仮想空間

趣味の変体仮名

肥後の国熊本の人魚

 

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ひごの国くま本のかんぬし
山本氏(うじ)の娘十三才にて先達(さきだつ)て
うみに身をなげ死す 当ねん
七回忌に付人々多くあつまりとむ
らひをなせしに俄にかいちうしんどうして
いぎやの姿あらわれたり其かたちづのごとくにて
頭ら女のごとくかみ長くして角ありむねに三つの玉
あり惣身龍のごとくうろこありてはらあかし

づのごとくの姿あらわれ大音にていふやう当ねんも豊作也
但しあしき病はやるべし かくべつむつかしくみへずしてころりと
死する病なり ヲツトシと云病のよし 我姿をみる人此病を
のがるべし又遠方の人にはえづにうつしみすべしといふて
かい中に入うせしとなり

右の図は諸人こゝろへのためひごの国
より申来り相違なきこと故我
人だめに所望いたしかきうつし御目に
かけ申候御近付の御かたへ御ひろう頼上候

文政二己卯年7月京都にて出板角(以下略)

(右下)
長さ 凡 十間 ばかり

(左下)
かほ大さ 三尺あまり

 

肥後国熊本の神主山本氏の娘、十三才にて先達って
海に身を投げ死す。
当年七回忌に付き人々多く集まり弔いをなせしに、
俄に海中振動して、異形の姿現れたり。
その形、図の如くにて、頭(かしら)女の如く髪長くして角あり、
胸に三つの玉あり、総身龍の如く鱗ありて、腹赤し。

図の如くの姿現れ、大音にて言う様、
当年も豊作なり。ただし悪しき病流行るべし。
格別難しく見えずしてコロリと死する病なり。ヲツトシという病の由。
我が姿を見る人、この病を逃がるべし。又遠方の人には絵図に写し見すべし。
と言うて海中に失せしとなり。

右の図は諸人心得の為、肥後国より申し来たり。
相違なき事ゆえ、われ人の為に所望致し描き写し、御目にかけ申し候。
お近付きの御方へご披露頼み上げ候

長さおよそ十間ばかり
顔大きさ三尺余り