仮想空間

趣味の変体仮名

暦 第二

 

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1188675


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   第二
かよひぢやすがたの入物三まいがた おろせが
いそげばなかやどの かしあみがさのめつけもん
丸のうちに二つぼし 是もあふ夜はをり
姫のあまのあべ川かちわたり うれしやたれ
やらまねきぬる てごしの新七まつしやにて
すいの出立のかへいしやう おとこじまんや恋
しりやわけよき都の大臣と 虎若や宇右衛門は


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ばつと出口の茶屋よりも さきへしらせて
まつくれにあげや町へぞ「うらみながらも
月日ををくる さても命はあるもの うそでかた
めし身のつとめ 是いたづらのほかぞかし 扨
も我 おやのためとて色里に くがい十年と
さだめ かぶろの時はすたる也 扨水あげのはつ
すがた かみもかたちもかへ小袖しやなら/\
/\/\とあゆみゆく すあしすがほの

なよやかに きのふにかはりけふよりは やど屋
のかゝもさまつけてよひましや おふお立
なされませはしくも あとよりやりてのせめ
くればしまひだいこのやるせなく もん日/\
の物思ひ たのむかたなきおとこあまのいく
たび しづむ身あがりの かねのわかれや
まだ夜ふかきにすてゝ ゆかるゝとこばなれ
すいたおとこはねても さめても ゆめにも


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さらにわすられずかうし たゝくをあひづ
にて 恋の中戸のこしかけや 是さゝやき
のはしと成しのび/\のまぶぐるひ たんと
きのどく有時は いつそころしてもらひ
たやアゝまゝならぬよのなかに おもはぬ
きやくにも あはねばならぬみつせ川 なか
れの身こそかなしけれ それさへあるにむ
りくぜつことばの山にのぼりつめ かける

せいしもきゝなれて 神もばちをばあて
給はず たとへばつめをはなつとて まことの
つめとなおぼしそよしよわけしらずの
おてきたち かしこがほをはし給へど こちの
なかあmのしかけにてついにしんだいたゝまする
ましてやおやにかゝりなど しに一ばいも
かりたへて 所のすまいもならざると聞
ば我からわが心 思ひまはせばをそろしと


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思ふ ばかりぞまことなる 扨おやかたの てまへ
より 四度のしきせの其外は みなしやく
せんとつもり行としのくれすぎわつさりと
正月がひのはつ君は神ぞいとしさかはゆさの
あまり/\てそれながら さらにつとめと思は
れずあはれ ねのびの松ならばねびきに
なりてしのぎくるくるわのくげんをのがれんと う
そに誠の物語ずいぶんしやれたるおとこ共

それはさうよとふびんがりしらけて座敷は
「見えにけり かゝる所に 虎若宇右衛門
さゞめきてつた屋は是かと内にいる ほそ道
ながらおとほりとていしゅがかるくちきゝ
すてゝ ばつと座敷にいながれ扨内儀よ
びだし近付に成 新七がしるごとくみども
らは此さとかつてぶあんない ばんじ頼むと
ゆふつゆを おもくうてばをしいたゞき 先お


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なぐさみに女郎さまがたをかりておめに
かけふといふ いやさかりものはむつかしき
此所にてずいぶんはりつよきたいふをとう
りう中のやくそくせよ かしこまり候と女房
たてばていしゆがかはり とはずがたりのたかわ
らひついしやうたら/\゛申けり 時に虎若
いふやうは そちはとをりものさうなれば 若都
へのぼりし時必尋てきたれ 我は三条ノ大

納言兼政といふもの それなるは聞もおよばん
木津良ノ広信とて日本めいよのはかせなり
此たびちきょくをうけふじにて天のきをはる
必こゝへきたる事人にさたばししてくれ
な 是は某がじさくじひつとかの兼政の
あそばせし しきしをていしゆにとらすれば
有がたし/\ しそんまでのたから也 やれ
先おてうし/\と手をはた/\と


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たゝく所へ まつのくらいのなもたかき
さんか さんせき ゆるぎ出 上座にいながれ
さんせきはまづさかづきをあらためて 虎
若にさしければこはめづらしと一つうけ
ほしてにぢせばさっbせきこゝはひとつさはり
ませふ 虎若まなこをすへ何人のさすさか
づきをつきかへすはありよぐはい也 のむとのま
せふが のまずともこみつけんとうでをまくつて

ひぢをはる かゝはいけいはくわらひしていや是殿様
此所のならひにておひとつあげたきあいさつと
さま/\゛上手をつくせどもいやさ いまだなじみ
もなきになんの一つ しよせん我をふらんたくみ
八まん其手はくはぬといふ さんせきから/\と打笑ひ
扨々しろいおきゃく何共しれぬしかけかな 新七
さらばと立けるをとつてをしふせ 何しろいとは
たが事ぞ しろくてわるくはあかくせんとさんか


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もろ共引よせて みゝをそぎかみきればこはらう
ぜきとさはぎつゝ 手々にぼうをひつさげ
のがすまじきとひしめけば いやすいさんなり
をのれらとあたるものをさいはひにはら
り/\となぎければわつといふてにげ
しまに しゆびこそよけれ宇右衛門と打
つれ都ににげ帰る虎若がしわざの程 見る
もの聞ものをしなへ皆にくまぬ人こそなかりけれ