仮想空間

趣味の変体仮名

古今名婦伝 万治高尾

 

f:id:tiiibikuro:20201106162052j:plain

古今名婦伝  楳(梅)素亭 玄魚記

万治高尾
元吉原なる三浦四郎左衛門が家の名妓二代の
高雄は下野国下塩原郷塩釜村の産(さん)にて
父を長助といふ高尾万治三年庚子
十二月廿五日江戸にて没す
彼古郷にあまたの
紀年(かたみ)を送(おく)しといへども
皆失ひて今は塵ばか
りのものもなく只
高尾が自筆の源氏
伊勢つれ/\゛のたぐひ
のみ残れりこれは彼(かれ)在世のとき送るものにて真(まこと)の筆蹟に
うたがひなし彼が俤を今見ることくおほゆるものとぞ(以下京伝か奇跡考)
山谷橋の南西方寺道哲に墓あり辞世に

 寒風にもろくも
  くつる紅葉かな

 

元吉原(もとよしわら)なる三浦四郎左衛門が家の名妓(めいぎ)二代の高雄は、
下野の国下塩原の郷(ごう)塩釜村の産(さん)にして、父を長助という。
高雄、万治三年庚子(かのえね)の十二月二十五日、江戸にて没す。
彼の故郷に数多の形見を送しといえども、皆失いて今は塵ばかりのものもなく、
ただ、高尾が自筆の源氏、伊勢つれづれの類いのみ残れり。これは彼在世の時
送るものにて、真(まこと)の筆蹟に疑いなし。彼が俤を今見る如く覚ゆるものとぞ。
 以下、京伝が奇跡考
山谷橋(さんやばし)の南、西方寺(さいほうじ)道哲(どうてつ)に墓あり。

辞世に、
  寒風に もろくも朽つる 紅葉かな

 

f:id:tiiibikuro:20201106162114j:plain