仮想空間

趣味の変体仮名

勘者御伽双紙 上巻

 

 (冒頭風雅な詩を読んでいるといつの間にか算数の問題に導かれます。
  つかみお上手。)

 

 

勘者御伽双紙 上巻

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3511865?tocOpened=1


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勘者御伽双紙序
この書はつれ/\のころほひきゝ
伝へし算問或は心にうかひし
捷径(せふけひ)の術初心の為に書とめをき
しが時ありて去人の懇望により
今梓(いまし)にちりばめて勘者御双氏のと

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号しておさな子のもて遊びとす
見る人此書にもとずきなばなんぞ
あさきより深きにいたらざらんや
時に寛保三年亥の正月日
 洛陽中根保之丞法舳序

勘者御伽双紙上目録
一 小町算の事 二ヶ條
二 人の年数(としかず)を碁石にて二度かぞへさせて知る事
三 人の生れ年の十二支を知る事
四 同十干を知る事
五 手にて人の十二支を知る事
六 同十干を知る事
七 人の生れ年の五行を知る事


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八 十にたらずの事
九 さつさ立ての事
十 同一と三にわくる事
十一 同二と三とにわくる事
十二 組わけと云ふ算の事
十三 薬師ざんの事
十四 同三角にならぶる事
十五 同五角にならぶる事

十六 布盗人を知る事 三ヶ條
十七 御算(ぎょさん)といふ事
十八 截ち合せ物の事 十四ヶ條
十九 百五減といふ事
二十 又三百十五減の事
廿一 又六十三減の事
廿二 買物銭数ほど取る事
廿三 奇偶算の事


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廿四 奇妙希代の事
廿五 亀のうらなひの事

勘者御伽双紙上目録終

勘者御伽双紙上
        洛陽中根保之丞法舳編集
 一 小町算の事 二ヶ條
ときはなる 松の見とりも 春くれは 今ひとしほの
いろまさり 空のけしきと うらゝかに 霞わたりて
はなもやゝ 開きそめたる 梅ヶ枝に おりつあがりつ
うぐひすの さへづるこへの やさしさを 花よりほかに
しる人も なき折からに 友たちの 見たり四人(よたり)が
をとずれて いつもかはらぬ とこなつの うき世語りも
ほどすぎて いにしへ人の 歌などを かたりあはせて


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おしづかに
あがりませ

よいお茶ではござり
ませぬか

さやうでござります

よい御酒で
ござります

あの侍はよい男じや

はやういにたい

おれは一つのみたい


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短じやくに かきつらねたる しきしまや やまとことの葉
かちまけも 何れおとらぬ もろ人の 詠めにあかぬ
せんざいや 靍と亀との かはらけを まづとりあげて
とり/\゛に 酒をすゝめて もろともに へたてぬ中の
たのしみと さしつをさへつ つぎめとて 五十(いそぢ)ばかりの
はしたもの てうしたづさへ 出けるを さいはひあひと
あづさゆみ ひく手あまたの たはふれを いとうれしげに
うちえめば げに業平の 詠じけん うたのこゝろ
ひきかへて けぢめみせつゝ もゝとせに ひとゝせたらぬ

江浦髪(つくもがみ) われはこはらし おもかげも いやゝといへば
人々は ねんしわびつゝ 同音に ふきいだしてぞ
わらひける 中にひとりは さればその 九十九(つくもがみ)にて
おもひ出(で)し こゝにひとつの ふしんあり 卒婆(そとば)小町の
其中に 一夜二夜や 三夜四夜(みよよゝ)か 五六(いつむ)はあらで
七夜八夜 九夜(こゝのよ)十夜(とよ)と うたひつゝ さて其おくに
かきをける 九十九夜(くじふくよ)には いかゞして なることやらん
其たねを きかまほしゝと こもにみち こゝろをひそめ
今ぞしる 無算の人の 中々に をよぶところに


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あらずとて いとこちたくも いふやうは はじめに見えし
其かずの 一二三四と また後の 七八九十
前後なる しだい/\を 見あはする 其てたてこそ
かくばかり 一と七とや 二と八と 三と九とをや
四と十と をの/\別に かけあはせ 四口併せて
九十(くじふ)あり さてまたかさね ことばとて をどりし文字の
四々の四つ 七(なゝ)夜の七つ 九(こゝ)の夜の 九のつみくち
合はすれは 二十となるに 九十をば くはへいれつく
百十(とを)と なりし其うち 五と六と ぬけしことばを
引くときは 残りすなはち 九十九と なるを答へて

しりぞけば せきのひと/\゛ かんにたえ 是はきたいと
手を打ちつ またてうしをば あらためて なを/\けうに
いりあひの かねもろともに たちさはぎ しやうだいもなき
ことの葉を 筆にまかせて かきすてにけり
 又解していはく
 〔前後〕
一 七々七一の七○八二十六○九三二十七○一四の四十○四口合て九十有
二 八 扨又重ね言葉に四々七々九々合て二十あり
三 九々は合て百十と成此内五と六とのむけことかを
四々 十 合て十一をされは(去れば=引けば)余り即ち九十九となるなり


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又いはく図のことくするも同じ

一の十○二九十八○三八二十四○四七二十八○五六三十
は合て百十あり此内五と六となき数を
つかひたるゆへ合て十一をされは余り即ち九十
九となるなり

〔二〕人の年数(としかず)を碁石にて二度かぞへさせてしる事

先ず初め石数十一先の人に渡して年の数程くりかへし/\
かぞへさせて七つあまるといふ次に又九つ渡してくりかへし
かそへさせて四つあまるといふときは五十九と答ふるなり
 法曰く十一の時のあまり一つを五十四つゝの算用にして三百
七十八と置き又九つの時のあまり一つを四十四つゝの算用に
して百七十六と置き二口合せ五百五十四と成る是を九十九つゝ
ひかるゝほど引すてゝ残りに五十九を得(う)る也又百引いては
一つ入れいく度も如此(かくのごとし)して其残りをいふも同じ事なり若し
いつれにても一方あまりなしといかゝ余りある方ばかり
用いて前の法のごとくして答ふる也若し又両方共に余り


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なしといはゞ九十九と答ふる也但し寿命九十九を限りと
さだめたる数故もし九十九より多きときは不合(あはず)其時は九十
九をひたとくはへて答ふる也

〔三〕人の生れ年の十二支をしる事
銭にても碁石にても物数十二先の人に渡して年の数程
くりかへし/\かぞへさせて其あまりを聞て何の年といふ
事をしる也たとへば当年三十二になる人なればくりかへし
かぞへて其あまり四つといづすなはち左の図のごとし

法曰くあまる数にいつにても二つをそへて六つとなるを当年
亥の年ならは亥子丑寅卯辰と六つ目にあてゝ辰の年
なるべしといふなり

〔四〕同十干をしる事
銭にても碁石にても物数十先の人に渡して前のごとく
くりかへしかぞへさせて其あまりを聞て十干をしるなり
 法曰くあまる数にいつにても二つをそへて七つとなるを


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当年癸のとしならば癸甲乙丙丁戊己と七つ目に
あてゝ己の年なるべしといふなり

〔五〕手にて人の十二支をしる事
たとへば当年亥の年にて二十九歳になる人生れ年の十
二支を問う
 法曰く図のごとく人指しゆびのもとの筋を十と定め筋
一つ飛びに茶うすまはりに十廿とかぞへはしたはそれより
逆に一二三四五六七八九とかぞへ其あたる所を覚えいて扨
人さしゆびのかしらを当年の亥と定めそれより順に亥
丑寅卯辰己午未とくる時前のあたる所未としるなり

又前のあたる所より逆に亥子丑寅卯辰己午未と人
指しゆびのかしらに当るを取るも同じ若し十にたらざるものは
人指しゆびのかしらを一と定むるなり

当年の十二支に定む

〔六〕同十干をしる事


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たとへば当年癸の年にて廿七才に成る人生れ年の十干を問
 法曰く図のことくゆびの左右に甲乙丙丁(かうをつへいてい)の相紋をさだめ置き
扨年の数を幾十にてもすてゝ半ばかりを当年の干の
癸より逆にかぞへて七つめ丁に当るゆへ丁なるべしといふ
なり若竒(は)なきものは当年の次の干なり

〔七〕人の生れ年の五行をしる事
たとへば甲子の年に生るゝ人は何性(なにしやう)ぞととふ
   答曰く 金性(かねしやう)
 法曰く左の図をみて甲の一と子の一と合せて二を得る是を
終りの図に合せて金性と答るなりもし合するかず五より
多き時は五をすてゝあまる数を用いるなり

終の図


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〔八〕十にたらずの事
銭にても碁石にてお物数九つ先の人に渡していか程成とも
心まゝに手の内に握りて御出あれ此方よりも又にきりて出て
其方の物数ほどかへして扨御出有たる物数を十にたして
跡に三つあまさんといふて物数十三持ちて出る也十二持て出
れば二つあまさんといふなり いくつにても同じ断(ことわり)
〔九〕さつさ立の事
たとへば銭三十文渡して一文のかたへと二文のかたへと一度/\に
さァさァと声をかけてわくる時其声数を四五間(けん)も脇に居て聞くに
十八声ならば一文の方に六文有るべしと答ふる也左の図のごとし

一文の方
二文の方
 法曰く数を倍して三十六と成此内元三十文を引き残り六文を
一文の方の数といふ也わたす銭数は何文にても同じ断又元
三十文の内にて声数十八を引残り十二を倍して廿四文と
なるを二文の方の数といづも同じ

〔十〕同一と三とにわくる事
たとへば石数三十渡して十六声ならば一つの方九つといふべし
図のごとし
一つの方


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三つの方
 法曰く声数十六に三をかけて四十八となる内元三十を引残り
十八を二つにわりて一つの方九つといふ也又元三十の内にて
声数十六を引残り十四に三をかけて四十二となるを二つに
割りて二十一を三つの方の数といふも同じ

〔十一〕同二と三とにわくる事
たとへば石数三十渡して十一声ならば二つの方六といふべし
図のごとし
二つの方

三つの方

 法曰く声数に三をかけて三十三と成此内元三十を引残り
三を倍にして二つの方六といふ也又声数を倍して廿二と成を
元三十の内にて引残り八に三をかけて廿四となるを三つの
方といふも同じ

〔十二〕組わけと云ふ算の事 又嶋立といふ
石数いか程にても同じ数つゝ幾組もならべさせて其組数たとへば
五組といふ事を四五間もわきにてきゝ扨其内壱組を主人組
残る四組を一所にして下人組と名付させ扨主人組の内より


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一人下人組へいれさせ残る主人に下人組を供に付さするなり
或は鋏箱持ち或ひは草履取り又は若党などゝ云ひて主人一人に
四人つゝ付るなり此四人といふははじめ五組といっへば必ず供四人つゝ
六組といへば必ず供五人つゝなり畢竟組数に一つすくなく
付る也さて付仕舞候時其残りの下人数必ず初めの組数の
とをり五組といへば五人六組といへば六人あるものなり
今はじめ五組なるゆへ一人は長崎げ使ひにやり一人は大坂へ
買物にやり一人は愛宕へ代参りさせ残る二人は留守居などゝ
いふやうにして組数の都合にあふ様に云ふべし たとへば
七つづゝ五組は主人組七つ有

此主人の内より一人下人にして残る六人を主人とさだめ此
六つを先にならべて供四人つゝ付ればあとに下人組五人余り
なり左の図のごとし

 余り五人 長崎 大坂 あたご 留守居
又同じく四組は下人人組は主人の時主人の内
二人を下人にして供を四人つゝ付れば残り十人有
三人を下人にすれば残り五人有るにてしるべし

〔十三〕薬師算の事


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如此いくつつゝ成とも同じ程つゝ四方にならべて扨
三方をくづして又左の図のごとく一方にそへて
ならぶる時此数にてははした三つありしかれば
惣数二十四と答ふる也
法曰くはした一つを四つつゝの算用にして十二と
成是に定法十二を加へて二十四と答ふるなり
又半なしと云時は十二か四つかと答ふべし塵劫(じんかふ)
記に百二十といふはあやまり也又はした二つと
いふ時は八つとも答ふべし

〔十四〕同三角にならぶる事

如此(このごとく)いくつつゝ成とも同数つゝ三角にならべて
扨二方をくづして又左の図のごとく一方にそへて
ならぶる時此数にてははした五つありしかれば
惣数二十一と答ふるなり
 法曰くはした一つを三つつゝの算用にして
十五となる是に定法六つを加へて二十一と云也
又半なしといふ時は六つと云べし知恵比べに
六十といふは誤りなり又はした一つといふ
時は三つとも云べし

〔十五〕同五角にならぶる事


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是も前と同じかくにならべなをしてはした
一つあるとき 答二十五と云べし
 法曰くはした一つを五つつゝの算用にして五と成
是に定法二十を加へて二十五といふなり又半
なしと云時は二十といふべし又はした一つは
五つとも十ともいふべし又はした三つは十五共
いふべし此外何角にならぶとも定法の加ふる
数を知る術は角数の内一つを引き残りに角数を乗(かけ)て
其数を加ふる数とす即ち又此数より少なき数をならべて余りを云ふ時は
答ふる数いろ/\有て不定此故に加ふる数をすくなき数の極(きよく)と

するがよしたとへば四角の時は四の内一を引き残り三つに四をかけて
十二となるを加ふる数とするがごとし

〔十六〕布盗人をしる事 三ヶ條
盗人橋の下にて布をわくるを聞くに人数も惣布数もしれず
只七反づゝわくれば五反たらず六反づゝわくれば三反あまるといふ
しかれば此盗人惣布数が何程と問ふ
   答えて曰く 盗人八人 布数五十一反
 法曰くあまるとたらぬと置き合せて八と成るを(但し七反の内六反を引 残り一反と成ゆへ法なし)
(もし一反已上なれは是を法として除て 人数とするなり未の二問是に同じ)人数としるなり此数に初めの
七反をかけて五十六反と成内たらぬ五反を引けば残りに


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 五十一反としるゝ也
又八反づゝわくれば十一反たらず七反づゝわくれば五反たらずといふとき
  答云 人数六人 布数三十七反
 法曰くたらぬ十一の内たらぬ五つを引て残り六を人数としる也
此数に後の七反をかくれば四十二反と成此内たらぬ五反を引けば
残りに三十七反と知る也
又七反づゝわくれば九反あまり八反つゝわくれば三反あまるといふとき
   答曰 人数六人  布数五十一反
 法曰くあまる九つの内あまる三つを引て残り六を人数としる也
此数にはじめの七反をかくれば四十二反となる是へあまる九反を

くはへて五十一反としる也

〔十七〕御算(ぎょさん)といふ事
すご六の骰(さい)二つをふりて其目の数ほど石を入れ扨いづれ成共
一方をうらへかへして又其目の数ほど石をいれさてそのうらへ
かへしたる方を又出次第にふり其目の数程入れて扨其さいの
目斗りをみて惣数をいふ事なりたとへば初め五四(ぐし)ならば九つといれ
扨四をかへしてみれば三なるゆへ三をいれ扨其返したる方を
取りてふる時たとへば六をふり出したらば又六を入れて十八有也 扨
さいの目は一方の五と今の六とにて五六となる此五六ばかりを
見て惣数十八有べしと答ふるなり


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 法曰く五六の十一に定法七をそへて十八と答ふる也又両方
ともにうらがへしてふりたる時は後の目に十四加へて答ふべし

〔十八〕裁ち合せ物の事 十四ヶ條
たとへば横一倍を縦にしたる紙を四方に取直すたちやうの事

(図)横一寸なれば 縦二寸なり 横の寸なり 〃 
   是は切筋也末是に同じ 是は折目又はかりの 筋也 末是に同じ 
   しるしの筋より 切て下の図の ごとくならぶる也

又右の紙を六きれに切る時は四方にと鱗形にとはかまごしにと
くぎぬきにと切籠にとひながたにと六色(いろ)に成なり ひだりの

図にて見合すべし

(図)横の寸なり 〃
   横寸也   〃
かくのごとくしるしの筋より切りて
いろ/\にならぶること左のごとし

(図)四方の図 鱗形の図 はかまこしの図


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(図)くぎぬきの図 切籠の図 雛形の図
たとへば横三倍を縦にしたる紙を四方に取なをすたちやうの事
(図)横の寸 矩合
 法曰く先ず真中の筋より横に二つに
 切て其一つを又縦に二つに折りて
 其筋へと下の右の角へと横の
寸をあてゝ其筋なりに上の方へと左の方へと曲尺に合せて

図のごとく切るなり 扨下の丸の寸をとりて上の丸の所へ当てて
印のことく切りて左の図のごとくならぶるなり

 かくのことくならぶるなり

たとへば四方の紙を図のごとく十文字に折りて其一つを切すてゝ
残りを又四方にとりなをすたちやうの事


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(図)此所を切 すてゝ

 法曰く丑寅の寸を四つに折りて図のごとく先づ
 甲を切りてのけ又子丑の寸も四つに折りて
 図のごとく折めの筋を付けて其筋と子丑の
 角と三所曲尺に合せて図のごとく切りて左の
 図のごとくならぶるなり

 かくのごとくならぶなり

たとへば横五増倍を縦にしたる紙を四方に取りなをす切やうの事

(図)横半分也 是より下縦の半分なり

右の印の筋より切りて下の図のごとくならぶる也

 又右の寸にて
 如此の紙は印の
 筋より切て
 下の図のごとく
 ならぶる也


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 又右の寸にてかくの
 ごとき紙は印の筋
 より切て下の図の
 ごとくならぶるなり

たとへば横六増倍を長にしたる紙を四方に取なをすたちやうの事
(図)横の寸也 矩合 長き方 かりの筋 〃
 
 法曰く先づ横の寸四方の
 紙をうろこがたに
 折て其長き方を
上より三筋めへ図のごとく当て其尖りより斜に印のごとく切りて扨
上の丸の寸を取て下の丸の所へ当て又切て左のごとくならべて

 扨此下の出はりたる所を切て乙の次へなら
 ぶるなり又上より三筋めの筋を左の方へ
 ながく引出だしおき最初の筋の右の角と
 四筋めの右の角と三筋目の引出だしの筋と
 三所矩に合ふやうに切るも同じ

たとへば横七増倍を縦にしたる紙を四方に取なをすたちやうの事

(図)横二つの寸なりかりの すぢ 新折め 

 法曰く先ず長さを
 二つにおりて
 折めのすぢを
付け扨上より二筋めの右の角よりかりの筋まで横二つぶんの寸を


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取りて図のごとくあてゝ其尖りより斜に印のことく切て扨上の
丸の寸を取りて下の丸の所へあてゝ又切て左のごとくならばて
 扨此下の出はりたる所を切て乙の
 次へならぶるなり又前のごとく最初の
 筋の右の角と三筋めの引出だしの
 筋と新折めの筋の右の角と三所
 矩(かね)に合せて切るも同じ
たとへば横八増倍を長にしたる紙を四方に取なをす切やうの事

 右の印のごとく切て
 かくのごとくならぶる
 なり

たとへば横十増倍を長にしたる紙を四方に取なをす切やうの事

(図)此寸は横を三つに折て其一つ也 此寸も横三分一なり 〃 〃

右の印のことく切て左の図のごとくならぶるなり


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たとへば何寸四方にても心持ち次第の紙を図のごとく大小二つ
よせて又四方に取なをすたちやうの事

(図)小の方の寸也 大の方の寸也

 法曰く小の方の寸を取てそれを上の方(かた)の右の角
 より下の方へ図のごとく当て其当る所より上の方の
 左の角へと下の方の左の角へとと切て図の如くならぶる也

 かくのごとくならぶるなり是即ち勾冪(こうべき)股冪(こべき)合せて
 弦冪(げんべき)と成る形なり

たとへば図のごとく心まゝの直(ちよくとは縦横 長短あるをいふ)なる紙を四方に
取なをすたちやうの事

(図)折め 矩合 横の寸なり

 法曰く横の寸を取てそれを下の左の角より右の
 方へ当て其当る所より図のごとく立(たつ)に折めを
 付けて扨其筋へと下の左右の角へと三所矩(かね)に
 合ふやうに切て左の図のごとくならふつなり


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 かくのごとくならふなりをよそ此たち
 やうにて丸みのなきものはいかやうの
 紙にても四方にならずといふ事なし
 秘すべし

たとへば四方の紙を図のごとく楯横ともに三つに折ても一角を
切すてゝ残りを三刀に切て四方に取なをすたちやうの事
此形むかしよりおほく人のしる所といへども近き頃還仲仙(かんちうせん)
作となして先ず板にさしかまふゆへに一刀にきる事左のごとし

(図)此みゝをとりて 此所を切すてゝ 此筋へあてゝ折付けて下の図のごとし
   此筋より左の方を右のうらの方へ折て下の図のごとし
   こゝにて上の左の方に四枚かさなりてあり此内うらの方にて壱枚のけて残りを図のごとく切るなり
   扨ひろげて見ればかくのごとくなるを下の図のことくならぶふなり

〔十九〕百五減といふ事
石数いくつなり共先の人に一所にをかせて一度は七つつゝ一度は


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五つつゝ一度は三つつゝ引て各其あまりを聞て惣数をいふ事也
たとへば七つつゝ引く時三つあまるといひ五つつゝ引く時一つ余ると
いひ三つつゝ引く時二つあるといふ時は惣数何程ととふ
  答 惣数百一有べしといふ
 法曰く七つつゝ引く時の余り一つを十五つゝにして四十五と置
 五つつゝ引く時の余り一つを二十一つゝにして廿一と置 三つ
 つゝ引く時の余り一つを七十つゝにして百四十と置 三口合わせて
二百六と成 此内百五を払ひ残り(もし百五より多き時は幾度も百五つゝ引くなり)百一といふべし又
七つつゝ引く時にても五つつゝ引く時にても三つつゝ引く時にても余り
なしと云ふ時はそれは数にいれず又三度ながら余りなしと

いふ時は百五といふべし

〔二十〕又三百十五減の事
たとへば五つつゝ引く時は三つあまる七つつゝ引く時は四つあまる九つつゝ
引く時は五つあまるといふ時
  答 惣数百五十八
 法曰く五つつゝの余り一つを百二十六づゝにして三百七十八と置
 七つつゝの余り一つを二百廿五にして九百と置 九つつゝの
 余り一つを二百八十つゝにして千四百と置 三口合わせて二千六百
 七十八と成是を三百十五つゝさりて残り百五十八としる也

〔二十一〕又六十三減の事


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たとへば七つつゝ引く時は三つあまる 九つつゝ引く時は五つ余るといふ時
  答 惣数五十九
 法曰く七つつゝ引く時の余り一つを三十六つゝにして百八と置く
 九つつゝ引く時の余り一つを廿八つゝにして百四十と置く 二口合せて
 弐百四十八と成是を六十三つゝ払ひすてゝ残り五十九とするがよし

〔廿二〕買物銭数ほど取事
改算記に曰く銭壱貫文にてうりなすびもし是三色(みいろ)買ふ時に瓜
壱つに付き銭二文つゝのね なすび壱文に三つつゝのね もし壱文に
八つつゝ右のねにして三色にて銭数ほど九百六十買たきと

いふ時其術を見るに先ずうちを多分にして四百三十と極むる事
是何のいひぞやすなはち右の数は狂題にして答ふる数六十
三件あり故に瓜の数三百八十五より壱つましに四百十七に
いたる此中(うち)の四百三十をはじめより用いるがゆへに其余(よ)の茄子(なすび)
桃はをのづから答ふる数にあふのい もし三百八十四以下四百四十
八以上をうりの数ときはめばいかで答ふる数を得んや 俄にかた
はらいたきことなり又柴田理右衛門清行(きよつら)か門人のあめる網目(かうもく)を
見るにかれもいさゝか翦管(せんくわん)の術をしらぬにや買物銭数取る事
本書のごとく三品を云ふて術する事仕度まゝに成也 二品には
術あり即ち記すとかゝれたり其ごとく員数をかへてこのむ


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やみげん
こなら
うつて
しまを

ことしは
こぼち
うりじや

むつかしさうなことじや
ひまがいろにいねむろ

(上)
さやうな
事はでき
ませぬ

なんぎなことじや

三色にて
銭の数
ほど
ほしい

それでそろはん
もたしてきた
おれがしてやらう


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ときは三品も仕度きまゝにならざることをしらずしてみだりに
評せられい事是も又わらふべきの甚だしき也 故に本術を
しるすことたのごとし
 術曰くうりの代二文になすびの数三をかけて内うりのかず
 壱つになそびの代壱文をかくるをひきあまり五と成是に
 桃の数八をかけて四十と成を加数とす又うりの代二文に
 桃の数八をかけて内瓜の数壱つに桃の代壱文をかくるを
 引き余り十五と成る是になすびの数三をかけて四十五と
 成るを減数とす右加減の数遍約の術に依りて各等数五に
 除きて加数を八とし減数を九とす剰一の術に依りて段数

 八を得る又うりの代二文の内うりの数壱つを引き余りに茄子の
 数三と桃の数八と銭の数九百六十とをかけて二万三千○
 四十と成る是をまへの等数五に除きて四千六百○八と成る(たゝし分位に下る
 者は答数なし)是に段数八をかけて三万六千八百六十四となる是を
 減数の九にて引すつる時空(くう)となる かくのごとくにては茄子
 是なきゆへ九を残してなすびの数とするなり是に加数
 八をかけて七十二となる是を右の四千六百○八の内にて引き
 残り四千五百三十六となるを減数の九に除きて五百○四と成る
 是を桃の数とす是に茄子の数九つをくはへて九百六十の
 内をひけば残り四百四十七となるを瓜の数とす是より


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 次第に茄子は九をくはへ桃は八を引き瓜は一(加減の数八九の差也)をひいて
 答ふる数六十三ン件を得る也但し右の題員数(だいいんじゆ)をかへて
 前術に依りて答ふる数をうる事左のごとし
(漢文読めませ~ん)

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〔廿三〕奇偶算の事

たとへば石数いくつ成とも先の人に一所にをかせてそれを一
三五七九と次第に二つ増しに奇の数にて引く時七つ残るといひ
又二四六八十と次第に二つ増しに偶(ちやう)の数にて引く時二つ残ると
いふ時は惣数何程と問う

 答 惣数三十二有るべしといふ

 法曰く丁(ちやう)の残りと半(は)の残りとを以ておほき方にてすく
 なきを引き残り五を左右に置きかけ合せて得る数に半の方の
 残り七つを加へて卅二としる也又丁の方にあまりなく半の
 方ばかりにあまり有る時はあまりを左右に置きかけ合せてあまりを
 くはへてしるなり又奇の方にあまりなく偶(ちやう)の方ばかりに


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 あまり有る時はあまりを左右に置きかけ合せてしる也
 ともにあまりなき事は決してなし

〔廿四〕奇妙希代の事
石数四つを図のごとくならべをきて扨外の人に此四つの内いづれ
○ ○ ○ ○ にても一つ指にてなぶり給へ それを指して
みせんといふてわきへのきている時其外の人右四つの内何れ
にても一つゆびにてなぶりしらぬかほにて是なるらんとさす事なり
 法曰く石数四つにひそかに合図をこしらへかねてより
 ○(きめう)○(きだい)○(めいよ)○(ふしぎ)かくのごとく石に名を付けてをくなり扨

 外の人の前の四つの石の内にてたとへば二番目の石をなぶる
 ならば彼の合図の人のいふやうはもしこれがあへばきたいなこと
 じやといふを彼のわきにいる人聞きて二番目なる事をしりいて
 扨もとの所へ出て彼是とかぎて二番目をさすなり猶かしらの
 きめうの方にそと印をして上下まぎれぬやうにすべし

〔廿五〕亀のうらなひの事
(図)一・頭(かしら) 二・右手 三・右足 四・左手 五・左足 六・尾
 これも前のごとく合図をこしらへて
 うらなふ事なり たとへば一の石を
 なぶるときは合図の人自身の
 あたまをなぶる也 是をうらなふ人みてかしらの石なぶる


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 べしといふ也或ひは又四の石をなぶる時は合図の人左の
 手をなぶりあるひはうごかす故にうらなふ人これを
 みて左の手なるべしといふ 余りは是に同じ


勘者御伽双紙上巻終