん
ぐはいよりむさしどの
おんなをどう/\にてたゞ
いまみやこより御かへりと
つぐるにぞしやうじはじめ
かめいかたおかむさしぼう
けしきをかへてべんけいの
まぎれものくびぬいて

くれんとかけだすを
よしつねしばしと
せいし給ひまづその
むさしぼうとしづかを
よびいだせとあり
けるゆへしやうじ此
事をもんくは
いへもらし
つかはす

またみやこから
しづかゞまいりしとは
なにとも
こゝろえぬ事じや

(右頁下)
おれよりほかにへんけいかあつて
つまるものか
おへねへ
りん
ぼう
がみ

(中)
マア/\
むさしどの
はやまり
めさるな

(下)
わたくしか
ふたりあつては
どうも
(左頁下)
なりま せん

ハテめんような事も
あればあるもんだ


7
むさしほうしづかを
どう/\してきみの
まへにいでければ
さきだつてみやこより
もどりししつかと
むさしぼうごぜんに
ありけるを見て今
たちかへりしべん
けいもしづか
ごぜんもあき
れはてしづか
ごぜんはきみ
と見るより
よしつねの
むなつくしを
とりうらみ
ければせんに
きたしづかも
おなじくきみの
おんむなぐらをとりて
うらみをもふす
むさいぼうはたかひに
こいぐちをくつろげ

にらみあふてわれが
おれかをれがわれか
さんりのきうの
すれたのもあた
まのまんなかの
はけた
のもよく
にた/\にた
さのさの/\しと
あきれてむたを
いつている

(右頁下)
これそこなべんけいよくつらをみせろ
よくくちまねをするぼうづだきり
さげるぞ

わたくしにおかくし
なさつてよく
あんなしづかを
いつのまにおよび
あそばした
おうらみで
ござります

(左頁下)
わたくしには
ほかにしづかはないと
おつしやつてよくまた
あんなしづかをめし
ましたおうらみで
ござります

これそこな
べんけいよくつらをみせろよくくち
まねをするやつだきつて/\切さげるぞ


8
どふもふしぎな
事どもなれば
あしやどうまんに
うらなはせ給ひ
けるにまちかひ
もなききつねの
わざなりこの
きつねを見わけ
るものまれなり
あべのやすなが
一つ子これを
よくしりぬらん
さう/\かの
どうしに
もふしつけら
れよともふす

かめいかたおか
きつねとはをいらも
そふおもつたとこゝろ
うちでわしつているこゝが
くさぞうしだ

(下)
ついでにちよつと
てのすじをみて
もらはぬか

きつねかね
ハテめん ような

(左頁上)
よしつねは
両人のしづかゞ
ぢさんなしたる
はつねのつゞみ
あべのやすなに
わたし此つゞみ
いづれがまことの
はつねのつゞみか
いづれがまことの
しづかなるか
此せんぎあへの
とうじにもふし
つけるきつとたゞし
みせよとよし
つねつゞみを
二つもつて
すまぬ御
がんしよく
にてあふせ
られける

(下)
かしこまりたてまつる
きつねで
ござり ます

やすなしやれか
すぎてはせんぎ
あやうい/\が
とうふん
ちぐちを
やめにして
せんぎを
はげめ
コレハむすこは
いふ事だ


9
あべの
やすなが一
子あべの
どうしは二人の
弁けい二人の

しづかをせんぎのやくめを
かうむり二人の弁けいにはなぎ
なたをつかはせ二人のしづかはあふぎ
の一手をまはせどうしみづから
しづかゝじさんなしたるはつねの
つゞみをうつつゞみも二つあるゆへかし
こくも二てうつゞみのしらべあいらしい

きやうともたにんもほめるくらい
なればさき だつてきたるしつか
此子のは つめいにみとれたち
まちすが たをあら
はせしは
やす
なと
夫婦にて 一人りの
どうじをもふけししのだの
くずのはにてぞありける
今一人の弁けいはつゞみのしら
べにきゝほれて源九郎ぎつねと
あらはれけり
しのだのきつねはもしもどうじがせんぎのやくめしそこなふてはどうりじや
きつねの子じやものとわらはせん事のせつなくたちまちすがたをあらはす

(右頁下)
むさしおもへばしのだの
きつねばけ
あらはして一ッこん
くもふか

そのつゞみは
わたくしの サア
これはもふ
さづとても
どなたよりも

御ぞんじの
事だ

かはいの
わかこや
なづ
かしや


10
横川のかくはんはよしつねを
うちとらんとしのだの
しやうじがやしきをさして
かけいだすその道づれに
石川あく右衛門日ごろ
心かけしむすめの
くすのはを
ぬすまんと両人
いさみにいさんでしやうじが
やしきへふみこみ見れば
よしつねもかくごの
ていにて上下(かみしも)で
しやにかまへて
いる同じく
くすのはも
かくご
している
てい

なれば
かく
はん
あく

右衛門
ねつ から
ほねおらず
はりあいも
なく両人を
からめとる

二ひきの
きつねよし
つねとくすのはが
なんぎをすくひ
のりもの壱つを
しのだのしやうしが
やしきのていそれよに
いりますればのこらず
てうちんぼんほりへきつ
ねひをとぼしまする

(右頁下)
しやうじめがやしきもなか/\ひろりはそして
ざしきが とんだりつぱだかべがみんな
びやううちだ

さすがの
べんけいも
かくはんに
おそれてにげ
おつたと
かうまんを
いふ


11
なぎなた
こつちへとりあけ
はくにしたそや
こん/\

女のてといふ
ものはとんだ
つめたいものた
かねっこうりた
そして此おんなは
いしかりまたでねつ
からあるきえぬコレかくはん
らうこらうしつ女の
たしなみとはもふし
なからかたてにかゞみを
もつて
まへった
なんとしほらしい女で

(左頁)
ござるノウ

あく右衛門は
くずのはと
こゝろへいろ/\
たはむれ事を
いゝなからせんべい
がたのてをひき
つれゆくかくはん
はよしつねのくび
なぎなたのさきに
つゝかけ大おんにて
よしつねおくびよかはの
かくはんがうちとつたりと
ながつるべをぶらり/\と
りきんでかつぎゆく

九郎よしつねのくび御らんの
とをりがく/\いたしてかつぎ
にくふござりますワレハかくはんが
うちとつたゆへがく/\いたします

(下)
いかさま
しほらしい
しほらし
どうくはん
山はどうで
ござる


12
かくはんとあく右衛門はもく/\きがついて
見ればをんなきつねにやらかされしゆへ
かたなのてまへめんぼくなしと町人になり
かくはんはよしつねのくびとおもひ
つるべをかつぎしおもひつきでつるべ
ずしをあきなひあく右衛門はせんべい
がたをくずのはとおもひしはこれぞ
くずのはせんべいやのはじまりこれも
きつねのしはざなれば見せびらきの
日より両家はんじやうする事
ま事にきめうてうらいなり
石川悪右衛門は石川はどうか五右衛門の
ようでわるひと市川やといえなをつけ
あく右衛門のあくがいやだと心といふ
字を女といふ字にとりかへて
要右衛門又かくはんでもなく
横川やのかく左衛門といふ
すしやなり

御膳
くずのはせんべい

(下)
せんべいよりすしといふところが
おいらがはたけだ

こゝのせんべいは
みやうだ

いろ/\まぜて
くださいちやばん
けいぶつだ

(左頁)
よく
うれるぞ

ハイ/\

明る四つときまてに
きつとこしらへて
くだされ

(上)
名物
つるべずし

 


13
わすれぬうち
こゝへかいて
おきます
(めて度 はるを むかへ けり)

(上)
王子の
みやげこん/\/\
御子様かたの
しばい事
きやう
けんのすし
にもならん
かと狐の
しゆこうを
二冊となし
はるのしん
きやうげん
ひやう
ばんで
/\

(下)
なんと
おもしろ
からうが

柴桜慈悲成戯作
 とよ国画

ヤンヤ
/\
イヨ
市川
/\